先代のしがらみを整理し、 2代目社長が動かす会社をつくる専門家

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今週のコラム 売上5億~10億円の製造業で、2代目社長の方針どおりに会社が動かない理由

今回ご紹介するのは、売上約8億円、従業員約40名の製造業の事例です。

事業承継から4年が経過していましたが、会長として会社に残った先代と、製造現場を長年まとめてきた工場長の影響力が強く、現社長が決めた原価改善や新規事業が、なかなか実行されない状態に陥っていました。

経営会議では方針が決まります。しかし、現場に下りると「会長にも確認した方がよい」「工場長が難しいと言っている」と判断され、いつの間にか計画が止まってしまいます。

そこで、先代や工場長を排除するのではなく、1年間かけて、それぞれの役割、権限、社員への影響を整理しました。そして、現社長が経営判断を行い、幹部が責任を持って実行する体制へと組み替えていきました。

その結果、会社は少しずつ動き始め、2年後には売上10億円の壁を突破するとともに、利益率も改善しました。

この事例が示しているのは、会社が動かない原因は、2代目社長の能力不足でも、社員のやる気不足でもないということです。

先代時代に築かれた影響力と、現在の意思決定の仕組みが整理されていないことが、会社の成長を止めている場合があります。

本記事では、この製造業の事例をもとに、売上5億円から10億円規模の会社で、なぜ2代目社長の方針どおりに会社が動かないのかを具体的に解説します。

はじめに

「社長になって4年もたつのに、なぜ私が決めたことが実行されないのだろう」

売上5億円から10億円ほどの製造業を引き継いだ2代目社長から、このような悩みをお聞きすることがあります。

原価を改善するために、製品別や取引先別の採算を調べた。将来の売上をつくるため、新規事業の方針も示した。経営会議では幹部から賛同も得ている。それにもかかわらず、数か月たって確認すると、何も進んでいません。

工場長からは「現場に余裕がありません」と言われ、古参社員は「会長にも確認した方がよい」と考えます。会議で決めたはずの方針も、現場に下りる頃には内容が変わり、いつの間にか以前のやり方へ戻ってしまいます。

このような状況が続けば、2代目社長は、自分の説明力や決断力に問題があるのではないかと考えてしまうでしょう。さらに強く指示を出したり、会議を増やしたり、人事制度を変更したりするかもしれません。

しかし、それだけでは会社は動きません。

製造業で改革が進まない原因は、社員の能力や意欲だけではなく、先代、工場長、古参社員の間に残る影響力と、曖昧な意思決定の仕組みにあることが少なくありません。

今回取り上げるのは、売上約8億円、従業員約40名の製造業です。事業承継から4年が経過していましたが、会長として残った先代と、現場を長年まとめてきた工場長の影響力が強く、現社長が決めた原価改善や新規事業が実行されない状態に陥っていました。

そこで、会長や工場長を排除するのではなく、1年間かけてそれぞれの役割、権限、社員への影響を整理しました。そして、現社長が経営判断を行い、幹部が責任を持って実行する体制へと組み替えていきました。

その結果、会社は少しずつ動き始め、2年後には売上10億円の壁を突破し、利益率も改善しました。

会社を変えるために最初に行うべきことは、社長がさらに強く指示することではありません。誰が会社の意思決定に影響を与え、どこで方針の実行が止まっているのかを明らかにすることです。

まず、自社の経営会議で決めたことを一つ取り上げてください。そして、誰に指示され、どこまで進み、誰の判断で止まったのかを書き出してみてください。

それだけでも、会社が動かない原因が、社員のやる気ではなく、役割や権限、指揮命令系統にあることが見えてきます。

本記事では、この事例をもとに、売上5億円から10億円規模の製造業で2代目社長の方針が実行されない理由と、現社長が会社を動かせる体制をつくるために何を整理すべきかを具体的に解説します。

1.事業承継から4年たっても、経営権が移っていなかった

事業承継が終わり、代表取締役の肩書が先代から2代目社長へ変われば、会社の経営権も自然に移る。そう考える経営者は少なくありません。

しかし、実際にはそう簡単ではありません。

登記上の代表者が変わっても、社員が誰の言葉を重く受け止めるのか、誰に最終確認を取るのか、誰の意向を優先するのかが変わっていなければ、会社の実質的な経営権は移っていません。

今回の事例企業は、売上約8億円、従業員約40名の製造業です。現社長が先代から会社を引き継いで4年が経過していました。

現社長は、会社をさらに成長させるため、製品別・取引先別の原価管理を進め、不採算案件の見直しや新規事業の立ち上げに取り組もうとしていました。

ところが、経営会議で決めたことが、現場ではなかなか実行されません。

会議では賛成したはずの工場長が、後になって「会長はどう考えているのでしょうか」と確認を求めます。古参社員も、現社長の方針より先代の反応を気にしていました。

その結果、原価改善も新規事業も、決定しただけで前に進まない状態が続いていました。

この会社で起きていた問題は、現社長に決断力がなかったことではありません。代表者は変わっていても、社内の意思決定構造が先代時代のまま残っていたことです。

事業承継後に会社が動かない場合、社長は社員の意識や能力を疑う前に、実際に誰が会社を動かしているのかを確認しなければなりません。

1.1.社員は先代を見ていたまだった

現社長が就任して4年たっても、社員の多くは、重要な判断をするときに先代の存在を意識していました。

現社長から新しい方針が示されても、社員の頭の中には、
「会長は本当に納得しているのだろうか」
「以前のやり方と違うが、進めてよいのだろうか」
「もし失敗したら、会長から何を言われるだろうか」
という迷いがありました。

この迷いは、社員が現社長を軽視しているから生まれたものではありません。

長年にわたり、先代が会社のすべてを判断してきたためです。

取引先との関係、採用、設備投資、価格決定、工場の運営など、重要なことはすべて先代が決めてきました。社員にとっては、先代の判断に従うことが会社を守る最も安全な方法だったのです。

その習慣は、社長が交代しただけでは消えません。

特に先代が会長として会社に残っている場合、社員は「本当に決める人はまだ会長ではないか」と考えやすくなります。

現社長が指示を出しても、その後で会長に確認を取る。会長の反応が弱ければ、実行を先延ばしにする。会長が少しでも否定的な発言をすれば、計画を止める。

このような行動が繰り返されると、社員は次第に、現社長の指示よりも会長の意向を優先するようになります。

そして、現社長もその状況に気づきながら、親子関係や社内の空気を壊したくないため、強く是正できません。

その結果、会社の中に二つの指揮命令系統が生まれます。

一つは、正式な組織図に記載された現社長から幹部、社員への指示です。

もう一つは、組織図には記載されていない、会長から工場長や古参社員へ伝わる影響です。

社長の指示と会長の影響が併存している会社では、社員は責任を取らなくて済む方を選びます。その結果、現社長の方針は実行されず、先代時代のやり方だけが残ります。

この状態を変えるためには、まず実態を把握する必要があります。

経営者は、最近決めた重要事項を一つ取り上げて、次の点を書き出してみてください。
・誰が提案したのか。
・誰が決定したのか。
・誰に指示が出されたのか。
・誰が会長へ確認したのか。
・誰の発言で内容が変わったのか。
・どの段階で実行が止まったのか。

