今週のコラム 人件費を変えられる2代目と、先代の会社を食い潰す2代目の決定的な差

「決算書の数字だけを見ると、そこまで悪くないはずなんです。
売上も伸びていますし、社員も増えています。
でも、銀行の反応が明らかに変わってきました。
“もう少し様子を見ましょう”と言われる回数が増えているんです。」
――これは、当社の個別相談にいらした、事業承継後数年が経過した2代目経営者の言葉です。
確かに、「人件費は守るべきものか、それとも見直すべきものか」と悩む経営者は少なくありません。
社員は会社の財産であり、簡単に減らすべきではない。
そう考えるのは、経営者として自然な感覚でしょう。
しかし一方で、
売上は伸びているのに、資金繰りが楽にならない。
黒字なのに、銀行の評価が上がらない。
こうした現象に直面している中小企業が、確実に増えています。
「人件費は守るべきか、それとも変えるべきか?」
――この問いは、単なるコスト削減の問題ではありません。
2代目経営者にとっては、会社の未来を左右する経営判断そのものです。
多くの2代目経営者は、先代が築いた組織や給与体系を、そのまま引き継ぎます。
しかし、その判断が、気づかぬうちに会社の体力を削っているケースは少なくありません。
銀行が見ているのは、売上でも、社長の想いでもありません。
見られているのは、ただ一つ。
人件費が、事業の稼ぐ力と釣り合っているかどうか。
この視点を持てるかどうかで、
2代目経営者の評価は、大きく分かれます。
目次
はじめに
中小企業の2代目経営者が直面する問題は、売上や競争環境だけではありません。
むしろ、本質的な課題は、もっと身近で、もっと見えにくいところにあります。
それが、人件費の構造です。
多くの会社では、先代の時代に設計された組織、人員配置、給与体系が、そのまま引き継がれています。
当時は合理的だったその仕組みも、事業内容や市場環境が変われば、必ずしも最適とは限りません。
にもかかわらず、人件費だけが過去の設計のまま維持されているケースは少なくありません。
その結果、決算書には、ある特徴的な兆候が現れます。
・売上は伸びているのに、付加価値が伸びていない。
・利益は出ているのに、キャッシュが増えない。
・人件費率だけが、静かに上昇している。
銀行は、この変化を非常によく見ています。
金融機関が評価するのは、売上の規模でも、社長の意欲でもありません。
見ているのは、「この会社は、人件費を事業の稼ぐ力に合わせて調整できているか」という一点です。
表面的には、融資は続いているように見えるかもしれません。
しかし、銀行の内部評価は、すでに変わっていることがあります。
銀行が本当に警戒するのは赤字企業ではありません。人件費の構造を見直せない企業です。
削減するかどうかの問題ではありません。
問われているのは、人件費を「経営の数字」として再設計できるかどうかという姿勢です。
もし今、
「売上は伸びているのに、経営が楽にならない」
「融資の条件が、以前より厳しくなっている」
そう感じているなら、それは偶然ではありません。
人件費に向き合えるかどうかで、2代目経営者の評価は決まり、会社の資金調達力は決まります。
そしてその差は、数年後、はっきりとした結果として現れます。
1. 「先代の会社」を壊し始めているのは、実は2代目自身である
2代目経営者の多くは、自覚のないまま、ある選択を積み重ねています。
それは「何もしない」という選択です。
売上が伸びている。
社員も増えている。
表面的には、会社は成長しているように見える。
しかしその裏側で、会社の構造は静かに歪んでいきます。
会社が弱っていく原因は、衰退ではなく“構造のズレ”です。
先代の時代に最適化されていた組織、人員配置、給与体系、役割分担。
それらは、当時の事業モデル・市場環境・競争条件の中では合理的な設計でした。
しかし、事業内容が変わり、顧客構造が変わり、競争環境が変わったにもかかわらず、
組織と人件費構造だけが過去の設計のまま残っている会社は少なくありません。
2代目経営者は、それを「安定」と捉えます。
「先代のやり方を尊重している」
「組織を壊さない経営をしている」
そう思っているかもしれません。
