今週のコラム 「会社を動かせていない」と感じる二代目社長が最初の90日でやること

「社長に就任してから、自分なりに新しい方針を示してきました。しかし、古参社員はなかなか動いてくれません。会議で決めたことも、先代が別の意見を口にすると、いつの間にか元に戻ってしまいます。このままでは、いつまでたっても自分の意思で会社を動かせないのではないかと不安です。何から手をつければよいのでしょうか?」――これは、当社にご相談いただいた二代目社長から寄せられたお悩みです。
確かに、社長を引き継いだにもかかわらず、思うように会社を動かせないと悩む二代目社長は少なくありません。
「自分の決断力が足りないのではないか」「もっと強く指示を出さなければならないのではないか」と考え、就任直後から新しい方針や制度を次々に打ち出す方もいらっしゃいます。
しかし、果たしてそれで会社は動くのでしょうか?
役職として社長を引き継ぐことと、実際に会社を動かす力を引き継ぐことは、必ずしも同じではありません。
会社のなかには、組織図には表れない人間関係や、先代と古参社員との結びつき、長年続いてきた暗黙のルールがあります。こうした社内の力関係を把握しないまま改革を進めても、社員の反発を招いたり、表面上だけ賛成されて実行されなかったりする可能性があります。
「改革を急ぐべきか?それとも、しばらく様子を見るべきか?」――二代目社長にとって、非常に迷いやすい問題です。
しかし、この問いにも明確な答えがあります。
二代目社長が最初の90日で取り組むべきことは、大きな改革ではなく、社内の影響力を見える化することです。
本コラムでは、「このままでは会社を動かせない」と感じている二代目社長が、最初の90日で何を確認し、誰と話し、どのように社内の力関係を整理すればよいのかを、具体的に解説します。
はじめに
「社長になったのに、会社が思うように動かない」
二代目社長のなかには、このような悩みを誰にも相談できず、一人で抱えている方が少なくありません。
新しい方針を示しても、古参社員はなかなか動かない。会議で決めたことも、先代の一言で元に戻ってしまう。社員からは「社長」と呼ばれていても、重要な判断になると、先代や古参幹部の意向を確認しなければ前に進まない。
こうした状況が続くと、「自分には経営者としての決断力が足りないのではないか」「もっと強く指示を出すべきではないか」と考えてしまいます。
しかし、会社を動かせない原因は、二代目社長の能力不足とは限りません。
社内には、組織図や役職だけでは見えない力関係があります。先代への遠慮、古参社員同士の結びつき、長年続いてきた暗黙のルール、「この人が納得しなければ物事が進まない」という影響関係です。
これらを理解しないまま改革を急げば、正しい提案であっても反発を招きます。人事制度を変えても、新しい事業を始めても、表面上は賛成しながら、実際には誰も動かないということが起こります。
だからといって、現状を受け入れ続けてよいわけではありません。会社を動かせない状態を放置すれば、判断は遅れ、成長の機会を逃し、優秀な社員ほど将来に不安を感じて離れていきます。銀行や取引先からも、「誰が本当の経営者なのか分からない会社」と見られかねません。
二代目社長が最初の90日で行うべきことは、大きな改革を発表することでも、先代や古参社員を排除することでもありません。
最初にやるべきことは、社内の影響力を見える化し、「誰が会社を動かし、誰が物事を止めているのか」を把握することです。
まず、先代や幹部、現場の社員と話してください。そして、誰に情報が集まり、誰の意見が重視され、どこで意思決定が止まっているのかを書き出してください。
会社を動かす第一歩は、自分の力を誇示することではなく、会社を動かしている見えない力を正しく理解することです。
この記事では、二代目社長が最初の90日で社内の力関係を整理し、自分の意思で会社を動かせる状態をつくるための具体的な進め方をお伝えします。
1.二代目社長はなぜ会社を動かせないのか
「社長になったのだから、自分が決めれば会社は動く」
そう考えて就任したものの、現実は思うようにいかない。会議で方針を決めても実行されない。古参社員は返事こそするものの、動きは鈍い。新しい取り組みを始めようとすると、「先代のときは、そんなやり方ではなかった」と反発される。
このような状況に直面すると、二代目社長は次第に自信を失っていきます。
「自分には人を動かす力がないのではないか」
「もっと強く命令しなければならないのではないか」
「社長としての覚悟が足りないのではないか」
しかし、ここで自分だけを責めてはいけません。
二代目社長が会社を動かせないのは、本人の能力や覚悟が不足しているからとは限らないのです。
多くの中小企業では、社長交代の手続きは行われても、社内にある実際の権限、人間関係、情報の流れまでは引き継がれていません。
会社を動かしているのは、肩書や組織図だけではありません。先代と古参社員の長年の信頼関係、社員同士の結びつき、誰に相談すれば話が通るのかという暗黙の了解など、外からは見えにくい力が大きく影響しています。
会社を動かせないと感じたときに、最初に見直すべきなのは自分の性格ではなく、社内の意思決定がどのような力関係で成り立っているかという点です。
1.1.肩書が「社長」になっても、実権まで引き継げるわけではない
代表取締役に就任し、登記上も正式な社長になれば、法律上は会社の代表者です。
銀行や取引先との面談にも社長として出席し、社員からも「社長」と呼ばれるようになります。しかし、肩書が変わったからといって、会社のなかにあるすべての権限が自動的に移るわけではありません。
たとえば、次のような状態になっていないでしょうか。
重要な設備投資を検討するとき、先代の了解を得なければ話が進まない。人事異動を決めようとすると、古参幹部から「その人事は先代が認めないと思います」と言われる。主要取引先からの相談は、現在も先代に直接入っている。
表面上は二代目社長が経営を引き継いでいても、実際の情報や判断が先代に集まっているのであれば、実権の移行は完了していません。
二代目社長の提案がどれだけ正しくても、重要な情報が入ってこなければ、適切な判断はできません。また、決定した内容が現場に伝わらなければ、会社は動きません。
実権とは、最終決裁権だけを意味するものではありません。
誰に情報が集まるのか。社員が困ったときに誰へ相談するのか。重要な取引先が誰を会社の代表だと認識しているのか。これらも、会社を動かす実権の一部です。
たとえば、毎週の会議では二代目社長が議長を務めていても、会議の前日に古参専務が先代へ相談し、実質的な結論を決めているケースがあります。
この場合、会議は意思決定の場ではなく、事前に決まった結論を確認する場になっています。二代目社長が違う意見を出しても、社員は古参専務や先代の反応を見ながら判断します。
この状況で、二代目社長が声を荒らげても解決しません。社員を叱責すれば、一時的には従うかもしれませんが、見えないところで従来のやり方に戻る可能性があります。
まず必要なのは、誰がどの情報を持ち、誰が誰に相談し、どの段階で事実上の判断が行われているのかを確認することです。
直近1週間に決裁された、自社の重要な意思決定を3つ思い出してみてください。
その判断は、最初に誰が提案したのでしょうか。誰が賛成し、誰の反対で止まったのでしょうか。正式な会議の前に、誰と誰が話していたのでしょうか。
この流れを書き出すだけでも、組織図とは異なる実際の意思決定の仕組みが見えてきます。
1.2.先代の一言で方針が覆る会社
二代目社長が会社を動かせない典型的な例が、先代の一言で方針が覆る会社です。
二代目社長が幹部と何度も話し合い、新しい営業方針を決めたとします。ところが、先代が社員との雑談のなかで、「昔のやり方のほうがよかった」と口にする。
すると、社員は新しい方針に疑問を持ち始めます。
「社長は変えたいと言っているが、会長は反対しているのではないか」
「いずれ元に戻るなら、今は様子を見たほうがいい」
「本気で動いたら、先代から叱られるかもしれない」
このように考え、行動を止めてしまうのです。
