今週のコラム 「あと2ヶ月で倒産」から銀行と共に復活した実話

「いや~、最近は銀行からの対応が明らかに冷たくなってきていて、追加融資の話もはぐらかされるようになりました。実は、資金繰りもかなり厳しくて……。このままだと、あと2ヶ月で現金が尽きてしまいそうなんです。」
──これは、当社の個別相談にお越しになった、ある製造業の社長の切実なご相談です。
確かに、「資金ショートの兆しはあるけれど、どこから手をつけてよいか分からない」という経営者は少なくありません。
売上はそれなりにある。借入も過去に返済遅延はない。にもかかわらず、銀行から距離を置かれ、追い詰められるような状況に陥る……。
「なぜ銀行は助けてくれないのか?」
「うちは黒字なのに、どうして融資が通らないのか?」
こうした疑問を持つ方も多いでしょう。
しかし、銀行は決して冷酷な存在ではありません。本当に見ているのは、決算書に現れない“経営者の在り方”や“資金に向き合う姿勢”なのです。
本コラムでは、実際に「あと2ヶ月で倒産」という危機を迎えながらも、銀行との信頼を取り戻し、見事に復活を遂げた中小企業の実話をもとに、資金ショートからの脱出と、銀行との本質的な信頼構築の方法を紐解いていきます。
目次
はじめに
「あと2ヶ月で、資金が尽きます。何か方法はありませんか?」
これは、ある中小企業の社長が弊社に駆け込んできたときの第一声でした。
業績は右肩下がり。受注はあるものの、支払いサイトのズレにより現金が不足し、運転資金は枯渇寸前。売上が立っているのに、通帳残高がどんどん減っていく。社長自身も何が問題なのか整理できず、ただ漠然と「危ない」と感じていたといいます。
その一方で、取引銀行の担当者は、すでにその兆候を察知していました。追加融資は断られ、「今後の対応を検討させていただきます」と通告されていたのです。
つまり、社長が気づくよりも先に、銀行の中では“見限りの準備”が進んでいたのです。
しかしこの会社は、その後、銀行との関係を再構築し、半年以内に資金繰りを安定させ、1年後には黒字化に成功しました。
なぜ倒産寸前だった会社が、銀行から再び信頼されるようになったのか?
その分岐点となったのは、「数字」ではなく「社長の姿勢」でした。
本コラムでは、実際の企業再建のプロセスをもとに、資金ショート寸前からの逆転劇を具体的にご紹介します。銀行が社長の何を見て、どう判断するのか──。その現実を知ることで、通帳の残高に怯える毎日から抜け出すヒントが見つかるはずです。
今、資金繰りに不安を感じている経営者の方にとって、現状を打破する実践的な一歩となれば幸いです。
1. 地獄の入り口──“あと2ヶ月で倒産”が現実になるとき
「高窪先生、売上はなんとかあるんです。でも、なぜかお金が残らなくて……。通帳残高がみるみる減っていって、今のペースだと、あと2ヶ月が限界です」
初めてご相談いただいたとき、社長は疲弊しきった表情で、口数も少なかったのを覚えています。帳簿には黒字が記録されているのに、実際には現金が足りない。仕事をしているのに、会社が壊れていく──その現実を受け止めきれず、ただ目の前の支払いに追われていました。
この章では、そんな状況に陥った社長が、どのような状態にあったのか、なぜ銀行との関係にもヒビが入ったのかを、実例をもとに振り返ります。
1.1. 売上はあるのに、なぜかお金が残らない
この会社は、建材の卸売を中心に事業を展開しており、主な取引先は中堅の工務店やリフォーム会社でした。月間の売上は約3,000万円。決算上も赤字ではなく、むしろ前年よりも売上は増えていました。
にもかかわらず、現預金は月ごとに減っていき、気づけば500万円を切っていました。支払いは待ってくれません。仕入れ先への支払いや人件費、家賃、光熱費……月末には1,000万円以上の出費が確定しています。
このように「売上がある=会社が安全」という認識は、実際の資金繰りと大きく乖離しているケースが非常に多いのです。
売上が立っても、入金サイトは2ヶ月後。しかも請求ミスや納品遅れで回収がさらに遅れることも珍しくない。一方、仕入れや経費は毎月確実に出ていきます。帳簿上は黒字でも、実際のキャッシュが不足すれば、倒産は現実のものとなるのです。
この会社では、資金繰りの実態を把握していなかったことが、危機の始まりでした。損益計算書は見ていても、資金繰り表は存在しなかったのです。