しかし経営の視点で見れば、それは違います。
構造を変えないという判断そのものが、会社を弱体化させる経営判断になっているのです。
会社を壊しているのは、外部環境ではありません。
市場でも、競合でもありません。
「構造に手を付けない」という2代目自身の意思決定が、静かに会社を蝕んでいます。
1.1. 売上を伸ばしても会社が強くならない本当の理由
多くの2代目経営者は、こう考えます。
「売上を伸ばせば、会社は強くなる」
「規模が大きくなれば、経営は安定する」
一見、正しいように見えます。
しかし現実は違います。
売上が伸びても、人件費の伸びがそれ以上であれば、会社は確実に弱くなります。
実際の決算書では、次のような構造が生まれます。
・売上高:増加
・営業利益率:低下
・キャッシュフロー:悪化
・人件費率:上昇
この状態は「成長」ではありません。
経営構造の悪化です。
銀行がこの状態をどう見るか。
答えは明確です。
「売上はあるが、固定費構造が重い」
「環境が少し悪化しただけで、利益が消える会社」
「柔軟性のない経営構造」
銀行は、売上の大きさよりも、収益構造の健全性を見ています。
つまり、
売上成長 = 経営力の証明ではない
構造が健全であること = 経営力の証明
という評価軸です。
2代目経営者が陥りやすいのは、
「成長している」という感覚と、
「経営が健全である」という現実を混同することです。
その結果、会社は次の状態に入ります。
規模は拡大しているのに、経営体力は低下していく会社
これは、最も危険な成長パターンです。
1.2. 先代の組織を“そのまま”引き継ぐという経営判断
2代目経営者が最も手を付けにくいのが、先代が築いた組織です。
・長年勤めている社員
・先代に信頼されていた幹部
・役割が曖昧なポジション
・「昔からこうしている」という業務構造
これらを変えないことは、「安定」に見えます。
しかし経営的に見れば、それは別の意味を持ちます。
経営構造を更新しないという選択です。
事業が変われば、必要な組織構造も変わります。
必要な人材配置も変わります。
必要なスキル構成も変わります。
それにもかかわらず、
「人はそのまま」
「配置もそのまま」
「給与体系もそのまま」
という状態が続くと、何が起きるか。
事業に合わない人件費構造が固定化されるのです。
これは削減の問題ではありません。
配置の問題です。
役割設計の問題です。
組織設計の問題です。
しかし2代目経営者は、ここに手を付けられません。
なぜなら、
・人間関係がある
・感情が絡む
・先代との関係性がある
・組織の歴史がある
からです。
その結果、経営判断が感情に引っ張られます。
経営判断を感情が支配し始めた瞬間、会社は構造的に弱体化する
そして最終的に起きるのは、
事業構造と人件費構造が完全に乖離した会社
です。
1.3. 人件費は削減対象ではなく、経営構造そのものである
多くの会社は、人件費を「コスト」として扱います。
削減対象、圧縮対象、我慢すべき固定費。
しかし、この認識そのものが間違いです。
人件費は、経営構造そのものです。
どの事業に人を配置しているか。
どの部門に人件費を投下しているか。
どの機能にコストをかけているか。
それらの合計が、人件費です。
つまり、人件費とは、
経営戦略の“結果”として表れる数字
なのです。
だから削減しても、構造を変えなければ意味がありません。
削っても、配置が変わらなければ再び膨らみます。
抑えても、設計が変わらなければ歪み続けます。
人件費改革とは、
・削減ではなく
・圧縮でもなく
・我慢でもなく
構造再設計です。
2代目経営者に問われているのは、
人件費を「感情」で扱うのか、「経営構造」で扱うのか
という姿勢です。
ここを変えられない限り、会社は変わりません。
人件費に手を付けられない経営者は、構造に手を付けられない経営者です。
そしてそれは、必ず会社の未来に現れます。
行動につなげるための問い
もし、今の経営が少しでも苦しいと感じているなら、
次の問いに答えてみてください。
・事業別に、人件費を把握していますか?
・部門別に、付加価値を説明できますか?
・人員配置と利益構造の関係を言語化できますか?
