今週のコラム 銀行の「事業性評価」を甘く見るな!審査を左右する5大要素

「銀行から『今回は見送りとさせていただきます』と言われました。決算も黒字ですし、借入金の返済も遅れたことはありません。いったい何がダメだったのでしょうか?」
――これは、先日当社の個別相談にいらっしゃった、サービス業を営む経営者の方からのご相談です。
確かに、財務状況が大きく悪化していないにもかかわらず、銀行から融資を断られるケースが最近増えています。過去の実績や数字だけでは判断されない──それが、今の銀行審査の実態なのです。
「黒字でも、融資が通らない時代」──その理由のひとつが、「事業性評価」です。つまり、銀行は決算書に現れない“事業の中身”を見て融資を判断しているのです。
本コラムでは、この「事業性評価」とは何か? 銀行が審査の中で具体的に見ている5つの要素を解説しながら、融資を通すために経営者が今すぐ取り組むべき視点を、実践的にお伝えします。
目次
はじめに
「うちは黒字だし、毎年税理士に見てもらっているから大丈夫」
「担保もあるし、銀行との付き合いも長いから審査は問題ないだろう」
そんな安心感を持っている中小企業経営者の方は少なくありません。
しかし、今の銀行はこれまでの“モノサシ”だけでは融資を決めません。
融資の判断基準は、決算書や担保から「事業の本質」へと大きく変わっているのです。
それが「事業性評価」という視点です。
この評価では、財務内容だけでなく、社長の考え方・社員の動き・ビジネスモデルの将来性といった、会社の“中身”が重視されます。
つまり、銀行は会社の「未来」と「人」を見て融資を判断しているということです。
にもかかわらず、多くの経営者が「数字さえ整っていれば大丈夫」と考え、肝心の“中身”の磨きこみをおろそかにしています。
結果、「なぜ通らないのか分からない」という事態に陥ってしまうのです。
このコラムでは、元銀行員の立場から、銀行が実際にチェックしている「事業性評価の5大要素」を徹底解説します。
「うちは大丈夫」と思っている方ほど、ぜひ一度立ち止まって見直してみてください。
事業性評価の本質を理解し、経営の中に組み込むことが、資金調達の突破口になります。
1. ビジネスの将来性が語れるか?
銀行の審査現場では、かつては「過去の数字」や「担保の有無」が重視されてきました。しかし近年、特に中小企業に対する融資において、重視される視点は確実に変わってきています。それが「事業性評価」です。
この事業性評価の中心にあるのが、会社の将来に、どれだけ説得力があるかという視点です。
「いま何をやっているか」よりも、「これから何を目指すのか」「どのように発展していくのか」「その実現可能性はどうか」といった未来志向の説明が求められます。
事業性評価において、銀行が将来性を見極めるために注目している3つの観点について詳しく解説していきましょう。
1.1. 「なぜこの事業なのか?」が明確か
銀行は、「何を売っているのか」以上に、なぜその事業に取り組んでいるのか、その“理由”に注目しています。
たとえば、「地域の高齢者の買い物を支える移動販売をしている」といった事業内容は、確かに社会的に意義があるように見えます。しかし、それだけでは銀行にとっては“外見”の情報にすぎません。
本当に評価されるのは、その背景にある「問題意識」や「解決したい課題」が語られているかどうかです。
・なぜこの地域でやるのか?
・なぜ自社でなければならないのか?
・誰をどう幸せにしたいのか?