先代に悪気があるとは限りません。会社を心配する気持ちから、自分の経験を伝えているだけかもしれません。しかし、先代の発言には、二代目社長が想像する以上の重みがあります。
長年にわたり会社を率いてきた先代は、社員にとって創業者であり、恩人であり、最終的なよりどころです。特に、先代に採用され、育てられてきた古参社員にとっては、社長交代後も影響力の大きい存在です。
先代が退任しても、社員の心理のなかでは社長交代が終わっていないことがあります。
この状態を放置すると、社員は二人の経営者の間で揺れ動きます。表向きは二代目社長に従いながら、重要な場面では先代の意向を優先するようになります。
さらに問題なのは、二代目社長自身も先代の反応を気にして、判断をためらうようになることです。
「この提案をしたら、先代はどう思うだろうか」
「反対されたら、社員の前で立場を失うのではないか」
「取引先から先代に話が伝わったら、怒られるのではないか」
こうした不安が重なると、自分の判断を出す前に、先代へ確認することが習慣になります。
もちろん、先代の経験や人脈を活用することは大切です。しかし、相談と許可は異なります。何でも先代の了承を得なければ決められない状態では、社員から見ても、二代目社長が最終責任者とは映りません。
だからといって、先代を会社から完全に排除しようとするのも適切ではありません。
それでは、先代との対立を深めるだけでなく、古参社員の不安や反発を招きます。
必要なのは、先代と二代目社長の役割を明確にすることです。
どの領域は二代目社長が最終決定するのか。先代にはどのようなテーマで助言を求めるのか。社員への指示は誰から出すのか。異なる意見がある場合、社員の前でどのように扱うのか。
こうしたルールを曖昧なままにせず、先代と話し合う必要があります。
まずは、先代の意見によって最近変更された方針を1つ書き出してみてください。その際、「先代が悪い」と考えるのではなく、なぜ社員が先代の意見を優先したのかを振り返ります。
そこには、情報共有不足、役割の曖昧さ、社員の不安など、改善すべき構造が隠れています。
1.3.問題は決断力ではなく、社内の力学にある
会社が動かないと、二代目社長は「もっと早く決めなければならない」と考えます。
確かに、経営者には決断が必要です。しかし、決断さえすれば会社が動くわけではありません。
決断した内容が社員に伝わり、役割が割り振られ、期限が決まり、進捗が確認されて初めて、経営者の意思は実行に移されます。
ところが、社内の力関係が整理されていない会社では、決断から実行までの途中で物事が止まります。
たとえば、二代目社長が新規事業への参入を決めても、営業部長が慎重な姿勢を崩さず、部下へ具体的な指示を出さない。社員も「部長が本気ではない」と感じ、動かない。
または、経費削減を決めても、先代と関係の深い取引先については誰も見直しを提案できず、結果として一部の経費しか削減できない。
これは、二代目社長の決断力だけの問題ではありません。誰がどの領域に影響力を持ち、誰の賛成がなければ動かないのかという社内の力学の問題です。
経営者が本当に確認すべきなのは、「自分は決められているか」ではなく、「自分が決めたことが、どこで止まり、なぜ実行されないのか」です。
そこで、二代目社長には一つの行動をおすすめします。
過去3か月以内に決めたにもかかわらず、進んでいない案件を3つ選んでください。そして、それぞれについて、次の内容を書き出します。
誰が担当者だったのか。いつまでに何をする予定だったのか。どの段階で止まったのか。止まった理由を誰に確認したのか。先代や古参幹部の影響はなかったか。
ここで重要なのは、担当者を責めることではありません。止まった場所を見つけ、繰り返し起きている共通点を把握することです。
もし、毎回同じ幹部のところで話が止まっているのであれば、その幹部を外すのではなく、まず意見を聞く必要があります。
何を不安に感じているのか。過去に似た取り組みで失敗した経験があるのか。自分の役割が失われると感じているのか。先代から別の話を聞いているのか。
理由が分からないまま強引に進めれば、表面的な抵抗はなくなっても、協力は得られません。
一方で、影響力を持つ人物の考えを理解し、役割を与えれば、会社を止めていた人物が改革を進める存在になることもあります。
二代目社長が会社を動かすために必要なのは、社内の力をねじ伏せることではありません。
誰がどのような思いで会社を支え、何を守ろうとしているのかを理解したうえで、その力を新しい方向へ向けることです。
まずは、社内で影響力を持つ人物を5人書き出してください。
役職の高い順ではありません。社員が困ったときに相談する人、先代から信頼されている人、現場の空気を変えられる人、反対すれば物事を止められる人を挙げます。
その5人と、次の30日以内に個別に話してください。
会社の歴史、過去の成功と失敗、現在の課題、今後残したいものについて聞きます。自分の改革案を一方的に説明する必要はありません。まずは相手の考えを理解することに徹してください。
この行動を始めるだけでも、二代目社長が見る会社の姿は変わります。
会社を動かせない原因が、自分の決断力ではなく、整理されていない社内の力関係にあると分かれば、打つべき手も見えてきます。
会社を動かす第一歩は、強い社長を演じることではありません。誰が会社を支え、誰が意思決定に影響し、どこで行動が止まっているのかを、事実として把握することです。
そのうえで、先代や古参社員の力を否定せず、役割と権限を整理していく。そこから、二代目社長が自分の意思で会社を動かせる体制づくりが始まるのです。
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2.最初の90日で改革を急いではいけない
社長に就任すると、多くの二代目社長は「早く成果を出さなければならない」と考えます。
先代と比べられることへの焦りもあります。社員や取引先から、「二代目になって会社はどう変わるのか」と見られているというプレッシャーもあります。
そのため、就任直後から組織変更を行ったり、新しい評価制度を導入したり、会議のやり方を変えたりする経営者も少なくありません。
もちろん、会社のなかに改善すべき問題があるのであれば、いずれは改革が必要です。
しかし、就任して間もない段階で改革を急ぐと、正しい内容であっても社員に受け入れられないことがあります。
なぜなら、社員は改革の内容だけを見ているわけではないからです。
「なぜ今変えるのか」
「これまでのやり方は間違っていたのか」
「自分たちの仕事や立場はどうなるのか」
「先代は本当に納得しているのか」
こうした不安を抱えながら、二代目社長の言動を見ています。
二代目社長にとっての改革は、会社を良くするための取り組みでも、社員にとっては、自分たちが築いてきたものを否定される出来事に見えることがあります。
だからこそ、最初の90日では、何を変えるかよりも先に、会社がどのように動いているのかを理解しなければなりません。
最初の90日で目指すべきなのは、大きな改革の実行ではありません。改革を受け入れてもらえる土台をつくることです。
2.1.就任直後の改革が古参社員の反発を招く理由
二代目社長が就任直後に改革を進めるとき、最も反発しやすいのが古参社員です。
古参社員のなかには、先代とともに会社を成長させ、困難な時期を乗り越えてきた人もいます。
資金繰りが厳しいときに給与の遅配を受け入れた人、休日を返上して納期に対応した人、主要取引先からの無理な要望に応えて会社の信用を守った人もいるでしょう。
そのような社員にとって、現在の仕事の進め方や社内ルールは、単なる古いやり方ではありません。
それは、会社を守ってきた経験の積み重ねであり、自分自身の誇りでもあります。
そこへ二代目社長が就任し、「これまでのやり方では通用しない」「もっと効率化しなければならない」「古い考え方を変えるべきだ」と発言したら、古参社員はどのように感じるでしょうか。
経営者としては、過去を否定したつもりがなくても、社員には「自分たちの努力を否定された」と伝わる可能性があります。
その結果、古参社員は表向きには賛成しても、心のなかでは距離を置くようになります。
