今週のコラム 社員が動かない本当の理由は、会社の未来が見えていないからだ!

「いや~、うちの社員は本当に自分で考えて動かないんです。何度も説明しているつもりなのですが、結局は私が指示を出さないと前に進みません。幹部にも、もっと主体的に動いてほしいのですが、どうすれば社員が自ら考えて行動する会社になるのでしょうか?」―これは、当社のセミナーに参加された製造業の経営者から寄せられたご相談です。
確かに、「社員が動かない」「幹部が育たない」「いつまでも社長に判断が集中する」と悩まれている中小企業経営者は多いものです。社長としては、何度も方針を伝え、目標も示し、任せているつもりなのに、なぜか社員が思うように動かない。このような状況が続くと、「うちの社員は意識が低いのではないか」「もっと危機感を持ってほしい」と感じてしまうのも無理はありません。
しかし、本当に社員のやる気や能力だけが原因なのでしょうか?
社員が動かない会社には、ある共通点があります。それは、会社の未来が社員に見えていないということです。社長の頭の中には、5年後、10年後の会社の姿がある。どの事業を伸ばし、どの顧客に選ばれ、どのように利益を出していくのか。ところが、それが社員に伝わる形になっていなければ、社員は何を優先し、どのように判断し、どこに向かって動けばよいのかが分かりません。
「社員が動かない」―これは、単なる人材の問題ではありません。社長の頭の中にある未来が見える化されていないことで起こる、経営の問題です。本コラムでは、社員が動かない本当の理由を紐解き、社長の未来構想を「事業未来図」として見える化する重要性について解説します。
はじめに
「社員が自分で考えて動かない」
「何度言っても、結局は社長である自分が判断しないと前に進まない」
「幹部にも社員にも、もっと主体的に動いてほしい」
このような悩みを抱えている中小企業経営者は少なくありません。
・しかし、本当に社員のやる気がないのでしょうか。
・本当に社員の能力が足りないのでしょうか。
実は、社員が動かない会社の多くは、社員側だけに問題があるのではありません。会社の未来が社員に見えていないために、社員が判断できず、動けない状態になっているのです。
社長の頭の中には、5年後、10年後の会社の姿があるはずです。
・どの事業を伸ばすのか。
・どの顧客に選ばれる会社になるのか。
・どの商品・サービスで高付加価値化し、どのように利益を出していくのか。
・どんな社員が育ち、どんな組織に変えていきたいのか。
ところが、その未来が社長の頭の中だけにある限り、社員には伝わりません。
売上目標や利益目標を示しても、その数字の先にある会社の姿が見えなければ、社員にとっては単なるノルマになります。
社員は、会社がどこに向かうのかが分からなければ、自分の仕事の意味を理解できません。何を優先し、何を判断基準にし、どこまで自分で決めてよいのかが分からなければ、社長の指示を待つしかないのです。
つまり、社員は「動かない」のではありません。会社の未来と判断基準が共有されていないため、動けないのです。
社長がすべてを判断し、社長が現場を抱え込み、社長が最後に何とかする会社では、社員はいつまでも指示待ちになります。そのままでは、売上が伸びても、人が増えても、社長の忙しさはなくなりません。
社員が自ら考え、対話し、行動する会社に変えるためには、社長の頭の中にある会社の未来を「事業未来図」として見える化することが必要です。
事業未来図は、単なる経営計画書ではありません。社長の夢、会社のあるべき姿、儲かるビジネスモデル、自走する組織づくりをつなげる未来の設計図です。
社員を責める前に、まず社長自身が会社の未来を描き直すことです。そして、その未来を社員に見える形にすることです。会社の未来が見えたとき、社員は自分の役割を理解し、自ら動き始めます。
1. 社員は本当に動かないのか
「うちの社員は、本当に自分で考えて動かない」
このように感じている中小企業経営者は少なくありません。朝礼で何度も話している。会議でも方針を伝えている。個別にも指示を出している。それでも、社員は自分から動かない。幹部も自分で判断しない。結局、最後は社長である自分が動かなければ仕事が前に進まない。
このような状態が続けば、社長が苛立つのも当然です。
「もっと自分で考えてほしい」
「言われる前に動いてほしい」
「危機感を持って仕事をしてほしい」
「幹部なら、社長の代わりに判断してほしい」
そう思うのは、経営者として自然なことです。
しかし、ここで一度立ち止まって考えていただきたいのです。本当に社員は動かないのでしょうか。それとも、社員が動ける状態になっていないだけなのでしょうか。
多くの会社では、社員が動かない原因を社員側に求めます。やる気がない。能力が足りない。責任感がない。危機感がない。主体性がない。もちろん、社員一人ひとりの姿勢に課題がある場合もあります。
しかし、それだけで片づけてしまうと、会社は変わりません。なぜなら、社員が動かない背景には、社長の経営のあり方、組織のつくり方、会社の未来の示し方が深く関係しているからです。
社員が動かない会社には、社員が動けない理由があります。
会社がどこに向かっているのか分からない。何を優先すべきか分からない。どこまで自分で判断してよいのか分からない。社長が何を大切にしているのか分からない。5年後、10年後にどんな会社を目指しているのか分からない。
この状態で「自分で考えて動け」と言われても、社員は動けません。動けば叱られるかもしれない。判断を間違えれば責任を問われるかもしれない。社長の考えと違えばやり直しになるかもしれない。そう感じれば、社員は自ら動くよりも、社長の指示を待つ方が安全だと考えるようになります。
つまり、社員が動かないように見えている会社の多くは、社員が動かないのではなく、社員が動けない構造になっているのです。
1.1. 社員の問題にしていないか
社員が思うように動かないとき、多くの社長はこう考えます。
「最近の社員は主体性がない」
「うちの幹部は考えが浅い」
「何度言っても伝わらない」
「結局、自分がやった方が早い」
確かに、社長から見ればそう見える場面は多いでしょう。特に、創業社長や2代目社長は、会社のために誰よりも考え、誰よりも動いてきた人です。お客様のこと、資金繰りのこと、社員の給料のこと、設備投資のこと、将来のこと。日々、会社全体を背負って判断しています。
だからこそ、社員の動きが遅く見える。危機感が薄く見える。考えが甘く見える。もっと本気で取り組んでほしいと感じるのです。
しかし、社長と社員では、見えている景色がまったく違います。
社長は会社全体を見ています。売上、利益、資金繰り、人材、取引先、金融機関、将来の投資、事業承継まで考えています。一方で、社員が見えているのは、自分の担当業務や目の前の仕事が中心です。
この見えている範囲の違いを理解しないまま、「なぜ分からないんだ」「なぜ動かないんだ」と言っても、社員は変わりません。
社員に会社全体の未来が見えていなければ、社員は自分の持ち場の範囲でしか考えられません。
たとえば、社長は「これからは高付加価値の商品に切り替えなければならない」と考えている。しかし、現場にはその理由が伝わっていない。すると営業担当者は、これまで通り安さを武器に売ろうとします。製造現場は、今まで通りのやり方を守ろうとします。管理部門は、新しい仕組みづくりよりも、目の前の処理を優先します。
社長から見れば、「なぜ変わらないんだ」と感じるでしょう。しかし社員からすれば、「なぜ変えなければならないのか」が分かっていないのです。
また、社長は「もっと利益率を意識しろ」と言います。しかし、社員には利益率を上げる理由や、その先にある会社の未来が伝わっていない。すると、社員にとって利益率は、自分の仕事とは少し離れた数字に見えてしまいます。
売上目標も同じです。数字だけを示されても、社員は本気になれません。その数字を達成することで会社がどう変わるのか。社員の働き方がどう変わるのか。お客様への提供価値がどう高まるのか。そこまで見えて初めて、社員は目標を自分ごととして受け止めることができます。
にもかかわらず、社員が動かない原因を「意識が低い」「能力がない」と決めつけてしまえば、社長は同じ指示を繰り返すだけになります。
「もっと考えろ」
「もっと動け」
「もっと危機感を持て」
しかし、この言葉だけでは社員は変わりません。なぜなら、社員に必要なのは叱咤激励だけではなく、会社の未来と判断基準だからです。
社員を変えたいなら、まず社長が「社員に会社の未来を見せているか」を見直すことです。
社員の問題にする前に、社長自身に問いかけてみてください。
・自社は、5年後、10年後にどんな会社を目指しているのか?