・「なぜこの人数が必要か」を数字で説明できますか?
もし答えられないものがあるなら、
問題は市場ではありません。
社員でもありません。
景気でもありません。
経営構造に手を付けていないという事実です。
2. 銀行はすでに、あなたの会社を“危険企業”として見ている
2代目経営者の多くは、銀行との関係を「問題ない」と認識しています。
融資は継続している。
面談も定期的に行われている。
担当者との関係も悪くない。
しかし、銀行の評価は、社長が感じているものとは別の次元で進んでいます。
銀行は、社長に見せない評価を必ず持っています。
それは「感覚」ではなく、数字と構造に基づく評価です。
2.1. 銀行の審査会議で実際に交わされる評価コメント
銀行の審査会議では、社長が想像している以上に、冷静で率直な言葉が使われます。
「売上は伸びているが、人件費の増加率が高すぎる」
「付加価値が増えていない」
「人を増やした意味が見えない」
「固定費構造が重く、柔軟性がない」
これらは、決して特別な指摘ではありません。
むしろ、成長企業と見られなくなった会社に対して、最も頻繁に出てくる評価です。
銀行は、こう考えています。
「売上は偶然でも伸びる。しかし、人件費構造は経営の意思決定の結果である」
つまり、銀行が見ているのは、売上ではなく、経営者の判断の質です。
2代目経営者が見落としがちな事実があります。
銀行は、売上よりも人件費の増え方を重視しているという現実です。
売上が10%伸びた会社と、
人件費が10%伸びた会社。
銀行にとって、後者の方が危険度は高い。
なぜなら、人件費は簡単に戻せないからです。
銀行にとって、人件費の増加は「成長」ではなく「リスク」です。
2.2. 黒字でも格付けが下がる会社の決定的特徴
多くの2代目経営者は、こう考えます。
「黒字なら、銀行は評価してくれるはずだ」
「利益が出ているのだから、問題はない」
しかし、銀行の評価はまったく違います。
銀行が恐れるのは赤字企業ではありません。
黒字なのに、構造が悪化している企業です。
具体的には、次のような会社です。
・売上は伸びているが、営業利益率が低下している
・人件費率が、毎期少しずつ上昇している
・利益は出ているが、キャッシュが増えていない
これらは単なる数字の変化ではありません。
経営構造が崩れ始めている兆候です。
銀行は、この兆候を極めて敏感に捉えます。
なぜなら、過去の膨大なデータから、
「どの会社が危なくなるか」を知っているからです。
銀行の内部評価では、次のような判断が行われます。
・「成長企業」から「要観察先」へ
・「積極融資先」から「慎重対応先」へ
・「問題なし」から「構造的課題あり」へ
表面上は何も変わっていないように見えます。
しかし、内部評価は確実に変わっています。
社長が気づいたときには、銀行の評価はすでに下がっている。
これが、2代目経営者が最も見落としやすい現実です。
2.3. 融資が止まる前に必ず現れる3つの兆候
銀行が融資を止めるとき、突然決断することはありません。
その前に、必ず兆候が現れます。
① 人件費率が、静かに上昇し続けている
多くの会社では、人件費率は一気に上がるのではなく、
毎期0.5%〜1%ずつ上昇します。
社長は、その変化を軽視します。
「この程度なら問題ない」
「社員が増えているから仕方ない」
しかし、銀行は違います。
人件費率の微増は、経営構造の崩れの始まりとして見ています。
② 利益とキャッシュの乖離が拡大している
決算書上は黒字。
しかし、現金は増えていない。
この状態は、極めて危険です。
利益は出ているのに、会社の体力が増えていないということだからです。
銀行は、この状態をこう判断します。
「この会社は、稼ぐ力よりも固定費の方が強くなっている」
③ 人件費について説明できない
銀行との面談で、担当者が質問します。
「なぜ、この人数が必要なのですか?」
「この給与水準の根拠は何ですか?」
「事業と人員配置の関係を説明してください」
この問いに答えられない会社は、確実に評価を落とします。
なぜなら、
人件費を説明できない会社は、経営を説明できない会社だからです。
銀行が最も警戒するのは、赤字企業ではなく「人件費を説明できない企業」です。
