今週のコラム 経営者が考えるべき「ミッション」「ビジョン」「バリュー」について
「前回のコラムで、コロナ禍のように混沌とした状況下では「マネジメント」が重要であり、「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を明確にして従業員の方々にキチンと共有することは理解したのですが、どういう点に注意して策定・対応すればいいのですか? もちろん、髙窪さんの本業ではないことはわかっているのですが、元銀行員ということでわかる範囲で教えていただけませんか?」──とある経営者の方からのご相談です。
目次
ピーター・F・ドラッカー氏「マネジメント」
元銀行員だから、ということで、専門外のことについてもご相談をいただくことが多いのですが、さすがにピーター・F・ドラッカー氏が提唱した「マネジメント」ということになると・・・
実際に「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を策定される際には、ドラッカー氏の「マネジメント」専門家のアドバイスを受けていただきたいのですが、経営者として絶対つぶれない会社をつくるために必要となる「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の留意点について、私なりの考えをお伝えしました。
超基礎的な理解とそれを見つけるための質問だけでも理解しておく必要があります。
「ミッション」とは
まず、(1)「ミッション」とはそもそもどのようなものなのでしょうか。
ミッション(Mission)はもともと「使命」という意味で、経営理念や企業理念におけるミッションは「企業が果たすべき使命」となります。つまり企業が何を目的に事業を遂行しているのか、何のために社会に存在しているのかを表すものがミッションです。
ミッションを見つけるための質問
「私の会社は、この事業活動で、今、何をすることを求められているのか?」
「私の会社のことを本当に必要としている人は誰か? その人は、どこにいるのか?」
「その何かや誰かのために、私の会社にできることには、何があるのか?」
「ビジョン」とは
次に、(2)「ビジョン」について見てみましょう。
「ビジョン(Vision)」は「展望」という意味ですが、経営理念や企業理念においては「企業として将来どんな展望があるか」「この先どんな企業になることが理想か」を表します。「ビジョン」を掲げることでゴールとなる理想の会社像を共有できれば、すべてのメンバーが同じ目的をもって仕事ができるようになります。
ビジョンを見つけるための質問
「なんの制約もなければ、会社をどのように経営したいか?」
「なんの制約もなければ、会社でどのようなことを成し遂げたいか?」
「バリュー」とは
最後に、(3)「バリュー」を見てみましょう。
「バリュー(Value)」とはもともと「価値」という意味ですが、「企業や組織で共有すべき価値観や方針」という定義が一般的です。どんな価値観で働くべきかを具体的にまとめた行動指針や行動規範などを「バリュー」として表すケースも多いです。
バリューを見つけるための質問
「私の会社がミッションやビジョンを成し遂げるために、全従業員で共有すべき価値観は?」
「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を見つけるための質問には、時間をかけてかまいません。それぞれがクリアになるまで、納得いくまでたっぷり考えてみてください。
大手企業の事例
では、実際にどのような「ミッション」「ビジョン」「バリュー」が策定されているのか、事例を見てみましょう。
トヨタ自動車の場合
(1)ミッション:わたしたちは、幸せを量産する。
だから、ひとの幸せについて深く考える。
だから、より良いものをより安くつくる。
だから、1秒1円にこだわる。
だから、くふうと努力を惜しまない。
だから、常識と過去にとらわれない。
だから、この仕事は限りなくひろがっていく。
(2)ビジョン:可動性(モビリティ)を社会の可能性に変える。
不確実で多様化する世界において、
トヨタは人とモノの「可動性」=移動の量と質を上げ、
人、企業、自治体、コミュニティができることをふやす。
そして、人類と地球の持続可能な共生を実現する。
(3)バリュー:トヨタウェイ
ソフトとハードを融合し、パートナーとともに
トヨタウェイという唯一無二の価値を生み出す。
【ソフト】よりよい社会を描くイマジネーションと人起点の設計思考。
現地現物で本質を見極める。
【ハード】人とモノの可動性を高める装置。
パートナーとともにつくるプラットフォーム。
これらをソフトによって柔軟に、
迅速に変化させていく。
【パートナー】ともに幸せをつくる仲間
(顧客、社会、コミュニティ、社員、ステークホルダー)
を尊重し、それぞれの力を結集する。
バリューは上記だけですと少々具体性に欠けているように感じますが、社員に求める行動指針についてはこれとは別に「トヨタウェイ2020/トヨタ行動指針」で具体的な内容が明示されています。
・「だれか」のために
・誠実に行動する
・好奇心で動く
・ものをよく観る
・技能を磨く
・改善を続ける
・余力を創り出す
・競争を楽しむ
・仲間を信じる
・「ありがとう」を声に出す
日立グループの場合
「日立グループ・アイデンティティー」として掲げられているのは以下の3つです。
(1)ミッション:日立グループが社会において果たすべき使命
優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する。
(2)ビジョン:これからの日立グループのあるべき姿
日立は、社会が直面する課題にイノベーションで応えます。
優れたチームワークとグローバル市場での豊富な経験によって、
