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今週のコラム 利益率が低い会社ほど見落としている“値決め”の落とし穴

「いや~、売上はそれなりにあるのですが、なぜか会社にお金が残らないんです。最近は材料費も人件費も上がっているのに、取引先からは以前と同じ価格を求められます。値上げをしたい気持ちはあるのですが、仕事が減るのではないかと思うと、なかなか言い出せません。結局、相場や元請けの言い値に合わせてしまい、利益率がどんどん下がっている気がします。どうすれば、適正な利益を残せる値決めができるのでしょうか?」――これは、当社のセミナーに参加された製造業の経営者から寄せられたご相談です。

確かに、中小企業経営者の中には、「価格を上げると顧客が離れてしまうのではないか」「競合より高くなると受注できないのではないか」と不安に感じ、値決めを後回しにしている方が少なくありません。特に、長年の取引先や元請け企業との関係がある場合、価格交渉に踏み切れず、コスト上昇分を自社で抱え込んでしまうケースも多く見られます。

しかし、売上を守るために価格を据え置き続ければ、本来会社に残るはずの利益は少しずつ削られていきます。売上はある。仕事もある。現場も忙しい。それなのに資金繰りが楽にならず、社員への還元や将来への投資ができない。こうした状態の背景には、値決めの考え方に問題があることが少なくありません。

「相場に合わせるべきか?それとも必要な利益から逆算すべきか?」――これは、多くの中小企業経営者が直面する重要な経営判断です。本コラムでは、利益率が低い会社ほど見落としがちな“値決め”の落とし穴を紐解き、会社に利益を残すために経営者が見直すべきポイントを解説します。

はじめに

「売上は伸びているのに、なぜかお金が残らない」
「現場は忙しいのに、利益が思うように増えない」
「材料費や人件費が上がっているのに、価格に転嫁できていない」

このような悩みを抱えている中小企業経営者は少なくありません。特に最近は、原材料費、電気代、人件費、物流費など、あらゆるコストが上昇しています。それにもかかわらず、以前と同じ価格のまま受注を続けていれば、利益率が下がるのは当然です。

多くの会社は、利益率が低い原因を「売上不足」や「営業力不足」だと考えます。しかし、実際にはそれ以前に、値決めの考え方そのものに問題があるケースが非常に多いのです。

価格は、単に「いくらで売るか」を決めるだけのものではありません。会社にどれだけ利益を残すか、社員にどれだけ還元できるか、将来の設備投資や人材採用にどれだけ資金を回せるかを決める、経営の重要な判断です。

それにもかかわらず、「競合がこの価格だから」「元請けからこの金額でと言われたから」「値上げすると仕事がなくなりそうだから」という理由で、価格を決めていないでしょうか?もしそうであれば、自社の利益を自分たちで削っている可能性があります。

利益率が低い会社ほど、値決めを営業や現場の判断に任せるのではなく、社長自身が経営戦略として見直す必要があります。

まず取り組むべきことは、今受けている仕事が本当に利益を生んでいるのかを数字で確認することです。売上金額だけを見るのではなく、原価、人件費、外注費、管理コストまで含めて、どの取引が会社に利益を残しているのかを見える化することが重要です。

本コラムでは、利益率が低い会社ほど見落としている「値決め」の落とし穴と、利益を残すために経営者が今すぐ見直すべきポイントについて解説します。

1. なぜ利益率が低い会社ほど値決めを軽く考えてしまうのか

「売上はそれなりにあるのに、なぜか利益が残らない」
「受注は増えているのに、資金繰りが楽にならない」
「社員は忙しく働いているのに、会社の手元資金が増えていかない」

このような状況にある会社ほど、まず見直すべきなのが値決めの考え方です。

多くの中小企業では、値決めを「営業上の判断」や「取引先との交渉ごと」として捉えています。しかし本来、値決めは営業担当者だけに任せるものではありません。会社の利益率を左右し、社員の給与、設備投資、採用、将来の成長余力まで決める、極めて重要な経営判断です。

にもかかわらず、利益率が低い会社ほど、値決めを深く考えずに決めてしまう傾向があります。

「同業他社もこのくらいだから」
「昔からこの価格でやっているから」
「元請けからこの金額でと言われたから」
「値上げをすると仕事が減るかもしれないから」

このような理由で価格を決めている場合、会社は自ら利益を削っている可能性があります。もちろん、取引先との関係や競合状況を無視して価格を決めることはできません。しかし、そこに自社の必要利益や提供価値が反映されていなければ、どれだけ頑張っても利益率は改善しません。

値決めを軽く考える会社は、売上を増やしても利益が残りにくい体質から抜け出せません。

利益率が低い会社に必要なのは、単なる値上げではありません。まずは、自社がいくらで売れば適正な利益を確保できるのか、どの仕事が利益を生み、どの仕事が会社を苦しめているのかを数字で把握することです。

値決めは、会社の未来を決める入口です。ここを曖昧にしたまま営業活動を増やしても、忙しさだけが増え、利益は思うように残らないのです。

1.1. 「相場に合わせる」ことが正しいと思い込んでいる

利益率が低い会社でよく見られるのが、「相場に合わせて価格を決めている」という考え方です。

もちろん、業界相場や競合価格を把握することは大切です。顧客がどの程度の価格感を持っているのか、競合がどの価格帯で提案しているのかを知ることは、営業戦略を考えるうえで欠かせません。

しかし問題は、相場に合わせること自体が正しい値決めだと思い込んでしまうことです。

相場とは、あくまで市場の中で形成されている価格帯にすぎません。その価格で自社が必要な利益を確保できるかどうかは、まったく別の話です。同じ業界であっても、会社によって原価構造、人件費、設備投資額、管理コスト、営業体制、品質レベル、対応範囲は異なります。

にもかかわらず、「この業界ではこのくらいが普通だから」と価格を決めてしまうと、自社の実態に合わない価格で仕事を受け続けることになります。

たとえば、品質管理に力を入れている会社、短納期に対応している会社、顧客ごとに細かい調整をしている会社、技術力の高い社員を抱えている会社は、それだけ多くのコストと手間をかけています。本来であれば、その価値は価格に反映されるべきです。

ところが、相場だけを基準にしてしまうと、自社が提供している付加価値を価格に乗せることができません。その結果、「他社より良い仕事をしているのに、利益率は低い」という状態に陥ります。

相場は参考にするものであって、価格を決める絶対基準ではありません。

特に下請け型のビジネスでは、元請けや取引先が提示する価格を「相場」として受け入れてしまうことがあります。しかし、その価格は必ずしも自社の利益を考えて決められたものではありません。相手にとって都合のよい価格である可能性もあります。

ここで経営者が確認すべきことは、非常に明確です。

・今の価格で、会社に必要な営業利益は残っているのか。
・原材料費や人件費の上昇分は反映されているのか。
・社員が残業して対応している手間は価格に含まれているのか。
・将来の設備更新や人材採用に回す利益は確保できているのか。

これらを確認せずに相場だけで価格を決めているなら、値決めは経営判断ではなく、単なる受け身の対応になっています。

中小企業経営者がまず行うべきことは、「相場より高いか安いか」ではなく、「この価格で会社が健全に成長できるか」を確認することです。

そのためには、主要な商品・サービス・取引先ごとに、実際の利益率を見える化する必要があります。感覚で「たぶん利益は出ている」と判断するのではなく、数字で確認するのです。

①相場に合わせる前に、自社の必要利益を把握する。
②競合価格を見る前に、自社の提供価値を整理する。
③取引先の提示額を受け入れる前に、自社が守るべき利益ラインを決める。

この順番を間違えないことが、利益率改善の第一歩になります。

1.2. 売上を優先しすぎて利益を後回しにしている

利益率が低い会社ほど、売上を増やすことに意識が集中しがちです。

「今月の売上を何とか作らなければならない」
「工場の稼働を止めるわけにはいかない」
「社員の仕事を確保しなければならない」
「取引先との関係を維持したい」

このような事情から、利益率が低い仕事でも受注してしまうことがあります。もちろん、会社を経営していれば、短期的に売上を確保しなければならない場面はあります。仕事を断ることが簡単ではないことも事実です。

