今週のコラム 事業承継から3年たっても会社が動かない本当の理由と、今日からやれる対処法

「父から会社を引き継いで3年が経ちました。社長という立場には少しずつ慣れてきたのですが、会社が思うように動いている実感がありません。社員は指示を待つばかりで、幹部もなかなか自分で判断してくれません。先代のやり方もまだ残っていて、新しいことを進めようとしても、どこかで止まってしまいます・・・何から手をつければいいのでしょうか?」──とある製造業を営む2代目社長からのご相談です。
事業承継から数年が経過しても、会社が思うように動かないという状況は、後継社長・2代目社長に共通する悩みではないでしょうか?
特に、先代の影響がまだ社内に残っている場合には、社長は代わったものの、社員の判断基準や仕事の進め方は以前のままになっていることが少なくありません。新しい方針を打ち出したいと思っても、「先代の時はこうだった」「今までこのやり方でやってきた」といった空気があり、かといって強引に変えようとすれば、古参社員や幹部との関係が悪くなるのではないか・・・と考えてしまい、結局、改革が先送りになってしまうことはよくあります。
目次
はじめに
事業承継から3年。社長という立場にも少しずつ慣れ、取引先への挨拶も終わり、社員との関係も大きな問題なく続いている。
それなのに、なぜか会社が思うように動かない。
「社員が自分から動いてくれない」
「幹部に任せたいのに、結局、自分が判断している」
「先代のやり方が残っていて、新しいことが進まない」
「売上はあるのに、利益が思ったほど残らない」
このような悩みを抱えている2代目社長・後継社長は少なくありません。
しかし、会社が動かない理由を、社員のやる気や能力だけに求めてしまうと、問題の本質を見誤ります。社員は動きたくないのではなく、会社がどこへ向かうのか、自分は何を任され、何を基準に判断すればよいのかが見えていないだけかもしれません。
また、先代の影響が残っている会社では、社長は代わっても、現場の判断基準や仕事の進め方が以前のままになっていることがあります。その結果、新しい方針を打ち出しても、「今までこのやり方でやってきた」という空気に押され、改革が途中で止まってしまうのです。
この状態を放置すると、社長だけが忙しくなります。社員は指示を待ち、幹部は判断を避け、重要な案件はすべて社長に集まる。すると、社長は日々の対応に追われ、会社の未来を考える時間を失っていきます。
事業承継後に会社を動かすために必要なのは、社長一人が頑張ることではなく、会社の未来、数字、役割、判断基準を見える化することです。
まずは、社長の頭の中にある「これから会社をどうしたいのか」を言葉にすること。次に、どの事業で利益を出すのかを数字で確認すること。そして、幹部や社員に何を任せるのかを明確にすること。
大きな改革を一気に進める必要はありません。今日からできる小さな整理を始めるだけでも、会社は少しずつ動き出します。本コラムでは、事業承継から3年たっても会社が動かない本当の理由と、今日から実践できる対処法について解説します。
1. 会社が動かない理由は、社員が悪いからではない
事業承継から3年ほど経つと、2代目社長・後継社長の多くが、次のような壁にぶつかります。
「社員が自分から動いてくれない」
「幹部に任せたいのに、結局、自分が判断している」
「先代のやり方が残っていて、新しいことが進まない」
このような状況が続くと、社長としては、どうしても社員に対して不満を感じてしまいます。
「なぜ、もっと主体的に考えてくれないのか」
「なぜ、こちらが言わないと動かないのか」
そう感じるのは当然です。社長は、売上、資金繰り、人材、取引先、銀行対応など、会社のあらゆる責任を背負っています。だからこそ、社員や幹部にも危機感を持って動いてほしいと思うはずです。
しかし、ここで一度立ち止まって考える必要があります。
本当に、会社が動かない理由は、社員のやる気や能力だけなのでしょうか。
多くの中小企業を見ていると、会社が動かない原因は、社員個人の問題というより、社員が動ける状態になっていないことにあります。
つまり、社員が動かないのではなく、動くための情報、判断基準、役割、責任範囲が整理されていないのです。
社長の頭の中には、会社の方向性があります。
「この事業を伸ばしたい」
「利益率の低い仕事を見直したい」
「この社員には将来、幹部になってほしい」
「先代のやり方を少しずつ変えていきたい」
しかし、それが社員に伝わる形になっていなければ、社員は判断できません。幹部も動けません。現場も変わりません。
会社が動かないときに最初に見直すべきなのは、社員のやる気ではなく、社長の考えが社員に伝わる形になっているかどうかです。
ここを見直さないまま、「もっと考えて動いてほしい」と言い続けても、社員はなかなか変わりません。社員からすれば、何を優先し、どこまで自分で判断し、どの数字を見ればよいのかが分からないからです。
1.1. 社員は「動きたくない」のではなく「どう動けばよいか分からない」
社長から見ると、社員が受け身に見えることがあります。
・会議で意見を求めても発言しない。
・新しい取り組みを伝えても反応が薄い。
・任せたはずなのに、細かい確認が社長に戻ってくる。
このような状況が続くと、「うちの社員は主体性がない」と感じてしまうかもしれません。
しかし、社員の立場から見ると、別の不安があります。
「社長が本当は何を望んでいるのか分からない」
「どこまで自分で決めてよいのか分からない」
「勝手に判断して怒られるのが怖い」
「先代の頃のやり方と、今の社長の方針が違っていて迷う」
社員は、必ずしも動きたくないわけではありません。会社の役に立ちたい、現場をよくしたいと思っている社員も多くいます。
それでも動けないのは、自分が何を判断してよいのか、どこまで責任を持てばよいのかが分からないからです。
たとえば、営業担当者に「もっと利益を意識して受注してほしい」と伝えたとします。
しかし、社員にとっては、「利益を意識する」と言われても、具体的に何をすればよいのかが分かりません。
・粗利益率何%以上を目安にするのか。
・値引きはどこまで許されるのか。
・売上優先なのか、利益優先なのか。
・長年付き合いのある取引先なら、多少利益が低くても受けるべきなのか。
ここが明確になっていなければ、社員は迷います。そして、迷った結果、社長に確認するか、これまで通りのやり方を続けることになります。
社員を動かすために必要なのは、気合いや精神論ではありません。社員が迷わず判断できる基準をつくることです。
たとえば、次のように整理します。
・粗利益率○%以上なら現場判断で進めてよい
・○万円以上の値引きは、事前に上長へ相談する
・赤字になる案件は原則として受けない
・短納期対応には追加費用を見積もりに反映する
・クレーム対応は、初期対応は担当者、補償判断は責任者が行う
このような基準があるだけで、社員は動きやすくなります。
