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今週のコラム 営業の『カン』を『数字』に変える!成果を出すPDCA術

「いや~、うちは営業がベテラン頼りで、新人が全然育たないんです。数字を出してる人はいるんですが、その人が辞めたら終わりだなって、いつも不安で…」
―これは、当社の個別相談にいらした建設業の社長からの実際の声です。

確かに、営業を特定の社員のスキルや人脈に依存している企業は少なくありません。
売れてはいるものの、「なぜ売れているのかが分からない」、「他の社員には真似できない」――こうした状況に心当たりがある方も多いのではないでしょうか?

「営業はセンスか?仕組みか?」――これも、まるで永遠のテーマのように語られてきました。
しかし、昨今の人材不足や競争激化の中では、“誰でも一定の成果が出せる”環境をつくることが、生き残る企業の条件となりつつあります。

本コラムでは、営業活動の「属人化」を脱し、「仕組み」で成果を生み出すPDCA活用法について具体的にご紹介します。
営業力に悩む経営者の方にとって、明日から現場で実践できるヒントが満載です。どうぞ最後までご覧ください。

はじめに

「経験と勘に頼った営業」が限界を迎えつつあります。
中小企業の多くは、トップ営業や古参社員の感覚に頼って売上を立ててきました。しかし、それでは「再現性」がなく、人が変わるだけで業績が大きくブレてしまうという構造的な問題を抱えることになります。

また、「目標未達は個人の努力不足」と片付けてしまう企業も少なくありません。ですが、それでは若手は育たず、現場の士気も下がってしまいます。会社として営業力を底上げし、組織で成果を出すには、仕組みによる営業の“見える化”が必要です

そこで注目したいのが、営業活動におけるPDCAの徹底です。
PDCAは「やっているつもり」になりやすく、特に営業部門では感覚に流されやすいのが実情です。しかし、行動や数字を正しく計測し、振り返り、修正することで、営業のパフォーマンスは着実に上がっていきます。

このコラムでは、営業の属人性を排除し、誰でも一定の成果が出せる“仕組み”としてのPDCA営業術を解説します。
「やってみたけど効果がなかった」「ウチの営業には合わない」そう感じた方にこそ読んでいただきたい内容です。

今こそ、現場任せの営業から脱却し、数字で強くなる経営へと踏み出す時です。
その第一歩が、感覚ではなくデータと仕組みによる営業の見直しです。中小企業でもできる、現実的で実践的な方法を、これから具体的にお伝えしていきます。

1. 営業が属人化する会社の共通点

営業の現場では、長年の経験や感覚で商談をまとめる、いわゆる「トップ営業」の存在が大きな役割を果たしている会社が少なくありません。
たしかに、実績ある営業マンがいることで、売上は一定水準を維持できるかもしれません。しかし、そのやり方は、他の社員にはなかなか再現できないという大きな落とし穴があります。

ここでは、営業の属人化がもたらす3つの典型的な状況と、その背景にある経営課題について見ていきます。

1.1 成果は出ているのに、なぜか伸び悩む理由

業績を支えているベテラン営業が1人か2人いる――。このような会社では、短期的には安定した数字が出ているように見えますが、中長期的には必ず頭打ちの壁がやってきます

その理由は明確です。その営業手法が属人化しており、他のメンバーに共有されていないからです。たとえば、どういう順番で話をしているのか、クロージングのときにどんな表現を使っているのか、アプローチのタイミングは何時なのか——。そういった成功の「型」が見えない状態では、若手は自己流で動くしかなく、再現性のない営業が横行してしまいます

結果として、営業全体の平均値は上がらず、「できる人だけが売っている状態」に陥ります。これは、属人化の典型的な兆候です。

さらに問題なのは、本人が退職したり異動したりすると、会社全体の売上が一気に下がってしまうリスクが常に付きまとうことです。経営者にとって、これは極めて大きなリスクと言えます。

1.2 営業日報が「報告」で終わっている会社の限界

属人化している企業のもう一つの共通点は、「営業日報」が単なる報告ツールになっていることです。
「今日は○○商事に訪問」「先方の担当者と雑談」「次回は来週」――こうした事実の羅列に終始する日報を目にしたことはありませんか?