・その未来は、社員に分かる言葉で伝わっているのか?
・社員は、自分の仕事がその未来にどうつながるのか理解しているのか?
・社員は、何を優先して判断すべきか分かっているのか?
・社長の頭の中だけで、会社の未来が止まっていないか?
この問いに明確に答えられないのであれば、社員が動かない原因は、社員だけにあるとは言えません。
1.2. 動かないのではなく動けない
社員が動かないと感じたとき、社長は「なぜ自分で動かないのか」と考えます。しかし、社員の立場から見れば、「どう動けばよいのか分からない」という状態であることが少なくありません。
たとえば、社長が「新規開拓を強化しろ」と指示したとします。ところが、どの顧客層を狙うのか、どの商品を提案するのか、自社の強みをどう伝えるのか、価格はどこまで守るのか、既存顧客とのバランスをどう取るのかが明確でなければ、営業社員は動けません。
結果として、これまで通りの営業を続ける。既存顧客を回る。値引きで受注を取りに行く。社長から見れば「言ったのに動かない」と見えます。しかし、社員からすれば、具体的な判断基準がないため、今までのやり方から抜け出せないのです。
製造現場でも同じです。社長が「品質を高めろ」「生産性を上げろ」と言っても、どの品質を重視するのか、どの工程を見直すのか、何をやめるのか、どこまで投資してよいのかが見えていなければ、現場は動けません。
管理部門でも同じです。「仕組み化しろ」「効率化しろ」と言われても、何のために、どこから、どの水準まで変えるのかが分からなければ、日常業務をこなすだけになります。
つまり、社員はサボっているのではありません。多くの場合、判断するための材料が足りないのです。
社員が動くには、会社の方向性、判断基準、優先順位が必要です。
方向性がなければ、どこに向かえばよいのか分かりません。判断基準がなければ、自分で決めることができません。優先順位がなければ、目の前の仕事に追われるだけになります。
これらがないまま「主体的に動け」と言われても、社員は困ります。むしろ、勝手に動いて失敗するくらいなら、社長の指示を待った方がよいと考えるようになります。
これは社員にとっても不幸なことです。本当は成長したい。本当は任されたい。本当は役に立ちたい。そう思っている社員であっても、会社の未来が見えず、判断基準も共有されていなければ、力を発揮できません。
社長が「社員が動かない」と感じているとき、社員は心の中でこう思っているかもしれません。
「何を優先すればよいのか分からない」
「社長の考えが見えない」
「勝手に判断してよいのか分からない」
「以前、自分で動いたら叱られた」
「どうせ最後は社長が決める」
このような状態で、社員が主体的に動くはずがありません。
では、どうすればよいのでしょうか。
まず必要なのは、社長の頭の中にある会社の未来を外に出すことです。社長だけが分かっている未来を、社員にも見える形にすることです。
・どんな会社を目指すのか。
・どんな顧客に選ばれるのか。
・どの事業で稼ぐのか。
・何を強みにして勝つのか。
・どんな組織に変えていくのか。
・社員にはどんな役割を期待するのか。
これらを明確にすることで、社員は初めて自分の仕事の意味を理解できます。
社員は、会社の未来が見えたときに、自分の役割を理解し、自ら動き始めます。
社長がやるべきことは、社員に「もっと動け」と言い続けることではありません。社員が動けるように、会社の未来と判断基準を示すことです。
社員が動けない状態を放置したまま、社員に主体性だけを求めても、組織は変わりません。まず社長が会社の未来を描き、それを社員に見える形にすることです。
それが、社員が動く会社へ変わる第一歩です。
1.3. 指示待ちは社長依存の結果である
社員が指示待ちになる会社には、必ずと言っていいほど共通点があります。
それは、社長に判断が集中していることです。
・案件の進め方も社長が決める。
・顧客対応も社長が決める。
・トラブル処理も社長が決める。
・採用も教育も評価も社長が決める。
・新しい取り組みも、最後は社長の一声で決まる。
この状態では、社員が自分で判断する余地はありません。最初は社員も考えようとします。しかし、何を提案しても社長が最後に決める。社長の考えと違えば却下される。失敗すれば叱られる。そうした経験が積み重なると、社員は自分で考えることをやめていきます。
そして、こうなります。
「社長に確認してから動こう」
「余計なことはしない方がいい」
「指示されたことだけやっておこう」
「どうせ最後は社長が決める」
社長から見れば、これは指示待ち社員に見えます。しかし実際には、社長依存の組織が指示待ち社員を生み出しているのです。
指示待ちは、社員の性格ではなく、会社の仕組みがつくり出している場合が多いのです。
もちろん、社長がこれまで会社を守ってきたからこそ、判断が社長に集中しているのだと思います。創業期や成長初期には、社長が前面に立って判断し、動き、売上をつくることが必要です。社長の頑張りがなければ、会社はここまで来られなかったはずです。
しかし、会社を次の段階へ進めるには、いつまでも社長一人の判断に頼る経営から抜け出さなければなりません。
社長が現場を抱え続ければ、社員は育ちません。社長がすべてを判断し続ければ、幹部は育ちません。社長が最後に何とかしてしまえば、組織は自走しません。
結果として、社長はいつまでも忙しいままです。
・売上が増えても忙しい。
・社員が増えても忙しい。
・幹部を置いても忙しい。
・会議を増やしても忙しい。
・仕組みを入れても忙しい。
なぜなら、判断の中心が社長のままだからです。
この状態を変えるためには、社員にいきなり「任せる」だけでは不十分です。ただ権限を渡すだけでもうまくいきません。会社の未来が共有されていないまま任せても、社員は何を基準に判断すればよいのか分からないからです。
必要なのは、社長の頭の中にある会社の未来を見える化し、判断の軸を社員と共有することです。
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事業未来図は、単なる経営計画書ではありません。社長の夢、会社のあるべき姿、儲かるビジネスモデル、自走する組織づくりをつなげた未来の設計図です。
事業未来図があれば、社員は会社の進む方向を理解できます。どの顧客を大切にするのか、どの事業に力を入れるのか、どのような価値を提供するのか、どのような組織を目指すのかが見えてきます。
その結果、社員は少しずつ自分で考えられるようになります。
「この判断は、会社の未来に合っているか」
「この行動は、目指す顧客に合っているか」
「この仕事は、儲かる仕組みづくりにつながっているか」
「自分の役割は、未来図のどこにつながっているか」
このような問いを社員自身が持てるようになると、会社は変わり始めます。
社員を指示待ちから変えるには、社長が指示を増やすのではなく、会社の未来と判断基準を見える化することです。
社長がやるべきことは、社員の代わりに動き続けることではありません。社員が動ける状態をつくることです。
そのためには、まず社長自身が会社の未来を明確にすることです。そして、その未来を社員に見える形にすることです。さらに、その未来に向けて、誰が何を担い、何を優先し、どのように判断するのかを共有することです。
社員が動かないと感じたときこそ、社長が見直すべきなのは社員の姿勢だけではありません。会社の未来が見えているか。判断基準が共有されているか。社長に判断が集中していないか。社員が動ける状態をつくっているか。
ここを見直すことが、社員が自ら考え、対話し、行動する会社への第一歩になるのです。
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2. 社長依存が会社を止める
中小企業では、社長の力で会社が成長してきたケースが少なくありません。
・社長が営業の最前線に立つ。
・社長が顧客との関係をつくる。
・社長が資金繰りを考える。
・社長が採用を決める。
・社長がトラブルを解決する。
・社長が最後の判断を下す。
こうして社長が先頭に立ち、汗をかき、会社を引っ張ってきたからこそ、今の会社があります。特に創業期や事業承継直後は、社長が誰よりも動かなければ会社は前に進みません。社長の覚悟と行動力が、会社を支えてきたことは間違いありません。
しかし、ここで注意しなければならないことがあります。
それは、社長の頑張りで会社を回し続けている限り、会社はいつまでも社長依存から抜け出せないということです。