まずは、最近社長のところに戻ってきた相談を3つ書き出してみてください。その相談は、本当に社長でなければ判断できない内容だったでしょうか。あらかじめ基準を決めておけば、幹部や社員が判断できた内容ではないでしょうか。
そこから一つずつ判断基準をつくることが、社長依存を減らす第一歩になります。
1.2. 社長の頭の中にある方針が、社員には伝わっていない
2代目社長・後継社長の頭の中には、さまざまな考えがあります。
・先代から続く事業をどう見直すか。
・利益率の低い取引をどう整理するか。
・若手社員をどう育てるか。
・自分の代で、どのような会社に変えていくか。
しかし、問題は、その考えが社員に見えていないことです。
社長としては、「何度も言っている」「会議でも話している」と思っているかもしれません。ところが、社員側には断片的にしか伝わっていないことが少なくありません。
たとえば、社長が「これからは利益を重視する」と話す。別の日には「新規顧客を増やしたい」と話す。また別の日には「既存顧客を大切にしよう」と話す。
どれも大切なことです。社長の中では、すべてつながっているはずです。
しかし、社員からすると、「売上を増やせばいいのか、利益を優先すればいいのか」「新規を取りに行くのか、既存を大切にするのか」と迷ってしまいます。
つまり、社長の考えが間違っているのではありません。社長の考えが、社員が行動できる順番と形に整理されていないのです。
ここで大切なのは、社長の方針を一度、言葉にして見える化することです。
最初から立派な経営計画書を作る必要はありません。まずは、次の項目を書き出してみてください。
・3年後、会社をどのような状態にしたいのか
・売上を伸ばしたい事業はどれか
・利益を改善したい事業はどれか
・今後、減らしたい仕事は何か
・大切にしたい顧客は誰か
・幹部に任せたい役割は何か
・先代から残すべきものは何か
・自分の代で変えるべきものは何か
これを書き出すだけでも、社長自身の頭の中が整理されます。そして、整理された言葉を幹部や社員に伝えることで、会社の空気は少しずつ変わり始めます。
社長の方針は、社長の頭の中にあるだけでは会社を動かしません。社員が日々の判断に使える言葉と数字にして、初めて会社を動かす力になります。
今日からできることは、難しくありません。
まず、「今年、会社として一番変えたいこと」を一つだけ書き出してください。次に、「それを実現するために、幹部や社員に期待する行動」を3つ書き出してください。そして、次の会議や朝礼で、そのまま伝えてみてください。
完璧な文章である必要はありません。社長自身の言葉で伝えることが大切です。
1.3. 先代の時代の空気が残り、判断基準が曖昧になっている
事業承継後の会社では、社長は代わっても、会社の中に先代の時代の空気が残っていることがよくあります。
・先代の一声で物事が決まっていた。
・古参社員が先代の考えをよく理解していた。
・細かいルールはなくても、暗黙の了解で仕事が回っていた。
・取引先との関係も、先代の人間関係で成り立っていた。
このような会社では、2代目社長が就任しても、すぐに組織の動き方が変わるわけではありません。
特に、先代がまだ会長や相談役として会社にいる場合、社員は無意識のうちに先代の顔色を見てしまいます。2代目社長が新しい方針を出しても、「先代は本当にそれを認めているのか」と考えてしまうのです。
また、古参社員の影響が強い会社では、現場の判断基準が先代時代のまま残っていることがあります。
「昔からこの取引先は大切にしてきた」
「この仕事は利益が薄くても受けるものだ」
「うちの会社は昔からこういう会社だ」
もちろん、先代が築いてきた信用や取引先との関係、社員とのつながりは、会社にとって大切な財産です。すべてを否定する必要はありません。
しかし、時代が変わり、人件費や材料費が上がり、人手不足が進み、銀行の見方も変わっている中で、昔の判断基準のまま経営を続けていれば、会社は少しずつ苦しくなっていきます。
先代の時代に正しかった判断が、今の時代にもそのまま正しいとは限りません。
だからこそ、2代目社長・後継社長がやるべきことは、先代のやり方を否定することではありません。残すべきものと、変えるべきものを分けることです。
残すべきものは、長年の信用、丁寧な仕事、顧客との信頼関係、社員を大切にする姿勢、技術やノウハウです。
一方で、変えるべきものは、利益の出ない受注、社長一人に判断が集中する体制、誰が何を決めるのか曖昧な組織、数字を見ずに感覚で判断する経営です。
事業承継後の改革で大切なのは、先代を否定することではなく、先代が築いた財産を守りながら、今の時代に合わない判断基準を社長自身の言葉で更新することです。
まずは、「先代から引き継いで本当に残したいもの」と「このまま続けると会社を苦しくするもの」を、それぞれ書き出してみてください。
そのうえで、「赤字案件は原則として受けない」「粗利益率を確認してから受注する」「幹部会議で毎月数字を確認する」など、これからの判断基準を一つ決めてみるのです。
大きな改革を一気に進める必要はありません。
まずは、一つの判断基準を変えることです。
その小さな一歩が、先代の時代の延長線上から抜け出し、自分の代の経営を始めるきっかけになります。
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2. 事業承継後に起きる「先代の延長線上経営」の壁
事業承継が終わると、形式上は新しい社長の時代が始まります。代表者も変わり、名刺も変わり、取引先への挨拶も済ませる。社内でも「これからは新社長の体制で進めていく」という空気が少しずつ生まれていきます。
しかし、実際には、社長が代わっただけで会社の中身まで変わっているとは限りません。
むしろ、多くの中小企業では、社長が代わっても、仕事の進め方、会議のやり方、受注判断、社員評価、幹部の役割、取引先との関係は、先代の時代のまま残っていることが少なくありません。
その結果、2代目社長は次のような違和感を抱くようになります。
「社長になったのに、会社が自分の方針で動いていない」
「新しいことを始めようとしても、なぜか現場がついてこない」
「幹部に任せたいのに、先代の頃の感覚で判断されてしまう」
「変えなければいけないと分かっているのに、社内の空気が重い」
これは、2代目社長の力不足だけが原因ではありません。事業承継後の会社には、先代の時代に作られた仕組み、空気、人間関係、判断基準がそのまま残っているからです。
もちろん、先代が築いてきたものは、会社にとって大切な財産です。取引先からの信用、地域での評判、社員との関係、技術、ノウハウ、長年続いてきた仕事の流れ。これらがあったからこそ、会社は今日まで続いてきました。
しかし、時代は変わっています。人件費や原材料費は上がり、採用は難しくなり、顧客の要望も変わり、銀行の見方も以前とは違ってきています。昔は通用したやり方でも、今の時代には利益を圧迫する原因になっていることがあります。