こうした報告型日報には“気づき”も“改善点”もありません
つまり、「その日何をしたか」は書かれていても、“なぜ”そうしたのか、“結果”どうなったのか、次回は“何を変えるのか”といった視点が一切ないのです。
これでは、上司がフィードバックを行う材料にもならず、営業個人が成長するチャンスも見過ごされてしまいます

さらに、日報が「評価のため」だけに存在している会社も危険です。
「上司に怒られないように、それっぽく書く」ことが目的化すると、実態との乖離が広がり、現場と経営との間に深い“溝”が生まれます
報告ツールとしてしか機能していない日報は、むしろ属人化を助長する要素になっていると気づく必要があります。

1.3 会社が営業現場に無関心になるリスク

営業が属人化している会社では、経営陣が現場に関心を持っていないケースもよく見受けられます。
「売上が出ているからとりあえず良し」と判断してしまい、営業のやり方や進捗に踏み込むことをしないのです。

しかし、この“無関心”こそが、属人化を放置する最大の要因です。
現場は日々の数字に追われながらも「これでいいのか?」と疑問を抱えているかもしれません。
また、若手が育たない現状に対して、「誰もフォローしてくれない」「見てもらえていない」と感じるようになれば、モチベーションの低下や離職につながる恐れもあります。

さらに、経営層が現場に関心を持たないという空気は、組織に「成果は個人の責任」という風土を定着させます。
そうなると、個人は成果に固執するようになり、ナレッジを共有しなくなります。結果、営業チームとしての機能が崩れ、「全員がバラバラに動く組織」になってしまいます

こうした状態に陥る前に、経営者自身が「営業現場に関心を持つ姿勢」を見せることが何よりも重要です。
月次報告で売上数字を見るだけでなく、「なぜこの数字なのか?」「今、現場ではどんな課題があるのか?」と掘り下げる姿勢があれば、現場の空気は大きく変わっていきます。

営業の属人化は、目先の売上には直結しても、将来にわたって持続可能な経営には結びつきません。
むしろ、会社の成長を止めてしまう構造的リスクであるという自覚が必要です。

この章で紹介した3つのポイントは、すべて表面的には見えにくいものばかりです。
だからこそ、経営者が意識して現場に目を向け、仕組みで見える化していくことが、今後の営業強化に向けた第一歩となるのです。

2. 「感覚営業」から脱却する3つの視点

多くの中小企業では、「できる営業マン」がその場の雰囲気や勘で商談を進め、成果を上げているケースが見られます。
しかし、そうした“感覚営業”は個人の経験に依存するため、再現性がなく、他の社員が同じように成果を出すことができないという問題を抱えています。

営業力を組織全体で底上げするには、感覚を仕組みに変え、数値とロジックで再現可能な営業プロセスを構築する必要があります。
以下では、そのために必要な3つの視点を具体的に解説します。

2.1 行動量を「見える化」する仕組みとは?

営業の成果を構成する要素の一つが「行動量」です。
商談数、アポイント件数、訪問回数、電話本数、提案書の提出回数――これらの行動を数字で把握しなければ、成果の「根拠」がわからないまま営業活動を続けることになります

「今日は一日頑張った」「なんとなく忙しかった」ではなく、“何を何件やったか”を可視化する仕組みが必要です。
例えば、営業日報を「感想文」ではなく、「行動記録」に切り替えるだけでも大きな効果があります。
単なる訪問記録ではなく、以下のような項目を毎日記録していくことが有効です。
・新規訪問数/既存訪問数
・電話アプローチ件数
・商談実施件数
・提案書提出数
・成約数
これらを集計することで、営業活動の全体像が浮かび上がります。
そしてこの数字を共有・比較することで、個人の課題が明確になり、指導や育成にも活用できるようになります

「動いているのに売れない」のか、「そもそも動いていない」のかを、数字で判別することが営業マネジメントの第一歩です。

2.2 結果よりも“プロセス”を数字で追う

営業では「結果」が評価されがちですが、本当に改善すべきは「プロセス」です。
なぜなら、結果はあくまで“過去の実績”であり、そこに至るまでのプロセスが改善されなければ、持続的な成果は得られないからです。