これを整理すると、会社の組織図とは異なる実際の意思決定経路が見えてきます。

事業承継後の最初の仕事は、社員に「新しい社長に従ってください」と求めることではありません。

社員が迷わず現社長の判断に従えるよう、誰が最終決定者なのかを明確にすることです。

1.2.会長の一言で方針が止まった

先代が現社長の改革を意図的に妨害していたわけではありません。

むしろ先代は、自分はすでに経営を譲ったと考えていました。日常的な経営判断にも、以前ほど関与していないつもりでした。

ところが、先代の何気ない一言には、本人が考えている以上の影響力がありました。

例えば、現社長が不採算取引の価格見直しを決めたとします。

その話を聞いた会長が、
「この取引先には昔から世話になっている」
「値上げをすると関係が悪くなるのではないか」
「今までのやり方でも利益は出ていた」と口にします。

会長にとっては、過去の経験に基づく助言にすぎません。

しかし、工場長や営業担当者は、それを「価格見直しは行うべきではない」という指示として受け取ります。
すると、現社長が決めた方針は実行されません。

営業担当者は取引先との交渉を先延ばしにし、工場長も「会長が慎重なので、今は動かない方がよい」と判断します。

現社長が進捗を確認すると、
「先方との関係もありますので」
「会長も心配されているようです」という説明が返ってきます。

誰も明確に反対していないのに、誰も実行していない状態です。
これが、先代の一言によって改革が止まる会社の典型です。

先代の発言力が強い会社では、発言の内容そのものよりも、「誰が言ったか」が重視されます。

同じ意見を現社長が述べても動かないのに、会長が言えばすぐに動く。逆に、現社長が決めたことでも、会長が懸念を示せば止まる。

これでは、現社長が経営責任を負いながら、経営判断を実行できません。

ここで必要なのは、会長に「何も言わないでください」と求めることではありません。

長年会社を経営してきた先代には、取引先との関係や業界の知識、銀行からの信用があります。その経験を使わないことは、会社にとって損失です。

一方で、会長の助言と最終決定が混同されている状態は、解消しなければなりません。

例えば、次のようなルールを決めます。
・会長が意見を伝える相手は現社長とする。
・社員へ直接指示を出さない。
・経営会議で決まった事項は、会議外で変更しない。
・変更が必要な場合は、現社長が再度判断する。
・社員から会長へ個別確認を取らない。

先代の意見を封じるのではなく、意見を経営判断へ反映させる正式な経路をつくることが重要です。

現社長は、会長に遠慮して曖昧な状態を続けるのではなく、次のように率直に伝える必要があります。

「会長の経験や信用は、今後も会社に必要です。一方で、社員が私と会長のどちらに従えばよいか迷っています。今後は、社員への指示は私から出し、会長のご意見は私に伝えてください」

この会話を避け続ける限り、会社の実質的な経営権は移りません。

親子だからこそ、言葉にしなくても分かると思わず、役割と権限を明確に言葉にする必要があります。

1.3.原価改善が進まなかった理由

この会社では、売上は約8億円まで伸びていましたが、利益率は十分ではありませんでした。

売上が増えても、材料費や外注費、人件費が上昇し、利益が残りにくい状態になっていたのです。

現社長は、このまま売上だけを増やしても、会社に現金が残らないと考えました。
そこで、製品別・取引先別の原価を把握し、利益率の低い案件について、価格、仕様、ロット、納期、外注先などを見直す方針を示しました。

経営会議でも、原価改善の必要性については全員が賛成しました。
しかし、実際には何も変わりませんでした。

営業部門は、長年の取引先に値上げを申し出ることを避けました。

工場長は、工程の見直しや作業時間の計測に対して、「現場の負担が増える」「製品ごとに条件が違うため、正確な原価は出せない」と慎重な姿勢を示しました。

会長は、「昔からの取引を数字だけで判断してはいけない」と話しました。

それぞれの発言には一理あります。

取引先との関係は重要です。製造現場には数字だけでは分からない事情もあります。長年続いた取引を短期的な利益だけで判断することも適切ではありません。

しかし、その結果、誰も改善に着手しませんでした。

現社長が示した原価改善方針は、会長の取引先への思い、工場長の現場への自負、営業担当者の交渉への不安の間で止まってしまったのです。

ここで重要なのは、原価管理の方法をさらに細かくすることではありません。

問題の本質は、数字の正確性ではなく、誰が最終判断を行い、誰が実行責任を負うのかが決まっていなかったことです。

原価改善が進まなかった本当の理由は、現場が数字を理解できなかったからではありません。現社長の決定を、会長や工場長の影響を超えて実行する経営体制がなかったからです。

そこで、この会社では原価改善の前に、役割と権限の整理から始めました。
・会長には、取引先との歴史や関係性について助言してもらう。
・価格や取引条件の最終判断は現社長が行う。
・営業責任者は、対象となる取引先と交渉する。
・工場長は、工程、外注、作業時間の改善策を実行する。
・経営会議では、責任者、期限、改善目標を確認する。

このように整理することで、原価改善が「社長から指示された仕事」ではなく、各幹部が責任を負う経営課題へ変わりました。

最初から大きな成果が出たわけではありません。

まずは一つの製品、一つの取引先から始めました。実際の作業時間、材料費、外注費を確認し、営業と製造が一緒に改善策を検討しました。

その結果、仕様や工程の変更だけで利益率を改善できる案件が見つかりました。

価格改定が必要な案件については、会長が持つ取引先との信用を活かしながら、現社長と営業責任者が説明しました。

会長の影響力を排除するのではなく、現社長の方針を実現するために活用したのです。

こうした小さな成功が積み重なると、社員の意識も変わりました。

「社長の方針はまた途中で変わる」と考えていた社員が、「今回は決めたことを最後まで実行する」と理解するようになりました。

そして、原価改善が数字上の成果として表れると、工場長や営業責任者も改革に協力するようになりました。

事業承継後に会社が動かないと感じている経営者は、まず制度を変えるのではなく、最近進まなかった施策を一つ選んでください。

そして、
・誰が反対したのか。
・誰が先代へ確認したのか。
・誰が実行を止めたのか。
・責任者と期限は明確だったか。
・最終判断者は本当に自分だったか。
を確認してください。

会社が動かない原因は、経営計画の内容よりも、その計画を実行する権限と責任の配置に隠れていることがあります。

社長が決めたことを実行できる会社にするためには、社員へさらに強く命令するのではなく、先代、幹部、現場の役割を一つずつ整理する必要があります。

それができて初めて、事業承継は肩書の変更ではなく、実質的な経営の承継になります。

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2.工場長が会社の判断を握っていた

売上5億円から10億円規模の製造業では、工場長の存在が会社経営に大きな影響を与えます。

工場長は、生産計画、納期、品質、人員配置、設備の状態、外注先との関係など、製造現場を動かすために必要な情報を広く持っています。特に、先代の時代から長く会社を支えてきた工場長であれば、社員からの信頼も厚く、経営者以上に現場の実情を知っていることも少なくありません。

その経験や知識は、会社にとって大切な財産です。

一方で、その情報が一人に集中し、工場長の判断を経なければ何も進まない状態になると、工場長は製造部門の責任者ではなく、会社全体の実質的な意思決定者になっていきます。

今回の事例企業でも、現社長が新しい方針を示しても、最終的には工場長が「できる」「できない」を判断していました。

設備投資を検討しても、「今は入れ替える時期ではない」と言われれば止まります。若手社員を新しい仕事へ配置しようとしても、「その人を現場から外すと困る」と言われれば進みません。新規事業を立ち上げようとしても、「既存の生産で手いっぱいだ」と判断されれば、計画は先送りになります。

問題は、工場長が強い意見を持っていることではありません。社長の経営判断と、工場長の現場判断の境界が整理されていないことです。

工場長が会社を支えてきた功労者であればあるほど、現社長は強く言いにくくなります。
「工場のことは任せているから」
「自分より現場に詳しいから」
「工場長に辞められたら困るから」
そのように考え、判断を委ね続けると、やがて経営方針まで工場長の了承がなければ進まない会社になります。