1.2. 毎月の支払いに追われ、資金繰り表すらつけられず
資金ショートの兆候は、数字だけではなく、社長の行動や心理にも表れていました。
「今月末、なんとか乗り切れるかどうかだけで精一杯です。3ヶ月先なんて考えられません」
社長は毎日、入出金を確認しては、今日・明日の支払いができるかを気にするばかり。支払予定表や資金繰り表を作るどころか、通帳の残高を見て感覚的に判断していたのです。
現場では社員からの仕入れ依頼や急な経費申請が飛び込み、対応に追われる日々。社長が一人で対応し続けた結果、経営判断に必要な情報が蓄積されず、感覚と経験に頼った判断が続いていました。
資金繰りは「見える化」しなければ、手の打ちようがありません。
しかし、当時の社長には「そんな時間はない」「数字は税理士に任せている」という意識が強く、自分自身が現金管理の主体であるという自覚がありませんでした。
これこそが、銀行からも見放されかねない大きな要因なのです。
1.3. 銀行からの「紹介先を見直します」に感じた違和感
ある日、取引銀行の担当者が、ある取引の際にこんな一言を漏らしました。
「今後のご紹介については、一度社内で検討させていただきますね」
そのとき、社長は違和感を覚えたと言います。いつもであれば、新たな取引先や融資商品の案内などを積極的にしてくれていた担当者が、急に距離を置くような言動を取ったのです。
実はこの「紹介の見直し」という言葉は、銀行がリスクを感じているサインの一つです。
銀行は、社長が気づくよりも先に“資金繰りが危ない”ことを察知しています。
取引内容の変化、帳簿上の資金残高、返済状況、入出金の乱れ……。日々の取引データから、銀行は「このままでは危ない」と見極めるのです。
それでも銀行は、「もう貸せません」とはっきり言うことは少ない。あくまで“自分で気づかせる”ための間接的な表現で示してきます。
紹介を控えるというのは、その会社に対する信用の後退であり、融資を控える前段階の行動でもあります。
つまり、紹介の停止は単なる営業戦略の変更ではなく、「そろそろこの会社との距離を取るべきではないか」という、銀行内部の判断が働いている証拠なのです。
このように、資金繰り表がない状態で日々の支払いに追われ、売上と入金タイミングのズレを把握せず、さらに銀行からの無言の警告を見逃していたことで、倒産はすぐそこまで迫っていました。
会社の危機は突然訪れるのではなく、じわじわと進行しているのです。
そして、それに気づけるのは、日々の数字ときちんと向き合っている経営者だけです。
この地獄の入り口から、どうやって会社が立て直しを図ったのか──次章では、銀行がどのように“見ていた”のかという視点から、話を進めていきます。
資金繰りに関するお悩みに結コンサルティングの専門家がお応えします!お気軽にご相談ください。
2. 銀行は“冷たい”のではなく“見ている”
資金繰りに苦しむ経営者の多くが、こう口を揃えます。
「銀行は冷たい。困ったときに助けてくれない」
しかし、果たして本当にそうでしょうか。
銀行は冷たいのではなく、“見ている”のです。
冷静に、慎重に、そして継続的に。その会社と社長がどういう人物か、日頃の経営姿勢はどうか──数値だけでなく、態度や行動も含めて判断しています。
この章では、銀行が融資を控える本当の理由、そして彼らがどこを見ているのか、どのように社長を評価しているのかを、実例を交えて解説します。
2.1. 銀行が融資を控える本当の理由
「なぜうちの会社には貸してくれないんだ」
そう感じたことのある社長は少なくありません。黒字で、返済も遅れていない。それなのに、銀行は追加融資に難色を示す。
その理由は、「数字が良くないから」ではない場合も多くあります。
銀行が融資を控えるのは、“将来の返済が見通せない”と感じているからです。
つまり、「この会社にこれ以上貸しても、回収できる可能性が低い」と判断された瞬間、銀行は手を引く準備を始めます。
たとえ赤字ではなくても、資金繰りの管理がずさんだったり、社長の態度に一貫性がなかったりすれば、貸出はリスクとみなされます。
また、銀行は企業の「資金繰りに対する対応力」も重視します。突然の資金ショートに対し、どう対処しようとしているのか?具体的な計画があるのか?私財を投入する覚悟はあるのか?