しかし、売上を優先しすぎると、会社はいつの間にか「忙しいのに儲からない」状態に陥ります。

売上は会社の規模を示す重要な数字です。しかし、売上が大きくても利益が残らなければ、会社の体力は強くなりません。むしろ、利益率の低い仕事が増えるほど、現場の負担は増え、社員は疲弊し、資金繰りは厳しくなっていきます。

売上が増えることと、会社が儲かることは同じではありません。

たとえば、利益率の低い仕事を大量に受注した場合、売上高は増えます。しかし、そのために人件費、外注費、材料費、物流費、管理工数が増えれば、最終的に残る利益はわずかになります。場合によっては、売上が増えたにもかかわらず、資金繰りが悪化することもあります。

これは、経営者にとって非常に危険な状態です。なぜなら、売上が伸びているため、表面的には会社が成長しているように見えてしまうからです。

しかし実際には、利益を生まない仕事に人と時間を奪われ、より利益率の高い仕事に取り組む余力を失っている可能性があります。

経営者が見るべきなのは、売上の大きさではなく、「その売上がどれだけ利益を残しているか」です。

特に注意すべきなのは、営業担当者や現場が「受注できたこと」を成果として捉えている場合です。もちろん受注は大切です。しかし、会社に利益を残さない受注を積み重ねても、経営は楽になりません。

営業現場では、値引きをすれば受注しやすくなります。取引先から見れば、安い価格は魅力的です。しかし、その値引きが会社の利益率をどれだけ下げるのか、年間利益にどれだけ影響するのかまで考えられていなければ、値引きは会社の体力を削る行為になります。

経営者は、売上目標だけでなく、利益目標を明確にする必要があります。そして、商品別、取引先別、案件別に「どの仕事が利益を生んでいるのか」を確認しなければなりません。

今すぐ取り組むべきことは、次の確認です。

・受注額は大きいが、利益が薄い仕事はないか。
・長年続けているが、実は赤字に近い取引先はないか。
・値引きが常態化している商品・サービスはないか。
・現場の負担に見合わない価格で受けている案件はないか。
・売上は大きいが、資金繰りを圧迫している取引はないか。

これらを洗い出すだけでも、会社の利益構造は大きく見えてきます。

売上を増やすことは大切です。しかし、利益を後回しにした売上拡大は、会社を強くするどころか、社長と社員をさらに忙しくさせるだけです。

売上を追う経営から、利益を残す経営へ。
この視点の転換が、値決めを見直す大きな出発点になります。

1.3. 原価・人件費・間接費を正しく価格に反映できていない

値決めで最も見落とされやすいのが、価格に含めるべきコストの範囲です。

多くの会社では、材料費や外注費など、目に見えやすい直接原価をもとに価格を決めています。たとえば、「材料費がこれだけかかるから、そこに少し利益を乗せて販売する」という考え方です。

一見すると合理的に見えます。しかし、これだけでは不十分です。会社が商品やサービスを提供するためには、材料費以外にも多くのコストがかかっています。

社員の人件費、社会保険料、残業代、事務スタッフの給与、営業担当者の移動時間、見積作成の工数、品質管理、クレーム対応、設備の減価償却費、家賃、水道光熱費、通信費、広告費、管理部門のコストなど、すべて会社が負担している費用です。

これらを価格に反映できていなければ、受注するたびに会社の利益は削られていきます。

原価とは、材料費だけではありません。会社を動かすために必要な費用全体を見なければ、本当の利益は見えてきません。

特に中小企業では、社長やベテラン社員の経験と勘で価格を決めているケースがあります。長年の経験は大切です。しかし、コスト構造が変わっているにもかかわらず、昔の感覚のまま価格を据え置いていれば、利益率が下がるのは当然です。

以前は問題なかった価格でも、現在では赤字に近くなっている可能性があります。原材料費は上がり、人件費も上がり、採用コストも増え、物流費も上昇しています。それにもかかわらず、価格だけが昔のままでは、利益は残りません。

また、意外と見落とされるのが「手間」のコストです。

・細かな仕様変更が多い顧客。
・見積もりのやり直しが頻繁に発生する案件。
・納期調整に時間がかかる取引先。
・クレーム対応や追加対応が多い仕事。
・営業や事務の確認作業が多い商品。

これらは帳簿上では見えにくいものの、確実に人件費と時間を消費しています。にもかかわらず、その手間が価格に反映されていなければ、会社は知らないうちに利益を失っています。

利益率を上げたいなら、まず「どこまでのコストを価格に含めているのか」を社長自身が確認する必要があります。

そのためには、商品別・サービス別・案件別に、最低限次の項目を確認することです。

・材料費はいくらか。
・外注費はいくらか。
・作業にかかる人件費はいくらか。
・営業・事務・管理にかかる間接費はいくらか。
・追加対応や手戻りにかかる時間はどの程度か。
・会社として確保すべき利益はいくらか。

これらを確認すると、これまで「利益が出ている」と思っていた仕事が、実はほとんど利益を生んでいなかったということがあります。反対に、あまり注目していなかった商品や取引先が、実は高い利益率を生んでいることもあります。

大切なのは、感覚ではなく数字で判断することです。

値決めを見直す際には、いきなり全商品を値上げする必要はありません。まずは主要な商品、主要な取引先、売上構成比の高い案件から、実際の利益率を確認します。そして、利益が低いものについては、価格改定、提供範囲の見直し、追加料金の設定、取引条件の変更などを検討します。

価格に反映できていないコストを放置すれば、会社の利益率は下がり続けます。逆に、コストを正しく把握し、必要な利益を価格に反映できれば、同じ売上でも会社に残るお金は大きく変わります。

値決めは、単なる価格表の見直しではありません。
会社の利益構造を見直し、儲かる事業へ転換するための経営改善そのものなのです。

値決めに関するお悩みに結コンサルティングの専門家がお応えします!お気軽にご相談ください。

2. 安売りが会社の利益体質を悪化させる理由

利益率が低い会社ほど、受注を増やすために安売りを選びがちです。

「少し値引きすれば受注できる」
「競合より安くすれば選ばれる」
「今は利益が薄くても、取引が続けば何とかなる」
「仕事を切らすよりは、安くても受けたほうがよい」

このように考えて、価格を下げて受注することは、一見すると会社を守る判断のように見えます。確かに、短期的には売上を確保できるかもしれません。工場の稼働を維持できたり、社員の仕事を確保できたり、取引先との関係をつなぎ止められたりする場合もあります。

しかし、安売りを続ける会社は、少しずつ利益体質を悪化させていきます。なぜなら、安売りは単に価格を下げる行為ではなく、会社が本来受け取るべき利益を自ら手放す行為だからです。

売上が増えても、利益が残らなければ会社は強くなりません。利益が残らなければ、社員の給与を上げることも、新しい人材を採用することも、設備を更新することも、広告宣伝に投資することもできません。つまり、安売りは目の前の受注を得る代わりに、将来の成長に必要な資金を削っているのです。

特に中小企業の場合、大企業のように大量販売で利益を補うことは簡単ではありません。経営資源には限りがあります。人も、時間も、設備も、資金も限られています。その限られた資源を、利益率の低い仕事に使い続ければ、会社全体の収益力は下がっていきます。

安売りで受注を増やしても、利益が残らなければ、会社は忙しくなるだけで豊かにはなりません。

経営者が考えるべきなのは、「いかに安く売るか」ではありません。「どの価格で売れば、顧客に価値を届けながら会社にも適正な利益が残るか」です。値下げによって受注を取りにいく前に、その値下げが年間利益にどれだけ影響するのか、現場の負担に見合うのか、将来の投資余力を削っていないかを確認する必要があります。

安売りは、始めるのは簡単ですが、やめるのは非常に難しいものです。一度下げた価格を元に戻すには、顧客への説明、提供価値の見直し、取引条件の再設計が必要になります。だからこそ、安易な値引きを習慣にしてはいけません。