行動を促すための現実的な視点
ここまで読んで、
「うちはそこまで悪くない」と感じた経営者もいるかもしれません。
しかし、銀行の評価は、
「悪いかどうか」ではなく、
「変化しているかどうか」で決まります。
もし、次のいずれかに当てはまるなら、
あなたの会社は、すでに評価の分岐点に立っています。
・人件費率が、3期連続で上昇している
・売上の伸びより、人件費の伸びが大きい
・銀行から人員構成について質問されるようになった
これらは偶然ではありません。
銀行はすでに、あなたの会社を「構造的に課題のある企業」と見始めています。
2代目経営者に求められている意思決定
2代目経営者に求められているのは、
「人件費を削減すること」ではありません。
人件費を、経営の意思決定の中心に戻すことです。
どの事業に人を配置するのか
どの部門に人件費を投下するのか
どの機能を強化し、どこを見直すのか
これらは、すべて人件費の問題です。
つまり、
人件費とは、経営戦略そのものです。
ここに向き合えない限り、
会社は変わりません。
銀行は、あなたの会社の未来ではなく、あなたの意思決定を見ている。
3. 人件費に触れられない2代目が必ず辿る末路
2代目経営者の多くは、人件費に対して「触れてはいけない領域」という意識を持っています。
社員は守るべき存在であり、簡単に変えるべきものではない。
その考え方自体は、決して間違いではありません。
しかし問題は、
人件費を「守る対象」にした瞬間、経営の意思決定から外してしまうことです。
経営判断の外に置かれた人件費は、やがて会社の意思決定を支配するようになります。
人件費に触れられない会社は、やがて人件費に支配される。
これは脅しではありません。
多くの中小企業で実際に起きている現実です。
3.1. 「人を増やせば成長する」という幻想
事業を拡大する。
新しい領域に挑戦する。
売上を伸ばす。
そのたびに、多くの2代目経営者はこう考えます。
「人が足りない」
「まずは採用しなければならない」
確かに、人材がなければ事業は回りません。
しかし問題は、順番です。
売上の見込みより先に、人件費が確定してしまう構造が生まれます。
決算書には、次のような変化が現れます。
・売上高:増加
・人件費:それ以上に増加
・営業利益率:低下
・キャッシュフロー:悪化
社長の感覚では「成長」している。
しかし銀行の評価は、まったく違います。
「固定費が先行している」
「収益性が悪化している」
「事業の持続性に疑問がある」
銀行は、こう判断します。
人を増やすことは成長ではなく、経営リスクの増加であると。
2代目経営者が見落としがちな事実があります。
採用とは、未来の売上に対する“賭け”であるということです。
もしその賭けが外れれば、
残るのは、削れない固定費だけです。
売上を根拠に人を増やす会社は多いが、利益を根拠に人を増やす会社は少ない。
この違いが、数年後、決定的な差になります。
3.2. 評価制度なき給与が固定費を破壊する
多くの中小企業では、給与は明確な基準ではなく、
「なんとなく」で決められています。
・長く働いているから上げる
・頑張っているように見えるから上げる
・辞められると困るから上げる
一つひとつは理解できる判断です。
しかし、経営の視点で見ると、別の現象が起きています。
成果と無関係に、人件費が増え続ける構造です。
評価制度が曖昧な会社では、
「成果」と「報酬」の関係が切り離されます。
その結果、会社の中に次のような状態が生まれます。
・利益が増えていないのに、給与だけが増える
・付加価値が増えていないのに、人件費だけが増える
・責任の重さと報酬の水準が一致しない
これは社員の問題ではありません。
経営の設計の問題です。
銀行は、この状態をどう見るか。
「人件費が、経営の意思決定から切り離されている」
「給与が、事業成果と連動していない」
「固定費が、経営の論理ではなく感情で決まっている」
銀行にとって、これは明確な警戒対象です。
評価制度のない給与は、会社にとって最も危険な固定費である。
2代目経営者がここに手を付けない限り、
人件費は必ず膨らみ続けます。
そして、気づいたときには、
会社の利益構造が完全に崩れているのです。