こうした問いに対する答えが、社長の言葉で語られてこそ、銀行は耳を傾けます。形式的な説明や、流行に乗っただけのビジネスではなく、“社長自身の想い”が言葉になっていることが、将来性の根拠として強く評価されるのです。
1.2. “3年後の姿”が描けているか
事業性評価においては、「3年後、5年後に会社がどうなっているのか」を具体的に描けているかが重要です。
もちろん、将来の数字を正確に予測することは不可能です。しかし、ビジネスの方向性、どんな価値を生み出し、どんな状態になっていたいのかを語れる会社は、銀行から見ても「伴走しがいのある会社」となります。
ここで評価されるのは、単なる売上や利益の拡大だけではありません。
むしろ、“社会にどう貢献するか”という視点で、未来を語れているかが大切です。
たとえば、「当社は3年後に◯億円の売上を目指します」といった数値目標だけでは、銀行は評価しません。その背景に「地域の医療課題を支える」「地場産業を活性化する」といった社会的意義や、事業としての持続性が語られてこそ、説得力が増します。
また、ビジョンを語るうえで必要なのが、経営者自身の人生と事業がつながっているかどうかです。「自分の原体験からこの事業を始めた」「10年後の地域の姿をこう変えたい」というように、経営と人生が地続きであるような語りが、銀行の心を動かします。
未来を描ける経営者には、人もお金も集まります。銀行も「この社長なら、将来もちゃんと戦略を持って進めるだろう」と感じるのです。
1.3. 「再現性」のある仕組みがあるか
最後に、銀行が将来性を見るうえで非常に重視しているのが、「再現性」の視点です。
これはつまり、社長や特定の社員に依存せず、誰がやっても一定の成果が出る仕組みになっているかということです。
属人的なビジネス──つまり「営業部長が優秀だから売れている」「社長の人脈で成り立っている」──といった状態では、銀行はリスクを感じます。万が一、そのキーマンが抜けたらどうなるのか? という不安がぬぐえないからです。
そのため、銀行は以下のような点を確認します。
・営業フローが仕組み化されているか
・教育・マニュアル体制が整っているか
・数字のモニタリングができる体制があるか
このように、属人性を排除し、仕組みで成果が出る体制があるかどうかが、事業の安定性・拡張性の証拠となります。
さらに、銀行員が面談や現地調査でよく見ているのが、「社員が自分の役割を理解して動けているか」「業務の再現性があるかどうか」といった点です。
これは、言い換えれば、“会社が仕組みで回っているかどうか”の確認でもあります。
仕組みがあれば、今後の売上や人材育成も再現性をもって展開できます。
それが結果的に、「この会社には未来がある」と判断される理由となるのです。
将来性があると評価されるためには、目先の売上や目標数字ではなく、ビジネスの意味・未来の姿・仕組みの安定性を一貫性をもって語れるかどうかが重要です。
そのためにも、事業の「本質」と向き合い、日々の経営に将来性を織り込む努力を重ねていくことが、銀行との信頼構築につながるのです。
2. 社長が本気で事業に向き合っているか
融資の審査において、「社長の人柄」が見られていると耳にしたことがあるかもしれません。これは単なる印象や態度の話ではなく、社長が本気で事業に向き合っているかどうかが、銀行の評価ポイントとして非常に重視されているということです。
銀行にとって、社長はその会社の未来そのものです。決算書の数字や事業計画の中身がどれだけ立派でも、社長に「本気で経営に向き合っている気配」がなければ、融資の判断は厳しくなります。
では、銀行が「この社長は本気だ」と感じるのは、どのような瞬間でしょうか? 以下の3つの視点から、銀行の着眼点を詳しく見ていきます。
2.1. 社長の“言葉”が現場と一致しているか
銀行が事業性評価を行う際に、非常に注目するのが、社長が語る理想と、現場の実態との整合性です。
たとえば、社長が「社員が自主的に動く組織を目指しています」と話したとします。しかし実際に銀行員がヒアリングした現場の社員が「うちは全部、社長の指示待ちです」と言えば、それは大きな矛盾です。
このように、社長の“言葉”と“現場のリアル”が一致していなければ、銀行はその経営に対して不信感を抱きます。
見た目の資料や美しい経営理念ではなく、「実際にそれが組織に浸透しているか」「社員の行動と一致しているか」という視点で見られるのです。
また、会話の中で「うちの社員はよくやってくれている」「現場のことは社員に任せている」と言いながら、数字管理や顧客対応をすべて社長自身が行っている場合も同様です。
言行一致は、経営者としての信頼を得る上で欠かせない評価軸です。銀行員は、社長の言葉だけでなく、その背後にある「組織としての実態」まで見抜こうとしています。
2.2. 経営課題を自覚し、改善しようとしているか