社長が頑張れば頑張るほど、社員は社長の判断を待つようになります。社長が何でも決めてしまえば、社員は自分で考える必要がなくなります。社長が最後に何とかしてしまえば、社員は自分で責任を持ってやり切る経験を積めません。
その結果、社長はこう感じるようになります。
「なぜ、うちの社員は自分で考えないのか」
「なぜ、幹部は判断しないのか」
「なぜ、いつまでも自分にばかり仕事が集まるのか」
しかし、厳しい言い方をすれば、その状態をつくっているのは社長自身かもしれません。
社員が動かないのは、社員の意識が低いからだけではありません。社長がすべてを抱え込み、すべてを判断し、すべてを最終決定しているから、社員が動けなくなっているのです。
2.1. 社長が頑張るほど社員は動かない
多くの中小企業の社長は、とにかく働き者です。朝早くから会社に来て、営業に出て、現場を見て、社員の相談に乗り、顧客対応をし、資金繰りを確認し、夜遅くまで次の手を考えています。
その姿勢は立派です。社員も、社長が本気で会社を守ろうとしていることは分かっています。
しかし、社長が何でも自分でやってしまう会社では、社員は育ちません。
たとえば、営業で大事な商談があると、最終的には社長が同席する。価格交渉になると社長が判断する。クレームが起きると社長が対応する。新しい取り組みを始めるときも、細かい進め方まで社長が決める。
これを続けていると、社員はいつの間にかこう考えるようになります。
「大事なことは社長が決める」
「難しい話は社長に任せればよい」
「失敗しそうな案件は社長に確認しよう」
「自分が判断するより、社長の指示を待った方が安全だ」
社長から見れば、社員が頼りないように見えるかもしれません。しかし、社員からすれば、会社の中に「最後は社長が決める」という暗黙のルールができているのです。
社長が頑張りすぎる会社では、社員が自分で考える余白がなくなります。
社員に任せたつもりでも、途中で社長が口を出す。社員が考えた案に対して、最後は社長の考えに修正する。社員が動く前に、社長が先回りして答えを出す。こうしたことが続くと、社員は自分で考えることをやめていきます。
もちろん、社長には社長の言い分があります。
「任せたら失敗する」
「社員に任せるより自分がやった方が早い」
「お客様に迷惑をかけるわけにはいかない」
「今はそんな余裕がない」
その気持ちはよく分かります。中小企業にとって、一つの失敗が資金繰りや信用に影響することもあります。だから社長が口を出したくなるのは当然です。
しかし、社長が毎回先回りして答えを出していれば、社員は失敗から学ぶ機会も、判断する経験も、責任を持ってやり切る経験も積めません。
その結果、いつまでも社長が忙しい会社のままになります。
・社長が忙しいから社員に任せたい。
・しかし、社員が育っていないから任せられない。
・任せられないから社長がやる。
・社長がやるから社員が育たない。
この悪循環に陥っている会社は少なくありません。
この状態を抜け出すためには、社長が「自分が頑張れば何とかなる」という考え方を手放す必要があります。
社長が本当にやるべきことは、社員の代わりに動くことではなく、社員が動ける会社をつくることです。
そのためには、社員に丸投げするのではなく、会社の未来、判断基準、優先順位を共有し、社員が考えられる状態をつくる必要があります。
社長がすべてを抱え込む経営から、社員が自ら考え、組織で成果を出す経営へ変わること。これが、会社を次の段階へ進めるために必要なのです。
2.2. 判断が社長に集中している
社長依存の会社で最も大きな問題は、判断が社長に集中していることです。
社員は日々、社長に確認します。
「この見積もり金額でよいですか」
「このお客様にはどう対応しますか」
「このクレームはどう処理しますか」
「この仕入れは進めてよいですか」
「この人を採用してよいですか」
「この設備投資はどうしますか」
一つひとつは小さな確認かもしれません。しかし、それが毎日積み重なると、社長の時間は判断業務で埋め尽くされます。
社長は、朝から晩まで判断し続けることになります。すると、本来考えるべき会社の未来、新しい事業、利益率向上、組織づくり、人材育成、後継者育成といった重要なテーマに時間を使えなくなります。
社長が日々の判断に追われている会社では、未来をつくる時間が失われます。
さらに問題なのは、判断が社長に集中すると、社員が判断力を持てなくなることです。
判断力は、判断する経験を通じてしか育ちません。自分で考え、決め、実行し、その結果を振り返る。この積み重ねによって、社員は判断できる人材に育っていきます。
ところが、すべてを社長が決めていれば、社員は判断する経験を積めません。経験を積めないから判断できない。判断できないから社長に確認する。確認されるから社長が決める。この循環が続きます。
そして、社長はこう嘆きます。
「うちには判断できる幹部がいない」
「任せられる人材が育たない」
「結局、自分が決めないと前に進まない」
しかし、幹部が育たない原因は、幹部本人だけにあるとは限りません。判断を任せる環境、判断基準を共有する仕組み、失敗から学ばせる余白がなければ、幹部は育ちません。
では、なぜ判断が社長に集中してしまうのでしょうか。
大きな理由は、会社の未来と判断基準が共有されていないからです。
社員は、会社がどこに向かっているのかが分からない。何を大切にすべきかが分からない。どの顧客を優先すべきかが分からない。価格を守るべきなのか、売上を取りに行くべきなのかが分からない。将来のために何を変えるべきかが分からない。
この状態では、社員は判断できません。
たとえば、社長は「利益率を高めたい」と考えている。しかし営業社員には、なぜ利益率を高める必要があるのか、どの商品で利益を取るのか、どの顧客との取引を見直すのかが見えていない。すると、社員はこれまで通り、値引きで売上を取りに行ってしまいます。
社長から見れば、「なぜ利益率を考えないんだ」と感じます。しかし社員からすれば、判断基準が共有されていないのです。
また、社長は「高付加価値化したい」と考えている。しかし現場には、何を高付加価値とするのか、どの技術を伸ばすのか、どの市場を狙うのかが伝わっていない。すると現場は、従来のやり方を続けます。
これも、社員が悪いのではありません。判断するための前提が見えていないのです。
社員に判断を任せたいなら、まず社長が会社の未来と判断基準を明確に示すことです。
そのために必要なのが、事業未来図です。
事業未来図は、社長の頭の中にある未来を見える形にしたものです。どの事業で稼ぐのか。どの顧客に選ばれるのか。どんな商品・サービスを伸ばすのか。どのような組織をつくるのか。何を優先し、何をやめるのか。
これらが見えるようになると、社員は判断しやすくなります。
「この判断は、会社の未来に合っているか」
「この案件は、目指す顧客像に合っているか」
「この仕事は、高付加価値化につながっているか」
「この行動は、自走する組織づくりに必要か」
こうした判断が、社員自身でできるようになっていきます。
もちろん、すぐにすべてを任せられるわけではありません。最初は小さな判断からでよいのです。見積もりの考え方、顧客対応の方針、業務改善の優先順位、部門内の役割分担など、範囲を決めて任せていく。
そのときに必要なのは、社長の頭の中にある判断基準を言葉にし、図にし、共有することです。社長の感覚だけで判断している限り、社員は真似できません。社長の判断軸が見えるようになれば、社員は少しずつ考えられるようになります。
社長が判断を手放すことは、不安かもしれません。しかし、社長がすべてを判断し続ける方が、会社にとっては大きなリスクです。
・社長がいなければ決まらない。
・社長がいなければ進まない。
・社長がいなければ売れない。
・社長がいなければトラブルが解決しない。
この状態を放置すれば、会社はいつまでも社長の器以上には成長できません。
2.3. 社長が成長のボトルネックになる
社長依存の会社では、社長自身が会社の成長を止めるボトルネックになります。
社長が一番優秀で、社長が一番経験があり、社長が一番会社を分かっている。だから社長が判断する。これは、ある意味では自然なことです。
しかし、会社が一定規模を超えると、このやり方には限界が来ます。
社長一人が見られる範囲には限界があります。社長一人が判断できる件数にも限界があります。社長一人が営業し、現場を見て、人を育て、資金繰りを考え、未来を描くことにも限界があります。
にもかかわらず、すべてが社長に集まっていると、会社の成長スピードは社長一人の処理能力に縛られます。