2.1.情報が工場長に集中していた

事例企業の工場長は、先代の時代から長年にわたり製造現場をまとめてきました。

どの機械にどの癖があるのか。どの社員がどの仕事を得意としているのか。どの製品で不良が起きやすいのか。どの外注先なら短納期に対応できるのか。

こうした情報の多くを、工場長一人が把握していました。

現場で問題が起きると、社員はまず工場長に相談します。設備が故障したときも、納期が遅れそうなときも、人員が足りないときも、工場長がその場で判断していました。

この体制は、会社が小さいうちは非常に効率的です。

経験豊富な工場長が素早く判断すれば、問題を早く解決できます。社長が細かい現場判断に関わらなくても、工場は回ります。

しかし、売上が増え、社員数が増え、取り扱う製品や顧客が増えてくると、同じ体制が成長を止める原因になります。

・工場長がいなければ判断できない。
・工場長が忙しいと、案件が止まる。
・工場長が反対すると、新しい取組が進まない。
・工場長の経験が、他の社員に引き継がれない。
この状態は、単なる属人化ではありません。

会社の重要情報と判断権限が一人に集中し、その人の考え方が会社全体の限界になっている状態です。

事例企業では、現社長が設備の更新を検討した際も、投資効果を数字で判断する前に、工場長の意見が結論になっていました。

工場長は、
「今の設備でもまだ使える」
「新しい設備を入れても、使いこなせる社員がいない」
「機械を止めて入れ替える余裕がない」と説明しました。

どれも現場から見れば合理的な意見です。

しかし、設備を更新しないことで、どれだけ残業が増えているのか。外注費がどれだけ発生しているのか。不良率や修繕費がどの程度上昇しているのか。今後の受注に対応できるのか。

こうした経営上の視点で検討されないまま、「現場では難しい」という言葉だけで止まっていました。

人員配置についても同じでした。

現社長が、新規事業の担当として若手社員を一人配置しようとすると、工場長は「その社員を外すと既存業務が回らない」と反対しました。

ところが、誰がどの業務を担当し、どの程度の負荷がかかっているのかを整理した資料はありませんでした。

工場長の頭の中には情報があります。しかし、経営会議で共有される形にはなっていません。

そのため、現社長は反論できません。

情報を持つ人が判断を握ります。社長が経営判断に必要な情報を持たなければ、肩書が社長でも、実際には工場長の判断に従うしかありません。

この状態を変えるためには、工場長から情報を奪うのではなく、会社の情報として共有できる形に変える必要があります。

例えば、次の項目を整理します。
・設備ごとの稼働率、修繕費、停止時間
・製品ごとの標準時間と実際の作業時間
・社員ごとの担当業務と保有技能
・残業時間と外注費
・不良率と手直し時間
・将来の受注見込みと必要な生産能力

これらが見えるようになれば、設備投資や人員配置を工場長の感覚だけでなく、会社全体の数字で判断できます。

経営者は、まず工場長に「情報を出してください」と命令するのではなく、次のように伝えることが重要です。

「工場長が持っている知識を、会社全体で使えるようにしたい。工場長がいなくてもよい体制をつくりたいのではなく、工場長がもっと重要な仕事に集中できる体制をつくりたい」

この伝え方であれば、工場長の存在価値を否定せず、情報共有を進められます。

2.2.「現場を知らない社長」がボトルネックになった

2代目社長が、営業、財務、管理部門などを経験した後に会社を引き継いだ場合、製造現場から「社長は現場を知らない」と見られることがあります。

事例企業の現社長も、工場で長く働いてきた工場長と比べれば、製造技術や設備の細かな知識では及びませんでした。

そのため、新しい方針を出すたびに、
「社長は現場の大変さを分かっていない」
「数字だけを見て判断している」
「実際につくる側のことを考えていない」という反応が出ていました。

この言葉を受けると、2代目社長は二つの方向へ進みがちです。

一つは、現場に認めてもらおうとして、細かい技術や作業方法にまで口を出すことです。

しかし、十分な経験がないまま細部へ介入すると、かえって信頼を失います。

もう一つは、「現場のことは工場長に任せる」と判断し、経営者として必要な問いまで引っ込めてしまうことです。

こちらも危険です。

社長が製造技術の専門家である必要はありません。しかし、設備投資、人員配置、原価、納期、品質、新規事業などについて、経営上の判断を行う責任は社長にあります。

社長が現場のすべてを知る必要はありませんが、現場を理由に経営判断を止められてはいけません。

「現場を知らない」という言葉が出たとき、社長が確認すべきなのは、感情的な反論ではありません。
・具体的に何が難しいのか。
・どの工程に負荷がかかるのか。
・何人必要なのか。
・どの設備が不足しているのか。
・どの程度の費用と時間がかかるのか。
・どうすれば実行できるのか。
ここまで質問を深めます。

「できない」という結論だけではなく、「実行するには何が必要か」を工場長に示してもらうのです。

事例企業では、それまで工場長が「現場では無理です」と答えると、話が終わっていました。

そこで経営会議の進め方を変えました。

工場長が難しいと判断した場合には、理由と代替案を示すことにしたのです。

例えば、
「既存の人員では難しいが、外注を使えば可能」
「開始時期を2か月ずらせば対応できる」
「設備の一部改修が必要」
「既存製品の生産計画を見直せば実行できる」という形です。

すると、「できるか、できないか」という対立から、「どうすれば実現できるか」という議論へ変わりました。

現社長も、現場に対して一方的に指示するのではなく、目的を説明しました。

新規事業を行うのは、社長が新しいことを始めたいからではない。既存顧客への依存を減らし、将来の雇用と利益を守るためである。

原価改善を進めるのは、現場を締めつけるためではない。賃上げや設備更新に使える利益を残すためである。

現場が反対しているように見えても、その多くは、改革の目的と自分たちへの影響が分からないことへの不安です。

経営者は、結論だけでなく、なぜ行うのか、何を守るための改革なのかを繰り返し伝える必要があります。

2.3.新規事業が止まっていた理由

この会社の現社長は、既存事業だけでは将来の成長が難しいと考え、新しい製品分野への進出を計画しました。

既存の技術を応用できる市場であり、取引先からも一定の需要が見込まれていました。

経営会議では、新規事業に取り組む方針が承認されました。

ところが、数か月たっても試作品が完成しませんでした。

現社長が確認すると、工場長は、
「既存製品の納期が優先です」
「新規事業に回せる人がいません」
「まだ品質が安定する見込みがありません」と説明しました。

現場としての懸念は理解できます。

しかし、問題は、工場長が正式な決定を覆す権限を持っていたことです。

会議では新規事業を進めると決めたのに、実際の人員配置、生産時間、設備の使用順序を工場長が決めていたため、工場長が優先しなければ何も進みませんでした。

新規事業の責任者は決まっていましたが、その責任者には人を動かす権限も、設備を使う権限もありませんでした。

つまり、責任だけが与えられ、実行に必要な権限は工場長が持っていたのです。

新規事業が止まっていた本当の理由は、現場が忙しかったからではありません。会社として決めた優先順位より、工場長の現場判断が上位に置かれていたからです。

そこで、現社長は新規事業を改めて会社の正式なプロジェクトとして位置づけました。

責任者を決めるだけでなく、次の内容まで明確にしました。
・試作品を完成させる期限
・担当する社員
・使用できる設備と時間
・工場長が担う技術面の役割
・既存業務と新規事業の優先順位
・毎月の進捗確認方法
・遅れた場合の対応