たとえば、成約率が低い営業マンがいたとします。
「もっと成約を取れ!」と指導するのは簡単ですが、それでは解決しません。
重要なのは、「どのフェーズでつまずいているのか」を数値で把握することです。
・アポイント率が低い → トークスクリプトの問題
・商談実施率が低い → 顧客との信頼関係構築が不十分
・提案から成約への移行率が低い → 提案力やクロージングの精度が低い
このように、営業プロセスをフェーズごとに数値化して分析すれば、何を改善すれば成果につながるかが明確になります

「結果」だけを見ていては、現場の課題はいつまでも見えてきません。
プロセスに目を向け、そこに数字を紐づけることこそが、組織的な営業改善のスタート地点です。

2.3 「成功パターン」を数値で再現する方法

営業力の平準化を実現するには、トップ営業の成功パターンを数値として抽出し、それを全員が再現できるようにすることが求められます。

例えば、ある営業マンが毎月安定して契約を取っているとします。
彼は、アポ取りの電話を1日20件、1週間で5件の商談をこなし、平均で2件の契約を獲得しているとしましょう。
この行動パターンを他の営業にも共有し、同じ数値目標を設定すれば、「なぜあの人は売れるのか?」という疑問を「こうすれば売れる」に変えることができます

また、スクリプトやヒアリング項目、提案資料のテンプレートなども標準化し、成功事例の再現性を高めることが重要です。

さらに、数値でパターンを共有することで、新人教育の効率も格段に向上します
感覚や経験に頼るのではなく、「どの順番で何を話すか」「どのフェーズで何を確認するか」などを明文化することで、営業の“見えない技術”を言語化し、仕組みとして定着させることができます

成功パターンの再現は、単なる「真似」ではなく、成果を出すプロセスを数値で“共有資産”にすることです。
これにより、属人化を防ぎながら、営業組織の生産性を大きく引き上げることができます。

営業は「センス」や「才能」に左右される仕事だと誤解されがちです。
しかし実際は、行動を見える化し、プロセスを数字で管理し、成功パターンを共有することで、再現性のある成果を出すことが可能です。

感覚営業に頼っている限り、営業力の底上げは難しいままです。
だからこそ、会社として「売れる構造」をつくり、誰でも成果が出せる環境を整備することが、これからの中小企業経営に求められています。

3. 結果につながるPDCAの正しい回し方

PDCAという言葉は、もはや営業や経営の現場で耳にしない日はないほど一般化しました。
しかし、実際に機能している企業は決して多くありません。特に営業においては、「やっているつもり」になっているケースが非常に多いのが実情です。

PDCAは単なる形式的なチェックリストではなく、行動の質を高め、継続的に成果を出すための“仕組み”です。
ここでは、営業活動におけるPDCAを本当に意味のあるものにするために、「Plan」「Do」「Check」「Action」の各ステップで何を意識すべきか、具体的に解説していきます。

3.1 P(Plan)は“戦術レベル”で具体化せよ

PDCAの最初のステップ「Plan(計画)」が曖昧なままだと、その後のDo・Check・Actionもすべてが形骸化します。
営業における計画は、「今月100万円売る」「5件契約を取る」といった抽象的な数値目標では不十分です。

重要なのは、具体的な行動にまでブレイクダウンされた“戦術レベル”の計画を立てることです。たとえば、「今月5件の契約を取る」という目標を達成するには、
・見込み顧客が何人必要か?
・商談に至るには何件のアポが必要か?
・1日あたりの架電数、訪問数はいくつか?
・どの地域・業界を重点的に回るか?
・どの商品の訴求に重点を置くか?
といった要素を、数値と行動に落とし込んでいくことが不可欠です。
これがないまま「今月は頑張ります」というのは、もはや計画ではなく意気込みです。

また、計画には「仮説思考」も求められます。
過去のデータやお客様の反応をもとに「こうすれば売れるはずだ」という仮説を持ち、そこに行動を設計する。これが本来のPlanの姿です。
この段階での精度が、PDCA全体の質を大きく左右します。