会社の成長が止まっている原因は、市場や社員ではなく、社長に判断が集中している経営の形にあるかもしれません。
たとえば、売上1億円までは社長の営業力で伸ばせた。3億円までは社長の突破力で何とかできた。しかし、さらに上を目指そうとすると、社長一人では限界が来ます。
・新規事業を考えたいのに、日々の顧客対応に追われる。
・幹部を育てたいのに、目の前のトラブル処理に時間を取られる。
・利益率を改善したいのに、見積もりや価格交渉に社長が入り続ける。
・組織づくりをしたいのに、現場の細かい相談に追われる。
これでは、会社の未来をつくる時間がありません。
社長の時間は、本来、未来のために使うべきです。どの事業を伸ばすのか。どの市場を狙うのか。どの顧客に選ばれる会社になるのか。どのように高付加価値化するのか。どのような幹部を育てるのか。どのような組織に変えるのか。
しかし、社長が日々の判断に追われていれば、未来を描く時間が失われます。その結果、会社は今の延長線上でしか動けなくなります。
・今の顧客に売る。
・今の商品を売る。
・今のやり方を続ける。
・今の社員の頑張りに頼る。
これでは、原材料高騰、人手不足、価格競争、市場縮小といった環境変化に対応できません。今の延長線上に、10年後も稼ぎ続ける会社があるとは限らないのです。
だからこそ、社長は自分の役割を変えなければなりません。
・現場を回す社長から、未来をつくる社長へ。
・すべてを判断する社長から、社員が判断できる組織をつくる社長へ。
・自分で稼ぐ社長から、組織で稼ぐ仕組みをつくる社長へ。
この転換ができるかどうかが、会社の次の成長を左右します。
社長が成長のボトルネックから抜け出すには、会社の未来を事業未来図として見える化し、組織で動く経営に変えることです。
まず、社長が自分の時間の使い方を見直してください。
・今週、社長はどれだけ未来のことを考えたでしょうか。
・どれだけ社員に判断基準を伝えたでしょうか。
・どれだけ幹部に任せる場面をつくったでしょうか。
・どれだけ会社の10年後について言葉にしたでしょうか。
もし、日々の判断と現場対応だけで一週間が終わっているなら、会社は社長依存から抜け出せていません。
もちろん、今日から急にすべてを社員に任せる必要はありません。むしろ、それは危険です。まずは社長の頭の中にある未来を整理することです。次に、それを事業未来図として見える化することです。そして、未来図をもとに、幹部や社員と対話することです。
「当社はどこに向かうのか」
「どの事業で稼ぐのか」
「どの顧客に選ばれるのか」
「何を強みにするのか」
「そのために、各部門は何を変えるのか」
この対話が始まると、社員の動きは変わります。
社長が一人で抱え込む会社から、社員が会社の未来を理解し、自分の役割を考える会社へ。社長がすべて判断する会社から、判断基準を共有し、組織で動く会社へ。
その第一歩は、社長が自分自身にこう問いかけることです。
「自分は、社員の代わりに動いているのか。それとも、社員が動ける会社をつくっているのか」
この問いに正面から向き合うことが、社長依存を抜け出し、会社を次の成長へ進める出発点になるのです。
以下のように、社長が「伝えているつもり」から抜け出し、会社の未来を見える化する必要性が伝わる流れでまとめるとよいです。
3. 会社の未来が見えていない
社員が動かない会社では、社長がよくこう言います。
「会社の方針は何度も伝えている」
「売上目標も利益目標も示している」
「会議でも朝礼でも、同じことを言い続けている」
「だから、社員は分かっているはずだ」
確かに、社長は伝えているのかもしれません。
しかし、ここで考えなければならないのは、社長が「伝えたかどうか」ではありません。
社員に「伝わっているかどうか」です。
社長の頭の中には、会社の未来があるはずです。5年後、10年後にどんな会社にしたいのか。どの事業を伸ばしたいのか。どの顧客に選ばれたいのか。どの商品・サービスで高付加価値化したいのか。どのように利益を出し、どんな組織をつくりたいのか。
しかし、それが社長の頭の中だけにある限り、社員には見えません。
社員に見えていない未来に向かって、「主体的に動け」「自分で考えろ」「もっと危機感を持て」と言っても、社員はどう動けばよいのか分かりません。会社がどこに向かっているのかが分からなければ、自分の仕事の意味も、自分の判断の基準も分からないからです。
たとえば、社長は「これからは利益率を高めなければならない」と考えている。しかし、社員にはその背景が伝わっていない。なぜ利益率を高める必要があるのか。どの顧客との取引を変えるのか。どの商品・サービスで利益を出すのか。安売りからどう抜け出すのか。その先にどんな会社の姿があるのか。
これが見えていなければ、社員はこれまで通りの仕事を続けます。営業は値引きで受注を取りに行き、現場は従来のやり方を守り、管理部門は目の前の処理をこなします。
社長から見れば、「なぜ変わらないんだ」と感じるでしょう。
しかし、社員からすれば、「なぜ変わる必要があるのか」が見えていないのです。
社員が動かない本当の理由は、会社の未来が社員に見える形になっていないことにあります。
3.1. 社長は伝えたつもりでいる
中小企業の社長は、日々多くのことを考えています。売上、利益、資金繰り、人材、設備投資、取引先、金融機関、後継者、将来の事業展開。社員が想像している以上に、社長の頭の中には多くの情報が詰まっています。
だからこそ、社長は少し説明しただけで「分かるはずだ」と思ってしまいます。
「これからは高付加価値化だ」
「利益率を上げるぞ」
「新規開拓を強化しろ」
「幹部はもっと経営者目線を持て」
「自分で考えて動け」
しかし、社員からすると、これだけでは具体的に何をすればよいのか分かりません。
・高付加価値化とは、具体的に何を変えることなのか。
・利益率を上げるために、どの取引を見直すのか。
・新規開拓では、どの顧客層を狙うのか。
・経営者目線とは、日々の判断で何を優先することなのか。
・自分で考えて動くとは、どこまで自分で決めてよいということなのか。
ここまで落とし込まれていなければ、社員は動けません。
社長は会社全体を見ています。社員は自分の担当業務を中心に見ています。社長は数年先を見ています。社員は今日の仕事、今月の納期、目の前のお客様を見ています。この見えている景色の違いを理解しないまま、社長の言葉だけを投げかけても、社員には十分に伝わらないのです。
社長の頭の中ではつながっていることでも、社員の頭の中ではつながっていないことが多いのです。
たとえば、社長の中では「利益率向上」と「高付加価値化」と「価格交渉」と「新商品開発」と「人材育成」が一本の線でつながっているかもしれません。しかし社員には、それぞれが別々の指示に見えています。
だから、営業は営業の都合で動きます。製造は製造の都合で動きます。管理部門は管理部門の都合で動きます。部門ごとに一生懸命やっているのに、会社全体として同じ方向に進まない。このような状態が生まれます。
社長は「何度も言っているのに」と思うかもしれません。しかし、言葉を繰り返すだけでは不十分です。必要なのは、会社の未来を社員が理解できる形にすることです。
・どんな会社を目指すのか。
・どの事業で稼ぐのか。
・どの顧客に選ばれるのか。
・何を強みにするのか。
・何をやめるのか。
・社員一人ひとりに、どんな役割を期待するのか。
これらを明確にしなければ、社長の想いは社員の行動にはつながりません。
社長が伝えたつもりで終わらせている限り、社員は動きません。会社の未来を見える形にして、初めて社員は動き始めるのです。
3.2. 数字だけでは人は動かない
経営において、数字は非常に重要です。売上、粗利、営業利益、利益率、客数、受注件数、生産性。これらを見ずに会社を経営することはできません。
しかし、数字だけで社員が動くわけではありません。
「今期は売上3億円を目指す」
「営業利益率10%を達成する」
「粗利率を5ポイント改善する」
「新規顧客を月10件増やす」
このような目標を掲げることは大切です。ですが、社員からすれば、その数字だけを示されても、自分の仕事とどうつながるのかが分からないことがあります。
・なぜ売上3億円を目指すのか。
・なぜ営業利益率10%が必要なのか。
・なぜ粗利率を改善しなければならないのか。
・なぜ今、新規顧客を増やす必要があるのか。
この「なぜ」が見えていなければ、数字は社員にとって単なるノルマになります。