ただ不安を口にするだけで、行動が伴わない経営者には、支援の手を差し伸べにくいのです。
数字ではなく、“構え”が見られている。
それに気づかず、表面上の決算書だけで融資を申し込んでも、銀行の反応は鈍いままです。
2.2. 「金融機関は利益より“継続性”を見ている」
意外に思われるかもしれませんが、銀行が最も重視しているのは「利益」ではありません。
銀行は“継続性”──つまり、その会社が今後も事業を続けていけるかどうかを重視しています。
利益が出ていても、経営にムラがあれば不安材料になります。事業の軸がぶれていたり、担当者が変わるたびに対応が変わったり、経営計画が曖昧だったりすれば、たとえ目先の数字が良くても「この会社は安定しない」と判断されるのです。
継続性を見る上で、銀行が注目するのは主に以下のポイントです。
・経営計画が明確かどうか
・月次の試算表や資金繰り表が定期的に提出されているか
・社長と会社が同じ方向を向いているか(内部の信頼関係)
・既存取引先との関係が安定しているか
こうした要素から、銀行はその会社の将来性と、貸した資金がきちんと返ってくるかどうかを総合的に判断します。
つまり、銀行に対して「未来を語れる会社」が融資を受けられるのです。
「今は苦しいけれど、このように再建を図り、半年後にはこうなります」──このように未来を語る力がある社長には、銀行も希望を感じます。逆に、今の資金難ばかりを訴える社長には、銀行も将来像を描くことができません。
2.3. 担当者の質問に答えられない社長は見放される
銀行の担当者がよく投げかける質問があります。
・「最近の受注状況はどうですか?」
・「今期の着地見込みはどうですか?」
・「資金繰りはどうされていますか?」
この質問に対して、曖昧な返答をする社長は、例外なく評価を下げられます。
「まだ数字を出していなくて……」
「なんとなく大丈夫かと思っています」
「経理に任せているので詳しくは……」
こうした答えは、“この社長は経営に向き合っていない”という印象を与えます。
実際、銀行員の多くは「この質問への答え方」で、社長の経営姿勢を見極めています。たとえ完璧な答えでなくても、「今こういう状況で、こう改善しようと考えています」という意志が見える社長には、前向きな評価をするのです。
一方、数字を正確に把握していない、課題に蓋をしている、という態度が透けて見える社長は、「対話の余地がない」と見なされ、支援対象から外れていきます。
銀行との対話においては、正確さよりも“誠実さ”と“意志の明確さ”が求められているのです。
それができていれば、多少の業績悪化や資金ショートの兆しがあっても、銀行はまだ応援する余地を残します。
銀行は、冷たいのではなく、“信頼できる相手かどうか”を日々見ている。
融資の可否は、決算書の点数で決まるものではなく、日々の経営との向き合い方で決まります。
逆にいえば、いま資金繰りに困っていても、姿勢を改め、数字と向き合い、明確な意志を持って行動する社長には、銀行も再び協力の手を差し伸べます。
次章では、どのようにして社長が銀行との信頼関係を取り戻していったのか──そのプロセスをお伝えします。
3. 逆転の第一歩──“自己開示”が信用を生む
資金ショート寸前、銀行からも距離を置かれ、社内も混乱。もはやこれまでか……そう思われたタイミングで、ある“転機”が訪れました。
それは、「銀行にすべてを包み隠さず話す」という社長の決断から始まりました。
経営者である以上、見栄もプライドもあるでしょう。数字の悪さを見せるのは恥ずかしい。社員の前では強くなければならない。そういった思いが、かえって“本音”を出せなくしていたのです。
しかし、そこで社長が勇気を持って「全部さらけ出した」ことが、再生の第一歩となりました。
この章では、自己開示がもたらす信頼の効果、銀行との向き合い方、そして信頼を勝ち取る“言葉の力”について解説します。
3.1. 「包み隠さず話す」ことで得た一筋の信頼
銀行担当者との面談の場で、社長はこう切り出しました。