3.2 D(Do)は“目標未達時の行動”に注目

Do(実行)は、計画に沿って営業活動を行うフェーズですが、ここで陥りがちなのが「やったことに満足して終わる」状態です。
「計画通り動きました」というのは報告としては成立しても、営業として成果に結びつかなければ意味がありません

このフェーズで最も注目すべきなのは、“目標未達だった時に何をしたか”という点です。
行動したにもかかわらず結果が出なかったとき、そこで終わらず、どう修正を加えたのか、どんな工夫をしたのか、行動量を増やしたのか、トーク内容を変えたのか——
この「応用力」や「柔軟性」こそが、実行フェーズでの成果を分ける分岐点になります。

営業マネジメントの現場では、計画通りに行動したことだけを評価してしまいがちです。
しかし、それ以上に重要なのは、「うまくいかなかったときの反応」や「変化への対応力」です。

また、Doフェーズでは“タイムリーな振り返り”も重要です。
一ヶ月後、週末に、ではなく、日々の活動のなかで気づきを蓄積し、小さな調整を繰り返すことで、大きな成果につながります

3.3 C・A(Check/Action)で“伸びる営業”を育てる

PDCAの中で最も見落とされがちなのが、Check(評価)とAction(改善)です。
多くの企業では、「月末に数字を集計して終わり」「先月の反省をして終了」となっているケースが少なくありません。
しかし、これではPDCAが一周しただけで止まり、次のアクションに“学び”が反映されていないという重大な問題を残すことになります。

Checkでは、単に「達成した/していない」だけではなく、「何が要因だったか」を掘り下げることが重要です。
・成果につながった要因は何か?
・反応の良かった提案内容は?
・失注した理由に共通点はあるか?
・目標に対して何が足りなかったか?
これらを定性的・定量的に分析しなければ、行動はただの作業の繰り返しになってしまいます。

そしてActionでは、「次回はどうするか?」を具体的に落とし込み、改善策を“次のPlan”に確実に組み込む必要があります。
このときに大切なのは、「本人任せにしない」こと。上司やマネージャーが関わり、“一緒に振り返り、次の行動を決める”プロセスを徹底することです。

この積み重ねによって、営業は単なる繰り返しではなく、「学習する組織」へと進化します。
失敗や未達成を責めるのではなく、「学びの材料」として活かすことで、社員は安心してチャレンジできるようになります

PDCAが機能している営業組織は、数字だけでなく「行動と思考の質」が日々磨かれていきます。
これは、短期の売上ではなく“自走する営業組織”をつくるための重要な仕組みなのです。

営業の世界におけるPDCAは、単なる管理ツールではなく、営業人材を育て、売れる仕組みをつくり、組織全体を強くするための根幹です。
形式だけのPDCAにとどまるのではなく、それぞれのステップに意味と狙いを持たせ、具体的な行動につなげていくことで、初めて“回る”PDCAとなります。

次章では、こうしたPDCAを社長や経営者がどのように関わって強化していくか、そのポイントを解説していきます。

4. 社長の関与でPDCAは劇的に回り出す

営業のPDCAを仕組み化しても、なかなか現場で浸透しない——
そんな悩みを抱える企業は少なくありません。その理由の一つに、「現場任せ」「管理職任せ」になっているという背景があります。
PDCAが本当に現場で回り、成果に結びついていくためには、社長自身が営業プロセスに関心を持ち、適切な関与をすることが決定的に重要です。

ここでは、経営者が関与することで何が変わるのか、どのようなスタンスで臨むべきかを3つの視点から解説していきます。

4.1 経営者が“営業会議”に出る意味

営業会議というと、営業部門のマネージャーと担当者だけで実施されるのが一般的です。
社長や経営陣は「現場に任せている」「自分が出ると空気が重くなる」と距離を置いてしまいがちですが、それは大きな誤解です。

社長が営業会議に参加することには、2つの大きな意味があります
1つは、会社として営業活動を最重要視しているという経営からの“明確なメッセージ”になること
もう1つは、社長が現場の温度感を肌で感じ、経営判断の精度を上げる機会になることです。