3.3. 先代の人材配置を“触れない領域”にしてしまう経営
2代目経営者にとって、最も難しい判断は何か。
それは、先代が築いた人材配置に手を付けることです。
・先代の右腕だった幹部
・長年会社を支えてきた社員
・役割が曖昧だが、辞めさせられないポジション
これらをそのまま維持することは、一見「安定」に見えます。
しかし、経営の視点で見れば、まったく違う意味を持ちます。
事業構造と人材配置の不一致です。
事業は変わっている。
求められるスキルも変わっている。
利益を生む領域も変わっている。
それにもかかわらず、人材配置だけが過去のまま残っている。
その結果、会社の中で次の現象が起こります。
・利益を生まない部門に、人件費が集中する
・成長領域に、人が足りない
・付加価値の低い業務に、人材が固定される
これは偶然ではありません。
構造的な必然です。
2代目経営者は、ここで選択を迫られます。
・組織を変えるか
・変えないまま、衰退を受け入れるか
多くの2代目は、前者を避けます。
なぜなら、組織を変えることは、感情的な摩擦を生むからです。
しかし、ここで逃げた瞬間、経営の主導権は失われます。
先代の組織を変えられない2代目は、必ず人件費に支配される。
そして最終的に起こるのは、次の現実です。
会社の意思決定よりも、人件費の都合が優先される経営
・新規事業をやりたいが、人件費が重くてできない
・投資をしたいが、固定費が高くてできない
・景気が悪化しても、人件費を動かせない
この状態に入った会社は、
外部環境が少し変わっただけで、急激に弱体化します。
行動につなげるための問い
ここまで読んで、
「うちも似た状況かもしれない」と感じたなら、
次の問いに答えてみてください。
・人員配置は、事業の収益構造と一致していますか?
・給与水準は、成果と論理的に結びついていますか?
・人件費の増加は、利益の増加と連動していますか?
・先代の組織に、手を付けられない領域はありませんか?
もし一つでも答えに詰まるなら、
問題は社員ではありません。
市場でもありません。
人件費を経営の意思決定に戻していないという事実です。
4. 2代目だけが見落としている、人件費の本当の数字
多くの2代目経営者は、人件費を「大きな数字」として捉えています。
年間いくらかかっているか。
売上に対して何%か。
前年差で増えているか減っているか。
確かに、それらは重要な数字です。
しかし、経営判断に本当に必要なのは、そこではありません。
人件費の総額ではなく、「どこで」「何のために」「どれだけ使われているか」です。
この視点を持たない限り、
人件費は永遠に「見えない固定費」のままになります。
4.1. 人件費率だけを見ている会社が必ず陥る錯覚
多くの会社が最初に見るのは、人件費率です。
「人件費率は25%だから、まだ大丈夫」
「業界平均より低いから問題ない」
一見、合理的な判断に見えます。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。
人件費率は、経営の良し悪しを示す指標ではないという事実です。
例えば、次の2社を比較してみましょう。
・A社:人件費率20%、営業利益率2%
・B社:人件費率35%、営業利益率12%
どちらが健全な会社でしょうか。
多くの経営者は、A社を選びます。
しかし、経営の実態としては、B社の方がはるかに強い。
なぜなら、B社は人件費を投下した分だけ、付加価値を生み出しているからです。
重要なのは、人件費率の高さではなく、付加価値との関係です。
銀行も、同じ視点で見ています。
銀行が見ているのは、
「人件費率が高いか低いか」ではなく、
「人件費が、どれだけ付加価値を生んでいるか」です。
人件費率が低い会社が危険で、人件費率が高い会社が安全な場合もある。
この逆転現象を理解できない限り、
2代目経営者は、数字の本質を見誤ります。
4.2. 事業別・部門別に人件費を分解する意味
人件費を一括で見ている限り、
経営判断はできません。
なぜなら、人件費は「塊」ではなく、
事業ごとに異なる意味を持つ投資だからです。
例えば、次のような構造を想像してください。
・事業A:売上の60%を占めるが、利益率は低い
・事業B:売上の30%だが、利益率は高い