事業承継後に会社が動かない大きな理由は、社長は代わったのに、会社の仕組みと判断基準が先代の延長線上に残ったままになっていることです。
ここを見直さないまま、新しい方針だけを打ち出しても、現場はなかなか変わりません。まず必要なのは、先代を否定することではなく、今の会社に残っている「古い判断基準」を一つずつ整理することです。
2.1. 社長は代わったのに、会社の仕組みは変わっていない
事業承継後に最初に確認すべきことは、社長が代わった後、会社の仕組みが本当に変わっているかどうかです。
・代表者は変わった。
・経営方針も新しくした。
・社員にも「これから変えていく」と伝えた。
それでも会社が動かない場合、原因は方針そのものではなく、日々の仕組みにあるかもしれません。
たとえば、受注判断はどうでしょうか。今も「昔からの取引先だから」という理由だけで、利益の薄い仕事を受け続けていないでしょうか。値上げが必要なのに、誰も取引先に言い出せず、結果として利益率だけが下がっていないでしょうか。
会議はどうでしょうか。毎月会議を開いていても、売上報告だけで終わり、粗利益、固定費、資金繰り、案件別採算、社員ごとの役割まで話し合えていない会社は少なくありません。これでは、会議をしていても経営は変わりません。
幹部の役割はどうでしょうか。肩書きは部長、課長、工場長であっても、実際には何を決める人なのか、どこまで責任を持つのかが曖昧なままになっていないでしょうか。
社長が代わっても、受注判断、会議、役割、評価、数字の見方が変わらなければ、会社の動き方は変わりません。
2代目社長がやるべきことは、いきなり大きな改革を掲げることではありません。まずは、会社の日常業務の中で「先代の時代のまま残っている仕組み」を見つけることです。
具体的には、次のような項目を書き出してみてください。
・利益が薄くても、昔からの流れで受けている仕事はないか
・社長が毎回判断している業務は何か
・幹部の役割と責任範囲は明確になっているか
・会議で数字を見て意思決定できているか
・社員評価が年功や感覚に偏っていないか
・現場の改善提案が実行される仕組みはあるか
この整理をすると、会社が動かない理由が少しずつ見えてきます。
たとえば、利益率の低い仕事を減らしたいのであれば、まず案件別の粗利益を確認する。幹部に任せたいのであれば、幹部が判断してよい範囲を決める。会議を変えたいのであれば、売上報告だけでなく、利益、資金繰り、課題、次の行動まで確認する。
このように、仕組みを一つずつ変えていくことで、会社は少しずつ新社長の方針で動き始めます。
2.2. 古参社員・幹部が、今も先代のやり方を基準にしている
事業承継後の会社で、もう一つ大きな影響を持つのが古参社員や幹部の存在です。
長年会社を支えてきた社員や幹部は、会社にとって大切な存在です。取引先のことも知っている。現場のことも分かっている。先代の考えも理解している。だからこそ、2代目社長にとって頼りになる場面も多いはずです。
一方で、古参社員や幹部が、今も先代のやり方を基準にしている場合、会社の変化を止める要因になることがあります。
「昔からこのやり方でやってきました」
「このお客様には強く言わない方がいいです」
「先代なら、この仕事は受けていました」
「うちの会社は、そういう会社ではありません」
このような言葉が出てくると、2代目社長は判断に迷います。特に、社歴の長い幹部から言われると、「自分より現場を知っている人が言うのだから、無理に変えない方がいいのかもしれない」と感じてしまうこともあります。
しかし、その判断が本当に今の会社に合っているかは、別の問題です。
昔は売上を優先して仕事を受けることに意味があったかもしれません。多少利益が薄くても、人件費や材料費が今ほど高くなければ、何とか利益が残ったかもしれません。先代の人間関係で次の仕事につながっていたかもしれません。
しかし今は、同じ判断を続けることで、忙しいのに利益が残らない会社になってしまう可能性があります。
古参社員や幹部の経験は大切です。しかし、その経験が今の経営環境に合っているかどうかは、数字と方針で確認する必要があります。
ここで大切なのは、古参社員や幹部を敵にしないことです。先代のやり方を否定するように伝えると、反発が生まれます。「自分たちが守ってきた会社を否定された」と受け取られてしまうからです。
そうではなく、まずは敬意を示したうえで、今の環境では何を変える必要があるのかを数字で共有することです。
たとえば、次のように伝えます。
「これまでこの取引先を大切にしてきたことは理解しています。ただ、今の原価と人件費で見ると、この条件では利益が残りません」
「先代の時代には合っていたやり方だと思います。ただ、今後も会社を続けていくためには、受注基準を見直す必要があります」
「これまでの信用を守るためにも、赤字の仕事を続けるのではなく、適正な価格でお願いできる関係に変えていきたいと思っています」
このように、先代や古参社員を否定するのではなく、会社を守るために判断基準を更新するという伝え方をすることが重要です。
今日からできることは、古参社員や幹部と「昔から続けているが、今は見直すべき仕事や慣習」を一緒に書き出すことです。社長一人で決めるのではなく、幹部にも数字を見せながら考えてもらうことで、改革は進めやすくなります。
2.3. 2代目社長が遠慮してしまうことで、改革が先送りになる
事業承継後に会社が変わらない理由は、社員側だけにあるわけではありません。2代目社長自身が遠慮してしまい、必要な改革を先送りしていることもあります。
「先代が築いた会社だから、あまり強く変えにくい」
「古参社員に反発されたら困る」
「まだ自分は経験が浅いので、強く言えない」
「取引先との関係が悪くなるのが怖い」
「今まで頑張ってきた社員に厳しいことを言いにくい」
このような気持ちは、決して珍しいものではありません。むしろ、真面目で責任感の強い2代目社長ほど、周囲に配慮しすぎてしまいます。
しかし、遠慮を続けていると、会社は変わりません。利益の薄い仕事は残り、幹部の役割は曖昧なままになり、社員は従来のやり方を続けます。そして、最終的には社長だけが忙しくなり、資金繰りや人の問題を一人で抱えることになります。
2代目社長が本当に会社を守りたいのであれば、周囲に遠慮して問題を先送りするのではなく、残すものと変えるものを自分の言葉で示す必要があります。
もちろん、急に大きな改革を進める必要はありません。大切なのは、今日から一つだけでも具体的な行動を始めることです。
まず、「変えなければいけないと分かっているのに、先送りしていること」を3つ書き出してみてください。
・利益の薄い取引の見直し。
・幹部の役割の明確化。
・古参社員との面談。
・会議の進め方の変更。
・社員評価の見直し。
・先代との役割分担の整理。
次に、その中から最も影響が大きく、かつ今月中に着手できるものを一つ選びます。そして、いきなり結論を出すのではなく、「現状を確認する場」を作ります。