会社に課題があることは、銀行にとっては大きな問題ではありません。
むしろ、どんな会社でも課題はあるという前提で審査は行われています。
銀行が本当に見ているのは、その課題を社長がどれだけ正確に把握し、改善の努力をしているかという点です。
たとえば、売上が伸び悩んでいる会社で、「コロナの影響で…」「景気が悪くて…」と外部要因だけを理由にしている社長と、
「営業の提案力が落ちている」「リピート率が下がっている」と、社内の構造的な問題に向き合っている社長とでは、銀行の見方はまったく異なります。
さらに、「改善の取り組みを始めている」という姿勢があるかどうかも、審査に大きく影響します。
・数値モニタリングを強化している
・営業フローを見直して改善に取り組んでいる
・社員と月1回の振り返りミーティングをしている
こうした行動の積み重ねが、銀行にとっては“再生可能性”や“成長可能性”の証になります。
課題を正直に語ることは、むしろ信頼を高める材料です。
見栄やプライドで隠そうとすることこそが、銀行にとっては最も危険なサインと映ります。
2.3. 経営に“逃げない”覚悟があるか
銀行員は、面談時に「この社長は本当に腹をくくっているのか?」という視点で、社長の言葉や態度を観察しています。
この「覚悟」が見えない社長には、どんなに計画が立派でも、銀行は安心して融資できません。
覚悟とは、決して大声で語ることや、強気な態度を取ることではありません。
むしろ、冷静に現状を受け止め、逃げずに打ち手を考え、コツコツと実行する社長にこそ、銀行は「信頼」を寄せます。
面談中に、「うまくいかなかったらどうしますか?」という質問に対して、
「そのときは撤退します」「新しい事業に切り替えます」と軽く答えるような社長よりも、
「その事態を想定して、今はこれを仕込んでいます」と具体的な準備を語れる社長の方が、よほど信用されるのです。
また、銀行は言葉だけでなく、社長の“表情”や“語り口調”からも、その本気度を読み取っています。
不安や迷いがにじむ社長よりも、たとえ困難な状況でも前を向いて考え続けている社長のほうが、「この人なら乗り越えるだろう」と感じてもらえるのです。
社長が本気であれば、社員の意識も変わります。
そして、そのエネルギーが事業の改善につながり、結果的に銀行からの支援も得られるようになります。
銀行は、社長の“本気度”を最も重要な審査要素のひとつとして見ているのです。
資料の整備や計画書の数字よりも、「この社長は、どんな状況でも会社を前に進めようとしているか?」という視点で、経営姿勢を見極めています。
経営者が経営に“逃げず”に向き合い続ける限り、銀行は必ず味方になってくれる。
そう信じて、日々の経営に真摯に取り組むことが、資金調達への最短ルートにつながるのです。
3. 社員が会社の方向性を理解しているか
銀行が事業性評価を行ううえで、決して無視できないのが「組織の状態」です。
どれだけ社長が優秀で、将来の展望を描けていても、社員がその方向性を理解し、共に進んでいるかどうかが、会社の“持続可能性”として大きな評価ポイントになります。
つまり、銀行は「社長個人」ではなく「組織全体」を見て融資の判断をしているのです。
この章では、銀行が現場で実際に見ている3つの視点──社長依存からの脱却、理念の浸透、組織の熱量──について、詳しく解説します。
3.1. 社長だけが頑張っていないか?
小規模な企業では、社長が営業・管理・実務まで全てを担っているケースが多くあります。確かに立ち上げ当初や人手不足のときには仕方のないことかもしれません。
しかし、銀行が見ているのは、「社長が頑張っているかどうか」ではなく、「会社がチームとして機能しているかどうか」です。
たとえば、社長が「社員に任せています」と言っていても、銀行員が現場で社員にヒアリングしたときに「何をやるにも社長の指示が必要なんです」と言われたら、評価は一気に下がります。
属人的な体制は、万が一社長が病気や事故に遭った場合、会社がすぐに止まってしまうリスクを意味します。
銀行としては、「将来も安定して事業を継続できるかどうか」が見たいのです。
そのためには、役割分担の明確化・指示系統の整理・社員への権限移譲といった仕組みが必要不可欠です。
特に、「社長不在でも現場が回る体制」は、銀行にとって大きな安心材料となります。
また、こうした体制の整備ができている会社は、往々にして業績も安定しています。なぜなら、社長が“クレーム処理”や“事務作業”に追われるのではなく、本来の経営に専念できるからです。
3.2. 経営理念が現場に浸透しているか
経営理念やビジョンを掲げている企業は多いですが、それが“壁に貼ってあるだけ”になっていないかが、銀行のチェックポイントです。
銀行員が面談や現地訪問をする際、理念が社内にどのように根付いているかを注意深く観察します。
・社員はその理念を自分の言葉で説明できるか?