会議では反対しないものの、部下には積極的に説明しない。新制度の準備を任されても、最低限の対応しかしない。問題が起きると、「だから言ったでしょう」と冷ややかに見る。
こうした静かな抵抗は、経営者からは見えにくいものです。
しかも、古参社員は社歴が長く、現場の社員から信頼されていることが多いため、その態度が周囲へ広がります。
二代目社長が古参社員一人の反発だと思っていたものが、いつの間にか現場全体の様子見につながっていることがあります。
では、改革をあきらめるべきなのでしょうか。
そうではありません。
必要なのは、改革を始める前に、古参社員が何を守ろうとしているのかを理解することです。
たとえば、新しい勤怠管理システムの導入に反対している社員がいるとします。
単にデジタル化が嫌なのではなく、現場の勤務実態がシステムに合わず、社員が不利益を受けることを心配しているのかもしれません。
営業管理を厳しくすることに反対する幹部も、管理されることが嫌なのではなく、長年築いてきた顧客との関係が数値だけで評価されることを恐れているのかもしれません。
反発の理由を聞かず、「変化を嫌う人」と決めつけてしまえば、協力を得ることはできません。
まずは、改革案を説明する前に、古参社員と個別に話してください。
「今のやり方で残すべきものは何ですか」
「過去に改革が失敗したことはありますか」
「現場が最も心配していることは何ですか」
「変えるとしたら、どこから始めるべきだと思いますか」
このように尋ねます。
ここで大切なのは、反論せずに聞くことです。
相手の意見に同意できなくても、その背景を理解することで、改革の進め方は大きく変わります。
反発をなくすことよりも、反発の理由を理解することが先です。
その理由が分かれば、改革案を修正すべきなのか、説明を増やすべきなのか、実施の順番を変えるべきなのかが見えてきます。
2.2.先代のやり方を否定すると、味方まで失う
二代目社長が会社を変えようとするとき、つい使ってしまう言葉があります。
「先代のやり方は古い」
「今の時代には合わない」
「これまでの経営では成長できない」
内容としては正しい場合もあるでしょう。
市場環境が変わり、顧客のニーズも変わり、働き方も変化しています。先代の時代に成功した方法が、これからも通用するとは限りません。
しかし、伝え方を誤ると、改革に賛成してくれるはずの社員まで失います。
なぜなら、先代のやり方を支えてきたのは、先代一人ではないからです。
役員、幹部、現場社員、取引先など、多くの人がその仕組みのなかで働き、会社を支えてきました。
先代の経営を全面的に否定することは、社員にとって、自分たちの過去の仕事まで否定されることにつながります。
たとえば、二代目社長が「これまで営業は勘と経験に頼りすぎていた。これからは数字で管理する」と発言したとします。
営業管理を数字で行うこと自体は必要です。
しかし、ベテラン営業社員には、「自分が長年積み上げてきた経験には価値がないと言われた」と伝わる可能性があります。
また、「今までの会議は時間の無駄だった」と言えば、その会議を運営してきた幹部は、自分の仕事を否定されたと感じます。
改革の必要性を強調するあまり、これまで会社を支えてきた人の誇りを傷つけてはいけません。
変えるべきものと、受け継ぐべきものを分けて考える必要があります。
先代の経営には、現在の会社を存続させてきた理由があります。
顧客との関係、技術へのこだわり、社員を大切にする姿勢、地域での信用など、数字には表れにくい資産が残されていることもあります。
二代目社長が最初に行うべきなのは、先代のやり方の欠点を探すことではありません。
「なぜ、このやり方が続いてきたのか」
「この仕組みは、誰を守るためにつくられたのか」
「現在も価値を持つ部分は何か」
を確認することです。
そして、改革を説明するときは、「これまでが間違っていたから変える」という伝え方を避けます。
「これまで会社を支えてきた強みを残しながら、今の環境に合わせて変えていきたい」
「先代の時代に築いた信用を、次の成長につなげたい」
「今までの経験を生かすために、新しい仕組みを加えたい」
このように伝えることで、社員は過去を尊重されたと感じやすくなります。
二代目社長が行う改革は、先代の経営を壊すことではありません。先代が築いたものを、次の時代でも生き残れる形に変えることです。
この考え方を持てば、古参社員を抵抗勢力として見る必要はなくなります。
むしろ、会社の歴史を知り、過去の失敗を知り、取引先との関係を知る古参社員は、改革を成功させるための重要な協力者になります。
今週、古参社員を一人選び、「先代の経営で、今後も残すべきものは何だと思いますか」と聞いてみてください。
その答えのなかに、自社が守るべき強みがあるかもしれません。
2.3.最初に必要なのは改革ではなく「観察」である
最初の90日で二代目社長に必要なのは、改革案を増やすことではありません。
会社をよく観察することです。
ここでいう観察とは、社員の働きぶりを監視することではありません。
誰に情報が集まっているのか。誰が誰に相談しているのか。会議で発言した人ではなく、最終的に誰の意見が採用されているのか。決めたことが、どの段階で止まっているのかを確認することです。
たとえば、営業会議では営業部長が報告していても、実際の顧客情報はベテラン担当者に集まっているかもしれません。
人事部長が採用を担当していても、採用の最終判断は先代の側近が握っているかもしれません。
経理担当者が資金繰り表を作成していても、銀行との交渉内容は先代しか知らないかもしれません。
組織図だけを見ていては、こうした実態は分かりません。
会社を動かすためには、正式な権限だけでなく、情報・信頼・経験がどこに集まっているかを把握する必要があります。
そこで、最初の90日を3つに分けて考えてみてください。
最初の30日は「聞く期間」です。
先代、役員、古参社員、若手社員、現場責任者と個別に話します。
質問する内容は、現在の問題点だけではありません。
会社が最も厳しかった時期、成長した理由、大きな失敗、社員が誇りに思っていること、今後失いたくないものについて聞きます。
次の30日は「整理する期間」です。
聞いた内容をもとに、情報の流れ、意思決定の流れ、人間関係、先代の影響範囲を書き出します。
役職名ではなく、実際に誰が相談されているのか、誰の言葉で社員が動くのかを確認します。
最後の30日は「小さく試す期間」です。
大規模な組織改革ではなく、会議の進め方、報告の方法、案件管理など、影響が限定されるものを一つだけ変えます。
たとえば、会議で決まったことについて、担当者、期限、確認日を明確にする。月に一度、幹部と数字を共有する。先代から社員へ直接指示が出た場合は、二代目社長にも共有する。
このような小さな仕組みから始めます。
小さな改善で実行力が高まれば、社員は「今度の改革は本当に進む」と感じるようになります。
反対に、最初から多くの制度を変えると、社員は対応しきれず、改革疲れを起こします。
二代目社長自身も、何が効果を上げたのか分からなくなります。
まずは一つだけ選び、実行し、結果を確認してください。
そして、その過程で社員がどのように反応したかを観察します。
誰が協力したのか。誰が不安を示したのか。どこで情報が止まったのか。何を説明すれば動きやすくなったのか。
この繰り返しによって、会社を動かす方法が少しずつ見えてきます。
改革を急がないということは、何もしないことではありません。会社を正しく理解し、失敗しにくい順番で行動することです。
二代目社長が最初の90日で会社の歴史、人間関係、意思決定の流れを理解すれば、その後の改革は進めやすくなります。
一方で、焦って過去を否定し、大きな変更を押しつければ、正しい改革であっても失敗する可能性があります。
会社を変える前に、会社がなぜ今の状態になっているのかを理解してください。
そのうえで、残すもの、変えるもの、すぐには触れないものを分けるのです。
二代目社長に求められるのは、誰よりも早く改革することではありません。会社の歴史と社員の思いを理解し、社員が動ける順番で改革を進めることです。
最初の90日を、成果を急ぐ期間ではなく、会社を動かす準備を整える期間として使ってください。