たとえば、利益の薄い取引であれば、まず案件別の粗利益を確認する。幹部の役割であれば、各幹部に任せたい業務を書き出す。古参社員との関係であれば、これまで支えてくれたことへの感謝を伝えたうえで、今後変えたい方向性を話す。
改革は、強引に押し切ることではありません。
会社を守るために、必要な現実を見える化し、関係者と共有し、一つずつ判断基準を更新していくことです。
事業承継から3年たっても会社が動かないと感じているなら、まずは「まだ変えられていない仕組み」を一つ見つけることから始めてください。
社長が一つの判断基準を変えれば、幹部の動きが変わります。
幹部の動きが変われば、現場の空気が変わります。
現場の空気が変われば、会社は少しずつ動き出します。
3. 社長が全部抱える会社は、3年たっても自走しない
事業承継から3年ほど経っても会社が思うように動かない場合、よく見られるのが「社長が全部抱えている会社」です。
売上の確認、資金繰り、銀行対応、取引先との交渉、社員の相談、クレーム対応、採用、幹部への指示、現場の細かい判断まで、すべてが社長に集まっている。社長自身も「自分が見ておかないと不安」「任せても結局うまくいかない」と感じて、つい口を出してしまう。
その結果、社長は朝から晩まで忙しく動いているのに、会社全体はなかなか前に進みません。
社員から見ると、何かあれば社長に確認すればよい。幹部から見ると、最終的には社長が判断してくれる。現場から見ると、自分たちで考えるより、社長の指示を待った方が安全。このような状態が続くと、社員や幹部はますます判断しなくなっていきます。
社長が頑張っているのに会社が自走しないのは、努力が足りないからではありません。むしろ、社長が頑張りすぎていることが、会社の成長を止めていることがあります。
社長がすべてを抱える会社では、社員は判断する機会を失い、幹部は育たず、会社はいつまでも社長依存のままになります。
本当に会社を動かしたいのであれば、社長がさらに頑張るのではなく、社長が抱えている判断や役割を整理し、幹部や社員が動ける状態をつくる必要があります。
3.1. 社長が忙しいほど、社員は判断しなくなる
中小企業の社長は、本当に忙しいものです。特に事業承継後の2代目社長・後継社長は、先代から引き継いだ取引先や社員との関係を守りながら、自分の代の経営も作っていかなければなりません。
そのため、日々の業務の中で、どうしても社長に判断が集中します。
「この見積もりで出してよいですか」
「このお客様にはどう対応しますか」
「この社員には誰が注意しますか」
「この支払いはいつ行いますか」
「この案件は受けてもよいですか」
一つひとつは小さな相談でも、毎日積み重なると、社長の時間と意識を大きく奪います。そして、社長がすぐに答えを出してしまうほど、社員は自分で考える前に社長へ確認するようになります。
もちろん、最初はその方が早いかもしれません。社長が判断すれば、すぐに物事は進みます。社員も安心します。ミスも減るかもしれません。
しかし、それを続けていると、社員は判断する力を身につけません。幹部も責任を持って考える機会を失います。結果として、社長がいなければ決まらない会社になってしまいます。
社長が忙しい会社ほど、実は社員が考える余白を失っていることがあります。
ここで必要なのは、社長がすべての相談に答えることではありません。相談が来たときに、すぐ答えを出す前に、社員に考えさせることです。
たとえば、社員から「この案件は受けてもよいでしょうか」と聞かれたとします。そのときに、すぐ「受けよう」「断ろう」と答えるのではなく、次のように聞き返してみてください。
「粗利益はどのくらい残るのか」
「納期に無理はないか」
「既存の仕事に影響は出ないか」
「このお客様との今後の関係をどう見ているか」
「あなたならどう判断するか」
このように問い返すことで、社員は自分で考えるようになります。
大切なのは、社員に丸投げすることではありません。判断の視点を教えながら、少しずつ考える機会を増やしていくことです。
最初は時間がかかります。社長が答えを出した方が早い場面も多いでしょう。しかし、ここを我慢して社員に考えさせなければ、会社はいつまでも社長の判断待ちになります。
今日からできることは、社長に集まっている相談を記録することです。1週間だけで構いません。どのような相談が来ているのかを書き出してみてください。
そのうえで、次の3つに分けます。
・社長が必ず判断すべきもの
・幹部が判断できるようにすべきもの
・現場で判断できるようにすべきもの
この整理をするだけでも、社長が抱えすぎている業務が見えてきます。そこから一つずつ、幹部や社員に判断を移していくのです。
3.2. 右腕不在の会社では、改革も現場改善も止まる
社長が全部抱えている会社には、もう一つ大きな問題があります。それは、社長の考えを現場に落とし込み、現場の問題を社長に伝える「右腕」が育っていないことです。
2代目社長が会社を変えようとするとき、社長一人で現場の隅々まで動かすことはできません。新しい方針を伝える。数字を確認する。幹部会議を回す。社員の課題を拾う。現場改善を進める。こうしたことを社長一人でやろうとすると、必ず限界が来ます。
右腕とは、単に社長の言うことをそのまま伝える人ではありません。社長の考えを理解し、現場の状況を踏まえ、社員に伝わる言葉に変え、実行まで進める人です。
ところが、多くの会社では、右腕候補はいても、役割が明確になっていません。
・営業部長なのか。
・工場長なのか。
・総務責任者なのか。
・古参社員なのか。
・社長の親族なのか。
誰が社長の代わりに現場をまとめるのか、誰が数字を見て改善を進めるのか、誰が社員の行動を変えていくのかが曖昧なままになっているのです。
その結果、社長が「改革を進めたい」と思っても、現場にはなかなか浸透しません。会議で決めたことが実行されない。改善策が途中で止まる。社員への伝え方が人によって変わる。結局、最後は社長が一つずつ確認することになります。
右腕不在の会社では、社長の考えが現場に届かず、現場の変化も社長まで戻ってきません。
右腕を育てるために必要なのは、いきなり完璧な幹部を求めることではありません。まずは、社長が何を任せたいのかを明確にすることです。
たとえば、右腕候補に任せる役割としては、次のようなものがあります。
・幹部会議の進行を任せる
・月次の数字を確認し、課題を整理してもらう
・社員から上がってくる問題を一次対応してもらう
・現場改善の進捗を確認してもらう
・社長の方針を各部署に伝えてもらう
・社長に上げるべき問題と、現場で解決する問題を分けてもらう
このように具体的に任せることで、右腕候補は少しずつ育っていきます。
ただし、任せるときに注意すべきことがあります。それは、責任だけを押しつけないことです。
「これからは君に任せる」と言いながら、判断基準も権限も与えない。これでは、任された側は困ってしまいます。社員から相談されても、どこまで自分で決めてよいのか分からないからです。