2.1. 値下げは一瞬で利益を削る

値下げの怖さは、売上よりも先に利益を削るところにあります。

たとえば、見積金額から数%値引きするだけであれば、「このくらいなら問題ない」と感じるかもしれません。しかし、その数%は売上から引かれるのではなく、ほとんどの場合、利益から直接削られます。

仮に、営業利益率が5%の会社が、受注を取るために5%値引きしたとします。単純に考えれば、その案件の営業利益は大きく減少します。場合によっては、ほとんど利益が残らない、あるいは実質的に赤字に近い仕事になる可能性もあります。

値下げは、売上を少し減らす行為ではなく、利益を大きく失う行為です。

特に、もともとの利益率が低い会社ほど、値下げの影響は深刻です。高い利益率を確保できている会社であれば、多少の値引きにも耐えられる場合があります。しかし、利益率が低い会社では、わずかな値引きが利益を消し去ってしまいます。

にもかかわらず、営業現場では値引きが軽く扱われがちです。

「あと少し下げれば決まりそうです」
「競合が安いので、この金額で出したいです」
「今回だけ値引きすれば、次につながります」
「長い付き合いなので、少し協力したいです」

このような言葉で値引きが行われている場合、経営者は注意しなければなりません。その値引きが、本当に次の利益につながっているのか。今回だけと言いながら、次回以降も同じ価格を求められていないか。値引きによって、現場や管理部門にどれだけ負担がかかるのか。

これらを確認しないまま値下げを認めていると、会社の利益率は少しずつ下がっていきます。

経営者は、値引きの承認を「営業判断」ではなく「利益を削る経営判断」として扱う必要があります。

まず取り組むべきことは、値引きのルールを明確にすることです。営業担当者の判断だけで値引きできる範囲を決める。一定以上の値引きには社長や責任者の承認を必要にする。値引き理由を記録する。値引き後の利益額を確認する。こうした仕組みを整えるだけでも、不要な値下げは減らせます。

また、値引きをする場合には、代わりに何を調整するのかをセットで考えるべきです。価格だけを下げるのではなく、納期、対応範囲、仕様、支払い条件、付帯サービスなどを見直すのです。

たとえば、値引きをする代わりに追加対応を別料金にする。短納期対応は追加費用をもらう。細かな仕様変更は有料にする。支払いサイトを短くする。納品条件を整理する。このように、価格だけを一方的に下げない工夫が必要です。

値下げを完全に否定する必要はありません。戦略的に行う値引きもあります。しかし、利益への影響を見ずに行う値引きは、会社の体力を奪います。

値引きをする前に、必ず確認してください。

・この値引き後に利益はいくら残るのか。
・その利益は、現場の手間に見合っているのか。
・次回以降も同じ価格を求められないか。
・値引きする代わりに、提供範囲を調整できないか。
・会社全体の利益率にどれだけ影響するのか。

値引きは一瞬でできます。しかし、失った利益を取り戻すには、多くの売上と労力が必要です。だからこそ、経営者は値引きに対して慎重でなければならないのです。

2.2. 安さで選ばれる会社は、さらに安い会社と比べられる

安売りを続ける会社が陥るもう一つの問題は、「安い会社」として認識されてしまうことです。

顧客が自社を選ぶ理由が価格だけになると、次に比較されるのは、より安い競合です。つまり、安さで選ばれた会社は、常にさらに安い会社と比べられる立場になります。

これは非常に厳しい競争です。なぜなら、価格だけの比較では、自社の技術力、対応力、品質、提案力、納期対応、長年の実績といった価値が伝わりにくくなるからです。

安さを前面に出して受注すると、顧客は自社を「価値で選ぶ相手」ではなく「価格で比べる相手」として見るようになります。

一度この位置づけになってしまうと、価格交渉はどんどん厳しくなります。

「他社はもっと安い」
「この金額でできないなら別に頼む」
「前回と同じ価格でお願いしたい」
「今回は予算がないので協力してほしい」

このような言葉に振り回されるようになります。そして、そのたびに値引きで対応していれば、会社の利益率はさらに下がっていきます。

本来、会社が目指すべきなのは、安さで選ばれることではありません。顧客から「多少高くても、この会社に頼みたい」と思われる状態です。そのためには、自社が提供している価値を明確にし、それを顧客に伝える必要があります。

たとえば、品質が安定していること。トラブル時の対応が早いこと。納期を守る力があること。専門的な提案ができること。顧客の手間を減らしていること。長期的に安心して任せられること。こうした要素は、価格に反映されるべき価値です。

しかし、多くの会社は自社の価値を十分に言語化できていません。その結果、顧客に伝わる判断材料が価格だけになってしまいます。

価格競争から抜け出すには、「自社は何に対してお金をいただいているのか」を経営者自身が言葉にする必要があります。

ここで重要なのは、単に「うちは品質が良いです」と言うだけでは不十分だということです。顧客にとって、その品質がどのようなメリットを生んでいるのかまで伝える必要があります。

・不良率が下がる。
・手戻りが減る。
・納期遅れのリスクが減る。
・担当者の管理工数が減る。
・クレーム対応の負担が減る。
・長期的なコスト削減につながる。

このように、顧客が得ているメリットを具体的に示すことで、価格以外の価値が伝わります。

また、既存顧客に対しても、自社が提供している価値を改めて整理して伝えることが大切です。長年取引が続いている顧客ほど、こちらの対応を「当たり前」と感じていることがあります。しかし、その当たり前の中には、本来価格に反映すべき価値が含まれています。

経営者が今すぐ行うべきことは、自社が顧客に提供している価値を棚卸しすることです。

・なぜ顧客は自社に依頼しているのか。
・他社ではなく自社が選ばれている理由は何か。
・顧客のどのような手間や不安を減らしているのか。
・納期、品質、対応力、提案力のどこに強みがあるのか。
・その価値は価格に反映されているのか。

これらを整理することで、安売りに頼らない営業の土台ができます。

安さで選ばれる会社は、価格を下げ続けなければなりません。価値で選ばれる会社は、適正な価格で取引を続けることができます。どちらの会社を目指すのかは、経営者の値決めに対する考え方で決まります。

2.3. 忙しいのに儲からない会社になる

安売りの最も大きな弊害は、会社を「忙しいのに儲からない状態」にしてしまうことです。

価格を下げれば、受注は取りやすくなるかもしれません。仕事量も増えるかもしれません。売上も一時的に伸びるかもしれません。しかし、利益率が低い仕事が増えれば、現場の負担ばかりが増え、会社に残る利益は少なくなります。

社長から見ると、社員は忙しそうに働いている。工場や現場も動いている。請求書の金額も増えている。ところが、月末になると資金繰りが苦しい。決算を見ても利益が少ない。社員に十分な還元ができない。設備投資の資金も残らない。

この状態は、中小企業にとって非常に危険です。

忙しさは、必ずしも儲かっている証拠ではありません。

むしろ、利益率の低い仕事で忙しくなっている会社ほど、経営の自由度を失っていきます。人手が足りないのに採用できない。機械が古くなっているのに更新できない。社員に賞与を十分に出せない。社長が現場対応に追われ、将来の戦略を考える時間がない。

このような悪循環に入ると、会社はどんどん疲弊していきます。

特に問題なのは、利益率の低い仕事が現場の時間を奪うことです。人も設備も時間も限られている中で、薄利の仕事に多くの工数を使ってしまうと、本来取り組むべき高付加価値の仕事に対応できなくなります。

つまり、安売りは利益を削るだけでなく、会社の成長機会まで奪っているのです。

経営者は「忙しいかどうか」ではなく、「その忙しさが利益につながっているか」を見なければなりません。

まず確認すべきなのは、現場の稼働と利益の関係です。どの仕事にどれだけ時間を使っているのか。その仕事はいくら利益を生んでいるのか。手間のかかる割に利益が薄い案件はないか。長年続けているだけで、実は会社の負担になっている取引はないか。

これらを見える化すると、今まで「大事な取引先」だと思っていた相手が、実は会社の利益を圧迫していることもあります。反対に、売上規模は小さくても、利益率が高く、現場負担も少ない優良な仕事が見えてくることもあります。