「正直に申し上げます。現金は今月末で底を尽きます。資金繰り表も出せていません。でも、このまま何もしないのではなく、立て直したい。今、何が足りていないのか、もう一度見直したいのです」
この言葉に、担当者は一瞬驚いた表情を浮かべました。
それまでの社長は、問題を指摘されると「大丈夫です」「なんとかなります」と曖昧に答えるばかりだったからです。
しかしその日は違いました。すべてをさらけ出し、現状の苦しさを、感情も含めて率直に語ったのです。
銀行は、完璧な会社を求めているのではありません。
問題があるならあると、誠実に向き合おうとする経営者にこそ、可能性を感じるのです。
この“自己開示”が、閉ざされていた銀行側の警戒心を和らげ、対話の空気を変えるきっかけになりました。
その後、担当者はこう口にしました。
「わかりました。では一度、今の資金繰りの状態を一緒に確認しましょう。必要なら専門家を紹介します」
この一言が、信頼の回復に向けた最初の橋渡しとなったのです。
3.2. 財務3表の“どこをどう説明するか”で評価が変わる
次に社長が取り組んだのが、財務の理解と説明の準備でした。
それまで、「数字は税理士に任せている」「詳しくはわからない」という姿勢だった社長が、月次試算表、資金繰り表、PL・BS・CFの構造を学び直し、自ら説明資料を作るようになりました。
特に意識したのが、「質問される前に、こちらから説明する」ことです。
例えば、借入金が増えていることに対しては、
「こちらの融資は、仕入れ先との取引拡大に向けた前倒し発注に伴う一時的な資金需要です。6ヶ月で回収できる見込みです」
というふうに、数字の“背景”を丁寧に伝えました。
銀行が知りたいのは、数字そのものではなく、その数字が意味する経営判断の意図です。
このとき社長が重視したのは、以下の3点でした。
・なぜこの数値になったのか(原因)
・今後どうなる見込みなのか(予測)
・どのように改善するつもりなのか(対策)
特にキャッシュフロー計算書(CF)は、銀行が最も重視する資料のひとつです。営業活動によるキャッシュがマイナスのまま放置されていれば、「この会社は稼ぐ力が弱い」と判断されてしまいます。
社長自身が財務を語れるようになると、銀行の見方は明確に変わります。
担当者からは、「社長がここまで理解されているなら、本部にも説明しやすいです」と言われたそうです。
この“伝える力”が、信頼を再構築する大きな武器になったのです。
3.3. 「この会社は再生できる」と思わせたキーフレーズ
ある日、支店長との面談が設定されました。これは、融資判断における“最終面接”のようなものでした。
支店長が尋ねました。
「この状況を、どう乗り越えるつもりですか?」
社長は、少し間をおいて、こう答えました。
「正直、完璧な計画はありません。でも、今の状況から逃げず、社員と一緒にもう一度ゼロからやり直す覚悟です。御行からの支援を無駄にしないためにも、今後は毎月、進捗と数字をご報告します」
その瞬間、支店長の表情が変わったといいます。
「この会社は、再生できるかもしれない」と思わせたのは、完璧な戦略ではなく、“経営に対する誠実な姿勢”でした。
再建の過程で最も大切なのは、理屈や資料の整合性だけではありません。
社長自身の覚悟や、逃げずに向き合おうとする“姿勢”が、銀行の判断を左右するのです。
その後、銀行は新たな運転資金の融資を決定。さらに、経営改善支援センターとの連携もスタートし、外部の専門家と連携しながら再建に取り組む体制が整いました。
すべての出発点は、「社長が変わったこと」でした。
万が一、今回の融資返済が滞る場合に備えて、以下の情報も事前に提出・共有しました。
・(これまで一切開示しなかった)社長個人の金融資産一覧
・(同上)奥様名義の資産と換金可能な保険証券の明細
・必要であれば、一部を事業資金として投入する意思表示書
この一連の対応により、銀行側は「この社長は本気で会社を立て直すつもりだ」と再確認しました。
金融機関が“再生可能な会社”と判断するのは、数字だけでなく、こうした“覚悟の開示”も含めた総合的な姿勢なのです。