右腕を育てるには、任せる業務、判断できる範囲、社長に相談すべき内容を明確にする必要があります。
今日からできることは、まず「社長の右腕として期待したい人」を一人決めることです。そして、その人にいきなり大きな役割を任せるのではなく、今月だけ任せる小さなテーマを一つ決めます。
たとえば、「会議で決まった行動の進捗確認を任せる」「粗利益率の低い案件を一覧にしてもらう」「社員から上がっている困りごとを整理してもらう」といったところから始めればよいのです。
小さく任せ、振り返り、次の役割を増やしていく。この積み重ねが、右腕育成につながります。
3.3. 任せる前に、役割と責任の範囲を明確にする
社長が会社を自走させたいと思ったとき、「もっと幹部に任せよう」「社員に主体的に動いてもらおう」と考えるのは自然なことです。
しかし、ここで注意しなければならないのは、役割と責任の範囲が曖昧なまま任せてしまうことです。
「営業は任せた」
「現場は任せた」
「社員のことは任せた」
「数字を見ておいてほしい」
このような任せ方では、任された側は動きにくくなります。何をどこまで決めてよいのか分からないからです。
たとえば、「営業を任せる」といっても、実際にはさまざまな判断があります。
・新規顧客の開拓方針。
・既存顧客への値上げ交渉。
・値引きの判断。
・利益率の低い案件の受注可否。
・営業担当者の育成。
・クレーム時の対応。
・売上目標と利益目標の管理。
このうち、どこまでを営業責任者が決めてよいのか。どこから社長に相談するのか。ここが曖昧であれば、結局すべて社長に戻ってきます。
任せるとは、社長が手を放すことではありません。何を任せ、どこまで判断してよいかを明確にすることです。
そのために、まず役割を具体的に書き出してみてください。
たとえば、営業責任者であれば、次のように整理します。
・月次の売上と粗利益を確認する
・利益率の低い案件を社長に報告する
・一定範囲内の値引き判断を行う
・営業担当者との週次面談を行う
・新規顧客開拓の進捗を管理する
・クレームの初期対応を行う
このように書き出すと、任せる側も任される側も、何をすればよいのかが分かります。
次に、責任範囲を決めます。
・いくらまでの値引きなら判断してよいのか
・どの利益率を下回ったら社長に相談するのか
・どのクレームは現場で対応し、どのクレームは社長に報告するのか
・採用や評価にどこまで関与するのか
・月に何回、社長へ報告するのか
ここまで決めることで、幹部や社員は初めて安心して動けるようになります。
そして、任せた後は、必ず振り返りの場を作ることです。任せっぱなしにするのではなく、毎週または毎月、何ができたのか、どこで迷ったのか、次にどうするのかを確認します。
この振り返りがあることで、幹部は成長します。社長も安心して任せられるようになります。
会社を自走させる第一歩は、社長が抱えている仕事を減らすことではなく、幹部や社員が判断できる役割と責任の範囲を明確にすることです。
まずは、社長が今抱えている仕事をすべて書き出してみてください。その中から、「本当に社長でなければできない仕事」と「幹部や社員に移せる仕事」に分けます。
次に、幹部や社員に移せる仕事の中から、今月一つだけ任せるものを選びます。そして、任せる内容、判断できる範囲、報告のタイミングを決めてください。
大きな組織改革を始める必要はありません。
まずは、一つの仕事を、一人に、明確な範囲で任せることです。
その小さな一歩が、社長依存の会社を、自走する会社へ変える始まりになります。
4. 会社を動かすには、まず「数字」と「未来」を見える化する
事業承継から3年たっても会社が思うように動かない場合、社長はつい「社員の意識を変えなければ」「幹部にもっと動いてもらわなければ」と考えがちです。
もちろん、社員や幹部の意識を変えることは大切です。しかし、その前に社長がやるべきことがあります。
それは、会社の「数字」と「未来」を見える化することです。
なぜなら、数字が見えていなければ、どの事業を伸ばすべきか、どの仕事を見直すべきか、どこに人を配置すべきかが判断できないからです。また、未来が見えていなければ、社員は自分たちがどこへ向かって働いているのか分かりません。
・売上はある。
・仕事も忙しい。
・社員も毎日動いている。
・それなのに、なぜか利益が残らない。
このような会社では、売上だけを見て経営していることが少なくありません。売上が増えれば会社はよくなると思っていたのに、実際には材料費、人件費、外注費、借入返済、社長の時間が増え、手元にお金が残らない。これでは、社員がどれだけ頑張っても、会社は苦しくなっていきます。
会社を動かすためには、まず「どこで利益が出ているのか」「どこで利益を失っているのか」を明らかにする必要があります。
そして同時に、社長自身が「この会社をこれからどうしたいのか」を言葉にしなければなりません。社員は、社長の頭の中を見ることはできません。社長がどれだけ会社の未来を考えていても、それが言葉や数字になっていなければ、社員は日々の仕事に落とし込めないのです。
会社が動かない本当の理由は、社員のやる気がないからではなく、社員が判断するための数字と、向かうべき未来が見えていないことにあります。
だからこそ、2代目社長・後継社長が最初に取り組むべきことは、大きな改革を掲げることではありません。まずは、会社の数字を整理し、社長の未来像を言葉にし、社員が判断できる共通の基準をつくることです。
4.1. 売上ではなく、利益が残る事業を見極める
中小企業では、どうしても売上に意識が向きがちです。
「売上を増やさなければ」
「新規顧客を開拓しなければ」
「受注を減らすわけにはいかない」
「社員を遊ばせるわけにはいかない」
このように考えるのは自然なことです。売上がなければ、会社は成り立ちません。社員の給与も払えません。銀行にも説明できません。
しかし、売上が増えても利益が残らなければ、会社は強くなりません。むしろ、売上を追いかけるほど忙しくなり、資金繰りが苦しくなることもあります。
たとえば、次のような仕事はないでしょうか。
・売上金額は大きいが、粗利益率が低い仕事。
・納期が厳しく、現場に大きな負担がかかる仕事。
・値引きが多く、手間の割に利益が残らない仕事。
・長年の付き合いで断れず、赤字に近い状態で続けている仕事。
・クレーム対応や追加対応が多く、実質的に利益を削っている仕事。
こうした仕事は、売上だけを見ると会社に貢献しているように見えます。しかし、粗利益や人件費、外注費、社長や社員の時間まで含めて見ると、会社を苦しくしている場合があります。
事業承継後の社長が見極めるべきなのは、売上が大きい仕事ではなく、会社に利益と余力を残している仕事です。
まずは、直近3か月から6か月の売上を、事業別、取引先別、案件別に分けてみてください。そして、それぞれについて、粗利益がどのくらい残っているかを確認します。
