今週のコラム 中小企業経営者が知るべき貸し剥がしのリアル
「高窪先生、何だか最近の銀行のスタンスが気持ち悪いというか、バブルが崩壊した後の状況に似てきている感じがするのですが、考えすぎでしょうか?」とある新年会で、70代後半の製造業の社長からご質問をいただきました。
目次
1.コロナの影響について
1.1. 中小企業への影響
詳しくお話しを伺うと、「コロナが猛威を振るっていた頃は、緊急融資・ゼロゼロ融資ということでジャンジャンお金を貸し付けたり、補助金・助成金ということでお金をばら撒いたりしていたので、いつ倒産してもおかしくない企業でも倒産せずに生き延びてきた。」
「しかし、コロナが終息して平時に戻ってくると、当然ながら緊急融資・ゼロゼロ融資、補助金・助成金は削減され、一気に資金繰りが厳しくなってくる企業が続出中。こうなってくると、これまで二つ返事で融資をしてきた銀行が、『本当にこの会社に貸して大丈夫か?』と疑うようになり、融資スタンスが一転して厳しくなってきているように感じる。」とのことでした。
1.2. 金融機関への影響
「さすが、○○社長ですね。ご認識の通りです。」
メガバンクや大手地銀は何とか稼いでいますが、中位以下の地銀では、稼げるビジネスがない中で、コロナ禍バブルに踊って融資を増やしたものの、融資が焦げ付くような事態になったら・・・
ただでさえ少ない自己資本が、さらに毀損してしまいます。
融資が増やせなくて、証券や債券に投資をしていた地銀などは、金利の上昇に伴い、投資損失も相当な額を計上していますし、踏んだり蹴ったりの状況になっているところもあるのです。
○○社長が仰っている、バブルが崩壊した後の状況に似てきている感じがするのは、正にその通りであり、常にアンテナを高くして世の中の動きを観察されてきたからこその気づきなのです。
2.貸し剥がしについて
2.1. バブル崩壊後に起こったこと
そして、バブルが崩壊した後に何が起こったか?
若い経営者の方はご存知ないかも知れませんが、「貸し剥がし」があちらこちらで起こったのです。
今では想像できないかも知れませんが、
各金融機関が自己資本規制をクリアするために、
「新規融資はするな!」
「できるだけ貸出を回収しろ!」という大号令が、
どの金融機関でも叫ばれて実践されていました。
バブルが崩壊して、経済がめちゃくちゃになっている状況下で、新規融資をせずに、強制的に貸出を回収すればどういうことになるか?!特に企業体力の乏しい中小企業では、「生きるか?死ぬか?」の瀬戸際に追い詰められることになるのです。
○○社長は、実際にバブルが崩壊した後の貸し剥がしで、とても辛い経験をされています。このため、現在の状況が、当時に似てきている感じがして、冒頭のご質問になりました。そして、この後には、また貸し剥がしが横行するのではと危惧されているのです。
2.2. コロナ禍後に起こっていること
コロナが終息する以前から、緊急融資・ゼロゼロ融資の約定返済が始まっていますが、これらの融資を活用して収益力を高められた中小企業は少なく、返済が厳しい事例が急増しています。
このため、コロナ禍バブルに踊って融資を増やしたものの、融資が焦げ付くような事態になったら・・・ということで、一部の体力のない地銀などでは、自己資本規制をクリアするために、新規融資のスタンスが厳しくなってきているようです。
銀行は基本的にリスクを管理し、貸出を中心とする資産を健全に運用することを目的としています。このため、コロナ禍による経済危機や企業の業績悪化が見られると、銀行は貸出リスクを再評価し、貸出のコントロールを行うのです。これは、銀行自身の財務健全性・経営基盤を守るための措置なのです。
2.3. 貸出リスク見直し事象
貸出リスクを見直すきっかけとなる事象には、次のようなものがあります。
• 企業の財務状況の悪化
• 業績の急激な下降
• 競争環境の変化による影響
• 経営陣の変更や不安定な経営
2.4. 貸し剥がしの兆候