たとえば、部下の数字報告だけを見ていても、本当に困っていること、努力していること、改善している部分などは見えてきません。
しかし、営業会議に顔を出してみると、現場の雰囲気や温度差、誰がどこでつまずいているのかが自然と伝わってきます。

この「現場の空気を知っている経営者」の存在は、営業組織にとって大きな安心感になります。
さらに、経営層の関心があるテーマに現場も自然と意識を向けるようになるため、PDCAの運用もより徹底されていきます。

4.2 数字ではなく“変化”を見る目を持つ

社長が現場に関わるとき、ただ数字を見るだけでは不十分です。
もちろん売上や成約率は重要ですが、それだけを評価軸にしてしまうと、現場は結果だけで評価されると感じてしまいます

経営者が持つべき視点は、「変化」に目を向けることです。
・先月に比べて商談件数が増えた
・提案書の提出数が安定してきた
・トーク内容を改善して受注率が上がった
・目標未達時に自ら振り返りを始めた
こうした小さな変化は、数字には表れにくいものの、確実に“伸びている兆し”です。
これに気づき、言葉をかけることで、社員は「見てもらえている」「評価されている」と実感し、さらに前向きに動くようになります。

また、「変化」に注目する経営者の目線は、管理職の育成にもつながります。
マネージャーが結果だけでなく、行動や考え方の変化にも目を向けるようになれば、組織全体のマネジメントレベルが自然と引き上がっていきます

4.3 現場とのズレを埋めるフィードバックの仕組み

経営者と現場の間に“ズレ”があると、どんなにPDCAを導入しても機能しません。
このズレは、認識の違い、優先順位の違い、情報の共有不足などから生まれます。
特に「経営側はわかっているつもり」「現場は伝わっていないと感じている」というすれ違いは、営業活動に深刻な影響を与えます。

このズレを埋めるには、“経営層からのフィードバックの仕組み”を日常化することが効果的です。

たとえば、
・月1回の社長参加の営業レビュー
・目標達成者・改善提案者へのフィードバック面談
・社内チャットでの「社長のひと言フィードバック」
・小規模グループでの雑談的な懇親会
など、「気軽で非公式な接点」も含めて、社長と現場が直接やりとりする機会を意識的に作ることが求められます。

ここでのポイントは、「管理する」「監視する」のではなく、“共に成果をつくるパートナー”としての関係性を築くことです。
そして、フィードバックの際は、結果よりも「プロセス」「姿勢」「改善意欲」を評価するようにしましょう。

このようなコミュニケーションの蓄積が、現場とのズレをなくし、全社で営業を強化する土台になります。

社長が現場に関わるというと、「細かく口を出すこと」だと誤解されがちですが、実際はその逆です。
適切な距離感で関与し、現場の努力を見取り、必要なタイミングで後押しする。それが、成果につながる営業組織を育てる経営者のスタンスです。

そして何より、「営業は組織全体で取り組むものである」という文化を社長が率先してつくることが、PDCAを定着させる最大の推進力となります。

5. 営業の数字を会社の武器にする

営業の成果を「個人の勘や努力」に頼っている企業では、データが蓄積されず、振り返りや分析も曖昧なままになります。
結果として、社内で共有される情報は曖昧で属人的、社外から見ても根拠に乏しい印象を与えてしまいます。

一方で、営業のプロセスや成果をきちんと数値化し、社内外に向けて明確に説明できる企業は、「数字で信頼を勝ち取る力」を持っています。
この章では、営業数字を組織の武器として活用するための3つの視点を解説します。

5.1 営業戦略を「見える化」して銀行も味方に

多くの経営者は、銀行との付き合いを「決算書で説明する場」だと捉えています。
しかし、銀行が本当に知りたいのは、「将来どうやって稼いでいくのか」というストーリーです。

このストーリーを裏付けるのが“営業の数字”です。

たとえば、「受注までに平均3回の商談が必要で、月に15件のアポイントが取れている」「年間の新規顧客数は60社前後で、3割が継続契約に至っている」
こうした定量データが揃っていれば、銀行は「この会社は計画的に売上をつくっている」と評価します。