ノルマとして受け取られた数字は、社員を前向きには動かしません。むしろ、「また社長が高い目標を言っている」「現場の大変さを分かっていない」「数字だけ押しつけられている」と受け止められてしまうこともあります。
数字の先にある会社の未来が見えなければ、社員は目標を自分ごとにできません。
たとえば、営業利益率10%を目指すのであれば、その先に何があるのかを伝える必要があります。利益率を高めることで、社員の待遇を改善できる。新しい設備に投資できる。新商品開発に挑戦できる。借入に頼りすぎない経営ができる。価格競争から抜け出し、選ばれる会社になれる。
このように、数字の先にある未来が見えて初めて、社員は「そのために自分は何を変えるべきか」と考え始めます。
売上目標も同じです。ただ売上を増やすのではなく、どの顧客に選ばれる会社になるための売上なのか。どの事業を伸ばすための売上なのか。将来どのような会社になるための売上なのか。そこまで示すことが大切です。
数字は目的ではありません。会社の未来を実現するための指標です。
ところが、多くの会社では、数字だけが独り歩きしています。売上を上げろ。利益を出せ。件数を増やせ。効率を上げろ。これでは、社員は目の前の数字を追うだけになります。
その結果、値引きで売上を取りに行く。採算の悪い仕事を増やす。目先の件数だけを追う。長期的に必要な改善を後回しにする。このような行動が起こります。
社長は利益を高めたいのに、現場は売上を優先する。社長は高付加価値化したいのに、営業は安売りを続ける。社長は長期的な顧客づくりをしたいのに、社員は短期の成果だけを追う。
これは、社員が悪いというより、数字の意味が共有されていないことに問題があります。
数字を示すだけではなく、その数字でどんな会社を実現するのかを示すことが、社長の仕事です。
数字は必要です。しかし、数字だけでは社員の心は動きません。社員が動くのは、その数字の先にある会社の未来と、自分の役割が見えたときです。
だからこそ、社長は売上目標や利益目標を伝えるだけで終わってはいけません。その数字が会社の未来とどうつながるのかを語る必要があります。そして、その未来を事業未来図として見える化する必要があるのです。
3.3. 目的が見えない仕事は作業になる
社員が主体的に動く会社と、指示待ちになる会社の違いはどこにあるのでしょうか。
その違いの一つは、社員が自分の仕事の目的を理解しているかどうかです。
同じ営業活動でも、「商品を売るだけ」と考えている社員と、「会社が目指す高付加価値化を実現するために、理想の顧客を開拓している」と考えている社員では、行動が変わります。
同じ製造業務でも、「言われたものをつくるだけ」と考えている社員と、「顧客に選ばれ続ける品質と納期を支えている」と考えている社員では、改善への意識が変わります。
同じ管理業務でも、「伝票を処理するだけ」と考えている社員と、「会社が成長するための数字と仕組みを整えている」と考えている社員では、仕事への向き合い方が変わります。
目的が見えない仕事は、作業になります。目的が見える仕事は、会社の未来をつくる行動になります。
社員が目の前の仕事をただこなしているように見えるとき、社長は「もっと考えて働いてほしい」と思うでしょう。しかし、社員に仕事の目的が伝わっていなければ、考えようがありません。
・なぜ、この仕事が必要なのか?
・なぜ、このやり方を変えなければならないのか?
・なぜ、この顧客を大切にするのか?
・なぜ、この商品を伸ばすのか?
・なぜ、この利益率を目指すのか?
・なぜ、この組織体制に変えるのか?
この目的が見えていなければ、社員は言われたことをこなすだけになります。
そして、作業化した仕事からは、改善も提案も生まれにくくなります。社員は「どうすればもっと良くなるか」ではなく、「どうすれば怒られずに済むか」「どうすれば早く終わるか」「どうすれば今まで通りにできるか」を考えるようになります。
これでは、会社は変わりません。
会社を変えるには、社員一人ひとりが自分の仕事を会社の未来と結びつけて理解する必要があります。
営業の仕事は、単に売上をつくることではありません。会社が目指す顧客に、自社の価値を届けることです。製造の仕事は、単に製品をつくることではありません。選ばれる品質と収益性を支えることです。管理の仕事は、単に処理をすることではありません。会社が成長するための土台を整えることです。幹部の仕事は、単に部下を管理することではありません。社長の描く未来を、部門の行動に落とし込むことです。
このように仕事の意味が変わると、社員の行動も変わります。
そのためには、社長が会社の未来を明確に示す必要があります。未来が見えなければ、仕事の目的も見えません。目的が見えなければ、仕事は作業になります。作業になれば、社員は自ら考えなくなります。
だからこそ、事業未来図が必要なのです。
事業未来図は、社長の頭の中にある会社の未来を見える化するものです。どんな会社を目指すのか。どの事業で稼ぐのか。どの顧客に選ばれるのか。どんな組織をつくるのか。そのために、社員一人ひとりの仕事がどこにつながるのか。
これが見えるようになると、社員は自分の仕事の意味を理解できます。
社員に仕事の目的を持たせたいなら、まず社長が会社の未来を見える化することです。
今日から、社長に取り組んでいただきたいことがあります。
まず、自社の5年後、10年後の姿を言葉にしてください。次に、その未来を実現するために、どの事業を伸ばすのか、どの顧客に選ばれるのか、どのような利益構造をつくるのかを書き出してください。そして、各部門の仕事がその未来にどうつながるのかを整理してください。
これを社長の頭の中だけで終わらせてはいけません。幹部と共有し、社員と対話し、会社全体の判断基準にしていくことです。
社員が動かないと感じたときこそ、問い直してください。
・社員に会社の未来は見えているか。
・数字の意味は伝わっているか。
・仕事の目的は共有されているか。
・自分の役割が未来につながっていると社員は感じているか。
この問いに向き合うことが、社員が自ら考え、動く会社への第一歩になります。
以下のように、前章までの流れを受けて「では、何をすべきか」を明確にし、事業未来図の必要性と行動への促しを強めるとよいです。
4. 事業未来図で見える化する
社員が動かない。幹部が判断しない。社長にばかり仕事が集まる。会社の未来が社員に伝わらない。
このような状態を変えるために、社長がまず取り組むべきことがあります。それは、社長の頭の中にある会社の未来を、社員にも分かる形にすることです。
多くの中小企業では、会社の未来が社長の頭の中だけにあります。社長は、何となく分かっています。どの事業を伸ばしたいのか。どの顧客を大切にしたいのか。どのように利益を出していきたいのか。どんな社員を育て、どんな組織にしたいのか。5年後、10年後にどんな会社になっていたいのか。
しかし、それが社長の頭の中だけにある限り、社員には見えません。
社員に見えない未来に向かって、「自分で考えて動け」「主体的に判断しろ」「もっと危機感を持て」と言っても、社員は動けません。会社がどこに向かっているのか分からなければ、何を優先すればよいのかも分かりません。何を判断基準にすればよいのかも分かりません。
だからこそ、必要になるのが「事業未来図」です。
事業未来図とは、社長の頭の中にある会社の未来を、社員にも分かる形で見える化した未来の設計図です。
単なる売上目標ではありません。単なる経営計画書でもありません。きれいな理念やスローガンでもありません。
社長の夢、会社のあるべき姿、儲かるビジネスモデル、自走する組織づくり、そして実行に向けた方向性をつなげたものです。
事業未来図があると、社員は会社の進む方向を理解できます。自分の仕事が会社の未来とどうつながっているのかを理解できます。何を優先し、どのように判断すべきかが見えてきます。
反対に、事業未来図がなければ、社員は目の前の仕事をこなすだけになります。営業は営業の都合で動き、製造は製造の都合で動き、管理部門は管理部門の都合で動きます。それぞれが一生懸命働いていても、会社全体として同じ方向に進まないのです。
社員が自ら考え、対話し、行動する会社に変えるためには、社長の頭の中にある会社の未来を「事業未来図」として見える化することが必要です。
4.1. 社長の夢を明文化する
事業未来図をつくる第一歩は、社長の夢を明文化することです。
ここで言う夢とは、単なる理想論ではありません。「こうなったらいいな」という漠然とした願望でもありません。社長が本気で実現したい会社の姿です。
・5年後、10年後に、どんな会社になっていたいのか。