その積み重ねが、二代目社長の言葉が社員に届き、決めたことが実行される会社づくりにつながっていくのです。
3.会社を動かすために「社内の影響力地図」をつくる
前章では、二代目社長が最初の90日で改革を急ぐのではなく、まず会社を観察することの重要性をお伝えしました。
では、何をどのように観察すればよいのでしょうか。
そこで取り組んでいただきたいのが、「社内の影響力地図」をつくることです。
社内の影響力地図とは、単に役職や部署を並べたものではありません。
誰に情報が集まっているのか。誰の意見が社員に影響を与えているのか。誰が賛成すれば物事が進み、誰が反対すると止まるのか。先代と古参幹部、現場社員がどのような関係で結ばれているのか。
こうした、組織図には表れない実際の力関係を書き出したものです。
二代目社長が会社を動かそうとするとき、つい正式な役職や指揮命令系統だけを見てしまいます。
営業部の問題は営業部長へ、製造部の問題は工場長へ、資金繰りの問題は経理責任者へ指示すれば進むと考えます。
しかし、中小企業の実態はそれほど単純ではありません。
役職のないベテラン社員が現場の空気を左右していることもあります。先代と長年行動をともにしてきた幹部が、表には出ず社員の判断に影響を与えていることもあります。
また、正式な会議で決めた内容よりも、休憩室や社用車のなかで交わされた会話のほうが、社員の行動を変えている場合もあります。
会社を動かすためには、組織図上の権限ではなく、実際に人と情報を動かしている影響力を把握しなければなりません。
3.1.組織図だけでは、本当の意思決定者は分からない
組織図は、会社の役職や部署、指揮命令系統を示すために必要なものです。
しかし、組織図を見ただけでは、会社の本当の意思決定の流れまでは分かりません。
たとえば、営業部長が正式な責任者であっても、実際には社歴30年の営業課長に顧客情報が集まっているかもしれません。
営業部長が新しい営業方針を示しても、その課長が「今までのやり方のほうがいい」と部下へ話せば、現場は新しい方針に従わないことがあります。
製造部門でも同様です。
工場長が設備の責任者であっても、機械の特徴や不具合の対応を最もよく知っているのは、役職のない熟練社員かもしれません。
その社員の納得を得ないまま新しい設備を導入すれば、「現場では使えない」「今の機械のほうがよかった」という声が広がり、投資効果が得られなくなる可能性があります。
このように、中小企業では役職上の責任者と、実際に周囲を動かしている人物が一致しないことが珍しくありません。
さらに、情報の流れも組織図どおりとは限りません。
本来であれば、現場の問題は担当者から課長、部長、社長へと報告されるはずです。
ところが実際には、現場社員が先代へ直接相談し、先代から古参幹部へ伝わり、最後に二代目社長へ報告されることがあります。
この場合、二代目社長に情報が届いた時点では、すでに解決方法や責任の所在まで決まっているかもしれません。
社長であるにもかかわらず、判断に必要な情報が最後に届くのであれば、自分の意思で会社を動かすことは難しくなります。
会社を動かす力は、決裁印を押す権限だけではありません。情報を早く正確に受け取り、判断し、実行につなげられることも重要な力です。
まず、自社で最近行われた重要な意思決定を3つ選んでください。
たとえば、採用、設備投資、取引先の変更、新商品の発売、値上げなどです。
そして、次の内容を書き出します。
最初に問題へ気づいたのは誰か。最初に相談を受けたのは誰か。誰が選択肢をつくったのか。正式な会議の前に誰と誰が話していたのか。最終的な決定に最も影響を与えたのは誰か。
この流れを時系列で整理すると、組織図上の責任者とは別の人物が、実際には意思決定へ大きな影響を与えていることに気づく場合があります。
ここで、その人物を問題視してはいけません。
むしろ、その人物がなぜ情報を集め、なぜ周囲から相談されているのかを確認してください。
長年の経験があるからかもしれません。先代から信頼されているからかもしれません。社員の話をよく聞き、現場の事情を理解しているからかもしれません。
影響力を持つ人物は、排除すべき存在ではなく、会社を動かすために協力を得るべき存在です。
3.2.「誰が決めるか」ではなく「誰が止められるか」を見る
社内の影響力を調べるとき、多くの経営者は「誰が決めているのか」に注目します。
もちろん、最終的な意思決定者を確認することは必要です。
しかし、それだけでは会社が動かない理由を見つけられないことがあります。
なぜなら、会社のなかには、自分で物事を決めなくても、反対することで進行を止められる人がいるからです。
たとえば、二代目社長が新しい顧客管理システムの導入を決めたとします。
情報システムの担当者も賛成し、費用対効果も確認できています。
ところが、営業部門の古参幹部が「現場の負担が増える」「今の管理方法で困っていない」と消極的な態度を示したため、部下がデータ入力に協力せず、導入が進まない。
この場合、正式な決定者は二代目社長ですが、実際に導入を止めているのは古参幹部です。
また、新しい評価制度を導入しようとしたところ、先代に長年仕えてきた総務責任者が、「社員が混乱する」「先代も望んでいないと思う」と周囲に話した結果、制度案そのものが進まなくなることもあります。
この総務責任者は、最終決定権を持っていないかもしれません。
しかし、社員の不安を代弁し、先代の意向を推測して伝えることで、改革を止められる立場にあります。
社内の影響力を見るときは、発言の多い人や役職の高い人だけでなく、沈黙や慎重な態度によって周囲を止められる人にも注目する必要があります。
では、「誰が止められるか」をどのように確認すればよいのでしょうか。
過去1年間に、決定したにもかかわらず進まなかった案件を5つ挙げてください。
そして、それぞれについて次の質問をします。
誰が最初に懸念を示したのか。誰の反応を見て周囲が動かなくなったのか。誰が情報提供や協力を止めたのか。誰の納得を得られれば進んだ可能性があるのか。
ここで注意したいのは、「止めた人」を犯人扱いしないことです。
その人物は、会社を困らせるために止めたのではなく、何かを守ろうとしていた可能性があります。
顧客との信頼関係、製品の品質、社員の生活、先代との約束、自分が長年守ってきた仕事の方法などです。
その背景を確認せず、抵抗勢力だと決めつければ、対立が深まります。
まずは個別に話を聞いてください。
「この取り組みについて、どのような点を心配していますか」
「進めた場合、現場では何が起こると思いますか」
「過去に似た取り組みで失敗した経験はありますか」
「どのような条件が整えば協力できますか」
こうした質問を通じて、反対の背景にある経験や不安を理解します。
反対意見のなかに、自分が見落としていた重大な問題が含まれていることもあります。
一方で、単なる情報不足や誤解が原因であれば、説明や役割分担を変えることで協力を得られる可能性があります。
会社を動かすとは、反対する人を押し切ることではありません。なぜ止めようとしているのかを理解し、その懸念を解消したうえで力を借りることです。
3.3.先代・古参幹部・現場社員の関係を書き出す
社内の影響力地図をつくるためには、頭のなかで考えるだけでは不十分です。
実際に紙や表計算ソフトへ書き出してください。
まず、社内で影響力を持つ人物を10人程度選びます。
先代、役員、古参幹部、部門責任者、現場のベテラン社員、若手社員などです。
役職の高い順に選ぶ必要はありません。
社員から相談される人、情報を多く持っている人、先代の信頼が厚い人、現場の雰囲気を変えられる人、反対すると物事が止まりやすい人を挙げます。
次に、それぞれの人物について、次の項目を整理します。
・誰から信頼されているか
・誰へ頻繁に相談しているか
・どの情報を持っているか
・どの分野に強い影響力があるか
・何を守ろうとしているか
・変化に対してどのような態度を取るか
・二代目社長との関係は良好か、距離があるか
そして、人物同士を線で結びます。
信頼関係が強ければ実線、対立や緊張関係があれば点線、情報が一方向に流れている場合は矢印を使うと分かりやすくなります。
