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今週のコラム 第59話: 経営者が考えるべきインフレ時の成長戦略

「急激なインフレが進行して、米国などの中央銀行が金利を引き上げているようですが、インフレが進行する状況下での会社経営はどのような点に留意して対応すればいいのでしょうか?」──某機械製造業の経営者の方からのご相談です。

確かに、最近は米国を中心として急激に物価上昇の圧力が強まっています。

アメリカでは、「2022年1月の米消費者物価指数(CPI)が前年同月比7.5%と約40年ぶりの高い上昇率になり、FRBはインフレに神経をとがらせている。CPIでは新型コロナや供給制約に直接関係ない品目まで上昇しており、高インフレが長期化する可能性が高まっている。」(2022年2月19日の日経新聞より)

米労働省労働統計局発表 米消費者物価指数(CPI)はこちら → https://stats.bls.gov/news.release/pdf/cpi.pdf

日本でも、「エネルギー価格の高騰や円安を受けた値上げが食料品・外食などに広がってきた。生鮮食品を含む消費者物価指数(CPI)の上昇率は携帯電話料金の値下げの影響を除くと2%に迫る。生活必需品など身の回りのモノやサービスの値上げも目につき始めた。ただ賃金上昇を伴った持続的な物価上昇につながるかは、まだ見通せない。」(2022年2月19日の日経新聞より)

総務省発表 消費者物価指数(CPI)はこちら → https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/pdf/zenkoku.pdf

消費者物価の新聞記事からも、米国で40年ぶりの高い物価上昇率、日本でも政府肝入りの携帯電話料金引き下げを除くと2%に迫る物価上昇率となっており、インフレ状況にあると考えられます。

ここで、インフレについて簡単に確認しておきましょう。

経済活動の中で、様々な商品を買ったり、サービスを利用しています。これら全体の価格水準を、個々の商品やサービスの価格と区別して「物価」と呼んでいます。

「物価」は景気とも密接な関係があり、重要な経済指標の一つとして注目されており、消費者が購入する際の価格に着目した「消費者物価指数」と、企業間取引の価格に焦点を当てた「企業物価指数」の2つがあります。

商品やサービスの価格は、基本的に需要と供給のバランスで決まります。一般的に需要が供給を上回れば物価は上がり、インフレとなります。逆に、供給より需要が小さくなれば物価は下がり、デフレとなります。

インフレ:
デ フ レ

需要>供給 物価上昇↑
需要<供給 物価下落↓

そして、企業業績への影響としては、インフレが続くと、物価上昇で貨幣価値が下落→買い急ぎ→物価がさらに上昇→販売価格に転化できない→事業収益を圧迫、となり業績が悪化します。

また、デフレが続くと、物価下落で貨幣価値が上昇→買い控え→物価がさらに下落→販売価格が下落→事業収益を圧迫、となり業績が悪化します。

日本はこれまでに何度もインフレを経験していますが、特に物価上昇率が高かったのが1973年に起きた第1次石油危機です。中東で戦争が勃発し、湾岸産油国が原油価格の大幅な引き上げと供給削減を相次ぎ発表したことをきっかけに物価が激しく上昇しました。

この時は人々の「供給への不安」が物価上昇を加速させ、トイレットペーパーの買いだめ騒動に発展しました。供給不足への不安や値上がりの予想が需要を極端に押し上げ、便乗値上げなども誘発しました。その結果、翌年の消費者物価指数が23%も上昇したのです。その後は、バブル景気の時や、消費税率が上がった1997年前後にも物価は上昇しましたが、1990年代後半からはデフレ状態となりました。

このデフレから脱却するために、日本の中央銀行である日銀は1999年から政策として誘導する金利を限りなくゼロに近づける「ゼロ金利政策」を導入、さらには国債などの金融資産を購入することで市場に大量のお金を供給する「量的緩和」にも踏み切るなど、金融緩和政策をとってデフレからの脱却を目指してきました。

そして、今回のインフレはエネルギー高騰に加えて、半導体不足や物流網の停滞など供給制約が主な要員です。さらに日本では円安という物価上昇要因が加わり、小麦の値上げやじゃがいもの供給難、輸入牛肉も1月に10.0%上昇し、国産品の2.1%を上回ったことなどから外食の牛丼チェーン店も一斉に値上げするなど一気に価格転化が進行しました。