・どんな顧客に選ばれる会社でありたいのか。
・どんな商品・サービスで高付加価値化していくのか。
・どのように利益を出し、どのように社員に還元していくのか。
・どんな社員が育ち、どんな組織になっていてほしいのか。
・後継者や幹部に、どんな会社を引き継ぎたいのか。
これらを、社長自身の言葉で明文化することが出発点です。
中小企業では、社長の想いが会社の方向性そのものです。社長が何を大切にしているのか。何に怒り、何に喜び、どんな会社をつくりたいのか。これが曖昧なままでは、社員は本気で動けません。
会社の未来は、最初に社長が描かなければなりません。
もちろん、社員や幹部の意見を聞くことは大切です。しかし、会社の大きな方向性を決めるのは社長の仕事です。どの市場で戦うのか。どの顧客に選ばれるのか。どの事業を伸ばすのか。どんな組織をつくるのか。これは、社員に丸投げできるものではありません。
社長が未来を描かない会社では、社員は目の前の仕事に流されます。今ある仕事をこなす。今いる顧客に対応する。今のやり方を続ける。すると会社は、今の延長線上でしか動けなくなります。
しかし、今の延長線上に、10年後も稼ぎ続ける会社があるとは限りません。原材料高騰、人手不足、価格競争、市場縮小、顧客ニーズの変化。経営環境は確実に変わっています。だからこそ、社長が未来を描き直す必要があるのです。
ここで大切なのは、最初からきれいにまとめようとしないことです。まずは、社長の頭の中にあることをすべて書き出してください。
「こんな会社にしたい」
「この顧客にもっと喜ばれたい」
「この商品を伸ばしたい」
「この仕事はやめたい」
「社員にはこう成長してほしい」
「利益率をここまで高めたい」
「社長がいなくても回る組織にしたい」
「次世代に誇れる会社を残したい」
こうした想いを、遠慮せずに言葉にすることです。
社長の夢が言葉になれば、会社の未来は輪郭を持ち始めます。言葉になった未来は、幹部と話し合うことができます。社員に伝えることができます。行動計画に落とし込むことができます。
反対に、社長の夢が頭の中にあるだけでは、誰とも共有できません。社員は社長の考えを推測するしかありません。幹部も、社長の顔色を見ながら判断するしかありません。
社長の夢を明文化することは、社員が動く会社をつくる最初の一歩です。
まずは、紙に書き出してください。箇条書きでも構いません。きれいな文章でなくても構いません。数字が曖昧でも構いません。大切なのは、社長の頭の中から未来を外に出すことです。
社長の夢が見えたとき、社員は初めて「この会社はどこに向かうのか」を理解する準備ができます。
4.2. 未来を1枚に落とし込む
社長の夢を明文化したら、次に必要なのは、それを1枚に落とし込むことです。
言葉で書き出しただけでは、まだ社員には伝わりにくい場合があります。社長の想い、売上目標、利益目標、事業の方向性、顧客像、商品・サービス、組織づくり、人材育成、実行計画。これらがバラバラに書かれているだけでは、社員は全体像をつかめません。
そこで、社長の未来構想を1枚の事業未来図にまとめるのです。
事業未来図は、会社の未来を社員が一目で理解するための設計図です。
なぜ1枚にする必要があるのでしょうか。
それは、社員が全体像をつかみやすくなるからです。長い経営計画書を渡されても、社員はなかなか読み込みません。難しい数字や抽象的な方針だけでは、自分の仕事とのつながりが見えません。
しかし、1枚の図になっていれば、会社がどこに向かうのか、どの事業で稼ぐのか、どの顧客に選ばれるのか、どのような組織をつくるのかが見えやすくなります。
たとえば、事業未来図には次のような要素を入れます。
・5年後、10年後の会社のあるべき姿。
・目指す売上、利益、利益率。
・伸ばすべき事業や商品・サービス。
・大切にする顧客や市場。
・自社が提供する価値。
・高付加価値化、高単価化の方向性。
・幹部や社員に期待する役割。
・自走する組織づくりの方向性。
・今後取り組むべき重点課題。
これらをつなげて見える化すると、会社の未来が単なる理想ではなく、実現に向けた道筋として見えてきます。
社長の夢が「点」だとすれば、事業未来図はそれらを「線」としてつなげるものです。そして、その線が見えることで、社員は自分の仕事が会社の未来のどこにつながっているのかを理解できます。
営業社員は、「なぜこの顧客を開拓するのか」が分かります。製造現場は、「なぜこの品質や納期を追求するのか」が分かります。管理部門は、「なぜ仕組み化や数字の見える化が必要なのか」が分かります。幹部は、「なぜ部門を越えて考える必要があるのか」が分かります。
未来が1枚に見えると、社員の仕事に意味が生まれます。
また、事業未来図は社内だけでなく、社外にも活用できます。金融機関に対して、会社の将来性を伝えることができます。取引先に対して、自社の方向性を示すことができます。採用候補者に対して、どんな会社を目指しているのかを伝えることができます。後継者や幹部に対して、引き継ぐべき未来を共有することができます。
これからの中小企業経営では、過去の実績だけでなく、未来をどう描いているかが問われます。決算書の数字も大切ですが、それだけでは会社の将来性は伝わりません。どの事業で稼ぐのか。どのように利益率を高めるのか。どのように組織を強くするのか。これを説明できる会社は、社外からの信頼も得やすくなります。
だからこそ、社長の頭の中にある未来を1枚に落とし込むことが必要なのです。
事業未来図は、社長の夢を社員の行動に変えるための未来の設計図です。
ここで大切なのは、完璧な図をつくることではありません。まずは、社長の考えを見える形にすることです。最初から美しい資料にする必要はありません。手書きでも構いません。ホワイトボードでも構いません。幹部と一緒に議論しながら修正していけばよいのです。
大切なのは、会社の未来を社長の頭の中に閉じ込めたままにしないことです。
未来を1枚に落とし込んだ瞬間から、会社の会話は変わります。
「社長は何を考えているのか分からない」から、
「この未来を実現するには何をすべきか」へ。
「言われたからやる」から、
「自分の役割はどこにあるのか」へ。
「今まで通りでよい」から、
「未来のために何を変えるか」へ。
この変化が、社員が動く会社への大きな一歩になります。
4.3. 判断基準を共有する
事業未来図をつくる最大の意味の一つは、社員と判断基準を共有できることです。
社員が動かない会社では、社員が判断できません。なぜ判断できないのか。それは、能力がないからとは限りません。判断するための基準が見えていないからです。
・何を優先すべきか。
・どの顧客を大切にすべきか。
・どの商品・サービスを伸ばすべきか。
・価格を守るべきか、売上を取りに行くべきか。
・短期の受注を優先すべきか、長期の関係を重視すべきか。
・今までのやり方を守るべきか、変えるべきか。
これらの判断基準が社長の頭の中だけにあると、社員は自分で決められません。その結果、何かあるたびに社長へ確認します。
「社長、これはどうしますか?」
「社長、このお客様には何と返事しますか?」
「社長、この金額で出してよいですか?」
「社長、このやり方で進めてよいですか?」
こうして、また社長に判断が集中します。
判断基準が共有されていない会社では、社員は自分で動けません。
反対に、事業未来図によって会社の未来が見えると、社員は判断しやすくなります。
たとえば、会社が「高付加価値化によって利益率を高める」と決めているなら、営業社員は安易な値引きを避ける判断ができます。会社が「特定の顧客層に選ばれる会社を目指す」と決めているなら、どの顧客に時間を使うべきか判断できます。会社が「社長依存から抜け出し、自走する組織をつくる」と決めているなら、幹部は部下に考えさせる場面を意識できます。
これが、判断基準を共有するということです。
社長がすべての案件に答えを出すのではなく、社員が会社の未来に照らして判断できるようにする。これが、社員が動く会社に変わるために必要なことです。
もちろん、事業未来図をつくっただけで、すぐに社員が完璧に判断できるわけではありません。最初は迷います。間違えることもあります。社長の考えとずれることもあります。
しかし、そのたびに事業未来図に戻ればよいのです。
「この判断は、当社が目指す未来に合っているか」
「この顧客は、当社が大切にしたい顧客か」
「この仕事は、儲かるビジネスモデルづくりにつながるか」
「この行動は、自走する組織づくりにつながるか」
このように問い直すことで、社員の判断力は少しずつ育っていきます。