工場長に対しても、「新規事業をやるかどうか」を判断する立場ではなく、「どうすれば実現できるかを考える責任者の一人」として役割を伝えました。

さらに、既存業務への影響を数字で確認しました。

どの工程が忙しいのか。何時間不足しているのか。外注や残業で対応できるのか。納期を調整できる案件はないか。

その結果、新規事業を全く進められないほど余力がないわけではなく、優先順位が決まっていなかったことが分かりました。

週に一定時間を試作品の開発へ充て、進捗を経営会議で確認するようにしたことで、計画は少しずつ進み始めました。

工場長も、最初は慎重でしたが、自分の技術や経験が新規事業に必要とされていることを理解すると、協力するようになりました。

ここで重要なのは、工場長を説得して賛成させることだけではありません。

経営会議で決めたことを実行するために、誰にどの権限を与え、既存業務との優先順位をどう調整するかを具体的に決めることです。

事業が止まっている会社では、「担当者を決めたから進む」と考えてはいけません。

担当者に人員、設備、予算、時間を動かす権限があるかを確認してください。

経営者は、現在止まっている施策を一つ選び、次の点を書き出してみてください。
・誰が責任者か。
・その責任者は人を動かせるか。
・設備や予算を使えるか。
・既存業務より優先できるか。
・誰の判断で止められるか。
・止まった場合に誰が解決するか。

これらが曖昧であれば、どれほど良い計画でも実行されません。

工場長の経験や影響力は、会社の成長を妨げるものではありません。その力を、社長の経営方針を実現する役割へと組み替えることが必要です。

工場長に判断を委ね続けるのではなく、現場の専門性と経営の意思決定を分けてください。

そのうえで、社長が目的と優先順位を決め、工場長が実現方法を考え、責任者が期限までに実行する体制をつくる。

それが、2代目社長の方針が現場で実行される会社への第一歩になります。

3.会長と工場長の役割を1年かけて整理した

事業承継後に会社が動かないと、2代目社長は人を替えたくなります。

会長には経営から完全に退いてもらう。工場長を降格させる。若い幹部を登用する。新しい人事制度を導入する。

たしかに、人事を変えれば、表面的には組織が変わったように見えます。しかし、先代や工場長が長年かけて築いてきた信用、技術、社員との関係まで一度に切り離せば、会社の土台そのものが揺らぎます。

この会社でも、現社長が最初から会長や工場長の影響力を取り上げていたら、改革はうまくいかなかったでしょう。

会長には、主要取引先や銀行との長年の関係がありました。工場長には、製造技術、設備、人員配置、品質管理に関する知識が集中していました。二人は、現社長の方針が実行されない原因の一部であると同時に、会社を支えてきた重要な存在でもあったのです。

そこで、この会社では、会長と工場長を排除するのではなく、1年間かけて、実際の影響力、役割、権限を整理しました。

改革で最初に考えるべきことは、「誰を外すか」ではありません。「誰が何に影響を与え、どの役割なら力を発揮できるか」を見極めることです。

この順番を間違えなかったことが、会社を壊さずに、現社長が動かせる体制へ移行できた理由でした。

3.1.社内の影響力を見える化した

この会社で最初に行ったのは、役職変更でも組織図の作り直しでもありませんでした。

まず、実際に会社の中で誰が誰に影響を与えているのかを整理しました。

会社には、正式な組織図があります。

社長の下に工場長、営業責任者、管理責任者がいて、その下に各社員が配置されています。

しかし、実際の会社は、組織図どおりに動いているとは限りません。

この会社では、重要な案件があると工場長が会長へ個別に相談していました。古参社員も、現社長から指示を受けた後に、工場長の反応を確認していました。営業担当者は、価格改定について会長の意向を気にしていました。

つまり、正式な指揮命令系統とは別に、会長と工場長を中心とした非公式な意思決定経路が存在していたのです。

現社長は、それまでも何となくその状態に気づいていました。

しかし、「会長の影響が強い」「工場長が仕切っている」という感覚だけでは、何を変えればよいか分かりません。

そこで、最近止まった施策や、予定どおり進まなかった案件を一つずつ確認しました。
・誰が最初に提案したのか。
・誰が正式に決定したのか。
・誰に実行を指示したのか。
・誰が反対または懸念を示したのか。
・誰の発言で方針が変わったのか。
・最終的にどこで止まったのか。

原価改善、新規事業、設備更新、人員配置などについて、この流れを書き出しました。

すると、共通点が見えてきました。

現社長が決定した後、工場長が会長へ相談する。会長が慎重な意見を述べる。工場長や古参社員が、その発言を事実上の反対と受け取る。そして、担当者が実行を止める。

誰も「社長の方針には従わない」と明言していません。

それでも、結果として現社長の決定が実行されない構造ができていました。

社内のしがらみは、人間関係が悪いから生まれるとは限りません。長年の信頼関係と、曖昧な役割が重なることで、正式な指示より非公式な影響が優先される状態から生まれます。

この実態を見える化したことで、現社長も「もっと強く言えばよい」という問題ではないと理解できました。

また、会長や工場長に対しても、感情的に「口を出さないでほしい」と伝えるのではなく、具体的な事実を示せるようになりました。

例えば、
「会議で原価改善を決めましたが、その後、会長の発言を受けて価格交渉が止まりました」
「新規事業の担当者を決めましたが、工場長の判断で人員が配置されませんでした」
というように、影響の経路を具体的に説明しました。

経営者が自社で同じことを行う場合は、過去3か月から6か月の間に、進まなかった施策を三つ程度選んでください。

そして、それぞれについて、
・正式な決定者
・実際の影響者
・実行責任者
・止めた人
・止まった理由
を書き出してみてください。

組織図とは異なる会社の動き方が見えてきます。

大切なのは、影響力を持つ人を悪者にしないことです。

なぜその人に相談が集まるのか。なぜ社員はその人の判断を待つのか。過去にどのような役割を果たしてきたのか。

そこまで確認することで、その人の力を今後どこで活かすべきかを考えられます。

3.2.会長の役割を切り分けた

社内の影響力を整理した後、次に行ったのが、会長の役割の再設計です。

現社長は、会長に完全に会社から離れてもらうことを望んでいたわけではありません。

会長は、長年にわたり会社を経営し、主要取引先、金融機関、仕入先との信用を築いてきました。業界の歴史や取引先の事情についても、現社長にはない知識を持っていました。

そのため、会長の経験を使わないことは、会社にとって大きな損失です。

一方で、日常の経営判断に会長の影響が残り続ければ、現社長は会社を動かせません。

そこで、会長が担う役割と、現社長が決める領域を明確に分けました。

会長には、主に次の役割を担ってもらいました。
・主要取引先との関係維持
・業界情報や過去の経緯についての助言
・金融機関や外部関係者への信用補完
・必要に応じた現社長への相談対応

一方、次の事項は現社長が最終決定することを確認しました。
・経営方針
・投資判断
・人事
・価格改定
・取引条件
・原価改善
・新規事業
・組織変更

さらに、会長が意見を伝える相手は、原則として現社長としました。

社員や幹部へ直接指示を出すのではなく、意見や懸念がある場合は現社長へ伝える。経営会議で決まった事項を変更する必要がある場合も、会長が個別に止めるのではなく、現社長が再判断する。