4. 銀行と“パートナー”になるための3つの行動
多くの中小企業経営者は、「銀行=融資を受ける相手」と考えがちです。
しかし、実際には銀行は“お金を貸すだけ”の存在ではありません。視点を変えれば、事業成長をともに支えてくれる「経営パートナー」として、非常に心強い存在になり得ます。
ただし、銀行が真のパートナーになってくれるかどうかは、会社側の姿勢次第です。
頼るだけでなく、信頼関係を構築し、継続的に情報を共有し、相互理解を深めていく努力が不可欠です。
この章では、倒産寸前から銀行との信頼を取り戻し、継続的な支援を受けられる関係を築いた社長が実践した、「銀行を経営パートナーに変える3つの行動」について解説します。
4.1. 日々の資金繰り管理を仕組み化する
銀行との関係を深める第一歩は、資金繰り管理を仕組みとして整えることです。
以前のこの会社では、通帳残高を見てなんとなく資金状況を把握する「感覚経営」になっており、資金ショートのリスクに誰も気づかない状態でした。
そこで社長が始めたのが、「毎日更新する資金繰り表」の導入です。
この表では、1日単位の入出金予定を把握し、1週間、1ヶ月、3ヶ月先までの資金残高予測を常に把握できるようにしました。
加えて、仕入れや外注費などの大口支払いのタイミングをすべて記録し、日次の残高と照らし合わせながら、月末の支払い能力を前もって確認する運用を徹底。これにより、「支払いできるかどうか」を“その日にならないと分からない”という危機感から解放されました。
この取り組みを知った銀行の担当者は、こう語ったといいます。
「資金繰り表を持っている企業はありますが、毎日活用している会社は珍しいです。これなら、本部にも安心して説明できます」
資金繰りを日常的に管理する姿勢は、経営の安定性だけでなく、銀行からの信頼を大きく引き上げます。
銀行が融資判断で最も恐れるのは、突然の資金ショートです。
日々の資金の動きを見える化することで、「予測と管理ができる会社」という印象を持たせることができるのです。
4.2. 1ヶ月ごとの経営報告を銀行に提出する
資金繰りの管理ができるようになった次のステップは、銀行との継続的な情報共有です。
この会社では、社長が自ら1ヶ月ごとに「経営報告書」を銀行に提出するようにしました。
報告書の内容は簡潔ながら的確で、以下のような項目が含まれています。
・売上・利益・キャッシュフローの推移と要因
・主なトピックス(新規取引、離脱取引先、投資など)
・資金繰り状況とその対策
・次の3ヶ月間の営業計画と見通し
・発生している課題と、具体的な対応策
この報告を通じて、銀行側は「何が起きていて、どう対応しようとしているか」をリアルタイムに把握できるようになりました。
ここで重要なのは、“良いことだけを書く”のではなく、課題や問題点も正直に共有することです。
「この取引先が遅延しています」
「販促費を使いすぎてキャッシュがやや減っています」
「資金繰りは来月ややタイトになる可能性があります」
こうした情報をあらかじめ銀行に伝えておくことで、担当者側にも“信頼できる経営者”という印象を残すことができます。
銀行は、“結果”よりも“プロセスと姿勢”を見ています。
報告と共有の継続は、「この社長は誠実で、信頼に足る」という評価に直結します。
さらに、この社長はもう一歩踏み込みました。
万が一、今回の融資返済が滞る可能性を見越して、次のような資料も銀行に開示したのです。
・(これまで一切開示しなかった)社長個人の金融資産一覧
・(同上)奥様名義の資産と換金可能な保険証券の明細
これは、銀行からの要求ではなく、社長自身の意思による「覚悟の表明」でした。
数字とともに責任も背負う姿勢を示したこの対応は、銀行の中でも高く評価され、「この社長なら応援できる」という印象を決定づけたのです。
4.3. 銀行のネットワークを“経営資源”として活用する
資金繰りと報告体制が整い、銀行との関係が改善すると、思わぬ支援が届くようになります。
ある日、担当者からこんな提案がありました。