経営者が取るべき行動は明確です。

・利益率の低い仕事を洗い出す。
・値引きが常態化している取引を確認する。
・手間がかかるのに価格へ反映できていない案件を把握する。
・価格改定できる取引先から順番に交渉する。
・どうしても利益が出ない仕事は、提供範囲や条件を見直す。

すべての取引を一気に変える必要はありません。しかし、何もしなければ、忙しいのに儲からない状態は続きます。

また、安売りから抜け出すには、社内の評価基準も見直す必要があります。営業担当者を売上だけで評価していると、利益率の低い受注でも「売上を作った」と評価されてしまいます。これでは、会社全体として利益を重視する文化は育ちません。

売上だけでなく、粗利益額、営業利益率、値引き率、継続的な収益性などを評価に入れることで、社員の意識も変わります。

会社は、ただ仕事を増やすために存在しているのではありません。顧客に価値を提供し、その対価として適正な利益を得て、社員と会社の未来に投資するために存在しています。

忙しいだけの経営から、利益が残る経営へ。
その第一歩は、安売りを当たり前にしないことです。
そして、社長自身が「この価格で本当に会社は豊かになるのか」と問い直すことなのです。

3. 利益率を高める値決めに必要な視点

利益率を高めるために、まず経営者が見直すべきことは「いくらで売るか」という表面的な価格ではありません。
本当に見直すべきなのは、何を基準に価格を決めているのかという考え方です。

利益率が低い会社では、価格を決めるときに「競合はいくらか」「取引先はいくらなら買ってくれるか」「これまでいくらで売ってきたか」を基準にしていることが多くあります。もちろん、競合価格や顧客の予算感を把握することは必要です。しかし、それだけで価格を決めてしまうと、自社に必要な利益が残るかどうかが後回しになります。

値決めは、単なる販売価格の設定ではありません。会社が将来に向けて成長していくための利益を確保し、社員に還元し、設備投資や採用に資金を回すための経営判断です。

にもかかわらず、値決めを営業担当者任せにしたり、過去の価格表をそのまま使い続けたり、取引先から言われた金額を受け入れたりしていれば、会社の利益率はなかなか改善しません。

利益率を高める値決めとは、「売れる価格」を探すことではなく、「会社に必要な利益が残り、顧客も納得する価格」を設計することです。

そのためには、まず自社がどれだけの利益を必要としているのかを明確にする必要があります。そして、その利益を確保するために、どの商品・サービスを、誰に、どのような価値として提供するのかを考えなければなりません。

安く売ることは簡単です。値引きをすれば、受注できる可能性は高まります。しかし、それでは利益率は下がり、現場の負担は増え、将来への投資余力は失われていきます。

一方で、ただ価格を上げるだけでは顧客は納得しません。価格に見合う価値が伝わっていなければ、「高い」と判断されて終わってしまいます。だからこそ、必要利益から逆算する視点と、顧客が感じる価値を価格に反映する視点の両方が必要なのです。

利益率を高める値決めは、数字と価値の両面から考える必要があります。数字だけを見れば、値上げしたくなります。しかし、価値を伝えられなければ顧客は離れます。反対に、価値を高めても価格に反映しなければ、会社には利益が残りません。

経営者が今すぐ取り組むべきことは、現在の価格が本当に適正なのかを確認することです。
・今の価格で必要な利益は残っているのか。
・提供している価値は価格に反映されているのか。
・値引きが当たり前になっていないか。
・利益率の低い仕事に会社の人材や時間を使いすぎていないか。

これらを確認するだけでも、値決めの問題点は見えてきます。

3.1. 必要利益から逆算して価格を決める

利益率を高める値決めで最初に行うべきことは、必要利益から逆算することです。

多くの会社では、価格を決める際に「原価に少し利益を乗せる」という考え方をしています。もちろん、原価を把握することは大切です。しかし、原価に少し上乗せするだけでは、会社として本当に必要な利益を確保できるとは限りません。

会社には、毎月必ず必要な利益があります。借入金の返済、設備投資、人材採用、社員の昇給、賞与、広告宣伝費、将来の新規事業への投資など、会社を継続・成長させるために必要なお金があります。

これらを考えずに価格を決めてしまうと、売上はあっても利益が残らない状態になります。

価格は、原価から積み上げるだけでなく、会社に必要な利益から逆算して考える必要があります。

たとえば、年間でいくら営業利益を残したいのかを決めます。次に、その利益を得るために必要な粗利益はいくらかを考えます。そして、現在の商品・サービスごとの販売数量や取引件数をもとに、どの価格で販売すれば必要な利益が残るのかを計算します。

ここで重要なのは、「何となくこれくらい利益が出ればよい」と考えないことです。社長自身が、目標とする営業利益額、営業利益率、必要な粗利益額を具体的な数字で持つことです。

営業利益率12%を目指すのであれば、そのために必要な売上構成、粗利益率、固定費、価格設定を見直さなければなりません。売上だけを追っていても、利益率は自然には上がりません。

必要利益を決めないまま値決めをすることは、目的地を決めずに経営しているのと同じです。

経営者がまず確認すべきことは、次の項目です。

・今期、会社としていくら営業利益を残したいのか。
・そのために必要な粗利益はいくらか。
・現在の商品・サービス別の利益率はどうなっているのか。
・どの取引先が利益を生み、どの取引先が利益を圧迫しているのか。
・今の価格で、借入返済や設備投資に必要な資金は残るのか。

これらを確認すると、今の価格が本当に適正かどうかが見えてきます。

また、必要利益から逆算すると、すべての商品・サービスを同じように値上げする必要はないことも分かります。利益率の高い商品を伸ばす。利益率の低い商品は価格を見直す。手間のかかる案件には追加料金を設定する。赤字に近い取引は条件を変更する。このように、具体的な打ち手が見えてきます。

値決めにおいて大切なのは、感覚ではなく数字で判断することです。

「この価格なら売れそうだ」
「これ以上高いと断られそうだ」
「昔からこの価格だから」

こうした感覚だけで価格を決めている限り、利益率は改善しません。経営者は、営業現場の感覚を尊重しながらも、最終的には会社に必要な利益が残るかどうかを基準に判断する必要があります。

必要利益から逆算することで、値決めは単なる勘や経験ではなく、経営戦略になります。価格を見直すことは、会社の利益構造を見直すことです。利益構造が変われば、資金繰りが改善し、社員への還元ができ、将来への投資も可能になります。

今すぐ、主要商品・主要サービス・主要取引先について、現状の利益率を確認してください。そして、会社として必要な利益に対して、今の価格が足りているのかを見てください。そこに、値決め改善の出発点があります。

3.2. 顧客が感じる価値を価格に反映する

利益率を高めるためには、必要利益から逆算するだけでは不十分です。もう一つ重要なのが、顧客が感じる価値を価格に反映することです。

価格は、会社側の都合だけで決めるものではありません。会社が必要な利益を確保することは当然ですが、顧客がその価格に納得しなければ取引は続きません。

では、顧客は何に対してお金を払っているのでしょうか。

単に商品そのものや作業そのものにお金を払っているとは限りません。品質の安定、納期の確実さ、対応の早さ、提案力、専門性、安心感、トラブル時の対応力、管理のしやすさ、担当者の負担軽減など、顧客が感じている価値はさまざまです。

顧客は、商品そのものだけでなく、自社と取引することで得られる安心や成果にもお金を払っています。

たとえば、同じ製品を納品しているように見えても、納期遅れが少ない会社と、納期が不安定な会社では、顧客が感じる価値は違います。品質不良が少ない会社と、手戻りが多い会社でも価値は違います。トラブル時にすぐ対応してくれる会社と、連絡が遅い会社でも価値は違います。

この違いを価格に反映できているかどうかが、利益率を大きく左右します。

多くの中小企業は、実は顧客に大きな価値を提供しています。細かな要望に対応している。急な依頼にも応えている。長年の経験でミスを防いでいる。顧客の業務を深く理解している。担当者が楽になるように先回りして対応している。