これまで、「消費者物価指数」を見てきましたが、我々経営者には「企業物価指数」が大切です。

日経新聞の記事でも、「素材など企業物価指数は1月に8.6%上昇し、1980年以来の歴史的な水準で高止まりする。1月の企業物価指数とCPIの上昇率は8ポイント程度の差がある。原油が1バレル140ドル台の最高値に達し、CPI上昇率も2%を超えた2008年より差が大きい。」とあり、1月にCPIが7.5%上昇した米国のように、日本では販売価格に転化できておらず、企業体力を削ぐ要因になっています。

経済学的には「良いインフレ」と「悪いインフレ」があります。

不況下なのに物価上昇が起きる現象を、「スタグフレーション」といいます。これは経済にとっては「悪いインフレ」です。ニューノーマル対応で経済が停滞(=不景気)しているのに、生活必需品などの価格が上昇するという現状は、定義的には「スタグフレーション」に該当します。

アベノミクスが目標としていたように、好景気で企業収益や従業員の給料が上がってそれを製品価格に転嫁して起きる値上げならば良いインフレとなります。これならばデフレ脱却で素敵な世界になるのですが、企業収益や従業員給料が上がらない、ないしはニューノーマルで収益や収入が減っているときの値上げは、インパクトが全く逆になるのです。物価だけが上昇してデフレを脱却したとしても、不幸な未来しかやってきません。

販売価格に転化できて、従業員の給与も大幅に増加しているアメリカでさえも、「スタグフレーション」の懸念が声高に叫ばれていますが、日本では既に現実となっているのです。

では、経営者として事業活動を行っていく上で、どのように対処していけばいいのでしょうか?

インフレが続いたときのことを再度イメージしてください。

インフレが続くと、物価上昇で貨幣価値が下落→買い急ぎ→物価がさらに上昇→販売価格に転化できない→事業収益を圧迫、となり業績が悪化という流れになりますが、販売価格に転化できればダメージを最小限にすることが可能となります。

そのためには、「顧客ニーズを満たす商品・サービスを追求し、選択と集中することで高価格帯での勝負をし続けること」を愚直に行なっていくことにつきます。そして、そのことが成長戦略になるのです。

短期的には、将来の原材料価格の高騰見込みに対し、先物予約や通貨スワップなどでヘッジを行うことも有効ですが、どれほどの期間をヘッジするのか見通しを誤った場合には逆効果になることもあります。また、理屈だけで考えるのであれば、日米金利差による円安の影響を低減させるために、輸入額と同種同額の通貨で輸出額を均衡させることができれば、円相場の影響を回避できるのですが、そのような事業を営んでいる業界はほとんどありません。

マーケット用語で「4C(顧客価値(Customer Value)、コスト(Cost)、利便性(Convenience)、コミュニケーション(Communication))」、「4P(製品(Product)、価格(Price)、場所(Place)、プロモーション(Promotion))」があります。

「4C」は買い手である顧客目線でのマーケット分析、「4P」は売り手である企業目線でのマーケット分析であり、「4C」をベースにした上で「4P」をどれだけ選択と集中で対応していくかになります。そして、その前提となるのが、「(中小企業のためのマーケットである)高価格帯での勝負」を仕掛けていくことです。

ちなみに、「4C」と「4P」は次のような関係となります。

4C
顧客価値(Customer Value)
コスト(Cost) 
利便性(Convenience)
コミュニケーション(Communication) 

4P
⇄ 製品(Product)
⇄ 価格(Price)
⇄ 場所(Place)
⇄ プロモーション(Promotion)

「顧客ニーズを満たす商品・サービスを追求し、選択と集中することで高価格帯での勝負をし続けること」を実践することは、非常に大変なことですが、経営の基本ですので、是非とも王道を歩み続けてください。

あと、こんな時代だからこそ、新規取引先の獲得にも注力していきましょう。特に、販売先が集中している場合は、販売先の業績に大きく影響されますので、連鎖倒産などならないためにも、販売先を分散させてください。

悪いインフレである「スタグフレーション」が続いたとしても、経営者であるあなたが、これらを成長戦略として会社を引っ張っていくのです。

そうすることで、間違いなく企業として稼ぐ力が大幅にアップしますし、組織の一体感が生まれるはずです。経営者の醍醐味を存分に味わってください。

あなたは経営者として、この「スタグフレーション」をどのように乗り越えていきますか?