「うちの他のお取引先で、御社のサービスに関心を持っている企業があります。よろしければ一度お繋ぎしましょうか?」
これは、銀行のネットワークが“紹介”というかたちで機能した瞬間でした。
銀行は業種や地域を問わず、無数の企業と接点を持っています。
そして、信頼できる会社には、自らの顧客を安心して紹介します。
なぜなら、紹介先に迷惑をかけるような企業を仲介すれば、銀行自身の信用も損なわれるからです。
この会社はその後も、取引銀行から新たな協業先や外部専門家、補助金情報などを定期的に受け取るようになり、経営の選択肢が大きく広がりました。
銀行を単なる「融資の出し手」として見るのではなく、「経営資源のひとつ」として認識することで、得られる価値は格段に高まります。
そしてそれは、融資を引き出すこと以上に、経営そのものを強く、柔軟にしていく力になります。
銀行のネットワークは、信頼の証明を経て初めて“開かれる資源”なのです。
銀行との関係は、単に「借りるか、借りないか」という二者択一ではありません。
むしろ、「どう使うか」「どう育てるか」という発想に転換することで、銀行は企業の最も頼れる味方になります。
・日々の資金繰りを“見える化”して、経営の安定性を示す
・定期的な経営報告で、信頼と継続的な対話を育てる
・銀行のネットワークを、経営のリソースとして最大限活用する
・そして、必要であれば個人資産の開示も含めて「覚悟」を形にする
これらの行動は、すべて“信頼の積み重ね”に通じます。
銀行は、誠実に経営に向き合う社長の最強の味方になり得る存在です。
その関係性を築けるかどうかは、まさに経営者の一歩にかかっているのです。
5. 経営再建の本質は“在り方の転換”にある
資金ショート寸前の危機を乗り越えた企業に共通しているのは、「制度」や「計画」の変更ではなく、経営者自身の“在り方”が大きく変わったことです。
立て直しに成功したこの会社でも、再建の本質は数字や仕組みではありませんでした。
最も大きかったのは、社長の意識と姿勢が180度変わったことにあります。
この章では、社長がどのように自らの“在り方”を見直し、再び銀行からの信頼を獲得し、組織を立て直していったのかを、3つの観点からお伝えします。
5.1. 「お金がない」ではなく「経営の構えがない」
「今は現金が回らないだけなんです。あと数百万あれば持ち直せると思います」
――再建前、社長はそう繰り返していました。
しかし、外部から見れば、この会社には“お金の問題”よりも先に、「構えの問題」が存在していたのです。
売上計画は営業担当任せ、経理の数字は税理士に任せきり、銀行との面談では受け身で数字の意味を説明できない。社員の行動にも一貫性がなく、誰もが「社長の指示待ち」になっていました。
お金が足りないのではなく、会社全体に“経営の構え”が欠けていたのです。
社長がまず見直したのは、「会社の現在地」を自分の言葉で説明できる状態をつくることでした。日次の資金繰り、売上予測、固定費、変動費、キャッシュフローの流れをすべて把握し、「なぜ今こうなっているのか」を語れるようになったのです。
これにより、社員にも具体的な方向性が示され、意思決定が速くなりました。銀行からの見方も変わり、「この社長なら状況を見極め、乗り越える準備がある」と再評価されたのです。
5.2. 数字に強くなるのではなく、数字に誠実になる
「数字に弱いので、会計のことは経理に任せています」
――かつての社長はそう言って、経営数字を遠ざけていました。
しかし、社長が見なければ誰も見ない。
数字に目を向けない姿勢が、結果として資金ショートという事態を招いていたのです。
再建後の社長は、税理士任せにせず、自ら数字の意味を理解する努力を重ねました。試算表だけでなく、キャッシュフロー、資金繰り表、売掛・買掛管理まで全体像を掴み、「数字をどう経営判断に活かすか」に重点を置いたのです。
重要なのは、“完璧に数字を読みこなす力”ではありません。
数字を誤魔化さず、逃げずに、誠実に向き合う姿勢こそが、経営者に求められる資質です。