活気あふれる世界をめざします。
(3)バリュー:ミッションを実現するために日立グループが大切にしていく価値
日立創業の精神。和・誠・開拓者精神。
バリューにおける「和」は、目的を共有することで団結すること、「誠」は社会的な信頼を得るための誠実さです。創業から100年以上の歴史を持つ日立グループの「開拓者精神」にも求心力があります。
リクルートホールディングスの場合
(1)ミッション [ 果たす役割 ]:まだ、ここにない、出会い。
より速く、シンプルに、もっと近くに。
私たちは、個人と企業をつなぎ、より多くの選択肢を提供することで、「まだ、ここにない、出会い。」を実現してきました。
いつでもどこでも情報を得られるようになった今だからこそ、より最適な選択肢を提案することで、「まだ、ここにない、出会い。」を、桁違いに速く、驚くほどシンプルに、もっと身近にしていきたいと考えています。
(2)ビジョン [ 目指す世界観 ]:Follow Your Heart
一人ひとりが、自分に素直に、自分で決める、自分らしい人生。
本当に大切なことに夢中になれるとき、人や組織は、より良い未来を生み出せると信じています。
(3)バリューズ [ 大切にする価値観 ]
・新しい価値の創造
世界中があっと驚く未来のあたりまえを創りたい。遊び心を忘れずに、常識を疑うことから始めればいい。良質な失敗から学び、徹底的にこだわり、変わり続けることを楽しもう。
・個の尊重
すべては好奇心から始まる。一人ひとりの好奇心が、抑えられない情熱を生み、その違いが価値を創る。すべての偉業は、個人の突拍子もないアイデアと、データや事実が結び付いたときに始まるのだ。私たちは、情熱に投資する。
・社会への貢献
私たちは、すべての企業活動を通じて、持続可能で豊かな社会に貢献する。
一人ひとりが当事者として、社会の不に向き合い、より良い未来に向けて行動しよう。
出展:リクルートホールディングス ビジョン・ミッション・バリューズ
Googleの場合
(1)Googleのミッションステートメント
Organize the world's information and make it universally accessible and useful
世界のあらゆる情報を整理して、世界中の人々がアクセスでき使えるようにすること
(2)Googleビジョンステートメント
To provide access to the world’s information in one click
世界の情報へ1クリックでアクセスできるようにすること
(3)Googleの価値観
Great isn’t good enough.
「すばらしい」では足りない。
Focus on the user, all else will follow.
ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる。
It’s best to do one thing really well.
1つのことをとことん極めてうまくやるのが一番。
Fast is better than slow.
遅いより速いほうがいい。
Democracy on the web works.
ウェブ上の民主主義は機能する。
You can make money without doing evil.
悪事を働かなくてもお金は稼げる。
There’s always more information.
世の中にはまだまだ情報があふれている。
The need for information crosses all bor
情報のニーズはすべての国境を越える。
You can be serious without a suit.
スーツがなくても真剣に仕事はできる。
You don’t need to be at your desk
情報を探したくなるのはパソコンの前にいるときだけではない。
いかがでしょうか?
日米の大企業で「ミッション」「ビジョン」「バリュー」が比較的分かりやすい事例を抜粋しましたので、なんとなくイメージがわいてきたのではないでしょうか?
まとめ
一言で表すと、次のようになりますので、参考になさってください。
「ミッション」:企業が果たすべき使命
「ビジョン」:企業の将来の展望・ゴール
「バリュー」:企業や組織で共有すべき価値観や方針
コロナ禍のように混沌とした時期には、従業員が同じ目的、方向性を持たないと、各自でバラバラなことをしてしまいますので、会社全体のマネジメントが難しくなります。現在は企業のグローバル化が進み、社員の人種や国籍も多様化していることに加えて、働き方や働く目的なども人によって多様化してきています。組織内メンバーの多様化が進む中でも、「ミッション」「ビジョン」「バリュー」によって目標や行動指針を明確にすることで、経営者としてマネジメントしやすい環境を整えていきましょう。
実際に「ミッション」「ビジョン」「バリュー」が社内で共有できていれば、業務の目的や目指すものが明確になります。さらに仕事を実践する上での行動指針もあるため、細かい指示を出さなくても従業員ひとりひとりが判断できるようになります。その結果従業員のモチベーションが上がり、成長につながることがこれまでの経験でわかっています。
仮に、「ミッション」「ビジョン」「バリュー」が従業員に浸透していないと、常に経営者であるあなたや部門長に意見を聞いたり判断を仰いだりすることが増えてしまいます。このような状況では従業員のモチベーションが下がるだけではなく、事業を進めるスピードが落ちることで更なる業績低下につながる可能性も出てきますのでご留意ください。
さあ、経営者であるあなたが「ミッション」「ビジョン」「バリュー」によって目標や行動指針を明確にすることで、マネジメントしやすい環境を整えましょう!