貸し剥がしの兆候としては、次のようなものがあります。
• 融資条件の変更要求
• 定期的な財務状況の詳細な報告要求
• 追加担保の要求
• 融資利率の上昇
これらの兆候があった際には、銀行が貸出リスクを感じて動いている可能性がありますので、十分に注意してください。
3.中小企業にとっての貸し剥がしの影響
中小企業にとって、銀行からの貸し剥がしは深刻な影響をもたらします。この影響は資金調達の問題に留まらず、企業の存続自体が脅かされる可能性があります。
3.1. 財務的影響
貸し剥がしは、中小企業のキャッシュフローに直接的な打撃を与えます。特に、運転資金や設備投資など、日々の業務運営に必要な資金が急に調達不可や回収されることで、資金繰りの危機に陥ります。これにより、支払い遅延や取引先との信頼関係の損失など、連鎖的な問題が生じる可能性があります。
3.2. 経営上の課題
貸し剥がしは、経営者であるあなたの意思決定にも重大な影響を及ぼします。資金調達の不安定さにより、新規事業の展開や拡大計画の見直しを余儀なくされることがあるでしょう。また、従業員の士気低下や、重要な人材の流出など、会社組織にも悪影響を及ぼすことがあります。
3.3. 市場での競争力の低下
貸し剥がしによる資金繰りの問題は、あなたの会社の市場での競争力を低下させることにもつながります。資金不足により、製品開発やマーケティング活動が制限され、競合他社に対する優位性を失う恐れがあります。
3.4. 長期的なビジネスへの影響
短期的な資金繰りの問題に加え、貸し剥がしは企業の長期的な成長にも影響を及ぼします。資金調達の困難さは、将来の事業計画や拡張計画にも影響を及ぼし、企業の成長機会を逸するリスクがあります。また、銀行との関係悪化は、他の金融機関からの融資を受ける際の障害になり得ます。
3.5. 信用度の低下
貸し剥がしは、あなたの会社の信用度にも影響を与えます。銀行からの融資が停止されると、市場や取引先からの信頼が損なわれる可能性があります。これは、新たなビジネスチャンスの損失や、取引条件の悪化につながることがあります。
中小企業にとって、銀行の貸し剥がしは単なる資金調達の問題ではなく、企業の存続と成長に深刻な影響を及ぼします。これに対処するためには、経営者であるあなたは早期の対策と継続的な管理が不可欠なのです。
4.貸し剥がし対応策について
4.1. 予防策:財務健全性の維持
中小企業が貸し剥がしを回避する最も効果的な方法は、財務健全性を維持することです。これには、適切な資金管理、費用削減、収益性の高い事業への投資が含まれます。具体的には、次のような手法が有効です。
①キャッシュフローの最適化
定期的なキャッシュフローの確認と分析を行い、不要な支出を削減します。
②財務レバレッジの管理
過度な借入れを避け、負債比率を健全な水準に保ちます。
③収益性の高い事業への集中
利益率の低い事業やプロジェクトは見直し、収益性の高い分野へ経営資源を再配分します。
4.2. 交渉戦略:銀行とのコミュニケーション
銀行との良好な関係を維持することは、貸し剥がしのリスクを低減する上でとても重要です。次のポイントに留意してください。
①透明性の確保
財務状況を正確に伝え、銀行との信頼関係を築きます。
②積極的なコミュニケーション
定期的に銀行と接触し、ビジネスプランや将来の展望を共有します。
④交渉の準備
返済条件の見直しや利率の交渉に備え、事前に準備をしておきます。
4.3. 代替資金調達方法
銀行融資に依存するリスクを減らすために、代替資金調達方法を検討することも重要です。これには次のような選択肢があります。
①ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家からの資金調達
成長可能性が高い事業には、外部投資家からの資金提供が可能です。
②クラウドファンディング
製品やサービスに対する市場の関心を利用して資金を集める方法です。