しかし、その価値を言語化できていないため、価格に反映できていません。

顧客から見れば、長く付き合っている会社の対応は「当たり前」になりがちです。こちらも「いつものことだから」と思ってしまい、追加対応や細かな調整を無料で行っていることがあります。その結果、手間は増えているのに価格は据え置きとなり、利益率が下がっていくのです。

価値を価格に反映できない会社は、良い仕事をしているほど利益を失っていきます。

だからこそ、経営者は自社の提供価値を棚卸しする必要があります。

・顧客はなぜ自社を選んでいるのか。
・自社がいることで、顧客のどんな手間が減っているのか。
・どの対応が顧客の安心につながっているのか。
・他社では簡単に真似できない強みは何か。
・本来なら有料にすべき追加対応を無料で行っていないか。

これらを整理することで、価格に反映すべき価値が見えてきます。

また、価格改定を行う際には、単に「コストが上がったので値上げします」と伝えるだけでは不十分です。もちろん、原材料費や人件費の上昇を説明することは必要です。しかし、それだけでは顧客にとっては負担増の話にしか聞こえません。

大切なのは、自社が提供している価値を具体的に伝えることです。

・品質を維持するためにどのような管理をしているのか。
・納期を守るためにどのような体制を整えているのか。
・顧客の業務負担を減らすためにどのような対応をしているのか。
・今後も安定した供給やサービスを続けるために、なぜ価格改定が必要なのか。

このように説明できれば、価格改定は単なる値上げではなく、取引を長く安定させるための提案になります。

また、すべての顧客に同じ価値を提供する必要はありません。高い価値を求める顧客には、それに見合った価格で提供する。最低限の仕様でよい顧客には、対応範囲を絞った価格にする。このように、提供価値と価格の組み合わせを見直すことも重要です。

顧客が感じる価値を価格に反映するとは、無理に高く売ることではありません。自社が提供している価値を正しく整理し、その価値に見合った価格を設定することです。

経営者は、ぜひ一度、主要顧客ごとに「自社が提供している価値」を書き出してください。そして、その価値が現在の価格に含まれているかを確認してください。そこに、利益率を高める余地があります。

3.3. 高付加価値化なくして高単価化は実現しない

利益率を高めるために「値上げをしたい」と考える経営者は多いです。しかし、ただ価格を上げるだけでは、顧客は納得しません。価格が上がる理由が伝わらなければ、「高くなった」「他社に頼もう」と判断される可能性があります。

高単価化を実現するためには、その前提として高付加価値化が必要です。

価格を上げる前に、顧客が高いお金を払う理由をつくらなければなりません。

高付加価値化とは、単に高級な商品を作ることではありません。顧客にとっての成果、安心、効率、信頼、時間短縮、リスク低減などを高めることです。顧客が「この会社に頼むと助かる」「多少高くても安心できる」「結果的に得をする」と感じる状態をつくることです。

たとえば、製造業であれば、不良率を下げる品質管理、短納期対応、設計段階からの提案、在庫管理のサポート、トラブル時の迅速対応などが付加価値になります。サービス業であれば、専門的な助言、業務改善の提案、顧客ごとの個別対応、継続的なフォロー、成果の見える化などが付加価値になります。

大切なのは、自社が売っているものを「商品」や「作業」として見るのではなく、顧客にどのような良い変化をもたらしているのかを見ることです。

・顧客の手間を減らしている。
・顧客の失敗リスクを下げている。
・顧客の売上向上に貢献している。
・顧客の担当者の不安を減らしている。
・顧客の業務スピードを上げている。

このような価値が明確になれば、価格を上げる理由も明確になります。

高単価化とは、単に高く売ることではなく、「高くても選ばれる理由」を経営者が意図的につくることです。

中小企業が高付加価値化に取り組む際、まず大きな投資をする必要はありません。いきなり新商品を開発したり、大規模な設備投資をしたりしなくても、できることはあります。

たとえば、見積書の出し方を変える。提案内容を分かりやすくする。納品後のフォローを仕組みにする。顧客が判断しやすい資料を用意する。追加対応の範囲を明確にする。品質管理の取り組みを見える化する。顧客の声を集めて営業資料に反映する。

こうした小さな改善でも、顧客が感じる価値は変わります。

また、高付加価値化には「やらないことを決める」ことも含まれます。すべての顧客に何でも対応していると、現場は疲弊し、利益率は下がります。自社が最も価値を発揮できる顧客や分野に集中することで、提案力も品質も高まり、価格も適正化しやすくなります。

利益率が高い会社は、ただ高い価格をつけているわけではありません。自社が選ばれる理由を明確にし、その価値が伝わる形で商品・サービスを設計しています。そして、その価値に見合った価格を提示しています。

経営者が今すぐ行うべきことは、自社の商品・サービスを次の視点で見直すことです。

・顧客は自社に何を期待しているのか。
・自社に頼むことで、顧客はどんなメリットを得ているのか。
・競合と比べて、どこに違いがあるのか。
・その違いは顧客に伝わっているのか。
・その価値は価格に反映されているのか。

この問いに答えられれば、高単価化への道筋が見えてきます。

高付加価値化とは、特別な会社だけができることではありません。むしろ、中小企業だからこそ、顧客に寄り添い、細かな対応を磨き、専門性を活かし、独自の価値をつくることができます。

安く売ることで選ばれる会社から、価値で選ばれる会社へ。
その転換ができれば、利益率は大きく変わります。

値決めは、価格表を変えるだけの作業ではありません。必要利益から逆算し、顧客が感じる価値を整理し、高付加価値化によって高単価化を実現する経営改革です。

社長自身が値決めを経営の中心に置いたとき、会社は「売上はあるのに利益が残らない」状態から抜け出し、利益を残せる強い経営体質へと変わっていくのです。

4. 下請け体質の会社が陥りやすい値決めの落とし穴

中小企業の中には、長年にわたって特定の元請け企業や大口取引先から仕事を受け続けている会社があります。安定した受注があることは、経営にとって大きな安心材料です。営業に大きな労力をかけなくても仕事が入り、一定の売上を見込めるため、会社を継続するうえで重要な取引であることは間違いありません。

しかし、その安定した取引の裏側で、利益率が少しずつ悪化している会社も少なくありません。

「長年の付き合いだから断れない」
「元請けから提示された金額だから仕方がない」
「値上げをお願いすると、次から仕事が来なくなるかもしれない」
「多少利益が薄くても、仕事があるだけありがたい」

このように考え、元請けの条件をそのまま受け入れていると、会社はいつの間にか自社で値決めできない体質になってしまいます。

下請け体質の会社が最も注意すべきことは、売上の安定と引き換えに、利益の主導権を失っていないかという点です。仕事はある。現場も動いている。売上も立っている。しかし、利益が残らない。資金繰りが楽にならない。社員に十分な還元ができない。設備投資に踏み切れない。

このような状態が続いているなら、単に仕事量の問題ではなく、値決めの主導権を相手に握られている可能性があります。

下請け体質から抜け出す第一歩は、「受注できるかどうか」だけでなく、「その仕事で会社に利益が残るか」を社長自身が判断することです。

もちろん、すべての取引で自社の希望価格をそのまま通せるわけではありません。元請けとの力関係、業界構造、競合状況、継続取引の重要性など、簡単には変えられない事情があります。

それでも、何も確認せず、何も交渉せず、提示された価格をそのまま受け入れ続けることは、会社の将来を危うくします。原材料費、人件費、外注費、物流費、電気代などが上がっているにもかかわらず、販売価格だけが据え置かれていれば、利益率が下がるのは当然です。

経営者がまず行うべきことは、主要取引先ごとの利益率を確認することです。売上金額が大きい取引先ほど、会社にとって重要に見えます。しかし、売上が大きくても利益率が低ければ、現場の負担ばかりが増え、会社に残るお金は少なくなります。

特に、長年続いている取引ほど注意が必要です。昔は利益が出ていた価格でも、現在のコスト構造では利益が薄くなっている可能性があります。だからこそ、過去の延長ではなく、今の原価、今の人件費、今の間接費、今の必要利益をもとに、価格を見直す必要があります。