たとえば、先代から古参専務へ強い信頼の線があり、古参専務から営業課長へ情報が流れ、営業課長が現場社員の相談を受けているという関係が見えるかもしれません。
また、二代目社長と先代は定期的に話していても、現場社員から二代目社長へ直接情報が届く線がほとんどないことに気づく場合もあります。
社内の影響力地図をつくる目的は、人間関係を評価したり、味方と敵に分けたりすることではありません。
誰を巻き込めば改革が進みやすいのか、誰の不安を先に解消すべきなのか、どこで情報が止まっているのかを把握するためです。
たとえば、新しい営業施策を始める場合、営業部長だけに説明するのではなく、現場から信頼されているベテラン社員にも事前に意見を聞いたほうがよいと分かるかもしれません。
人事制度を変える場合、制度設計より先に、先代と古参幹部の間で役割認識をそろえる必要があると気づくこともあります。
さらに、影響力地図を作成したら、1回で完成だと考えないでください。
個別面談や会議を重ねるなかで、新しい関係や情報の流れが見えてきます。
最初の30日で仮の地図をつくり、その後30日ごとに見直してください。
「この人は反対している」と考えていたものの、実際には現場の混乱を心配していた。「協力的だ」と思っていた幹部が、先代の前では異なる意見を述べていた。若手社員が想像以上に周囲から相談されていた。
こうした発見を反映することで、地図は少しずつ実態に近づきます。
そして、地図をつくるだけで終わらせず、必ず行動へつなげてください。
今後30日以内に話を聞く相手を3人選びます。
一人目は、先代から強く信頼されている人。二人目は、現場社員から相談されている人。三人目は、反対すると物事が止まりやすい人です。
その3人に、自分の方針を説明する前に、会社の現状と将来についてどう考えているかを聞いてください。
「会社のなかで、今後も残すべきものは何ですか」
「変える必要があると思うことは何ですか」
「会社が新しい方向へ進むうえで、何が障害になると思いますか」
「私に知っておいてほしいことはありますか」
相手の言葉を途中で否定せず、記録します。
話を聞くことは、決定権を相手へ渡すことではありません。より正確な情報を得て、経営者として適切に判断するための行動です。
社内の影響力地図が見えてくると、二代目社長が取るべき行動も変わります。
全社員へ一斉に方針を伝える前に、影響力のある人物へ背景を説明する。反発が予想される部署では、現場をよく知る社員と一緒に計画をつくる。先代には、助言を求める領域と、二代目社長が決定する領域を明確に伝える。
このように、相手と順番を考えて働きかけることで、同じ改革案でも実行される可能性が高まります。
二代目社長が最初の90日でつくるべきものは、立派な改革計画だけではありません。会社を実際に動かしている人と人との関係を示した、社内の影響力地図です。
会社が動かないと感じたとき、社員へ強い指示を出す前に、まず紙を1枚用意してください。
中央に自分の名前を書き、周囲に先代、役員、古参幹部、現場社員の名前を書きます。そして、誰が誰を信頼し、誰に情報が集まり、誰が物事を止められるのかを線で結んでみてください。
書き出すことで、これまで漠然と感じていた社内の力関係が、具体的な経営課題として見えるようになります。
会社を動かす第一歩は、組織図どおりに指示を出すことではありません。実際に人と情報を動かしている影響力を理解し、適切な人を適切な順番で巻き込むことです。
その地図をもとに対話と役割整理を進めることで、二代目社長の決断が現場まで届き、実行される会社へと変わり始めるのです。
4.90日間で社内の力学を整理する3つのステップ
ここまで、二代目社長が会社を動かすためには、先代や古参幹部、現場社員の関係を把握し、「社内の影響力地図」をつくる必要があるとお伝えしてきました。
しかし、実際に取り組もうとすると、次のような疑問を持つ方もいらっしゃるでしょう。
「誰から話を聞けばよいのか分からない」
「社員との面談で、何を質問すればよいのか」
「人間関係を整理した後、どのように改革へつなげればよいのか」
そこで、最初の90日を30日ずつ、3つの段階に分けて考えます。
最初の30日は「聞く」。
次の30日は「見える化する」。
最後の30日は「小さく動かす」。
この順番が重要です。
多くの二代目社長は、会社の問題点に気づくと、すぐに改善策を考え、社員へ指示を出します。しかし、社員が何に不安を感じ、誰の意見を重視し、なぜ今のやり方が続いているのかを理解しないままでは、正しい改革であっても実行されません。
90日間で最初に目指すべきなのは、会社を一気に変えることではありません。会社が動かない理由を把握し、社員が動ける状態を整えることです。
4.1.最初の30日で「聞く」
最初の30日で行うのは、社内の人たちから話を聞くことです。
ただし、いきなり全社員へ「会社の問題点を教えてほしい」と聞いても、本音は出てきません。
社員から見れば、社長が何を目的に質問しているのか分からず、「誰かを辞めさせるためではないか」「評価に影響するのではないか」と警戒するからです。
まずは、先代、役員、古参幹部、部門責任者、現場のベテラン社員、若手社員など、立場の異なる人を選び、個別に話を聞いてください。
人数の目安は10人から15人程度です。
ここで大切なのは、改革案への賛否を聞くのではなく、会社の歴史や仕事の実態を知ることです。
たとえば、次のような質問をします。
「会社が最も厳しかった時期はいつでしたか」
「そのとき、誰がどのように会社を支えましたか」
「先代の経営で、今後も残すべきものは何ですか」
「現在の会社で、社員が困っていることは何ですか」
「会社のなかで、話が進みにくくなるのはどのようなときですか」
「誰に相談すると物事が進みやすいですか」
「今後、会社が変わることについて不安はありますか」
相手の回答に対して、すぐに反論したり、自分の考えを説明したりしてはいけません。
たとえ事実と異なる話があったとしても、まずは「その人には、そう見えている」という情報として受け止めます。
社内の力学を理解するためには、事実だけでなく、社員が何を事実だと感じているのかを知る必要があります。
たとえば、二代目社長は先代から十分に経営を任されていると思っていても、社員は「重要なことは会長が決めている」と感じているかもしれません。
会社としては新しい評価制度を公平に運用しているつもりでも、社員は「先代に気に入られている人が優遇されている」と考えている可能性もあります。
経営者から見た事実と、社員が感じている現実が異なれば、指示や改革はうまく伝わりません。
面談では、話した内容を必ず記録してください。
ただし、「誰が誰の悪口を言った」といった記録ではなく、次の項目に分けて整理します。
・会社の強みとして残したいもの
・現在困っていること
・情報が集まる人物
・現場から信頼されている人物
・先代の影響が強い領域
・物事が止まりやすい場面
・改革に対する不安
・協力を得られそうな人物
また、面談の最後には、「今日は話してくれてありがとうございます。すぐに結論を出すのではなく、会社の実態を理解するために参考にします」と伝えてください。
話を聞いた直後に制度変更や人事異動を行うと、社員は「自分が話したせいで誰かが処分された」と感じ、次から本音を話さなくなります。
最初の30日は、解決する期間ではなく、社内の声と事実を集める期間です。
まず今週中に、話を聞くべき10人の名前を書き出してください。そして、1人30分でも構いませんので、面談の日程を入れてください。
予定表に入れなければ、日常業務に追われ、いつまでも始まりません。
4.2.次の30日で「見える化する」
最初の30日で話を聞いたら、次の30日では、集めた情報を見える形に整理します。
ここで作成するのが、前章で説明した「社内の影響力地図」です。
紙やホワイトボード、表計算ソフトなど、どの方法でも構いません。
まず、会社のなかで影響力を持つ人物を書き出します。
先代、役員、古参幹部、現場責任者、ベテラン社員、若手の中心人物などです。
そして、それぞれについて次の項目を整理します。
・誰から信頼されているか
・誰に相談しているか
・どのような情報を持っているか