難しく考える必要はありません。最初は大まかでも構いません。
・売上はいくらか
・直接かかった原価はいくらか
・粗利益はいくらか
・粗利益率は何%か
・手間や時間がかかりすぎていないか
・今後も続けたい仕事か
このように整理するだけでも、見えてくるものがあります。
「売上は大きいが、実は利益が残っていない仕事」
「売上は小さいが、利益率が高く、社員の負担も少ない仕事」
「昔から続けているが、今の原価では条件を見直すべき仕事」
「社長の時間を大きく奪っている割に、利益が少ない仕事」
これらが見えてくると、経営判断が変わります。
すぐに取引をやめる必要はありません。いきなり値上げをする必要もありません。しかし、少なくとも「この仕事は今後も同じ条件で続けてよいのか」という問いを持つことができます。
今日からできることは、まず「利益が残っていないかもしれない仕事」を3つ書き出すことです。そのうえで、実際に売上、原価、粗利益、対応時間を確認してみてください。
数字で見ると、感覚だけでは分からなかった現実が見えてきます。そして、その現実をもとに、値上げ交渉、受注条件の見直し、業務効率化、撤退判断などを検討できるようになります。
4.2. 社長の夢を「事業未来図」として言葉にする
数字を見える化すると、会社の現実が見えてきます。しかし、数字だけでは会社は動きません。
なぜなら、社員は数字だけで働いているわけではないからです。
社員が知りたいのは、売上目標や利益目標だけではありません。
「この会社は、これからどこへ向かうのか」
「社長は、どのような会社にしたいのか」
「自分たちは、何のために今の仕事をしているのか」
「今の変化は、会社にとってどのような意味があるのか」
ここが見えなければ、社員は目の前の仕事をこなすだけになります。
2代目社長・後継社長の頭の中には、必ず何かしらの想いがあるはずです。
・先代が築いた信用を守りたい。
・古い体質を変えて、若手が活躍できる会社にしたい。
・利益率を高めて、社員に還元できる会社にしたい。
・社長一人に依存しない組織にしたい。
・地域や顧客から選ばれ続ける会社にしたい。
・社員が安心して長く働ける会社にしたい。
この想いは、決してきれいな言葉でなくても構いません。むしろ、社長自身の実感から出てくる言葉であることが大切です。
ただし、頭の中にあるだけでは、社員には伝わりません。会議で一度話しただけでも、現場には浸透しません。
だからこそ、社長の夢を「事業未来図」として言葉にする必要があります。
事業未来図とは、難しいものではありません。社長の頭の中にある未来を、社員が理解できる形に整理したものです。
たとえば、次のような内容です。
・3年後、どのような会社になっていたいのか
・どの事業を伸ばしていくのか
・どの仕事は見直していくのか
・どのような顧客に選ばれたいのか
・社員にどのような働き方をしてほしいのか
・幹部にどのような役割を担ってほしいのか
・先代から受け継ぐものは何か
・自分の代で変えるものは何か
これらを言葉にしていくと、社長自身の考えも整理されます。
社長の夢は、単なる理想論ではありません。会社の方向性を決め、社員の判断をそろえるための経営の土台です。
たとえば、「社員が安心して働ける会社にしたい」という想いがあるなら、そのためには利益を残さなければなりません。利益を残すためには、赤字に近い仕事を見直す必要があります。見直すためには、案件別の粗利益を確認する必要があります。
このように、社長の夢と日々の数字はつながっています。
反対に、社長の夢が言葉になっていないと、数字の改善も単なる締め付けに見えてしまいます。社員からすると、「なぜ急に利益を見ろと言い出したのか」「なぜ今まで受けていた仕事を見直すのか」と不安になります。
だからこそ、数字を示すだけでなく、その先にある未来を語る必要があります。
社員が動き出すのは、数字で現実を理解し、社長の言葉で未来を感じたときです。
まずは、社長自身が「3年後、この会社をどうしたいのか」を10行で書いてみてください。うまく書く必要はありません。箇条書きで構いません。
そのうえで、次の幹部会議や社員との面談で、少しずつ共有してみてください。社長の未来像が伝わることで、社員は今の変化を受け止めやすくなります。
4.3. 社員が判断できる共通の基準をつくる
数字を見える化し、事業未来図を言葉にしても、それだけで会社がすぐに動くわけではありません。
最後に必要なのは、社員が日々の仕事の中で使える共通の基準をつくることです。
社長がどれだけ「利益を大切にしよう」と伝えても、社員が具体的にどう判断すればよいか分からなければ、行動は変わりません。
たとえば、営業担当者であれば、次のような場面で判断に迷います。
・値引きを求められたとき、どこまで応じてよいのか。
・利益率が低い案件でも、既存顧客なら受けるべきなのか。
・短納期の依頼を受けるべきか、断るべきか。
・手間のかかる顧客に、どこまで個別対応するのか。
・新規顧客と既存顧客のどちらを優先するのか。
この判断が人によってバラバラだと、会社はまとまりません。社員は迷い、幹部は判断を避け、最終的には社長に確認が戻ってきます。
社員に主体的に動いてほしいなら、社員が同じ方向で判断できる共通の基準が必要です。
たとえば、次のような基準を決めていきます。
・粗利益率○%以上を目安に受注する
・○%を下回る案件は、事前に責任者へ相談する
・短納期対応には追加費用を見積もりに反映する
・値引きは理由と上限を明確にする
・赤字案件は原則として受けない
・既存顧客でも、条件が合わない場合は見直しを提案する
・クレーム対応は初期対応と補償判断を分ける
・幹部会議では、売上だけでなく粗利益と資金繰りを確認する
このような基準があると、社員は判断しやすくなります。幹部も部下に説明しやすくなります。社長も細かい判断を一つずつ抱え込まずに済みます。
もちろん、最初から完璧な基準を作る必要はありません。むしろ、最初は一つで十分です。
たとえば、「今月から粗利益率を確認してから受注する」だけでも、会社の見方は変わります。
「値引きは必ず理由を記録する」だけでも、営業の意識は変わります。
「赤字に近い仕事は幹部会議で共有する」だけでも、受注判断は変わります。
大切なのは、基準を決めたら、社長だけで持っておかないことです。幹部と共有し、社員にも伝え、会議や面談で繰り返し確認することです。
共通の基準は、一度作って終わりではありません。実際に運用しながら、会社の状況に合わせて見直していけばよいのです。
会社を動かすとは、社長がすべてを判断することではありません。社員が同じ数字を見て、同じ未来を理解し、同じ基準で判断できる状態をつくることです。
今日から始めるなら、まず次の3つに取り組んでみてください。
・一つ目は、利益が残っていない可能性のある仕事を3つ書き出すことです。
・二つ目は、3年後の会社の姿を10行で書き出すことです。
・三つ目は、社員が迷いやすい判断について、基準を一つだけ決めることです。