こうしたルールを設けました。

会長の経験を活かすことと、会長に経営判断を委ねることは同じではありません。

ここを分ける必要があります。

現社長が会長に伝えたのは、単なる権限の線引きではありませんでした。

「会長の経験や取引先との関係は、今後も会社に必要です。しかし、社員が会長と私のどちらの判断に従えばよいか迷っています。経営判断は私が行い、会長には経験と信用を活かす役割をお願いしたい」

このように、会長の価値を認めたうえで、役割の変更を依頼しました。

先代に「口を出さないでほしい」と伝えれば、過去の経営を否定されたと受け取られる可能性があります。

しかし、「会社に必要な役割を改めてお願いしたい」と伝えれば、協力を得やすくなります。

また、会長の役割を口頭だけで終わらせず、経営会議の運営や社員への周知にも反映しました。

社員には、
「経営上の最終決定は現社長が行う」
「会長から直接意見を聞いた場合も、実行前に現社長または直属上司へ確認する」
という方針を伝えました。

最初から完全に守られたわけではありません。

会長がつい社員へ直接意見を伝えることもありました。社員が習慣的に会長へ相談することもありました。

そのたびに現社長が確認し、正式な経路へ戻していきました。

1回の話し合いで影響力が変わるわけではありません。

長年続いた意思決定の習慣を変えるには、役割を決めるだけでなく、その役割に沿った行動を繰り返し定着させる必要があります。

経営者は、先代に会社から離れてもらうか、何でも任せるかという二者択一で考えないでください。

先代の経験をどこで使い、どこから先は現社長が判断するのか。

この境界を明確にすることが重要です。

3.3.工場長を実行責任者に変えた

会長の役割整理と同時に進めたのが、工場長の役割の再設計です。

当初、現社長から見ると、工場長は改革を止める存在でした。

原価改善には慎重で、新規事業には人員を出さず、設備更新にも反対する。会長へ相談し、現社長の決定を事実上止める。

しかし、工場長本人には、改革を妨害しているという認識はありませんでした。

工場長は、納期、品質、現場の負荷、社員の安全を守ろうとしていました。

現社長の方針によって現場が混乱し、不良や納期遅れが起きれば、自分が責任を負うと考えていたのです。

また、新しい取組が増えることで、自分が築いてきたやり方や存在価値が否定される不安もありました。

そこで、現社長は、工場長を単に説得しようとはしませんでした。

まず、工場長が何を心配しているのかを個別に確認しました。
・新規事業に人を出せないのは、どの工程が不足しているからか。
・原価管理に抵抗があるのは、何が現場負担になるからか。
・設備更新に反対するのは、どのような問題を予想しているからか。

懸念を具体化すると、感情的な抵抗に見えていたものの中に、実務上の課題が含まれていることが分かりました。

一方で、「難しい」という結論だけで施策を止めることは認めない方針も示しました。

工場長の役割を、「できるかどうかを判定する人」から、「実現方法を考え、実行する責任者」へ変えたのです。

例えば、原価改善では、
・工程ごとの作業時間を把握する
・不良、手直し、外注の原因を整理する
・改善案を期限までに出す
・改善結果を経営会議で報告する
という責任を工場長に持ってもらいました。

新規事業では、
・試作品の製造計画を作る
・必要な人員と設備時間を示す
・品質面の課題を整理する
・実行可能な日程を提案する
という役割を与えました。

工場長に必要なのは、改革への賛否を表明する役割ではなく、社長の方針を現場で実現する方法を考える役割です。

ただし、責任だけを負わせてはいけません。

工場長が実行責任を負うのであれば、必要な権限も与える必要があります。

人員配置を調整する。外注を利用する。設備の使用時間を変更する。現場の改善活動を進める。

どこまで工場長が決められ、どの段階で社長判断が必要なのかを明確にしました。

さらに、経営会議では、工場長の報告内容も変えました。

以前は、「忙しい」「人が足りない」「現場では難しい」という報告が中心でした。

それを、
・現在の課題
・原因
・対応策
・責任者
・期限
・必要な経営判断
の順で報告する形に変えました。

すると、工場長は少しずつ、問題を止める人ではなく、問題を解決する人へ変わっていきました。

原価改善で数字上の成果が出ると、工場長自身も、改革によって現場が楽になることを理解しました。

新規事業でも、自分の技術や経験が新しい売上をつくるために必要とされていると分かると、協力姿勢が強まりました。

影響力の強い古参幹部を動かすには、力を奪うのではなく、その力を会社の成長に使う役割へ変えることが必要です。

経営者は、改革に慎重な幹部を見たとき、すぐに「抵抗勢力」と決めつけないでください。

その人が何を守ろうとしているのか。どの情報や経験を持っているのか。どの役割なら改革に貢献できるのか。

これを確認してください。

そのうえで、責任、権限、期限、報告方法を明確にします。

今回の事例企業では、会長と工場長の影響力を短期間で消そうとはしませんでした。

1年間かけて、実態を見える化し、会長の役割を切り分け、工場長を実行責任者へ変えていきました。

時間はかかりましたが、その結果、会社の信用や技術を失わずに、現社長が経営判断を行える体制をつくることができました。

会社を動かすために必要なのは、影響力の強い人を排除することではありません。誰の力を、どの役割で、どのように使うかを再設計することです。

4.社長が決め、幹部が動く体制をつくった

会長と工場長の役割を整理しても、それだけで会社が動くわけではありません。

先代の影響を弱め、工場長の責任範囲を明確にしても、現社長がすべての仕事を抱えたままでは、会社は再び止まります。

売上5億円から10億円規模の製造業では、営業、製造、品質、技術、管理など、複数の部門が連動しなければ経営課題を解決できません。社長が一人で指示し、進捗を確認し、問題が起きるたびに判断している状態では、会社の成長に限界があります。

この会社でも、改革前は、ほとんどの問題が現社長に集まっていました。

原価が合わない案件があれば、営業担当者も工場長も社長の判断を待つ。新規事業が進まなければ、担当者が社長へ相談する。設備、人員、納期の調整も、最後は社長が間に入らなければまとまりませんでした。

一方で、経営会議は行われていました。

しかし、その場で各部門が状況を報告し、最後に社長が指示を出すだけでした。誰が、いつまでに、何を実行するのかが曖昧なため、次の会議でも同じ問題が繰り返されていました。

社長が決めることと、社長がすべて実行管理することは同じではありません。

現社長が担うべき仕事は、会社の方向性、優先順位、投資、人事などの重要な経営判断です。そして、その判断を具体的な行動へ変えるのは幹部の役割です。

そこでこの会社では、経営会議、原価改善、新規事業の進め方を見直し、現社長が決定し、幹部が責任を持って実行する体制へ変えていきました。

4.1.経営会議を意思決定の場にした

改革前の経営会議では、営業責任者が売上を報告し、工場長が生産状況を説明し、管理部門が試算表や資金繰りを報告していました。

一見すると、必要な情報は共有されています。

しかし、報告が終わると、現社長が一つずつ問題点を指摘し、担当者に対応を求めます。担当者は「分かりました」「検討します」と答えますが、具体的な行動や期限までは決まりません。

次の会議で社長が進捗を尋ねると、
「現場が忙しく、まだ着手できていません」
「取引先と調整中です」
「担当者間で話がまとまっていません」という回答が返ってきます。