・どの部署や業務に影響を与えているか
・どのような変化に反対しやすいか
・何を守ろうとしているか
・二代目社長との距離は近いか、遠いか
次に、人と人との関係を線で結びます。
強い信頼関係がある場合、頻繁に情報交換している場合、意見が対立しやすい場合など、線の種類を変えると分かりやすくなります。
さらに、最近進まなかった案件を3つから5つ選び、どこで止まったのかを地図に書き込みます。
たとえば、設備投資が古参工場長の反対で止まった。採用方針が先代の意向確認のため保留になった。新しい営業管理の導入がベテラン営業社員の消極的な態度によって進まなかった。
こうして案件と人物を重ねることで、会社が動かない共通点が見えてきます。
見える化の目的は、反対する人を特定することではありません。どの人物の不安や懸念を先に解消すれば、物事が進みやすくなるのかを把握することです。
また、人間関係だけでなく、情報や会議の流れも整理してください。
現場の情報が社長へ届くまで、何人を経由しているのか。会議で決定した内容は、誰が誰へ伝えているのか。先代から社員へ直接指示が出ることはないか。報告が口頭だけで終わっていないか。
会社が動かない原因は、人間関係ではなく、情報伝達の仕組みにある場合もあります。
たとえば、会議で決めたことについて、担当者と期限が明確になっていない。部長へ伝えた後、現場へ共有されているか確認していない。先代から別の指示が出ても、社長へ報告されない。
このような状態では、誰かが意図的に止めていなくても、会社は動きません。
次の30日では、社内の力学と同時に、意思決定から実行までの流れも図にしてください。
「誰が提案するのか」
「誰が意見を述べるのか」
「誰が決定するのか」
「誰が実行するのか」
「誰が進捗を確認するのか」
これらが曖昧な案件ほど、実行が止まりやすくなります。
人間関係を見える化するだけでなく、決めたことが実行されるまでの流れを見える化することで、初めて会社が止まる場所を特定できます。
見える化した結果、課題が多く見つかっても、すべてを一度に解決しようとしてはいけません。
まずは、社員の負担が大きく、経営への影響も大きい問題を一つ選びます。
その問題を、最後の30日で小さく動かしていきます。
4.3.最後の30日で「小さく動かす」
最後の30日では、見える化した課題のなかから一つを選び、小さな改善を実行します。
この段階で重要なのは、大規模な組織変更や人事制度の刷新を行わないことです。
最初の90日で大きな制度変更を行うと、社員は対応に追われ、どの改善が効果を上げたのか分からなくなります。
また、想定外の問題が起きたときに、元へ戻すことも難しくなります。
そこで、対象を限定し、結果を確認しやすい取り組みから始めます。
たとえば、次のようなものです。
・会議で決まったことについて、担当者と期限を明記する
・週に一度、進捗を確認する時間を15分設ける
・先代から社員へ指示があった場合、二代目社長へ共有する
・一つの部署だけで新しい報告方法を試す
・影響力のある古参社員を改善チームに加える
・月次の数字を幹部と共有する
ここでの目的は、会社全体を完成形へ変えることではありません。
「決めたことが実行され、成果を確認できた」という小さな成功をつくることです。
たとえば、会議で決めた案件がいつも進まないのであれば、会議の最後に担当者、期限、次回確認日を決めます。
そして、1週間後に進捗を確認します。
進んでいなければ、担当者を責めるのではなく、何が障害になったのかを聞きます。
情報が足りなかったのか。権限がなかったのか。他部署の協力が得られなかったのか。先代や古参幹部から異なる意見が出たのか。
その原因を取り除き、再び実行します。
この繰り返しによって、社員は「決めたことは、そのまま放置されない」と認識するようになります。
また、小さな改善を行う際には、影響力地図で確認した人物を巻き込んでください。
たとえば、現場社員から信頼されている古参社員に、改善方法について意見を聞きます。
「この方法で現場は動けそうでしょうか」
「どこに無理がありますか」
「誰へ先に説明したほうがよいですか」
こうした質問をすることで、現場に合った方法へ修正できます。
さらに、その古参社員が周囲へ説明してくれれば、二代目社長が一方的に命じるよりも、社員は受け入れやすくなります。
影響力のある人を改革の対象にするのではなく、改革を進める側へ加えることが重要です。
30日間の取り組みが終わったら、必ず結果を振り返ります。
何が改善したのか。社員の行動は変わったのか。どこで再び止まったのか。協力してくれた人は誰か。次回は何を修正すべきか。
成果が小さくても構いません。
以前は会議で決めたことの半分しか実行されなかったものが、7割まで進んだ。先代の指示が二代目社長にも共有されるようになった。古参社員が若手社員へ新しい方針を説明してくれた。
こうした変化を社員と共有してください。
「皆さんの協力で、決めたことが以前より進むようになった」
「現場の意見を入れたことで、無理のない方法に変えられた」
「次も小さく試しながら改善していきたい」
このように伝えることで、社員は改革を「社長が押しつけるもの」ではなく、「会社全体で改善するもの」と感じるようになります。
最後の30日で必要なのは、社長の力を示す大きな改革ではありません。社員とともに小さな成功をつくり、「この会社は変われる」という実感を生み出すことです。
最初の30日で聞き、次の30日で見える化し、最後の30日で小さく動かす。
この順番を守ることで、二代目社長は会社の歴史や人間関係を否定することなく、少しずつ自分の意思を経営へ反映できるようになります。
90日後に、すべての問題が解決している必要はありません。
誰に相談すべきか。どこで物事が止まりやすいか。誰を巻き込めば会社が動くのか。そして、決めたことを実行へつなげるために、どの仕組みが必要なのか。
これらが分かれば、次に進む準備は整っています。
90日間は、二代目社長として完成するための期間ではありません。会社を理解し、社員との信頼を築き、自分の意思で会社を動かし始めるための期間です。
まずは今日、最初の30日で話を聞く10人を書き出してください。
その小さな行動から、会社が動き始めます。
【事例】先代の一言で止まっていた会社が、90日で動き始めた理由
ある製造業の二代目社長は、父親である先代から会社を引き継いだものの、自分の方針をなかなか実行できずに悩んでいました。
営業管理を見直そうとしても、古参の営業部長から「今までの方法で問題はない」と反対されます。会議で新しい方針を決めても、先代が現場で「無理に変えなくてもいい」と話すと、社員は以前のやり方へ戻ってしまいました。
二代目社長は当初、「もっと強く指示しなければならない」と考え、組織変更や評価制度の導入を検討しました。しかし、改革を進めるほど古参社員との距離が広がり、社員も先代と二代目社長のどちらに従えばよいのか迷うようになっていました。
そこで、改革をいったん止め、最初の30日間で先代、幹部、現場社員など12人と個別に面談しました。
その結果、古参の営業部長が単に変化を嫌っているのではなく、長年築いてきた主要顧客との関係が数字だけで評価されることを心配していると分かりました。また、先代も経営へ介入したいのではなく、社員から相談されると放っておけず、つい指示を出していたのです。
次の30日間では、誰に情報が集まり、誰の発言で社員が動くのかを書き出しました。すると、正式な責任者とは別に、営業部長と製造現場のベテラン社員が強い影響力を持っていることが見えてきました。
二代目社長は、会社が動かない原因を「社員のやる気」ではなく、「曖昧な役割と意思決定の流れ」にあると捉え直したのです。
最後の30日間では、大規模な制度変更を行わず、営業会議の進め方だけを変えました。会議で決めたことについて、担当者、期限、次回確認日を明記し、営業部長には若手社員への顧客対応の引き継ぎを依頼しました。
さらに先代とは、主要取引先との関係維持について助言を求める一方、日常業務と人事については二代目社長が最終判断することを確認しました。