・理念に基づいた行動が日常の業務に反映されているか?
・判断基準や意思決定の背景に、理念が感じられるか?
こういった要素が確認できると、銀行はその企業を「軸のある会社」と評価します。
特に評価が高いのは、理念を日常業務の中で具体的に活用している企業です。たとえば、社員が「お客様にとって何が最善かを常に考える」といった理念を、自らの判断や提案に反映させているようなケースです。
また、社員の表情や言葉遣いにも、その企業文化があらわれます。銀行員は、こうした非言語的な雰囲気から、理念の“本当の浸透度”を感じ取っています。
理念は単なるスローガンではなく、組織を一つにまとめ、社員の行動を導く指針です。
だからこそ、銀行はその浸透状況を「経営の質」として判断しているのです。
3.3. 数字だけでなく「組織の熱量」も見られる
会社の良し悪しを決めるのは、決算書の数字だけではありません。
銀行が重視しているのは、「この組織には前進するエネルギーがあるか?」という“熱量”の部分です。
では、その“熱量”はどのように評価されるのでしょうか?
・離職率の高さ
・社員のモチベーション
・社内のコミュニケーション状況
・経営陣と社員の関係性
これらは、外からは見えにくい“定性情報”ですが、銀行は現場のヒアリングや面談を通じて丁寧に読み取ろうとします。
「数値が安定していても、社内に冷え切った空気が漂っている会社」は、将来的な成長力に疑問が残るというのが、銀行の本音です。
反対に、多少の赤字があったとしても、社員が前向きに行動しており、経営者とともに改善を目指している姿勢が見られる会社は、「融資しても立て直す力がある」と判断されます。
また、社内トラブルが頻発している企業や、社員の表情が暗く、活気がない現場を見た場合、銀行は「何か深い問題があるのでは」と慎重になります。
組織の熱量とは、「誰かに言われたから動く」のではなく、「自分から動く」社員がどれだけいるかという観点でもあります。
このような視点を持って銀行は、数値に表れない“経営の質”を見極めているのです。
銀行は、経営者の手腕や将来の展望を見ると同時に、「社員が社長のビジョンを理解し、同じ方向を見て動いているか」を非常に重要な判断材料としています。
経営者ひとりの力だけでは、会社は大きくなりません。社員とともに、同じ目的を共有し、支え合い、動ける組織があるかどうかこそが、銀行にとって「信頼できる企業」の条件なのです。
4. 金融機関との“信頼関係”が築けているか
「銀行はお金を貸す場所」「困ったときに頼るところ」──
そう思っている経営者の方も多いかもしれません。
しかし、今の融資審査では、「困ったときだけの付き合い」では不十分です。
銀行は、“資金の出し手”ではなく“経営のパートナー”として扱う姿勢があるかどうかを重視しています。
事業性評価において、銀行が注目しているのは「過去の付き合い方」です。
つまり、普段からどれだけ情報を開示し、丁寧に関係を築いてきたか。これが、いざというときの融資判断に直結します。
この章では、信頼される経営者が実践している3つの行動について解説します。
4.1. 普段からオープンな情報開示をしているか
銀行との関係で最も重要な基本姿勢の一つが、情報を隠さず、積極的に伝えているかどうかです。
・決算が出たら、すぐに銀行へ説明に行く
・月次での業況報告をメールや電話で共有している
・資金繰りの状況も包み隠さず共有する
このように、日常的にオープンなコミュニケーションを取っている会社は、銀行にとって非常に信頼しやすい存在です。
なぜなら、情報を得やすいということは、リスク管理もしやすいからです。
一方で、都合の悪いことを隠したり、ギリギリまで連絡がない会社に対しては、どれだけ業績が良くても「何かあったときに対応できないかもしれない」と警戒されます。
銀行は、良いときも悪いときも一貫して情報を伝えてくれる経営者を評価します。
数字が悪いときにこそ、しっかり説明し、今後の改善方針を語れる社長に対しては、たとえ当面の数字が厳しくても、「この会社は立て直す力がある」と見なされやすくなります。
4.2. 「融資が必要なときだけ連絡」はNG
銀行員の本音として、非常に多く聞かれる声が、「必要なときしか連絡をくれない会社は信頼しづらい」というものです。
確かに、資金調達のタイミングで銀行と接するのは当然です。しかし、普段の関係が築けていないまま「今すぐ○千万円必要です」と持ち込まれても、銀行は判断に困ります。