・事業C:売上の10%だが、将来性がある
このとき、人件費がどう配分されているかを見ずに、
「人件費が高い」と判断することはできません。
もし、
・事業Aに人件費の70%が集中している
・事業Bには人件費の20%しか配分されていない
・事業Cにはほとんど人が割かれていない
としたら、何が起きているでしょうか。
利益を生まない領域に、人件費が集中しているという現実です。
これは、経営判断の問題です。
社員の能力の問題ではありません。
2代目経営者に必要なのは、次の問いです。
「どの事業に、どれだけ人件費を投下しているか」
この問いに答えられない会社は、
必ず次の状態に陥ります。
売上はあるが、利益が残らない会社
銀行は、この状態をこう見ます。
「収益構造が歪んでいる」
「経営の優先順位が見えない」
「人件費の配分が戦略と一致していない」
人件費の配分は、その会社の戦略をそのまま映す鏡である。
4.3. 人件費を「感覚」ではなく「数字」で決める経営
多くの中小企業では、人件費の意思決定が「感覚」で行われています。
・忙しいから人を増やす
・頑張っているから給料を上げる
・辞められると困るから待遇を改善する
これらは、経営者として理解できる判断です。
しかし、数字と切り離された判断は、必ず歪みを生みます。
感覚で決めた人件費は、必ず経営を圧迫するのです。
2代目経営者が取るべきアプローチは、真逆です。
人件費を、事業の採算構造から逆算する
具体的には、次の順番で考えます。
1.どの事業で、どれだけ利益を出すのか
2.そのために必要な付加価値は何か
3.その付加価値を生むために必要な人員は何人か
4.その人員に支払える人件費はいくらか
この順番で考えたとき、
初めて人件費は「経営の数字」になります。
多くの2代目経営者は、逆の順番で考えています。
・まず人を採用する
・次に事業を考える
・最後に利益を考える
この順番では、必ず人件費が先行します。
人件費を先に決める会社は、必ず利益を後回しにする会社になる。
銀行は、この順番を非常によく見ています。
銀行が評価するのは、
「人件費が高いか低いか」ではなく、
「人件費が論理的に決まっているかどうか」です。
もし、銀行から次のような質問をされたことがあるなら、
あなたの会社はすでに評価の分岐点に立っています。
・「この人数は、どの事業に必要なのですか?」
・「この給与水準の根拠は何ですか?」
・「人件費と利益の関係を説明してください」
これらは単なる雑談ではありません。
銀行の内部評価に直結する質問です。
人件費を説明できない会社は、経営を説明できない会社と見なされる。
行動につなげるための具体的な視点
ここまで読んで、
「数字は見ているつもりだ」と感じた経営者もいるかもしれません。
しかし、本当に必要なのは、次の3つの視点です。
・事業別に、人件費を分解しているか
・人件費と付加価値の関係を把握しているか
・人件費を利益から逆算して決めているか
もし、これらのどれかが欠けているなら、
人件費は「管理できる数字」ではなく、
「結果として膨らむ数字」のままです。
人件費を管理できない会社は、経営を管理できない会社である。
5. 会社を守りたいなら、最初に変えるべきもの
多くの2代目経営者は、人件費改革という言葉に強い抵抗感を抱きます。
「社員を切る話なのではないか」
「組織が壊れてしまうのではないか」
「社内の反発が大きいのではないか」
しかし、ここで理解すべきことがあります。
人件費改革とは、人を減らすことではなく、経営の設計を変えることです。
そして、会社を守るために本当に必要なのは、
削減ではなく、再設計です。
5.1. いきなり削減しない。まず構造を可視化する
多くの会社が犯す最大の誤りは、
「人件費が高い」という感覚だけで動くことです。
・給与を抑える
・採用を止める
・賞与を削る
これらは一時的な延命策にすぎません。
なぜなら、
構造が変わらなければ、人件費は必ず元に戻るからです。
2代目経営者が最初にやるべきことは、削減ではありません。
人件費の構造を見える形にすることです。
具体的には、次の3つです。
・事業別に人件費を分解する
・部門別に付加価値を算出する
・人員配置と利益構造の関係を整理する