その結果、会議で決めたことが放置されにくくなり、古参社員も若手の育成や業務改善に協力するようになりました。
会社が動き始めたのは、二代目社長が強く命令したからではありません。先代と古参社員の影響力を理解し、それぞれの役割を経営の仕組みに変えたからです。
同じように会社を動かせずに悩んでいるのであれば、まず過去3か月で止まっている案件を一つ選んでください。そして、誰のところで止まり、誰の協力があれば進むのかを書き出してみましょう。
改革案を増やす前に、会社が止まる理由を見つける。その行動から、二代目社長として会社を動かす経営が始まります。
5.影響力地図を経営の仕組みに変える
ここまで、二代目社長が最初の90日で取り組むべきこととして、社内の声を聞き、人間関係や情報の流れを見える化し、小さな改善を試す方法をお伝えしてきました。
しかし、社内の影響力地図をつくっただけでは、会社はまだ大きく変わりません。
誰が先代から信頼されているのか。誰が現場社員に影響を与えているのか。誰の反対によって物事が止まりやすいのか。こうした関係が分かっても、それを眺めているだけでは、以前と同じ状態へ戻ってしまいます。
影響力地図をつくる本当の目的は、社内の人物を味方と敵に分けることではありません。
これまで人間関係や暗黙の了解によって動いていた会社を、役割、権限、会議、報告という経営の仕組みで動かせる会社へ変えることです。
たとえば、先代の一言で方針が変わるのであれば、先代を会社から遠ざけるのではなく、どの分野で助言を求め、どの分野は二代目社長が最終判断するのかを決める必要があります。
古参社員が改革に反対しているのであれば、抵抗する人物として扱うのではなく、その経験や信用をどのような役割で生かすかを考えなければなりません。
また、社長が決定したことが現場で実行されないのであれば、社員の意識だけを問題にするのではなく、誰が、いつまでに、何を実行し、どこで確認するのかを明確にする必要があります。
影響力地図を完成させる最後の作業は、見えない力関係を、誰にでも分かる経営のルールへ置き換えることです。
5.1.先代の影響力を排除するのではなく、役割を決める
二代目社長が会社を動かそうとしたとき、大きな問題になりやすいのが先代との関係です。
先代が社内に残っている会社では、社員や取引先が引き続き先代へ相談することがあります。重要な設備投資、採用、値上げ、取引先との交渉などについて、二代目社長を通さず、先代へ直接意見を求めるケースもあります。
この状態が続けば、二代目社長は「自分が社長なのに、なぜ先代が口を出すのか」と不満を感じるでしょう。
そして、先代の影響力を弱めようとして、会議への参加をやめてもらったり、社員との接触を減らそうとしたりすることがあります。
しかし、先代を急に経営から遠ざける方法は、必ずしも会社にとって良い結果をもたらしません。
先代は、長年の経営によって、取引先や銀行、社員との信用を築いています。重要な顧客との関係や、過去の資金繰り、採用した社員の事情など、先代しか知らない情報もあるでしょう。
また、古参社員にとって、先代は単なる前社長ではありません。自分を採用し、育て、困難な時期を一緒に乗り越えてきた存在です。
その先代を二代目社長が排除しようとしているように見えれば、社員は不安を感じます。
「先代が築いたものをすべて変えてしまうのではないか」
「次は自分たちも外されるのではないか」
「これまでの貢献は評価されないのではないか」
こうした不安が、二代目社長への反発につながります。
必要なのは、先代の影響力をなくすことではありません。会社にとって有効な形で、その影響力を生かすことです。
そのためには、先代と二代目社長の役割を言葉にして確認する必要があります。
たとえば、次のように整理します。
先代には、重要取引先との関係維持、業界団体との付き合い、経営者としての助言を担ってもらう。一方で、採用、人事評価、日常業務の指示、新規事業への投資判断については、二代目社長が最終決定する。
また、社員から先代へ相談があった場合、先代が直接指示するのではなく、二代目社長または担当役員へ情報を共有するという流れを決めます。
これを曖昧にしたままでは、先代に悪気がなくても、社員が二人の経営者の間で迷う状態が続きます。
先代との話し合いでは、「口を出さないでほしい」と伝えるのではなく、次のように話してください。
「これまで築いてきた信用や経験を、今後も会社に生かしていただきたいと思っています。そのうえで、社員が判断に迷わないように、会長と私の役割を整理したいです」
このように伝えれば、先代の貢献を認めながら、役割を明確にする話し合いができます。
具体的には、次の4点を確認します。
・先代へ助言を求めるテーマ
・二代目社長が最終決定するテーマ
・社員への指示を出す経路
・意見が異なる場合の話し合い方
できれば、口頭だけで終わらせず、簡単な文書にしてください。
「会長の役割」「社長の役割」としてA4用紙1枚に整理するだけでも、認識のズレを減らせます。
そして、その内容を幹部社員にも伝えます。
先代との役割分担は、親子二人だけの問題ではありません。社員が誰の判断に従えばよいのかを明確にする、会社全体の経営課題です。
まず今週、先代と話す時間を予定表に入れてください。
すべてを一度に決める必要はありません。最初は「社員への日常的な指示は誰が出すのか」という一つのテーマだけでも構いません。
曖昧な領域を一つずつ減らすことで、社員は迷わず動けるようになります。
5.2.古参社員を抵抗勢力ではなく、改革の協力者に変える
二代目社長が改革を進めようとすると、古参社員の反対が大きな障害に見えることがあります。
新しい営業管理の仕組みに反対する。会議の変更に消極的である。若手社員への権限委譲を嫌がる。業務の見える化を進めようとすると、「現場を分かっていない」と反論する。
このような態度を見れば、二代目社長は「変化を受け入れない古い人」「改革を邪魔する人」と考えてしまうでしょう。
しかし、影響力地図をつくると、その古参社員が現場から強く信頼されていることに気づく場合があります。
社員の相談に乗っている。顧客の細かな事情を知っている。設備の故障時に対応できる。先代が不在のとき、会社を支えてきた。
つまり、その人物が持つ影響力には、長年の経験と貢献による理由があります。
古参社員の影響力を無視して改革を進めれば、制度は導入できても、現場が動かない可能性があります。
一方で、その経験を改革へ生かすことができれば、古参社員は強い協力者になります。
たとえば、新しい営業管理表を導入する場合、完成した様式を一方的に渡すのではなく、作成段階からベテラン営業社員に参加してもらいます。
「現場で入力できない項目はありますか」
「顧客との関係を把握するために必要な情報は何ですか」
「若手社員が使いやすくするには、何を変えるべきですか」
このように意見を求めます。
すべての要望を受け入れる必要はありません。しかし、自分の経験が尊重され、改革の内容に反映されたと感じれば、古参社員は周囲へ説明しやすくなります。
また、古参社員には、単に意見を聞くだけでなく、明確な役割を与えることが重要です。
たとえば、若手社員への技術承継、重要顧客との関係移管、新しい業務手順の確認、現場改善チームの責任者などです。
役割が曖昧なままでは、「自分の居場所がなくなるのではないか」という不安から、改革へ反対しやすくなります。
一方で、「これまでの経験を、次の世代へ伝える役割を担ってほしい」と伝えれば、自分の価値を確認できます。
人は、変化そのものに反対しているのではなく、自分の役割や誇りが失われることに反対している場合があります。
古参社員と話すときは、改革への賛否だけを尋ねるのではなく、次の質問をしてください。
「これまで会社を支えてきたなかで、若手へ残したいものは何ですか」
「今の会社で、変えてはいけないものは何だと思いますか」
「変える必要があると感じていることはありますか」
「今後、どのような役割で会社に貢献したいですか」
この対話を通じて、その人物が守ろうとしているものと、今後生かせる経験を確認します。
そのうえで、協力してほしい内容を具体的に伝えます。