例えば、突然以下のような連絡をしてくる経営者がいます。
「来週の支払いが足りないので、つなぎ資金をお願いしたい」
「新店舗出すので、できれば今月中に融資してほしい」
これでは、銀行側にとっては「この社長、ちゃんと計画してるのか?」「普段何を考えて経営しているのか分からない」と、不安材料になってしまいます。
信頼関係とは、平時にこそ築かれるものです。
だからこそ、融資が必要ないときでも、日々の報告や経営の相談をする姿勢が問われます。
逆に、日頃からこまめに情報を伝えてくれる社長に対しては、「何かあったときも早期に相談があるだろう」と思われ、対応のスピードも早くなります。
銀行は“人”のつながりで動いています。日常の一つひとつのやり取りが、融資の現場で大きな差を生むのです。
4.3. 銀行担当者と「経営の会話」ができているか
銀行員との面談や訪問の場で、決算書の数字だけを説明していませんか?
もちろん数字は大切ですが、銀行が本当に知りたいのは「なぜこの数字になったのか」「これからどう改善するのか」という背景です。
つまり、単なる“報告”ではなく、“経営の会話”ができる社長こそ、銀行の信頼を得られるのです。
たとえば、以下のようなやり取りができていると評価は高まります。
「今期は新規顧客が増えて粗利率は上がったが、管理部門の人件費が増えて利益が圧迫されている」
「来年は製品ラインを絞り、利益率の高い領域に集中していく予定」
「主要取引先の動向を受けて、販促戦略を変更中」
このような会話ができる社長は、銀行から「事業の本質を把握している」「戦略的に経営している」と判断されます。
反対に、「経理に任せているので、詳しくはわかりません」では、経営者としての責任感が問われてしまいます。
また、銀行員が感じる“安心感”は、表情や態度からもにじみ出ます。
資料を見ながらでも構いません。自分の言葉で、現状と未来を語れることが、金融機関との信頼関係を築く第一歩なのです。
銀行との信頼関係は、書類や数字では築けません。
普段の報連相、継続的な情報開示、そして“対話する姿勢”こそが、信頼の土台となります。
社長が「困ったときだけ銀行に頼る」姿勢を改め、平時から対話を重ねていけば、銀行は自然とあなたの会社の“応援団”になってくれます。
資金調達とは、信頼の蓄積によってこそ成り立つもの。
日頃の何気ないコミュニケーションを大切にすることが、未来の融資を引き寄せる力になるのです。
5. 財務以外の“定性情報”に強みがあるか
銀行の融資審査といえば、これまでは「売上」「利益」「自己資本比率」といった財務数値が中心でした。しかし、事業性評価が重視されるようになった今、数字には表れない“定性情報”が、企業の評価を大きく左右する時代になっています。
定性情報とは、財務指標では測れない「企業の内面」や「関係性」、「将来性」などを意味します。たとえば、経営者の想いやビジョン、社員の自律性、社外との連携、地域での評価、ノウハウやブランド力といったものです。
こうした定性面での強みは、業績が一時的に悪化している場合でも「この会社なら再生できる」「成長が見込める」と銀行が判断する大きな材料になります。
以下では、銀行が特に重視している定性情報の3つのポイントをご紹介します。
5.1. 外部ネットワークや提携先の質
事業を継続・発展させるためには、自社単独での力だけでなく、どのような外部パートナーと結びついているかが極めて重要です。
銀行が評価するのは、単なる「取引の多さ」ではなく、「関係性の質」です。
たとえば…
・地元の有力企業と共同で開発を行っている
・大手企業の一次下請けとして長年の実績がある
・業界団体との連携を通じて政策提言にも関わっている
こうした実績がある場合、その会社の「信頼性」「社会的信用」「事業の広がり」が証明されることになります。
また、販路や協業ネットワークの広がりがあることで、新規顧客の獲得や事業拡大の可能性も高まります。銀行はこれを「将来の安定性」と捉えます。
さらに、外部との連携が「単なる依存関係」ではなく、「共創・相互補完」になっている場合は、より高く評価されます。
つまり、“どの企業と、どう関わっているか”が、見えない信用力として審査に影響するのです。
5.2. 地域や業界内でのポジション
自社の立ち位置を明確に把握し、「なぜ選ばれているのか」を説明できる企業は、銀行からも強く信頼されます。
例えば、同業他社がひしめく中で、なぜ自社が選ばれているのか。
それは価格か? サービスか? 技術か? ブランドか?