これだけでも、会社の見え方は変わります。
・数字が見えれば、現実が分かります。
・未来を言葉にすれば、社員に方向性が伝わります。
・判断基準があれば、社員は動きやすくなります。
事業承継から3年たっても会社が動かないと感じているなら、まずは数字と未来を見える化することから始めてください。そこから、社長依存の会社は少しずつ、自走する会社へと変わり始めます。
5. 今日からやれる対処法は、大きな改革ではなく小さな整理から始める
事業承継から3年たっても会社が思うように動かないと、社長はどうしても焦ります。
「早く組織を変えなければ」
「幹部を育てなければ」
「利益体質に変えなければ」
「先代の時代から続くやり方を見直さなければ」
このように考えるほど、やるべきことが増え、何から手をつければよいのか分からなくなってしまいます。
しかし、会社を変えるために、いきなり大きな改革を始める必要はありません。むしろ、社内の準備ができていない状態で大きな改革を打ち出すと、社員や幹部がついてこられず、途中で止まってしまうことがあります。
大切なのは、まず社長自身の頭の中を整理することです。
・社長が何に困っているのか。
・誰に何を任せたいのか。
・会社として何を優先すべきなのか。
・この90日で何を変えるのか。
これらが曖昧なままでは、社員に「動いてほしい」と伝えても、現場は動けません。幹部に「任せる」と言っても、何をどこまで任されたのか分かりません。会社として「変わろう」としても、何から始めるのかが見えません。
会社を動かす第一歩は、大きな改革ではなく、社長の頭の中にある悩み、期待、優先順位を見える化することです。
特に中小企業では、社長の考え方がそのまま会社の動きに影響します。社長の頭の中が整理されていれば、幹部や社員にも方針が伝わりやすくなります。反対に、社長自身が混乱したままでは、会社全体も迷います。
事業承継後の会社を動かすために必要なのは、一気に会社を変えることではなく、今日から一つずつ整理し、社員が動ける状態をつくることです。
ここでは、今日から取り組める3つの対処法についてお伝えします。
5.1. まずは社長自身が「今、何に困っているか」を書き出す
会社が動かないと感じている社長ほど、日々さまざまな問題を抱えています。
・売上が伸びない。
・利益が残らない。
・資金繰りが不安。
・社員が自分から動かない。
・幹部が判断してくれない。
・先代の影響が残っている。
・古参社員に遠慮してしまう。
・若手が育たない。
・会議で決めたことが実行されない。
・社長に確認が集中する。
これらが頭の中で混ざったままだと、何から手をつければよいのか分からなくなります。その結果、目の前の問題に追われるだけになり、会社を変えるための行動が後回しになります。
そこでまずやっていただきたいのが、社長自身が今困っていることを、すべて紙に書き出すことです。
きれいに整理する必要はありません。文章にする必要もありません。箇条書きで構いません。
「利益が残らない」
「幹部が動かない」
「営業会議が形だけになっている」
「古参社員に強く言えない」
「先代の顔色を見ている社員がいる」
「自分が判断しないと進まない仕事が多い」
「若手に何を期待すればよいか分からない」
このように、思いつくままに書き出してみてください。
書き出すことで、頭の中で大きく見えていた問題が、少しずつ分解されます。すると、「これは数字の問題だ」「これは人の役割の問題だ」「これは先代との関係の問題だ」「これは社長が抱えすぎている問題だ」と見えるようになります。
次に、書き出した悩みを次の3つに分けます。
・数字の問題
・人と役割の問題
・判断基準の問題
たとえば、「利益が残らない」は数字の問題です。「幹部が動かない」は人と役割の問題です。「値引きの判断が毎回社長に戻ってくる」は判断基準の問題です。
このように分けるだけで、対処法が見えてきます。
・数字の問題であれば、売上ではなく粗利益を見る必要があります。
・人と役割の問題であれば、誰に何を任せるのかを明確にする必要があります。
・判断基準の問題であれば、現場が判断できるルールを決める必要があります。
悩みを書き出すことは、単なる整理ではありません。社長が次に何をすべきかを見つけるための経営行動です。
今日、まず30分だけ時間を取ってください。スマートフォンのメモでも、ノートでも構いません。今、社長自身が困っていることを20個書き出してみてください。
その中から、「放置すると会社に最も影響が大きいもの」を一つ選びます。それが、次に取り組むテーマになります。
5.2. 幹部・社員に期待する役割を一人ずつ明文化する
会社が動かない理由の一つに、幹部や社員の役割が曖昧なことがあります。
社長としては、「この人にはもっと現場を見てほしい」「この幹部には数字を管理してほしい」「この社員には後輩を育ててほしい」と思っているかもしれません。
しかし、その期待が本人に伝わっていなければ、相手は動けません。
・社長の頭の中では期待している。
・でも、本人には明確に伝えていない。
・本人は、今まで通りの仕事をしている。
・社長は、「なぜ動いてくれないのか」と不満を感じる。
このすれ違いは、多くの中小企業で起きています。
特に、事業承継後の会社では、先代の時代からの役割がそのまま残っていることがあります。肩書きは部長、課長、工場長、店長であっても、実際に何を決める人なのか、どこまで責任を持つ人なのかが曖昧なままになっているのです。
幹部や社員に動いてほしいなら、まず社長がその人に何を期待しているのかを明文化する必要があります。
たとえば、幹部については次のように書き出します。
・この人に任せたい仕事は何か
・この人に判断してほしいことは何か
・この人に見てほしい数字は何か
・この人に育ててほしい部下は誰か
・この人に社長へ報告してほしいことは何か
・この人に今後伸ばしてほしい力は何か
社員についても同じです。
・今の役割は何か
・今後期待する役割は何か
・任せたい仕事は何か
・改善してほしい行動は何か
・評価している点は何か
・今後成長してほしい点は何か
このように一人ずつ書き出すことで、社長自身の期待が明確になります。
ここで大切なのは、いきなり本人に厳しく伝えることではありません。まずは社長自身が整理することです。そのうえで、面談や会議の場で少しずつ共有していきます。
たとえば、幹部には次のように伝えます。
「これからは、現場の細かい確認だけでなく、粗利益の管理も一緒に見てほしい」
「今後は、若手社員の育成についても役割を持ってほしい」
「この金額までの値引き判断は任せたい。ただし、粗利益率が一定以下になる場合は相談してほしい」
「毎月の会議では、売上だけでなく、利益と課題も報告してほしい」
ここまで伝えると、任された側は何をすればよいのか分かります。
反対に、「もっとしっかりやってほしい」「主体的に動いてほしい」「幹部らしくしてほしい」といった抽象的な言葉だけでは、行動は変わりません。本人にとって、何をどう変えればよいのかが見えないからです。