「新しい制度に賛成してください」という曖昧な頼み方ではなく、「若手3人へ、重要顧客との付き合い方を月1回教えてほしい」「新しい報告方法を営業部で1か月試し、改善点をまとめてほしい」と依頼します。
役割、期限、成果物を明確にすることで、協力しやすくなります。
ただし、対話を重ねても、会社の方針に従わず、決めたことを意図的に止め続ける社員もいるかもしれません。
その場合は、経験や社歴だけを理由に曖昧な対応を続けてはいけません。
何が会社の方針なのか、どの行動が求められているのかを明確に伝え、それでも従わない場合は、役割の変更や人事上の対応を検討する必要があります。
古参社員を尊重することと、会社の方針に従わない行動を放置することは、まったく別の問題です。
大切なのは、最初から抵抗勢力と決めつけず、まず経験を生かせる役割を提示し、協力する機会をつくることです。
今月中に、影響力地図で重要だと判断した古参社員を一人選び、30分の面談を行ってください。
そして、「今後も会社に残したいもの」と「自分に担ってほしい役割」を話し合ってください。
その対話が、改革に対する空気を変える第一歩になります。
5.3.社長が決めたことが実行される仕組みをつくる
先代との役割を整理し、古参社員の協力を得られたとしても、社長が決めたことが実行されなければ、会社は変わりません。
中小企業では、会議で多くのことが話し合われていても、実行につながっていないことがあります。
「新規顧客を増やそう」
「在庫を減らそう」
「若手を育成しよう」
「ホームページを見直そう」
このような方針は示されても、誰が、何を、いつまでに行うのかが決まっていません。
そのため、会議の直後は社員も動こうとしますが、日常業務に追われ、次の会議まで何も進まないということが起こります。
そして、社長が「なぜ進んでいないのか」と聞くと、社員は「時間がなかった」「担当が決まっていなかった」「他部署から返事がなかった」と説明します。
これは、社員のやる気だけの問題ではありません。
決定を実行へ変えるための仕組みが不足しているのです。
社長が決めたことを実行するためには、少なくとも次の5つを明確にする必要があります。
・何を実行するのか
・誰が責任者なのか
・いつまでに行うのか
・どのような状態を完了とするのか
・いつ、誰が進捗を確認するのか
たとえば、「新規顧客を増やす」という方針では、実行内容が曖昧です。
これを、「営業部長が責任者となり、今月末までに見込み客30社を選定し、来月15日までに10社へ訪問する。毎週月曜日の営業会議で訪問件数と反応を確認する」と決めます。
ここまで具体化すれば、社員は何をすべきか理解できます。
また、責任者を決めるときは、「営業部」「総務部」といった部署名ではなく、必ず個人名を決めてください。
部署全体の責任にすると、最終的に誰も責任を持たない状態になりやすいからです。
複数人で取り組む仕事であっても、進捗を管理する責任者は一人にします。
次に必要なのが、定期的な確認です。
社長が一度指示を出しただけで、期限まで待っていてはいけません。
期限が1か月後であれば、1週間ごとに進捗を確認します。
ただし、確認の目的は、担当者を責めることではありません。
予定どおり進んでいるか。何が障害になっているか。追加の判断や支援が必要かを確認するためです。
社長にしか決められないことが原因で止まっている場合もあります。予算の承認、他部署への協力依頼、先代との調整などです。
その問題を早く把握できれば、期限直前になって「できませんでした」と報告される事態を防げます。
また、会議の最後には、必ず決定事項を確認してください。
「今日、何を決めたのか」
「誰が担当するのか」
「期限はいつか」
「次回、何を確認するのか」
これを議事録へ残し、参加者へ共有します。
立派な会議資料をつくる必要はありません。A4用紙1枚や共有の表計算シートでも十分です。
大切なのは、決定事項が後から確認できることです。
さらに、先代や古参幹部から担当者へ別の指示が出る可能性がある場合は、情報共有のルールも決めます。
「社長が決めた案件について別の意見や指示が出た場合は、担当者だけで変更せず、社長へ報告する」
このルールを設けることで、知らないところで方針が変わることを防げます。
社長の決断を会社の行動へ変えるためには、指示を強くするのではなく、決定、担当、期限、確認を一つの流れとして仕組みにする必要があります。
まず次回の会議から、すべてを変える必要はありません。
会議の最後に、「担当者」「期限」「次回確認日」の3つだけを決めてください。
そして、次の会議で必ず確認します。
この小さな習慣を続けるだけでも、会議で決めたことが放置されにくくなります。
影響力地図によって、誰を巻き込めば会社が動くかが分かります。
しかし、特定の人の影響力だけに頼っていては、将来その人が退職したときに、再び会社が動かなくなります。
だからこそ、個人の信用や人間関係を、役割、権限、会議、報告の仕組みへ変えていかなければなりません。
先代の経験を役割として整理し、古参社員の影響力を協力へ変え、決定事項を実行管理の仕組みに落とし込むことで、二代目社長の意思が現場まで届くようになります。
影響力地図は、人間関係を分析して終わるためのものではありません。
誰が何を担い、誰がどこまで決め、誰がいつ確認するのかを明確にし、会社が継続して動く体制をつくるための出発点です。
二代目社長がつくるべき会社は、自分が強く命令しなければ動かない会社ではありません。役割と仕組みによって、決めたことが継続して実行される会社です。
まずは今日、次の3つを書き出してください。
先代に今後担ってもらいたい役割。古参社員の経験を生かせる役割。そして、次回の会議で担当者と期限を明確にする案件です。
この3つを決め、行動へ移すことで、社内の影響力地図は、会社を動かす経営の仕組みへと変わり始めます。
まとめ
「社長に就任したのに、自分の意思で会社を動かせない」
このように感じると、二代目社長は、自分の決断力や指導力が不足しているのではないかと悩みます。そして、早く経営者として認めてもらおうとして、新しい制度を導入したり、組織を変えたり、社員へ強い指示を出したりします。
しかし、会社が動かない原因は、二代目社長の能力不足だけにあるわけではありません。
先代の影響力、古参社員同士の信頼関係、長年続いてきた暗黙のルール、組織図には表れない情報の流れなど、整理されていない社内の力学が、二代目社長の決断を止めていることがあります。
この状態で改革を急いでも、社員は表面上だけ従い、実際の行動は変わりません。
だからこそ、二代目社長が最初の90日で行うべきことは、大きな改革を発表することでも、先代や古参社員を排除することでもありません。
最初の30日で、先代、幹部、現場社員の話を聞く。次の30日で、誰に情報が集まり、誰の一言で物事が進み、誰の反対で止まるのかを見える化する。そして最後の30日で、会議の進め方や報告方法など、小さな改善を一つだけ実行する。
最初の90日でやるべき1つのことは、社内の影響力地図をつくり、会社を動かしている見えない力を把握することです。
そして、その地図を作成して終わりにしてはいけません。
先代には、今後担ってもらう役割を明確にする。古参社員には、経験を次の世代へ伝える役割を依頼する。会議では、決定事項、責任者、期限、確認日を決める。このように、個人の影響力を役割や経営の仕組みへ置き換えていく必要があります。
二代目社長が目指すべきなのは、自分が強く命令しなければ動かない会社ではなく、役割と仕組みによって、決めたことが実行される会社です。
まずは今日、紙を1枚用意してください。
中央に自分の名前を書き、その周囲に先代、古参幹部、現場で信頼されている社員の名前を書きます。そして、誰が誰に相談し、誰に情報が集まり、誰の反対によって物事が止まりやすいのかを線で結んでください。
すべてを正確に書けなくても構いません。分からない部分があれば、これから誰に話を聞くべきかが見えてきます。
会社を動かすために必要なのは、今すぐ会社全体を変えることではありません。見えない力関係を一つずつ理解し、動ける仕組みに変えていくことです。
その最初の一歩を踏み出したとき、二代目社長の決断は、少しずつ社員の行動へ変わり始めます。