さらに、銀行との面談では、数字をもとに自分の言葉で現状を説明できるようになりました。担当者の質問にもその場で即答し、資料の裏付けを提示する。そうしたやり取りが積み重なることで、銀行側の見方は明らかに変わっていきました。
そしてもう一つ、社長が取った行動が、銀行との関係に決定的な安心感をもたらしました。
それが、「最悪の事態に備えた誠意ある準備」でした。
具体的には、以下の資料を銀行に開示しました。
・(これまで一切開示しなかった)社長個人の金融資産一覧
・(同上)奥様名義の資産と換金可能な保険証券の明細
これは銀行に求められたものではなく、自主的な提出でした。
「返済に万が一の事態があった際には、個人としても責任を果たす意志がある」と、自ら言葉にし、証拠を添えて提示したのです。
経営に誠実であるとは、“会社の数字”だけでなく、“自分の責任”に対しても向き合う姿勢を持つことなのです。
5.3. 銀行が再評価する“強い社長”の条件
経営再建を支援したいと思える社長には、ある共通点があります。
それは、業績や会社の規模ではなく、「この人なら立て直せる」と思わせる人間的な信頼です。
この会社の社長も、最初は「頼りない」「言い訳が多い」という印象を銀行に持たれていました。
しかし、行動が変わり、数字に向き合い、資産も開示したことで、評価が大きく変わりました。
では、銀行が“強い社長”と感じるのはどんな人物か?
以下の3つが挙げられます。
1.見ないふりをしない人
課題を真正面から捉え、逃げずに対策を考える。
2.言葉と行動が一致している人
口だけではなく、実行力と継続力がある。
3.他責にしない人
経済や社員、環境のせいにせず、自分の経営判断を省みられる。
この社長は、経営報告を通じて「いま何が起きていて、次に何をするのか」を一貫して伝え続けました。そして、前述のように万が一の際の責任の持ち方まで可視化したことで、銀行の支店長からは「この社長は支えるに値する」と言葉をかけられるまでになったのです。
“強さ”とは、数字を並べる力ではなく、誠実に経営に向き合う覚悟の深さなのです。
会社を立て直すというのは、単なる資金繰りの改善やコストカットではありません。
本質は、「経営者としての姿勢をどう変えるか」にあります。
・お金がないのではなく、構えがない
・数字に強くなくても、数字に誠実であればよい
・社長の“覚悟”は、資料や行動で示すことができる
再建できるかどうかは、過去ではなく、いまこの瞬間の「在り方」で決まります。
通帳の残高が不安でも、銀行との距離を感じていても──
誠実な一歩を踏み出すことで、再び信頼を得て、会社は再生に向かうのです。
まとめ
「あと2ヶ月で倒産」――そんな崖っぷちに立たされた会社が、銀行との関係を再構築し、経営を立て直していったプロセスは、偶然でも奇跡でもありません。
売上はあっても資金繰りが乱れ、銀行からも距離を置かれた中で、社長はまず「自分の姿勢を変える」ことから始めました。
毎日の資金繰りを見える化し、定期的に経営報告を行い、必要であれば(これまで一切開示してこなかった)社長個人の金融資産や奥様名義の保険証券まで共有する――そうした積み重ねが、銀行との信頼を取り戻す力になったのです。
銀行が支援を決めた理由は、完璧な計画ではなく、「この社長なら乗り越えられる」と思わせる誠実な姿勢と責任感でした。
・経営再建に必要なのは、制度やノウハウよりも、社長としての“構え”です。
・数字を読めるかどうかではなく、数字から逃げないこと。
・誰かのせいにするのではなく、自らの在り方を見つめ直すこと。
会社が再生するかどうかは、今この瞬間の社長の一歩にかかっています。
もし、通帳の残高が不安なのであれば、今こそ「構え」を正し、銀行とともに再出発する絶好のタイミングなのではないでしょうか?
会社は、社長であるあなたの器以上にはなりません。
日々、苦しいこともありますが、経営に真摯に向き合い、「覚悟」と「胆力」をもって経営することで、あなたの器も大きくなり、会社も成長していくのです。
あなたは、社長として、銀行とどのような関係性を築いていかれるおつもりでしょうか?