会議は毎月開かれていても、会社の問題は解決されないままでした。

この状態では、経営会議は意思決定の場ではなく、社長が情報を集めるための報告会にすぎません。

会議で多くの情報を共有しても、決定と実行が結びつかなければ、会社は動きません。

そこで、経営会議の目的を明確に変えました。

単に各部門の状況を説明するのではなく、会社として何を決めるのか、その決定を誰が実行するのかを確定する場にしたのです。

まず、会議で扱う議題を絞りました。

売上や生産実績など、資料を見れば分かる内容は事前に共有します。会議では、目標との差が大きい項目、部門をまたぐ問題、社長の判断が必要な事項に時間を使います。

例えば、原価率が悪化しているのであれば、単に「原価率が上がりました」と報告するだけでは終わりません。
・どの製品や取引先で悪化しているのか。
・原因は材料費、外注費、残業、不良のどれなのか。
・誰がどのような改善を行うのか。
・いつまでに、どの数字を目指すのか。
ここまで決めます。

そして、すべての決定事項について、次の項目を記録しました。
・決定した内容
・実行責任者
・期限
・確認する数字
・必要な協力者
・進まない場合の相談先

次回の会議では、新しい議題に入る前に、前回の決定事項を確認します。

これにより、「検討します」という曖昧な約束が減りました。

担当者は、自分が何をいつまでに実行するのかを理解できます。現社長も、細かな作業に口を出すのではなく、決定事項が実行されているかを確認できるようになりました。

また、会議中に決めたことが、会議の外で覆らないようにしました。

以前は、会議後に工場長が会長へ相談し、その意見を受けて実行が止まることがありました。

そこで、会長から意見が出た場合も、担当者が独自に変更するのではなく、現社長に報告し、必要であれば経営会議で再検討するルールにしました。

経営会議を変えるとは、会議の回数や資料を増やすことではありません。決めたことが、責任者と期限を伴って実行される仕組みに変えることです。

自社の経営会議が機能しているか確認したい経営者は、直近の会議で決めた事項を四つ書き出してください。
・責任者は決まっているか。
・期限は明確か。
・成果を確認する数字はあるか。
・次回の会議で進捗を確認する予定になっているか。

一つでも曖昧であれば、会議で話し合っただけで、会社として決定した状態にはなっていません。

4.2.原価改善を全社課題にした

この会社では、売上が約8億円まで増えていましたが、利益率が低下していました。

材料費や外注費が上昇し、短納期や少量生産への対応も増えていました。それでも、売上自体は伸びていたため、営業部門には強い危機感がありませんでした。

原価について詳しく把握しようとしていたのは、主に経理担当者と現社長でした。

経理担当者が原価率の悪化を指摘しても、
営業部門は、
「売上を確保するためには仕方がない」
「取引先に値上げを言えば、仕事を失うかもしれない」と考えます。

製造部門も、
「製品ごとに条件が違うので、正確な原価は出せない」
「現場は納期を守ることで精いっぱいだ」と受け止めていました。

その結果、原価改善は経理が数字を集め、社長が注意を促すだけの活動になっていました。

しかし、原価は経理部門だけで改善できるものではありません。

販売価格や受注条件は営業が決めます。材料の使い方、作業時間、不良、外注は製造部門に関係します。設備投資や人員配置は経営判断です。

つまり、利益率を改善するためには、営業、製造、管理、経営が同じ数字を見て、それぞれの役割を果たす必要があります。

原価改善は、経理が数字を正しく計算する活動ではありません。会社がどの仕事を受け、どのようにつくり、どの利益を残すかを決める経営そのものです。

そこで、この会社では、製品別・取引先別の粗利益を経営会議で共有するようにしました。

ただし、最初からすべてを完璧に把握しようとはしませんでした。

まずは、売上額が大きい案件、利益率が低いと考えられる案件、残業や外注が多い案件を対象にしました。

営業部門は、販売価格、値引き、納期、ロット、仕様変更の履歴を整理します。

製造部門は、実際の作業時間、材料使用量、不良、手直し、外注の発生状況を確認します。

管理部門は、それらをもとに利益が残っているかを見えるようにします。

その結果、売上額は大きくても利益がほとんど残らない取引や、短納期対応による残業と外注で赤字になっている案件が明らかになりました。

しかし、数字が分かっただけでは改善しません。

案件ごとに、営業責任者と工場長へ実行責任を持たせました。

営業責任者は、価格改定、ロット変更、納期条件の見直しを取引先と交渉します。

工場長は、工程、段取り、不良、外注の改善策を実行します。

現社長は、重要な取引先との関係や、採算が合わない案件を継続するかどうかを判断します。

このように、部門ごとの仕事を明確にしたことで、原価改善が「経理から指摘される仕事」から、「自分たちの利益を増やす活動」へ変わりました。

さらに、改善した利益の使い道も伝えました。

利益が増えれば、設備更新、賃上げ、採用、教育、新規事業に資金を使えます。

現場にとって、原価改善は単なる費用削減ではありません。古い設備を更新し、過度な残業を減らし、働きやすい環境をつくるために必要な活動です。

この目的が共有されると、工場長や社員の受け止め方も変わりました。

原価改善を成功させるためには、「経費を減らせ」と指示するのではなく、営業と製造がどの数字に責任を持ち、改善した利益を会社の未来へどう使うのかを明確にする必要があります。

経営者は、自社の利益率が悪化したとき、経理担当者だけに原因分析を任せないでください。

利益を減らしている取引を一つ選び、営業責任者、製造責任者、管理担当者を同じ場に集めてください。

そのうえで、価格、材料、作業時間、外注、不良、納期のどこに問題があるのかを確認します。

そして、各部門が一つずつ改善行動を決めてください。

一件の取引でも、実行して成果を確認できれば、全社へ広げることができます。

4.3.新規事業を会社のプロジェクトにした

この会社の現社長は、既存事業だけに依存することへ危機感を持っていました。

主要取引先からの受注が売上の多くを占めており、その取引が減少すれば、会社全体へ大きな影響が出ます。

そこで、既存の製造技術を活かした新規事業を計画しました。

市場性も確認し、経営会議で取り組む方針も決めました。

しかし、実際には進みませんでした。

新規事業の担当者は決まっていましたが、日常業務との兼務でした。試作品をつくるための設備時間も、人員も確保されていません。

工場長は既存顧客の納期を優先し、営業部門は既存案件の対応に追われていました。

そのため、新規事業は「時間ができたら進める仕事」になっていました。

現社長が進捗を確認すると、担当者は「現場と調整中です」と答え、工場長は「既存業務に余裕がありません」と説明します。

誰も反対してはいません。しかし、誰も優先していませんでした。

社長が重要だと考えているだけでは、新規事業は会社の仕事になりません。

そこで、新規事業を正式な会社プロジェクトとして扱うことにしました。

まず、目的を明確にしました。
・なぜこの事業に取り組むのか。
・どの市場を狙うのか。
・いつまでに、どの程度の売上を目指すのか。
・既存事業との関係はどうするのか。

次に、プロジェクト責任者を決めました。

ただし、責任者を任命するだけでは足りません。

担当者、人員、設備、予算、期限を具体的に割り当てました。

例えば、
・毎週決まった時間を試作品の開発に使う。
・対象設備を使用できる時間を確保する。
・工場長は技術面と品質面を支援する。
・営業責任者は見込み客へのヒアリングを行う。
このように、各部門の役割を決めました。

また、試作品完成、顧客評価、価格設定、量産判断など、段階ごとの目標を設定しました。

経営会議では、売上だけでなく、新規事業の進捗も毎月確認します。

予定より遅れている場合は、担当者を責めるのではなく、何が不足しているのかを確認しました。
・人が足りないのか。
・設備時間を確保できないのか。
・技術的な課題があるのか。
・顧客の要望が分からないのか。
・社長の判断を待っているのか。
原因を明確にし、その場で必要な対応を決めます。