③政府補助金や助成金
特定の業種やプロジェクトに対して、政府や地方自治体からの補助金や助成金を活用できる場合があります。
4.4. キャッシュフロー改善のための戦略
キャッシュフローを改善することは、貸し剥がしのリスクを減らす上で非常に重要です。次の方法が考えられます。
①債権回収の強化
迅速な請求書発行と効果的な債権回収プロセスを確立します。
②在庫管理の最適化
過剰在庫を減らし、在庫回転率を高めることで、キャッシュフローを改善します。
③コスト削減
不要な経費を削減し、効率的な運営を目指します。
5.実際の成功事例
【概要】
東京に本社を置く、年商3億円の中小製造業「A社」は、コロナ禍で売上減少となりました。しかし、彼らは銀行の貸し剥がしを回避し、財務状況を改善することができました。
【対策実施】
- 財務状況の透明化: A社は、銀行との関係を強化するために、定期的に財務状況を報告しました。これにより、銀行はA社の現状を正確に理解し、支援の意向を強めました。
- コスト削減と効率化: A社は、不要な経費を削減し、生産プロセスを効率化しました。これにより、キャッシュフローが改善され、財務的な余裕が生まれました。
- 代替資金源の確保: A社は、銀行以外の資金調達方法を模索しました。彼らは地域の補助金や政府支援プログラムを活用し、追加の資金を確保することに成功しました。
- 新たな収益源の開拓: A社は、新しい市場や製品ラインに進出しました。これにより、売上の多様化と安定化を図り、銀行からの信頼を高めました。
【結果】
これらの対策により、A社は銀行からの貸し剥がしを回避し、財務状況を大幅に改善しました。また、銀行との良好な関係を維持し、さらなる融資の可能性も確保しました。
6.まとめ
銀行の貸し剥がしの問題は、現代の経済環境において中小企業経営者が避けられない重要な課題です。コロナ禍の終息と共に、銀行の融資スタンスが厳しくなる中、貸し剥がしのリスクは高まっています。このコラムでは、貸し剥がしの基本からリスク、対応策、成功事例に至るまで、中小企業経営者が知るべき重要なポイントを解説しました。
貸し剥がしのリアルを理解することは、中小企業経営において不可欠です。
銀行からの突然の融資停止や条件変更は、企業のキャッシュフローに深刻な影響を及ぼし、場合によっては事業の存続さえ危うくする可能性があります。このような状況に備えるためには、まず貸し剥がしのサインを見極め、早期に対策を講じることが重要です。
対策としては、財務健全性の維持が基本です。
貸し剥がしを避けるためには、定期的な財務分析とキャッシュフローの改善が必要です。また、銀行との良好な関係を維持し、透明性のあるコミュニケーションを心がけることも重要です。さらに、代替資金調達方法の検討や、事業の多角化を通じて収益源を増やすことも有効な戦略となります。
実際の成功事例を見ると、これらの対策がいかに効果的であるかが明らかになります。事例に学ぶことで、自社に適した対策を見つけ出し、実行することが可能になります。
最終的に、中小企業経営者は、銀行の貸し剥がしのリアルを深く理解し、それに対応するための戦略を十分に練るべきです。これは単に危機管理の問題ではなく、持続可能な経営と企業成長のための重要なステップとなります。
経営者としての洞察力と先見性を持ち、常に企業の財務状況を把握し、市場の変化に敏感であることが求められます。また、内部管理体制の強化、従業員とのコミュニケーション、そして顧客との関係構築も重要です。
経営者は、不確実な経済環境の中で生き残るために、柔軟かつ戦略的な思考が必要です。貸し剥がしのリスクに対処することは、単に一時的な危機を乗り越えることではなく、長期的なビジネスの成功への道を切り開くことに他なりません。
このコラムが、中小企業経営者の皆様にとって、その道の一助となれば幸いです。
あなたは中小企業経営者として、貸し剥がしのリアルにどのような対応をされますでしょうか?