この作業を行わずに改革を進めると、必ず失敗します。
なぜなら、
どこに人件費を投下しているのか分からないまま、意思決定をすることになるからです。
銀行は、この状態を極めて厳しく見ています。
人件費の内訳を説明できない会社は、経営の内訳を説明できない会社と見なされる。
もし、銀行から
「どの事業に、どれだけ人件費を使っていますか?」
と問われたときに答えられないなら、
それはすでに経営の危険信号です。
5.2. 人件費を事業戦略と再接続する
人件費改革の本質は、削減ではありません。
人件費と事業戦略を一致させることです。
多くの会社では、次のような現象が起きています。
・利益を生まない事業に、人件費が集中している
・成長領域に、人材が不足している
・過去の主力事業に、人員が固定されている
これは偶然ではありません。
経営の優先順位が、過去の延長で決まっているだけです。
2代目経営者がやるべきことは、明確です。
どの事業に人件費を集中させるのかを、意図的に決めること
これは、社内政治ではなく、経営判断です。
例えば、次のような問いを立てる必要があります。
・3年後に会社の利益を支える事業は何か
・その事業に、現在どれだけ人材を配置しているか
・その配置は、利益構造と一致しているか
もし答えられないなら、
人件費は戦略ではなく、惰性で決まっています。
銀行は、この違いを見逃しません。
人件費の配分が戦略と一致していない会社は、将来性がない会社と評価される。
5.3. 「人を守る」と「会社を守る」を同時に実現する意思決定
2代目経営者が最も苦しむのは、次の問いです。
「社員を守りたい」
「しかし、会社も守らなければならない」
多くの経営者は、この二つを対立するものとして捉えます。
しかし、現実は違います。
会社を守れない経営は、結果的に社員を守れないのです。
会社の利益構造が崩れれば、
・賃上げはできない
・投資はできない
・雇用は維持できない
つまり、
人件費に向き合わない経営は、社員を守っているようで、実は守れていないのです。
2代目経営者に必要なのは、覚悟ではありません。
論理に基づく意思決定です。
例えば、次のような判断です。
・利益を生まない業務から、人材を移動させる
・付加価値の低い業務を縮小する
・成長領域に、人材を再配置する
これらは「削減」ではなく、「再配置」です。
人件費改革とは、人を減らすことではなく、人の使い方を変えること。
この意思決定ができるかどうかで、
2代目経営者の評価は決まります。
行動を促すための具体的な一歩
ここまで読んで、
「理屈は分かったが、何から手を付ければいいか分からない」
と感じた経営者もいるでしょう。
最初の一歩は、驚くほどシンプルです。
「人件費を、事業別に分解する」
これだけで、経営の見え方は一変します。
もし、次の問いに答えられないなら、
今すぐ着手すべきです。
・どの事業が、どれだけ人件費を使っているか
・どの事業が、どれだけ利益を生んでいるか
・人件費と利益の関係は、合理的か
この作業を行わずに、
採用や賃上げを決めることは、
地図を持たずに航海に出るようなものです。
人件費を分解できない会社は、経営を分解できない会社である。
まとめ
2代目経営者に問われているのは、
売上を伸ばすことでも、社員を増やすことでもありません。
人件費を、経営の意思決定に戻せるかどうかです。
先代の時代に作られた組織は、
そのまま維持すれば安定するものではありません。
むしろ、環境が変わった今、
変えなければ衰退する構造</strongになっています。 多くの2代目経営者は、 「何も変えないこと」を安定と錯覚します。 しかし、経営の現実は逆です。 何も変えないという選択こそが、最もリスクの高い経営判断である。
人件費は、削減するものではありません。
再設計するものです。
そして、その再設計ができるかどうかで、
2代目経営者の評価は決まります。
もし今、
「売上は伸びているのに、経営が楽にならない」
「銀行の評価が変わってきた気がする」
そう感じているなら、
それは偶然ではありません。
人件費に向き合えるかどうかで、あなたの代で会社が伸びるか、衰退するかが決まります。
あなたは最高経営責任者として、どのように人件費と向き合うおつもりでしょうか?