この問いに明確な答えがある企業は、「競争力がある」として審査の際にプラス評価を受けます。
銀行員は決算書だけでなく、以下のような情報にも注目します。
・地域メディアに取り上げられる機会が多い
・商工会や地域金融機関と定期的に活動している
・特定の業界内で「◯◯といえばこの会社」と認知されている
また、「地方で1社だけが対応できる技術」「ニッチだが高収益な分野での独占的ポジション」などがあれば、それ自体が大きな強みとなります。
銀行は「将来的に顧客から選ばれ続ける会社かどうか」を見ています。
競合と比較して自社の価値がどこにあるのかを言語化し、伝えられる経営者は、それだけで信用を獲得しやすくなるのです。
5.3. 知的資産や目に見えない強み
事業性評価の文脈で、銀行が特に注目しているのが「知的資産」の存在です。
知的資産とは、決算書に出てこないが企業の競争力を支える“見えない資産”のこと。
たとえば…
・長年培った製造ノウハウ
・特許や技術情報
・熟練した社員のスキル
・ロイヤルティの高い顧客との関係性
・経営理念に基づく社内文化
・ブランドイメージや評判
これらはすぐに数字にはなりませんが、企業の“本当の価値”として銀行は注目しています。
特に、社員の定着率が高い企業や、クレームが少ない企業、リピート率の高いビジネスモデルを持つ企業などは、「目に見えない強さ」があると判断されます。
銀行員はこうした要素を、面談時の会話、企業訪問での雰囲気、社長の発言内容などから丹念に読み取っています。
数字は一時的に落ち込むことがあっても、こうした「目に見えない強み」がある企業は、必ず持ち直す力があると評価されやすいのです。
さらに、「社員が理念に共感して動いている」「現場が自走している」「理念と事業戦略が一致している」といった状態は、銀行にとっては最高の“無形資産”です。
銀行は、定性情報を「おまけ」や「補足情報」としてではなく、企業の将来を左右する“核心”として評価しているという点を、経営者として認識することが重要です。
財務が少々厳しくても、組織の中に「成長する理由」が見つかれば、銀行は融資を前向きに検討します。
だからこそ、自社の“数字に表れない強み”を見直し、言語化し、堂々と伝えることが、資金調達において大きな武器になるのです。
まとめ
これまでの融資審査では、財務数値や担保といった「過去の結果」が重視されてきました。しかし現在、銀行は「これからの可能性」、つまり事業の本質的な力を見極めようとしています。
そのための判断材料が「事業性評価」です。
これは、単なる形式的な書類や表面的な会話ではなく、社長の覚悟、社員の動き、経営の仕組み、社外との関係性など、企業の内側にある“人と仕組みの力”を丸ごと見られる視点です。
つまり、「なぜこの会社は存在しているのか」「どう成長していくのか」に説得力があるかどうかが、審査を左右する時代になったのです。
・経営理念が現場に浸透しているか。
・社員が方向性を理解して、自律的に動いているか。
・金融機関と日頃から関係性を築き、対話ができているか。
・そして、数字には出ない知的資産や、独自の強みを持っているか。
これらすべてが、未来を形づくる「信用力」として銀行に評価されていきます。
だからこそ、今の時代の資金調達は「融資のテクニック」ではなく、経営そのものの質が問われています。
そしてその質は、日々の経営姿勢の中に宿るものです。
経営のあり方を見直し、事業性評価に対応できる会社へと進化することが、結果として資金調達の力につながる──
その視点を、今こそ経営の真ん中に据えていただければと思います。