下請けから脱却するとは、元請けとの取引をやめるという意味ではありません。自社の価値を正しく把握し、必要な利益を守りながら、対等な取引関係に近づけていくことです。そのためには、数字を持ち、根拠を持ち、自社の強みを言葉にして、価格交渉に臨む姿勢が必要なのです。

4.1. 元請けの言い値で受注してしまう

下請け体質の会社が陥りやすい最大の問題は、元請けの提示価格をそのまま受け入れてしまうことです。

「今回はこの金額でお願いしたい」
「予算が決まっているので、この価格で対応してほしい」
「他社ならこの金額でできると言っている」
「次の案件もあるので、今回は協力してほしい」

このように言われたとき、会社として必要な利益を確認しないまま受注していないでしょうか。

元請けから提示される価格は、必ずしも自社の利益を考えて決められているわけではありません。元請けにも予算があり、利益目標があり、コスト削減の要求があります。そのため、提示価格は元請け側の都合を反映した金額であることが多いのです。

もちろん、元請けを責める必要はありません。取引において、相手が自社に有利な条件を求めるのは当然です。問題は、こちら側が自社の必要利益を把握しないまま、その条件を受け入れてしまうことです。

元請けの言い値で受注することは、自社の利益を相手に決めてもらっているのと同じです。

特に注意すべきなのは、売上規模の大きい案件です。金額が大きい案件ほど、受注できれば安心感があります。しかし、利益率が低ければ、会社に残る利益はわずかです。むしろ、現場の人員、設備、時間を多く使うため、他の高利益案件を受ける余力を失ってしまうこともあります。

また、元請けの言い値を受け入れ続けると、相手にとって「この会社はこの価格で対応してくれる」という認識が定着します。一度その基準ができると、次回以降の価格交渉はさらに難しくなります。

「前回と同じ価格でお願いします」
「以前はこの金額で対応してくれましたよね」
「今回も協力してください」

このような流れになれば、価格を上げる理由を説明するハードルは高くなります。だからこそ、最初の段階で自社の採算ラインを持つことが重要です。

元請けから価格を提示されたとき、社長が最初に確認すべきことは「受注できるか」ではなく「この価格で利益が残るか」です。

具体的には、案件ごとに最低限の採算ラインを決めておく必要があります。

・材料費はいくらか。
・外注費はいくらか。
・作業時間はどの程度か。
・必要な人員は何名か。
・管理や調整にかかる手間はどれくらいか。
・納期や品質条件に追加負担はないか。
・最終的に残る粗利益はいくらか。
・会社として必要な営業利益に貢献しているか。

これらを確認したうえで、受けるべき仕事かどうかを判断するのです。

また、どうしても提示価格で受けなければならない場合でも、条件を見直す余地はあります。たとえば、納期を調整する、対応範囲を限定する、追加作業は別料金にする、仕様変更は都度見積もりにする、支払い条件を見直すなど、価格以外の条件で利益を守る方法があります。

大切なのは、元請けの提示をそのまま受け入れるのではなく、自社としての判断基準を持つことです。

すべての案件で強気に交渉する必要はありません。しかし、会社の利益を守る基準を持たずに受注し続ければ、いつまでも利益率は改善しません。

経営者は、まず主要な元請け案件について、実際の利益率を確認してください。そして、元請け別、案件別に「受けるべき仕事」「条件変更が必要な仕事」「今後見直すべき仕事」を分類してください。

これを行うだけでも、受注に対する判断は大きく変わります。

4.2. 価格交渉を避けることで利益を失っている

下請け企業の経営者が、価格交渉を避けてしまう理由はよく分かります。

「値上げを言い出したら仕事を切られるかもしれない」
「他社に乗り換えられるかもしれない」
「長年の関係が悪くなるかもしれない」
「相手の担当者に嫌がられるかもしれない」

このような不安から、価格交渉を先送りしてしまう会社は少なくありません。

しかし、価格交渉を避けることは、結果として自社の利益を失うことにつながります。原材料費や人件費が上がっているのに価格を据え置けば、その上昇分はすべて自社が負担することになります。つまり、交渉しないという選択は、上がったコストを自社で飲み込むという判断でもあるのです。

価格交渉をしないことは、現状維持ではありません。コスト上昇局面では、利益率を下げる判断です。

特に近年は、材料費、エネルギー費、人件費、物流費など、さまざまなコストが上昇しています。以前と同じ価格で受注していても、実際の利益は大きく減っている可能性があります。

経営者が注意すべきなのは、「まだ赤字ではないから大丈夫」と考えてしまうことです。赤字ではなくても、利益が薄くなっていれば、会社の体力は確実に落ちています。社員の給与を上げられない。採用ができない。設備更新を先送りする。社長が現場に入り続ける。このような状況は、すでに経営の余力が失われているサインです。

価格交渉は、相手と争うために行うものではありません。今後も安定して品質や納期を守り、取引を継続するために必要な話し合いです。

価格交渉は「お願い」ではなく、取引を継続するための経営上必要な提案です。

交渉を成功させるためには、感情ではなく数字と根拠を持つことが重要です。

「厳しいので上げてください」だけでは、相手も判断しにくくなります。そうではなく、材料費がどの程度上がっているのか、人件費がどの程度増えているのか、物流費や外注費がどう変化しているのか、現行価格ではどの部分が負担になっているのかを整理して伝える必要があります。

また、価格改定を一方的に通そうとするのではなく、複数の選択肢を提示することも有効です。

・現在の品質・納期・対応範囲を維持する場合は、価格改定が必要である。
・価格を据え置く場合は、対応範囲や納期条件を見直す必要がある。
・追加作業や仕様変更については、別途費用を設定する。
・一定数量以上の発注であれば、条件を調整できる。

このように、相手が判断しやすい形で提案することで、価格交渉は単なる値上げ要求ではなく、取引条件の再設計になります。

経営者がまず行うべきことは、交渉すべき取引先を明確にすることです。すべての取引先に一斉に価格改定を申し入れる必要はありません。まずは、利益率が低い取引先、コスト上昇の影響が大きい案件、手間がかかるのに価格に反映できていない仕事から着手すべきです。

次に、交渉の準備をします。

・現在の価格はいくらか。
・原価はどれだけ上がっているか。
・人件費や外注費はどれだけ増えているか。
・現行価格での利益率はどの程度か。
・改定後にどの程度の利益率を確保したいか。
・相手にとって自社と取引を続けるメリットは何か。

これらを整理しておくことで、交渉時の説得力が変わります。

価格交渉を避け続ければ、会社の利益は静かに減っていきます。一方で、根拠を持って丁寧に交渉すれば、すべてではなくても、改善できる取引は必ず出てきます。

重要なのは、社長自身が「価格交渉は避けるもの」ではなく、「会社と社員を守るために行うもの」と捉え直すことです。

4.3. 自社の強みを言語化できていない

下請け体質から抜け出せない会社の多くは、自社の強みを十分に言語化できていません。

・技術力がある。
・品質が安定している。
・納期を守る。
・急な依頼にも対応している。
・長年の取引実績がある。
・現場の対応力が高い。
・顧客の細かな要望に応えている。

このような強みを持っている会社は多くあります。しかし、それを顧客に分かる言葉で伝えられていないため、価格交渉の場面で「なぜこの価格なのか」を説明できません。

その結果、顧客から見える判断材料が価格だけになってしまいます。どれだけ良い仕事をしていても、その価値が伝わっていなければ、顧客は他社の見積もりと金額だけで比較します。

自社の強みを言語化できない会社は、価格で比べられやすくなります。

特に下請け企業の場合、元請けからの依頼に応えることが当たり前になり、自社が提供している価値を自分たちでも見落としていることがあります。

たとえば、納期を守るために現場が調整している。品質を安定させるためにベテラン社員が確認している。急な仕様変更にも対応している。担当者の手間を減らすために、先回りして資料を整えている。こうした対応は、顧客にとって大きな価値です。

しかし、それを「いつもの対応」として無料で続けていれば、価値は価格に反映されません。

強みを言葉にできなければ、どれだけ価値ある仕事をしていても、価格に反映することはできません。

経営者が行うべきことは、自社の強みを顧客目線で整理することです。

「当社は技術力があります」だけでは不十分です。
・その技術力によって、顧客の不良率が下がるのか。
・手戻りが減るのか。
・納期遅れのリスクが減るのか。
・担当者の管理工数が減るのか。
・長期的なコスト削減につながるのか。