逆に、営業方針が抽象的で、具体的なデータがないと、信用力が著しく落ちます
営業数字を整備することは、単なる社内管理のためではなく、資金調達の場でも大きな武器となるのです。

また、補助金や公的支援を申請する際にも、営業の見通しが具体的に説明できる企業は圧倒的に有利です。
定量データは「事業の成長力」を第三者に伝える最強の証拠になります。

5.2 採用・育成にもつながる営業の数値データ

営業数字の「見える化」は、社外だけでなく社内においても多くの恩恵をもたらします。特に採用と育成の場面ではその効果が顕著です。

まず、採用においては「数字に基づいた成長イメージ」を提示することが大きな説得力になります。
「入社半年で月●件の商談数、1年目で成約率●%、受注単価の平均●万円」
こうした数字を提示すれば、応募者は自分が働く姿を具体的に想像できるようになります。
これは、単に待遇や社風を説明するよりも、はるかに強い訴求力を持ちます。

次に育成の観点では、個々の進捗をフェーズごとに数値で追えることで、指導内容も明確になります
たとえば、「商談数はこなせているが成約率が低い」場合は、提案の質やクロージングの精度に課題があると分かります。

このように営業数字を活用すれば、育成が「感覚的なアドバイス」から「データに基づいた育成計画」へと変わり、人材の成長スピードも加速します。

“成長の見える環境”は、社員の定着率を高める最大の要因でもあります。
「何ができるようになったか」を本人も実感できる環境が、働きがいにつながるのです。

5.3 営業数字を“経営の言葉”に翻訳する技術

営業現場で蓄積された数字は、正しく翻訳されなければ経営判断には使えません。
単に「アポが取れた」「成約率が上がった」といった情報だけでは、経営層にとっての価値が限定的だからです。

必要なのは、営業数字を“経営の言葉”に翻訳することです。
たとえば以下のような変換が求められます。
・「アポイント率の向上」→「新規開拓の仕組みが機能し始めた」
・「成約率の上昇」→「提案内容が市場ニーズにフィットしている」
・「客単価の上昇」→「顧客のLTV(生涯価値)が向上し、投資回収期間が短縮される」
このように、現場での数値を経営指標と結びつけて解釈することで、営業活動が経営戦略と連動した“判断材料”になります

さらに、こうした翻訳ができると、営業部門の発信力が格段に上がります。
役員会、事業報告会、金融機関との交渉など、あらゆる場面で営業部門が「経営的な視点で話す」ことができるようになるのです。

これは単なるプレゼン力ではありません。
営業数字を戦略に転換できるスキルであり、中小企業が成長フェーズに入ったときに必ず求められる視点です。

営業数字は、単なる「管理のための材料」ではありません。
それを活用することで、銀行や顧客の信頼を得て、人材を育成し、経営判断の質を上げていくことができます。

つまり、営業数字は「守り」の道具ではなく、攻めの経営を実現するための“言語”です。

この営業言語を使いこなせる企業こそが、変化の激しい時代においても、着実に前進していける企業なのです。

まとめ

営業の成果が「属人的」で、「なんとなくの経験と勘」に頼っている限り、組織としての成長には限界があります。
一方で、営業活動を数値で捉え、行動と結果を仕組み化できれば、誰がやっても一定の成果が出る“再現性のある営業組織”が生まれます。

本コラムでは、PDCAを正しく回すための5つの視点をお伝えしてきました。
まず、属人化の弊害を理解し、行動を見える化し、プロセスで改善する視点を持つこと。
次に、社長自身が関与し、現場との信頼関係を築くこと。
そして最後に、営業数字を会社全体の資産として、外部にも内部にも有効に活用する技術を磨くことが重要です。

営業の感覚を「仕組み」に変え、数字を「経営の武器」にすることで、経営は確実に変わります。
これは特別なツールや人材を導入しなくても、現場に眠る情報を正しく扱い、習慣を変えることで十分に実現可能です。

社長がその一歩を踏み出すかどうか。
そこから、会社の営業力も、組織力も、未来も、大きく変わり始めます。

あなたは社長として、どのように営業の『カン』を『数字』に変えて、成果を出すPDCAを実施されますか?