さらに、工場長の役割も変えました。
以前の工場長は、新規事業が実行可能かどうかを判断する立場でした。
改革後は、会社が決めた新規事業を、技術面から実現する責任者の一人となりました。
「できるか、できないか」を決めるのではなく、「実現するために何が必要か」を提案する役割です。

これにより、工場長の経験と技術が、新規事業を止める力ではなく、進める力へ変わりました。

新規事業を進めるために必要なのは、社長が熱意を語り続けることではありません。
既存業務と同じように、責任者、期限、人員、設備、予算を正式に割り当てることです。

経営者は、自社で進まない新規事業があるなら、次の点を確認してください。
・責任者は誰か。
・担当者は何人いるか。
・その人たちは新規事業に使う時間を確保できているか。
・必要な設備と予算を使えるか。
・既存業務とどちらを優先するのか。
・いつ、どの状態になれば次の段階へ進むのか。

これらが明確でなければ、新規事業は会社の計画ではなく、社長個人の希望にとどまっています。

この会社では、経営会議、原価改善、新規事業をそれぞれ別の取組として扱いませんでした。
経営会議で会社の優先順位を決め、原価改善で必要な利益を生み、新規事業へ人員と資金を配分する。
一連の経営の仕組みとして整えました。
その結果、現社長がすべてを直接動かさなくても、幹部が自分の役割を理解し、行動できるようになりました。

社長は、現場の細かな調整から少しずつ離れ、将来の事業、投資、人材について考える時間を持てるようになりました。

現社長が決め、幹部が実行する体制とは、社長が仕事を手放すことではありません。
社長と幹部が、それぞれ果たすべき責任を明確にすることです。

会社を次の成長段階へ進めるためには、社長一人が頑張る経営から、幹部が経営方針を実行する組織へ変わらなければなりません。

まずは、次の経営会議で一つの課題を選び、責任者、期限、確認する数字を決めてください。

その小さな変更が、決めたことが実行される会社をつくる出発点になります。

5.2年後に売上10億円を突破した

売上約8億円まで成長していたこの会社は、決して仕事がない会社ではありませんでした。

既存の取引先からは一定の受注があり、製造技術にも強みがありました。
先代が長年築いてきた信用があり、工場長を中心とした現場には、品質と納期を守る力もありました。
それでも、売上10億円を超えられない状態が続いていました。

現社長は原価改善や新規事業を進めようとしていましたが、
会長の意向と工場長の判断によって、経営会議で決めたことが実行されません。
売上を増やそうとしても、既存業務に追われ、新しい取組に人員や設備を振り向けることができませんでした。

さらに、売上が増えても、利益が十分に残らないという問題も抱えていました。

採算の低い取引、短納期への対応、外注費や残業の増加などにより、受注量の増加がそのまま利益の増加にはつながっていなかったのです。

この状態で、さらに営業を強化して受注を増やしていたら、
売上は一時的に伸びても、現場の負担と資金繰りの不安が大きくなっていた可能性があります。

そこでこの会社では、最初から売上10億円だけを追いかけるのではなく、まず1年間かけて、会社が動く体制を整えました。

会長と現社長の役割を分け、工場長の責任と権限を明確にする。経営会議を意思決定と実行確認の場へ変える。
原価改善を全社の課題とし、新規事業を正式なプロジェクトとして進める。

こうした改革を積み重ねたことで、現社長の方針が幹部を通じて実行されるようになりました。

そして、改革開始から2年後、同社は売上10億円の壁を突破するとともに、利益率も改善することができました。

成長できた理由は、単に受注を増やしたからではありません。
売上を増やしても利益が残り、決めたことを実行できる会社へ変わったからです。

5.1.1年目は組織の土台を整えた

現社長は、当初から売上10億円を目標としていました。

そのため、新規顧客の開拓や新製品の開発、設備投資などを早く進めたいと考えていました。

しかし、改革前の会社では、新しい売上をつくる前に解決すべき問題がありました。

原価改善を決めても営業部門と製造部門が動かない。
新規事業の責任者を決めても人員と設備が割り当てられない。
会議で決めたことが、会長や工場長の意向によって止まる。

この状態で新しい受注を増やしても、現場が混乱し、利益率がさらに低下するだけです。

そこで、1年目は売上の急拡大を最優先にせず、会社が動く土台づくりに時間を使いました。

最初に取り組んだのは、会長と現社長の役割整理です。

会長には、主要取引先や金融機関との関係維持、過去の経緯についての助言など、経験と信用を活かせる役割を担ってもらいました。

一方で、事業方針、投資、人事、価格、原価改善、新規事業については、現社長が最終判断することを明確にしました。

次に、工場長の役割を見直しました。

それまでは、工場長が「できるか、できないか」を判断し、
難しいと考えれば計画が止まっていました。

改革後は、現社長が決めた方針について、「どうすれば実現できるか」を考え、実行する責任を工場長に持たせました。

経営会議の運営も変えました。

各部門が状況を報告し、社長が指示を出すだけの会議から、決定事項、実行責任者、期限、確認する数字を明確にする場へ変えました。

原価改善についても、経理担当者と現社長だけが数字を見るのではなく、営業責任者と工場長が同じ数字を確認するようにしました。

新規事業には、正式に人員、設備時間、予算を割り当てました。

これらの取組は、すぐに売上へ表れるものばかりではありません。

むしろ1年目は、会議や役割分担を変えることで、
一時的に現場の戸惑いが増えることもありました。

長年続いてきた判断の仕方を変えるため、
会長や工場長との話し合いも繰り返す必要がありました。

しかし、ここを省略して売上だけを追えば、会社は以前と同じ状態に戻ります。

売上の壁を越える前に必要なのは、営業担当者を増やすことでも、広告費を増やすことでもありません。
社長が決めたことを、幹部と社員が実行できる会社をつくることです。

中小企業経営者は、売上が伸び悩むと、すぐに営業施策を増やそうとします。

しかし、現在の組織で、受注が20%増えたときに対応できるでしょうか。
・誰が生産計画を見直すのか。
・必要な人員をどう確保するのか。
・外注と内製を誰が判断するのか。
・採算の低い案件を断れるのか。
・新しい仕事を進める責任者はいるのか。

これらが曖昧なままでは、売上の増加が会社の成長ではなく、
社長と現場の負担増加につながります。

事例企業では、1年目にこれらの土台を整えたからこそ、
2年目以降の売上増加を受け止めることができました。

5.2.既存事業と新規事業の両方が伸びた

体制改革が進むと、まず既存事業の進め方が変わりました。

以前は、受注を増やすことが営業部門の主な目標でした。

営業担当者は、取引先から依頼があれば、納期や仕様に多少無理があっても受注しようとしていました。
売上は確保できますが、製造部門では急な段取り替え、残業、外注が増えます。

その結果、忙しい割に利益が残らない案件が生まれていました。

改革後は、製品別・取引先別の採算を確認したうえで、受注条件を判断するようにしました。

売上額だけでなく、粗利益、作業時間、外注費、不良、納期条件などを営業部門と製造部門が一緒に確認します。

採算が低い案件については、すぐに取引をやめるのではなく、
価格、仕様、ロット、納期を見直しました。

工場長も、単に「現場が忙しい」と訴えるのではなく、どの製品や工程に負荷が集中しているのかを数字で説明するようになりました。

営業責任者は、その情報をもとに取引先と交渉しました。

この変化によって、既存事業では、売上を大きく落とさずに利益率を改善できるようになりました。

さらに、経営会議で優先順位が明確になったことで、利益率の高い案件へ人員や設備を振り向けられるようになりました。

一方、新規事業も動き始めました。

以前の新規事業は、現社長が構想を示しても、日常業務の中に埋もれていました。

改革後は、責任者、担当者、期限、設備時間、予算を明確にし、毎月の経営会議で進捗を確認しました。

試作品の製造が遅れていれば、現場の努力不足と決めつけず、原因を確認します。
・人員が不足しているのか。
・既存業務との優先順位が曖昧なのか。
・技術上の問題があるのか。
・顧客の要望を確認できていないのか。