判断基準は、社員に考えさせるための土台です。
社長が毎回答えを出してしまえば、社員は考える機会を失います。しかし、判断基準を共有したうえで社員に考えさせれば、社員は成長します。幹部も育ちます。社長がいなくても進む仕事が増えていきます。
ここで、社長に取り組んでいただきたいことがあります。
まず、日々の判断の中で、社長が何を基準に決めているのかを書き出してください。
・なぜ、この顧客を大切にしているのか。
・なぜ、この商品を伸ばしたいのか。
・なぜ、この価格は下げないのか。
・なぜ、この仕事は受けないのか。
・なぜ、この人材を育てたいのか。
・なぜ、この投資をするのか。
社長にとっては当たり前の判断でも、社員には見えていないことが多いのです。その当たり前を言葉にすることが重要です。
次に、それを事業未来図と結びつけてください。判断基準が会社の未来とつながることで、社員は納得しやすくなります。
「利益率を高めるために、この価格は守る」
「将来伸ばす顧客層に合わないため、この案件は受けない」
「自走する組織をつくるために、幹部にこの判断を任せる」
「高付加価値化につながるため、この設備投資を行う」
このように説明できるようになると、社員は社長の判断を理解し始めます。そして、少しずつ社長と同じ方向を向いて判断できるようになります。
社員を動かすには、細かい指示を増やすのではなく、会社の未来と判断基準を共有することです。
事業未来図は、そのための道具です。
・社長の頭の中にある夢を明文化する。
・それを1枚の未来図に落とし込む。
・その未来図をもとに、社員と判断基準を共有する。
この順番で進めることで、会社は少しずつ変わります。
社員は、会社の未来を理解します。自分の役割を理解します。何を優先すべきかを考え始めます。そして、社長の指示を待つだけではなく、自ら考え、対話し、行動するようになります。
社長がすべてを判断する会社から、社員が判断基準を持って動く会社へ。
その第一歩が、事業未来図による見える化なのです。
以下のように、最終章として「社長が次に何をすべきか」が明確になるようにまとめるとよいです。
5. 社員が動く会社へ変える
ここまで見てきたように、社員が動かない本当の理由は、社員のやる気不足や能力不足だけではありません。
社長に判断が集中している。会社の未来が社員に見えていない。何を優先すべきかが共有されていない。仕事が人に依存し、仕組みになっていない。こうした状態が重なった結果、社員は自ら考えて動くことができなくなっているのです。
では、社員が動く会社へ変えるには、何をすればよいのでしょうか。
答えは、社員に「もっと動け」と言い続けることではありません。社長がさらに頑張ることでもありません。会議を増やすことでも、細かいルールを増やすことでもありません。
まず必要なのは、会社の未来を明確にし、その未来を実現するために、誰が何を担い、どのように成果を出すのかを見える化することです。
社員が動く会社とは、社員が勝手にバラバラに動く会社ではありません。会社の未来を共有し、判断基準を持ち、自分の役割を理解して動く会社です。
そのためには、社長の頭の中にある未来を「事業未来図」として見える化する必要があります。そして、その未来図をもとに、仕事の属人化をなくし、組織で稼ぐ形をつくり、社長自身の仕事を「現場対応」から「未来づくり」へ変えていくことです。
中小企業は、社長の力で成長してきた会社が多いものです。しかし、これから先も社長一人の力だけで成長し続けることはできません。人手不足、原材料高騰、価格競争、顧客ニーズの変化、市場縮小。経営環境はますます厳しくなっています。
このような時代に必要なのは、社長一人が走り続ける会社ではありません。社員が会社の未来を理解し、自分の持ち場で考え、幹部が判断し、組織全体で稼ぐ会社です。
社員が動く会社へ変える第一歩は、社長が会社の未来を描き、それを社員に見える形にすることです。
5.1. 属人化から抜け出す
社員が動かない会社には、もう一つ大きな問題があります。それは、仕事が属人化していることです。
・社長しか分からない仕事がある。
・ベテラン社員しかできない仕事がある。
・特定の営業担当者しか顧客情報を把握していない。
・特定の職人しか品質を保てない。
・経理や総務の仕事が、一人の担当者の頭の中にしかない。
・幹部がいなければ、部門が回らない。
このような会社は、一見すると仕事が回っているように見えます。しかし、実際には非常に危険な状態です。
なぜなら、その人が休んだら止まるからです。その人が辞めたら分からなくなるからです。その人が忙しくなれば、会社全体のスピードが落ちるからです。
属人化した会社は、人に依存している限り、安定して成長することができません。
特に中小企業では、「あの人に聞かないと分からない」「この仕事は社長しか判断できない」「このお客様は担当者しか対応できない」という状態が当たり前になっていることがあります。
しかし、この状態を放置すると、会社はいつまでも人に振り回されます。
・優秀な社員がいるうちは何とかなる。
・ベテランがいるうちは回る。
・社長が元気なうちは大丈夫。
・古くからの担当者がいるうちは問題ない。
しかし、それは本当に強い会社と言えるでしょうか。
これからの中小企業に必要なのは、特定の人の頑張りに依存する会社ではなく、仕組みで成果を出す会社です。
営業であれば、顧客情報や提案の進め方が共有されている。製造であれば、品質を守る基準や工程が見える化されている。管理部門であれば、業務手順や数字の確認方法が整理されている。幹部であれば、部門の判断基準や育成方針が共有されている。
このように、仕事の進め方や判断基準が見える化されていれば、特定の人だけに依存しなくなります。
ただし、業務手順を整えるだけでは不十分です。なぜその仕事をするのか。どの未来に向けてその仕組みをつくるのか。どの事業を伸ばすために標準化するのか。どの顧客に選ばれるために品質を高めるのか。そこまで見えていなければ、単なるマニュアルづくりで終わってしまいます。
だからこそ、事業未来図が必要なのです。
事業未来図があれば、属人化をなくす目的が明確になります。
・社長がいなくても判断できる会社にする。
・ベテランがいなくても品質を守れる会社にする。
・営業担当者が変わっても顧客に価値を届けられる会社にする。
・幹部が部門を自走させられる会社にする。
・社員が自分の役割を理解して動ける会社にする。
この未来が見えているからこそ、仕組み化に意味が生まれます。
属人化から抜け出すには、仕事を人に任せるだけでなく、会社の未来と判断基準を仕組みに落とし込むことです。
まず、社長に取り組んでいただきたいことがあります。
自社の中で、「この人がいなければ止まる仕事」を書き出してください。社長しか判断できない仕事、ベテランしか分からない仕事、担当者しか対応できない顧客、幹部にしか見えていない業務を洗い出してください。
次に、その仕事が会社の未来にとって本当に重要かを確認してください。重要な仕事であれば、標準化し、共有し、育成の仕組みに落とし込む必要があります。重要でない仕事であれば、やめる、減らす、外部に任せるという判断も必要です。
属人化をなくすとは、単に誰でもできる仕事にすることではありません。会社の未来に必要な仕事を、組織として再現できる状態にすることです。
この取り組みを始めることで、会社は少しずつ「人に依存する会社」から「仕組みで動く会社」へ変わっていきます。
5.2. 組織で稼ぐ形をつくる
社員が動く会社へ変えるためには、属人化から抜け出すだけでなく、組織で稼ぐ形をつくることが必要です。
中小企業の多くは、社長や一部の優秀な社員の営業力、技術力、人間関係によって売上をつくってきました。これは決して悪いことではありません。むしろ、会社の成長初期には必要なことです。
しかし、これから先も同じやり方で稼ぎ続けられるとは限りません。
顧客の要求は高くなっています。価格競争は激しくなっています。人材の採用は難しくなっています。原価は上がっています。これまでのように、社長や一部の社員が頑張るだけでは、利益を残すことが難しくなっているのです。
これからの中小企業は、個人の頑張りで稼ぐ会社から、組織で稼ぐ会社へ変わる必要があります。
組織で稼ぐ会社とは、単に社員数が多い会社のことではありません。部門が分かれている会社のことでもありません。社員一人ひとりが会社の未来を理解し、それぞれの役割を果たしながら、全体として利益を生み出す会社です。