このように、強みを顧客のメリットに置き換える必要があります。

また、強みを言語化する際には、現場の声を聞くことも重要です。社長だけが考えるのではなく、営業担当者、製造現場、事務スタッフ、顧客対応をしている社員から話を聞くことで、自社が顧客に提供している価値が見えてきます。

「お客様からよく感謝されることは何か」
「他社では対応しにくいが、自社では対応できていることは何か」
「手間がかかっているのに、価格に含まれていないことは何か」
「顧客の担当者が助かっていることは何か」

これらを洗い出すことで、自社の価値を説明する材料が増えていきます。

さらに、強みは営業資料や見積書にも反映すべきです。単に金額だけを提示する見積書では、顧客は価格で比較します。そうではなく、提供範囲、品質管理、納期対応、追加対応の条件、顧客にとってのメリットを明記することで、価格の根拠が伝わりやすくなります。

価格交渉の場面でも、自社の強みを言葉にして伝えられれば、会話の内容は変わります。

「値上げさせてください」ではなく、
「今後もこの品質と納期を維持するために、この価格改定が必要です」
「この対応範囲を継続するには、追加費用を設定する必要があります」
「当社が担っている調整業務を明確にし、価格に反映させたいと考えています」

このように伝えることで、価格改定の理由が明確になります。

下請け体質から抜け出すには、まず自社が何で選ばれているのかを知ることです。そして、その価値を社内で共有し、顧客に伝え、価格に反映することです。

元請けに選ばれるだけの会社から、自社の価値を示して対等に交渉できる会社へ。
その転換は、社長が自社の強みを言語化するところから始まります。

5. 利益率を上げる会社が実践している値決めの仕組み

利益率を上げている会社は、値決めを感覚で行っていません。

「このくらいなら売れそうだ」
「競合がこの価格だから合わせよう」
「長年この価格でやっているから変えにくい」
「営業担当者がこの金額で出したいと言っている」

このような曖昧な理由で価格を決めている会社は、売上が増えても利益が残りにくくなります。反対に、利益率を高めている会社は、値決めを会社の利益構造をつくる重要な経営判断として扱っています。

値決めとは、単に販売価格を決める作業ではありません。
・どの商品・サービスで利益を出すのか。
・どの取引先に力を入れるのか。
・どの仕事は条件を見直すのか。
・どの価値に対して対価をいただくのか。
・どの利益を将来の投資に回すのか。

これらを決める、経営そのものです。

利益率が低い会社ほど、値決めが現場任せ、営業任せ、過去の慣習任せになっています。その結果、利益が薄い仕事を受け続け、値引きが常態化し、手間のかかる仕事ほど価格に反映されず、会社全体の収益力が下がっていきます。

一方で、利益率を上げている会社は、商品・サービスごとの利益率を把握し、提供価値を見直し、社長が価格方針を明確にしています。感覚ではなく数字で判断し、単なる値上げではなく価値の再設計として価格を見直しているのです。

利益率を上げたいなら、値決めを営業現場の判断に任せるのではなく、社長自身が会社の未来を左右する経営課題として取り組む必要があります。

もちろん、価格を見直すことに不安を感じる経営者は多いでしょう。

「顧客が離れてしまうのではないか」
「競合に取られるのではないか」
「営業担当者が交渉しにくくなるのではないか」
「長年の取引関係が悪くなるのではないか」

このような不安は当然です。しかし、だからといって価格を据え置き続ければ、上昇するコストをすべて自社で負担することになります。利益が残らなければ、社員への還元も、設備投資も、採用も、新しい挑戦もできません。

価格を見直すことは、顧客から多く取ることではありません。自社が提供している価値を正しく整理し、必要な利益を確保し、長く安定して事業を続けるための取り組みです。

値決めの仕組みを持つ会社は、場当たり的な値引きに振り回されません。利益率の低い仕事を放置しません。自社の価値を説明できないまま価格交渉に臨むこともありません。

利益率を上げるためには、まず現在の価格が本当に適正かを見える化し、次に顧客に提供している価値を再設計し、最後に社長が値決めの主導権を握ることが重要です。

5.1. 商品・サービスごとの利益率を見える化する

利益率を上げる会社が最初に行っていることは、商品・サービスごとの利益率を見える化することです。

多くの会社では、全体の売上や全体の利益は把握しています。しかし、商品別、サービス別、取引先別、案件別に見ると、どれが本当に利益を生んでいるのか分かっていないことがあります。

「この取引先は売上が大きいから重要だ」
「この商品はよく売れているから儲かっているはずだ」
「昔から続いている仕事だから問題ない」
「現場が忙しいから、利益も出ているだろう」

このような感覚で判断していると、実際の利益構造を見誤ります。

売上が大きい取引先でも、値引きが多く、手間がかかり、支払い条件が悪ければ、会社に残る利益は少ないかもしれません。よく売れている商品でも、原材料費や外注費、人件費、配送費、管理工数を含めると、思ったほど利益が出ていない場合もあります。

売上が大きいことと、利益を生んでいることは別問題です。

だからこそ、まず商品・サービスごとの利益率を見える化する必要があります。

確認すべき項目は、販売価格だけではありません。材料費、外注費、作業時間、人件費、物流費、営業工数、事務処理、追加対応、クレーム対応、管理コストなどを可能な範囲で整理します。

もちろん、最初から完璧な原価計算を目指す必要はありません。中小企業にとって大切なのは、まず大まかでもよいので「利益が出ている仕事」と「利益を圧迫している仕事」を分けることです。

利益率を見える化しないまま値決めをしている会社は、どの仕事で儲かり、どの仕事で損をしているのか分からないまま走り続けている状態です。

経営者が今すぐ行うべきことは、主要な商品・サービス・取引先を一覧にすることです。そして、それぞれについて次の点を確認します。

・売上はいくらか。
・粗利益はいくらか。
・営業や現場の手間はどれくらいか。
・値引きはどの程度発生しているか。
・追加対応を無料で行っていないか。
・現場の負担に対して利益は見合っているか。
・今後も伸ばすべき仕事なのか。

これを整理すると、利益率改善の優先順位が見えてきます。

たとえば、利益率が高く、顧客満足度も高い商品は、さらに販売を強化すべきです。売上は大きいが利益率が低い取引先は、価格改定や条件変更を検討すべきです。手間がかかる割に利益が少ないサービスは、提供範囲や料金体系を見直す必要があります。

また、商品・サービス別の利益率を見える化すると、営業活動の方向性も変わります。売上だけを追うのではなく、利益が残る商品を重点的に提案する。利益率の高い顧客層に営業を集中する。値引きしなくても選ばれる強みを磨く。このような動きができるようになります。

利益率を見える化することは、単なる管理業務ではありません。会社のどこに利益の源泉があり、どこに改善余地があるのかを明らかにする経営判断の土台です。

・値決めを見直す前に、まず数字を見る。
・売上ではなく、利益を見る。
・全体ではなく、商品別・取引先別に見る。

この習慣を持つだけで、会社の値決めは大きく変わります。

5.2. 値上げではなく「価値の再設計」として考える

価格を見直すというと、多くの経営者は「値上げ」という言葉を思い浮かべます。そして、値上げと聞くと、顧客に嫌がられる、取引が減る、競合に奪われる、といった不安が出てきます。

しかし、利益率を上げる会社は、価格改定を単なる値上げとは考えていません。 価格の見直しを、顧客に提供する価値を再設計する機会として捉えています。

値上げという言葉だけで考えると、「同じ内容のまま価格だけを上げる」という印象になります。これでは顧客も納得しにくくなります。大切なのは、価格を上げる前に、何に対して対価をいただくのかを整理することです。

たとえば、これまで無料で対応していた追加作業は、本当に無料のままでよいのでしょうか。急な納期対応、仕様変更、細かな調整、納品後のフォロー、資料作成、立ち会い対応、何度も発生する見積修正などは、すべて人件費と時間を使っています。