人は、期待されていないから動かないのではありません。何を期待され、どこまで任され、何で評価されるのかが分からないから動けないのです。
今日から始めるなら、まず幹部や主要社員を3人選んでください。そして、それぞれについて「今の役割」と「これから期待する役割」を書き出します。
そのうえで、次の面談や会議で、いきなり全部を伝えるのではなく、一人ひとりに一つずつ期待を伝えてみてください。
「あなたには、今後この部分を任せたい」
「まずは今月、この数字を一緒に見てほしい」
「この業務については、あなたの判断で進めてほしい」
この小さな伝え方の積み重ねが、幹部や社員の動きを変えていきます。
5.3. 90日単位で、会社を動かすテーマを一つに絞る
事業承継後の会社を変えようとすると、取り組むべき課題はたくさん出てきます。
・利益改善
・営業強化
・幹部育成
・社員教育
・会議改革
・業務効率化
・価格交渉
・採用
・資金繰り
・先代との役割整理
・その他整理すべき事項
どれも大切です。しかし、すべてを一度に進めようとすると、ほとんどの場合、途中で止まります。社長も社員も日常業務を抱えています。その中で多くの改革テーマを同時に走らせると、何が最優先なのか分からなくなってしまいます。
結果として、会議では毎回いろいろな話が出るものの、実行されない。決めたことが続かない。社員も「また新しいことが始まった」と受け止めてしまう。
これでは、会社は動きません。
会社を本当に変えたいなら、まず90日単位でテーマを一つに絞ることです。
なぜ90日なのかというと、短すぎると変化が出る前に終わってしまい、長すぎると緊張感が続かないからです。3か月であれば、現状を確認し、行動を決め、実行し、振り返るところまで進めやすくなります。
たとえば、最初の90日テーマは、次のようなもので構いません。
・粗利益率の低い仕事を見える化する
・幹部の役割を明確にする
・社長に集まる相談を減らす
・営業会議を売上報告から利益改善の場に変える
・値引き判断の基準をつくる
・古参社員との面談を行う
・若手社員に任せる仕事を一つ増やす
大切なのは、テーマを広げすぎないことです。
「組織改革をする」では大きすぎます。
「幹部3人の役割を明文化する」なら実行できます。
「利益体質に変える」では大きすぎます。
「直近3か月の案件別粗利益を確認する」なら実行できます。
「社員を育てる」では大きすぎます。
「若手社員3人と面談し、期待する役割を伝える」なら実行できます。
このように、実行できる大きさまで小さくすることが重要です。
90日テーマを決めたら、次にやることは、毎月ではなく毎週確認することです。大きな会議でなくても構いません。15分でもよいので、進捗を確認します。
・今週やることは何か
・誰が担当するのか
・いつまでに行うのか
・何が止まっているのか
・社長が判断すべきことは何か
これを毎週確認するだけで、会社の動き方は変わります。
改革が進まない会社の多くは、方針が間違っているのではありません。決めたことを確認する場がないのです。確認する場がないから、日常業務に流されてしまいます。
会社を動かすには、立派な計画よりも、決めたことを毎週確認する仕組みが必要です。
今日から始めるなら、まず次のように進めてください。
・一つ目に、今の会社で最も変えたいことを一つ選びます。
・二つ目に、それを90日で実行できる大きさに分解します。
・三つ目に、毎週15分、進捗を確認する時間を予定に入れます。
たとえば、「利益改善」をテーマにするなら、最初の90日は「利益が残っていない仕事を見える化する」と決めます。1週目は案件を洗い出す。2週目は売上と原価を確認する。3週目は粗利益率を出す。4週目は見直し候補を選ぶ。このように小さく進めます。
「幹部育成」をテーマにするなら、最初の90日は「幹部の役割を明確にする」と決めます。1週目は社長が期待を書き出す。2週目は本人と面談する。3週目は任せる業務を一つ決める。4週目は進捗を確認する。
こうして小さく始めることで、社員も幹部も動きやすくなります。社長も、何を見ればよいのか分かります。
会社を変える一番現実的な方法は、大きな改革を掲げることではなく、90日で一つのテーマに絞り、小さな実行と振り返りを積み重ねることです。
事業承継から3年たっても会社が動かないと感じているなら、まずは今日、紙を1枚用意してください。
・今、困っていることを書き出す。
・幹部や社員に期待する役割を書く。
・この90日で変えるテーマを一つ決める。
この3つを行うだけでも、会社の見え方は変わります。
会社は、ある日突然大きく変わるわけではありません。社長が一つ整理し、一つ伝え、一つ任せ、一つ確認する。その積み重ねによって、少しずつ動き始めます。
社長一人が抱え込む会社から、幹部や社員が自分で考えて動く会社へ。
その第一歩は、今日から始める小さな整理です。
まとめ
事業承継から3年たっても会社が思うように動かないと、2代目社長・後継社長はどうしても自分を責めてしまいます。
「自分には社長としての力が足りないのではないか」
「先代のように社員を動かせていないのではないか」
「このままでは会社を守れないのではないか」
そのように感じることもあるかもしれません。
しかし、会社が動かない理由は、社長の能力不足だけではありません。社員のやる気がないからでもありません。多くの場合、会社の未来、数字、役割、判断基準が見える化されていないことが原因です。
社長の頭の中には、会社をどうしたいのか、どの事業を伸ばしたいのか、誰に何を任せたいのかという考えがあるはずです。しかし、それが社員に伝わる言葉や数字になっていなければ、社員は動けません。幹部も判断できません。現場も変わりません。
また、事業承継後の会社には、先代の時代の空気や判断基準が残っています。それ自体が悪いわけではありません。先代が築いてきた信用、取引先との関係、技術、社員とのつながりは、大切な財産です。ただし、今の時代に合わないやり方まで続けてしまうと、忙しいのに利益が残らない会社になってしまいます。
2代目社長がやるべきことは、先代を否定することではなく、残すものと変えるものを整理し、自分の代の判断基準をつくることです。
そのために、まずは今日、紙を1枚用意してください。
・今、社長自身が何に困っているのかを書き出す。
・利益が残っている事業と、利益を失っている仕事を確認する。
・幹部や社員に期待する役割を一人ずつ言葉にする。
・そして、この90日で会社を動かすテーマを一つに絞る。
大きな改革を一気に進める必要はありません。一つ整理し、一つ伝え、一つ任せ、一つ確認することから始めればよいのです。
社長一人が抱え込む会社から、幹部や社員が自分で考えて動く会社へ。
会社は、今日の小さな整理から少しずつ変わり始めます。
あなたは2代目社長として、どのように会社を変えていくおつもりでしょうか?