営業は、ただ売上を取るのではなく、会社が目指す顧客に価値を届ける。製造は、ただつくるのではなく、利益を生む品質と生産性を支える。管理部門は、ただ処理するのではなく、経営判断に必要な数字と仕組みを整える。幹部は、ただ部下を管理するのではなく、社長の未来構想を部門の行動に落とし込む。
このように、各部門がバラバラではなく、会社の未来に向かってつながって動く状態をつくることが大切です。
そのためには、まず「どのように稼ぐ会社になるのか」を明確にしなければなりません。
・どの顧客に選ばれるのか。
・どの商品・サービスで高付加価値化するのか。
・どの仕事は伸ばし、どの仕事は見直すのか。
・どのように利益率を高めるのか。
・どのような提案力、技術力、対応力を磨くのか。
・どの部門が何を担うのか。
これが曖昧なままでは、組織で稼ぐことはできません。
たとえば、社長は「利益率を上げたい」と考えている。しかし営業は売上を追い、値引きで受注する。製造は忙しくなるが、採算の悪い仕事が増える。管理部門は数字をまとめるだけで、どの仕事が儲かっているのかを現場に伝えられない。幹部は部門の範囲だけを見て、会社全体の利益を考えない。
これでは、社員は一生懸命働いていても、会社に利益が残りません。
組織で稼ぐには、全員が同じ方向を向く必要があります。その方向を示すのが事業未来図です。
事業未来図によって、会社が目指す未来、儲かるビジネスモデル、重点顧客、重点商品、利益率向上の方向性、組織の役割が見えるようになります。そうすると、社員は自分の仕事を会社の利益と結びつけて考えられるようになります。
営業は、「この受注は本当に会社の未来につながるのか」と考えるようになります。製造は、「この改善は利益率向上につながるのか」と考えるようになります。管理部門は、「この数字をどう現場の判断に活かすのか」と考えるようになります。幹部は、「部門最適ではなく全社最適で判断できているか」と考えるようになります。
組織で稼ぐ会社をつくるには、社長の頭の中にある儲かる未来を、社員の仕事に落とし込むことです。
そのために、社長はまず自社の稼ぎ方を見直してください。
・今、どの仕事で利益が出ているのか。
・どの顧客との取引が将来につながるのか。
・どの商品・サービスを伸ばすべきなのか。
・どの仕事は利益を圧迫しているのか。
・どの業務が社員の時間を奪っているのか。
・どの部門が会社の利益にどう貢献しているのか。
これらを見える化することです。そして、未来に向けて何を伸ばし、何を変え、何をやめるのかを決めることです。
組織で稼ぐ会社は、偶然には生まれません。社長が未来を描き、稼ぐ形を決め、社員の役割を明確にし、判断基準を共有することでつくられます。
社員が動く会社とは、社員が単に忙しく働いている会社ではありません。会社の未来に向かって、社員の仕事が利益につながっている会社です。
その状態をつくることが、これからの中小企業経営に求められるのです。
5.3. 社長の仕事は未来をつくること
最後に、社長自身の仕事について考えてみましょう。
社員が動かない会社では、社長が日々の仕事に追われています。顧客対応、見積もり、トラブル処理、現場確認、採用、資金繰り、社員からの相談、細かい判断。朝から晩まで、目の前の問題に対応しているうちに一日が終わってしまいます。
もちろん、これらは大切な仕事です。中小企業では、社長が現場に関わらなければならない場面もあります。お客様との関係を守るために、社長が前に出るべき場面もあります。
しかし、それだけで社長の時間が埋まっているなら、会社の未来は誰がつくるのでしょうか。
社長の本当の仕事は、社員の代わりに動くことではなく、会社の未来をつくることです。
会社の未来を描く。どの事業で稼ぐのかを決める。どの顧客に選ばれるのかを明確にする。高付加価値化、高単価化の方向性を示す。幹部を育てる。社員が判断できる組織をつくる。社長がいなくても回る仕組みをつくる。
これこそ、社長にしかできない仕事です。
現場の仕事は、少しずつ社員に任せることができます。日々の判断も、基準を共有すれば幹部に任せることができます。業務の進め方も、仕組み化すれば社員が担えるようになります。
しかし、会社の未来を描くことは社長にしかできません。
社長が未来を描かなければ、会社は今の延長線上を進むだけです。今の顧客、今の商品、今の価格、今の働き方、今の組織のまま、環境変化にさらされることになります。これでは、10年後も稼ぎ続ける会社にはなりません。
だからこそ、社長は自分の時間の使い方を変える必要があります。
毎日の業務に追われる時間を減らし、未来を考える時間を確保する。自分が判断するのではなく、社員が判断できる基準をつくる。自分が現場で動くのではなく、組織が動く仕組みをつくる。自分の頭の中にある構想を、事業未来図として見える化する。
この転換が、社員が動く会社への大きな一歩になります。
社長が未来づくりに時間を使い始めたとき、会社は社長依存から抜け出し、社員が動く組織へ変わり始めます。
まずは、社長自身に問いかけてください。
・今週、自分はどれだけ会社の未来を考えたか。
・社員に、5年後、10年後の会社の姿を語ったか。
・幹部に、判断基準を伝えたか。
・自分しかできない仕事と、社員に任せるべき仕事を分けたか。
・会社の稼ぎ方を見直したか。
・社員が動ける仕組みをつくる時間を取ったか。
もし、これらに十分な時間を使えていないのであれば、社長はまだ現場に縛られているのかもしれません。
もちろん、いきなりすべてを変える必要はありません。まずは、社長の頭の中にある未来を紙に書き出すことから始めてください。次に、それを幹部と共有してください。そして、事業未来図として1枚にまとめてください。
そこから、社員との対話が始まります。
「この未来を実現するために、営業は何を変えるべきか」
「製造はどの品質や生産性を高めるべきか」
「管理部門はどの数字を見える化すべきか」
「幹部はどの判断を担うべきか」
「社長は何を手放し、何に集中すべきか」
この対話を続けることで、社員は会社の未来を自分ごととして考え始めます。
社員が動く会社は、一日でできるものではありません。しかし、社長が未来を示さなければ、いつまでも変わりません。
社長が社員の代わりに動く会社から、社員が未来に向かって動く会社へ。社長がすべてを判断する会社から、社員が判断基準を持って動く会社へ。人の頑張りに頼る会社から、組織で稼ぐ会社へ。
その変化を起こすのは、社長自身です。
社員が動かないと嘆く前に、まず社長が会社の未来を描き、その未来を事業未来図として見える化することです。
そこから、社員が自ら考え、対話し、行動する会社づくりが始まります。
以下のように、最後に経営者の行動を促す形で締めるとよいです。
まとめ
社員が動かない本当の理由は、社員のやる気不足や能力不足だけではありません。
もちろん、社員一人ひとりの姿勢や成長も大切です。しかし、それ以前に、会社の未来が社員に見えていないために、社員が動けない状態になっていることを、社長は見直す必要があります。
社長の頭の中には、5年後、10年後の会社の姿があるはずです。どの事業を伸ばすのか。どの顧客に選ばれるのか。どのように利益を出すのか。どんな社員を育て、どんな組織をつくるのか。ところが、それが社員に見える形になっていなければ、社員は何を優先し、どう判断し、どこへ向かって動けばよいのか分かりません。
その結果、社員は指示を待つようになります。幹部は判断を避けるようになります。社長に仕事が集中し、会社は社長依存から抜け出せなくなります。
この状態を変えるために必要なのが、社長の頭の中にある会社の未来を「事業未来図」として見える化することです。
社員が自ら考え、対話し、行動する会社をつくるには、まず社長が会社の未来を描き、社員に見える形にすることです。
事業未来図は、単なる経営計画書ではありません。社長の夢、会社のあるべき姿、儲かるビジネスモデル、自走する組織づくりをつなげる未来の設計図です。
社員を責める前に、まず社長自身が問い直してください。
・自社はどこに向かうのか。
・どの事業で稼ぐのか。
・どの顧客に選ばれるのか。
・何をやめ、何に集中するのか。
・社員にどんな役割を期待するのか。
この問いに向き合い、会社の未来を言葉にし、1枚の事業未来図に落とし込むことです。
会社の未来が見えたとき、社員は自分の仕事の意味を理解します。判断基準を持ちます。そして、社長の指示を待つだけでなく、自ら動き始めます。
今こそ、社長依存の会社から、社員が動く会社へ変わるときです。
あなたは最高経営責任者として、どのような事業未来図を描きますか?!