これらを曖昧なまま続けていると、良い対応をするほど利益率が下がってしまいます。

顧客のために行っている対応であっても、会社の人と時間を使っている以上、価値として整理し、必要に応じて価格に反映する必要があります。

価値の再設計とは、顧客にとって何が本当に必要で、どこまでを基本料金に含め、どこからを追加料金にするのかを決めることです。

・標準サービスの範囲を明確にする。
・短納期対応は追加料金にする。
・仕様変更は一定回数を超えたら別途見積もりにする。
・訪問対応とオンライン対応で料金を分ける。
・保守やフォローを別メニューにする。
・高品質・短納期・個別対応を求める顧客には上位プランを用意する。

このように整理すれば、単なる値上げではなく、顧客が選べる価格体系になります。

価格改定で大切なのは、「高くします」と伝えることではなく、「提供する価値と価格の関係を明確にする」ことです。

顧客にとっても、何が料金に含まれていて、何が追加費用になるのかが分かれば、納得しやすくなります。反対に、何でも無料で対応していると、顧客はその価値を当たり前だと感じるようになります。そして、いざ価格を上げようとすると、「なぜ今さら費用がかかるのか」と受け取られてしまいます。

だからこそ、早い段階で価値と価格の関係を見直すことが必要です。

また、価値の再設計では、顧客ごとに提供内容を分ける視点も重要です。すべての顧客に同じサービスを同じ価格で提供する必要はありません。手厚い対応を求める顧客には、それに見合った価格を提示する。価格を重視する顧客には、対応範囲を絞ったプランを提示する。このように選択肢を用意することで、無理な値引きを減らせます。

経営者が今すぐ取り組むべきことは、現在の商品・サービスに含まれている対応内容を書き出すことです。

・基本料金に含まれている作業は何か。
・本来は追加料金にすべき作業は何か。
・顧客が特に価値を感じている対応は何か。
・無料対応が常態化しているものはないか。
・上位メニューとして提供できる価値はないか。
・逆に、簡易版として提供できるメニューはないか。

これらを整理すると、価格改定の方向性が見えてきます。

値上げは、顧客に負担を求めるだけの話ではありません。会社が提供している価値を明確にし、顧客にとって分かりやすい形に整える取り組みです。

価格を上げることに不安を感じる経営者ほど、まず価値を再設計してください。
・何を提供しているのか。
・何が顧客に喜ばれているのか。
・何に手間とコストがかかっているのか。
・どこから追加料金にすべきなのか。

これを明確にすれば、価格改定は単なるお願いではなく、根拠ある提案になります。

5.3. 社長が値決めの主導権を握る

利益率を上げる会社に共通しているのは、社長が値決めの主導権を握っていることです。

もちろん、営業担当者や現場担当者の意見は重要です。顧客の反応、競合状況、現場の負担、納期条件など、現場でなければ分からない情報はたくさんあります。しかし、最終的な価格方針を営業や現場に任せきりにしてはいけません。

なぜなら、値決めは会社全体の利益を左右する経営判断だからです。

営業担当者は、どうしても受注を優先しがちです。目の前の案件を取りたい。顧客との関係を悪くしたくない。競合に負けたくない。その気持ちは自然なものです。しかし、その結果として値引きが増え、利益率の低い仕事が増えれば、会社全体の収益力は下がります。

現場も同じです。長年の付き合いだから対応する。頼まれたから追加作業をする。お客様が困っているから無料で対応する。この姿勢自体は素晴らしいものです。しかし、それが価格に反映されなければ、良い対応をするほど会社の利益は減っていきます。

営業や現場の努力を会社の利益につなげるためには、社長が価格方針を明確にする必要があります。

社長が決めるべきことは、単に「値上げするかどうか」ではありません。

・どの利益率を下回る仕事は受けないのか。
・どの範囲まで営業担当者が値引きできるのか。
・どの条件なら価格交渉を行うのか。
・どの追加対応は有料にするのか。
・どの商品・サービスを高付加価値化するのか。
・どの顧客層に注力するのか。

これらを明確にしなければ、現場はその場その場で判断するしかありません。その結果、担当者ごとに価格が違う、顧客ごとに対応範囲が曖昧、値引きの理由が記録されていない、利益率の低い案件が放置される、という状態になります。

社長が値決めの主導権を握らなければ、会社の利益は営業現場や取引先の都合に左右され続けます。

経営者が今すぐ取り組むべきことは、値決めのルールを社内で明文化することです。

たとえば、値引きには承認ルールを設ける。一定以上の値引きは社長または責任者の承認を必要にする。値引き理由を記録する。値引き後の利益率を確認する。追加対応の料金表を作る。価格改定の対象取引先をリスト化する。最低利益率を設定する。

こうした仕組みを作ることで、値決めは個人の感覚ではなく、会社のルールになります。

また、社長は価格方針を社員に伝える必要があります。
「これからは売上だけでなく利益を重視する」
「値引きで受注するのではなく、価値を伝えて受注する」
「無料対応を当たり前にしない」
「利益率の低い仕事は条件を見直す」
「会社に利益を残し、社員に還元できる体質をつくる」

このように方針を示すことで、社員の行動も変わります。

特に営業評価については、売上だけで判断しないことが重要です。売上金額だけを評価すれば、利益率の低い受注でも評価されてしまいます。これでは、会社全体として利益を重視する文化は育ちません。

粗利益額、利益率、値引き率、継続取引の収益性、顧客への価値提案などを評価に入れることで、営業担当者も値決めを意識するようになります。

社長が値決めの主導権を握ることは、社員を縛ることではありません。むしろ、社員が迷わず判断できる基準をつくることです。営業担当者が無理な値引きをしなくても済むようにする。現場が無料対応を抱え込まないようにする。顧客に対して根拠ある価格を提示できるようにする。

そのために、社長が先頭に立って値決めを見直す必要があります。

値決めを変えれば、会社の利益構造は変わります。利益構造が変われば、社員への還元、設備投資、採用、将来への挑戦が可能になります。

利益率を上げる会社は、偶然儲かっているわけではありません。商品・サービスごとの利益率を見える化し、価値を再設計し、社長が値決めの主導権を握っています。

まとめ

利益率が低い会社は、商品力や営業力がないから利益が残らないのではありません。多くの場合、値決めを経営の重要課題として扱えていないことが、利益率を下げる大きな原因になっています。

・相場に合わせる。
・元請けの言い値で受ける。
・売上を優先して値引きする。
・追加対応を無料で続ける。
・営業担当者の判断だけで価格を決める。

このような状態が続けば、どれだけ売上を増やしても、会社に残る利益は増えません。むしろ、現場は忙しくなり、社員は疲弊し、資金繰りは苦しくなり、将来への投資もできなくなります。

経営者が今すぐ行うべきことは、現在の価格を一度疑うことです。商品・サービスごとの利益率を確認し、どの取引が会社に利益を残しているのか、どの仕事が利益を圧迫しているのかを見える化する必要があります。

そのうえで、自社が提供している価値を整理し、価格に反映できていない対応を洗い出すことです。品質、納期、対応力、提案力、安心感、追加対応など、顧客にとって価値あるものを曖昧なまま無料で提供し続けてはいけません。

値決めを見直すことは、単なる値上げではなく、会社に利益を残し、社員と事業の未来を守るための経営改革です。

まずは主要な商品、主要な取引先、利益率の低い案件から確認してください。すべてを一度に変える必要はありません。利益が残っていない仕事を把握し、価格、提供範囲、取引条件を一つずつ見直すことが大切です。

・値決めを現場任せにせず、社長自身が主導権を握る。
・売上を追う経営から、利益を残す経営へ転換する。
その一歩を踏み出した会社から、低利益率の体質を抜け出し、強い経営基盤をつくることができるのです。

値決めを現場任せにする会社から、社長が価格戦略を持つ会社へ。
この転換こそが、低利益率から抜け出し、利益が残る強い会社へ変わるための第一歩なのです。

あなたは最高経営責任者として、どのように利益を残していかれますでしょうか?