問題をそのままにせず、必要な判断を会議で行いました。

工場長にも、技術面から新規事業を実現する役割を担ってもらいました。

これにより、工場長の経験は、新しい取組を止める力ではなく、品質を確保しながら製品化を進める力へ変わりました。

新規事業が少しずつ売上を生むようになると、社員の受け止め方も変わりました。

当初は「社長がまた新しいことを始めた」と見ていた社員も、
新しい受注や利益につながることを確認し、自分たちの仕事として関わるようになりました。

会社が動き始めると、既存事業の改善と新規事業の成長は別々の取組ではなくなります。
既存事業で生み出した利益と人材を、新しい成長へ振り向けられるようになります。

経営者は、既存事業と新規事業を二者択一で考えないでください。

既存事業が忙しいから新規事業ができないのではなく、採算の低い仕事や非効率な業務に人員と時間を奪われている可能性があります。

まず、既存事業のどこで利益と時間を失っているのかを確認してください。

そこで生まれた余力を、新規事業へ振り向ける流れをつくることが重要です。

5.3.売上と利益を同時に伸ばせた理由

この会社が2年後に売上10億円を突破できたのは、受注量を無条件に増やしたからではありません。

採算性を確認しながら、伸ばすべき売上を選んだからです。

改革前は、売上が増えれば会社も成長していると考えられていました。

しかし、実際には、利益率の低い案件や現場負担の大きい案件が含まれていました。

売上が増えるほど残業や外注費が増え、現金が残らないこともありました。

改革後は、売上高だけでなく、粗利益とキャッシュフローを重視しました。

新しい案件を受注する際には、販売価格、材料費、作業時間、設備の負荷、外注の有無などを確認します。

営業部門は売上だけを追わず、製造部門も現場の効率だけを優先しない。
会社全体で、どの仕事が利益と将来の成長につながるかを判断しました。

原価改善も、単なる経費削減ではありませんでした。

値上げ交渉、仕様変更、工程改善、不良削減、外注の見直しなどを組み合わせ、売上増加が利益増加につながる構造をつくりました。

そのため、売上が8億円から10億円へ増えた際にも、売上だけが膨らむのではなく、利益率の改善を伴う成長になりました。

もう一つの重要な理由は、会長、工場長、現社長の力を対立させなかったことです。

改革前は、現社長が新しい方針を示すと、会長の過去の経験や工場長の現場判断が反対方向へ働いていました。

改革後は、それぞれの役割を分けました。
・会長は、長年築いた取引先や金融機関との信用を活かします。
・工場長は、製造技術と現場経験を使い、原価改善や新製品の製造を実行します。
・現社長は、会社の将来像、投資、事業の優先順位、資金配分を決定します。

三者の強みを競わせるのではなく、異なる役割として組み合わせたのです。

売上10億円の壁を突破できた最大の理由は、先代時代の信用や技術を捨てずに、現社長の経営方針のもとで活かせる体制へ組み替えたことです。

会社を変えるというと、古いものを捨て、新しいものへ置き換えることだと考えがちです。

しかし、事業承継企業には、先代が築いた取引先との信頼、
古参幹部が持つ技術、社員が積み重ねてきた経験があります。

これらを否定すれば、会社の強みまで失います。

必要なのは、過去の力を現在の経営方針と結び直すことです。

中小企業経営者は、売上目標だけを掲げる前に、次の三つを確認してください。
・第一に、増やそうとしている売上は、利益が残る売上か。
・第二に、その売上を実現するための人員、設備、資金、責任者が決まっているか。
・第三に、先代や古参幹部の経験が、新しい方針を止める力ではなく、実現する力として使われているか。

これらが整っていなければ、売上目標を引き上げても会社は疲弊します。

一方で、会社が決めたことを実行でき、採算を確認しながら受注を増やし、先代と幹部の力を適切に活用できれば、売上と利益を同時に伸ばせます。

事例企業では、1年間の体制改革を通じて、その状態をつくりました。

そして2年後、売上10億円の壁を突破しました。

これは、1年間売上を追わなかったということではありません。

売上を持続的に増やすために、先に経営の仕組みを整えたということです。

会社の成長を急ぐほど、経営者は立ち止まって、現在の組織でその成長を受け止められるかを確認する必要があります。

まずは、現在の売上の中から、売上額は大きいものの利益が残っていない取引を一つ選んでください。
営業、製造、管理の責任者を集め、価格、原価、作業時間、外注、不良、納期を確認します。
そして、誰が、いつまでに、何を改善するのかを決めてください。

同時に、止まっている新規事業があるなら、責任者、人員、設備時間、予算が本当に割り当てられているかを確認してください。

この二つを実行するだけでも、売上を増やす前に整えるべき問題が見えてきます。

売上の壁は、営業力だけで突破するものではありません。利益を生む事業と、それを実行できる組織を同時につくることで、初めて越えることができます。

まとめ

売上5億円から10億円規模の製造業で、2代目社長の方針どおりに会社が動かない原因は、社員の能力不足や社長の伝え方だけにあるとは限りません。

今回の事例企業では、事業承継から4年が経過しても、社員は現社長より会長の意向を気にし、製造現場では工場長が実質的な判断を握っていました。
そのため、経営会議で決めた原価改善や新規事業も、現場で実行されない状態が続いていました。

そこで、会長や工場長を排除するのではなく、1年間かけて社内の影響力を見える化し、それぞれの役割と権限を整理しました。

会長には、主要取引先や金融機関との関係など、これまで築いてきた信用を活かしてもらいました。
工場長には、改革への賛否を判断する立場ではなく、現社長の方針を製造現場で実現する責任を担ってもらいました。

さらに、経営会議を報告会から意思決定と実行確認の場へ変え、原価改善を経理だけの仕事ではなく、営業・製造・管理が取り組む全社課題にしました。新規事業にも、責任者、期限、人員、設備時間、予算を正式に割り当てました。

会社が動き始めたのは、社長がさらに強く指示したからではありません。
現社長が決め、幹部が実行する仕組みを整えたからです。

その結果、既存事業では採算性を確認しながら受注条件を改善し、新規事業も会社の正式なプロジェクトとして進むようになりました。
改革開始から2年後には、売上10億円の壁を突破し、利益率も改善しました。

売上の壁を越えるために必要なのは、過去を否定することではありません。
先代の信用、工場長の技術、現社長の経営方針を、それぞれが力を発揮できる役割に組み替えることです。

自社でも会社が動かないと感じているなら、まず、最近決めたのに進んでいない施策を一つ選んでください。

誰が決めたのか。誰が実行するのか。誰の意見で止まったのか。
責任者と期限は明確か。最終判断者は本当に現社長になっているか。

この流れを書き出すだけでも、組織図では見えない影響力や、曖昧な役割が見えてきます。

いきなり大きな人事変更を行う必要はありません。
まず一つの施策について、決定者、責任者、期限、確認する数字を明確にし、次の経営会議で進捗を確認してください。

その小さな実行を積み重ねることが、2代目社長の方針が現場まで届き、売上と利益を伸ばせる会社への第一歩になります。

あなたは二代目社長として、どのように経営の舵取りをしていきますか?