今週のコラム 経営者ならば「FREE(無料)」を見極めて飛躍すべし!
「商売をしていく上で、『FREE(無料)』は避けて通れないと痛感しているのですが、どのように考えて対応してゆけばいいのか、参考になるご意見をいただけませんでしょうか?」──とある精密金属加工業の経営者の方からのご相談です。
「FREE(無料)」については、経営者の方であれば常に悩まされる問題だと思います。
10年以上前には、「フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略」という本も出版されてベストセラーになりましたので、手に取られた方も多いのではないでしょうか?
今回ご相談いただいた経営者の方は、精密金属加工業を営まれていますが、足元の景気低迷の影響で受注が大幅に減少しており、仕事の奪い合いが起こっている状況。そして、主要な取引先は大手企業が中心なのですが、取引先からの受注単価は「発注先の言い値」で決まっているとのこと。
「発注先の言い値」は、とても採算の合わない低価格が常態化しており、特殊な加工についても「そんなものはサービスでできるだろう!」、「○○工業は、タダでやるって言ってたぞ!」などと『FREE(無料)』を無理強いされることも・・・
嫌なら他社に発注するとのことで、仕方なく受けてきたとのことですが、今般の原材料・原油高などの影響で従来通りの対応では赤字転落が免れないとのことでのご相談です。
このご相談を受けて、いくつか質問させていただきました。
Q1.「そんなものはサービスでできるだろう!」と言われた特殊な加工の加工賃はどれくらいかかるものなのですか?
A1.加工賃としていくらという単価は算出していませんが、加工時間が30分以上余計にかかります。
Q2.「○○工業は、タダでやるって言ってたぞ!」という○○工業と発注先の関係はどのようなものなのでしょうか?
A2.発注先との取引はないはずです。新規取引獲得のために、「何でもタダでやります!」みたいな営業をしているようです。
Q1については、どれぐらいの加工賃のものを、発注先が『FREE(無料)』にしろと言っているのかを確認するための質問だったのですが・・・そもそも、加工賃の単価自体を算出しておらず、どんぶり勘定での経営とのことで、質問した意味がありませんでした。ただし、加工時間が30分以上余計にかかるということであれば、当然ながら加工賃を請求すべきところですので、無茶を押し付けられていることは確認できました。
Q2については、「タダでやるって言ってたぞ!」ということ自体が、通常の取引では考えられないので、何のメリットがあって『FREE(無料)』を前面に押し出してきているのかを確認するために質問させていただきました。新規取引獲得のためということで、想定範囲内の回答といったところですね。
これらの回答で分かったことは、「必要な加工賃が設定されていない」、「発注先から無茶を押し付けられている」、「断って他社に発注されると困るので、仕方なく受けてきたが本当にその条件で他社が受注し続けるかは不明」ということです。
このため、何はともあれ「必要な加工賃の設定をする」ことが最優先!
これまでのデータ(人件費、経費、減価償却費など)を基準として加工賃を算出するとともに、必要な利益を上乗せして「必要な加工賃の設定」をしていただくこととしました。
その上で、取るべき対応策として次のようなものです。
<価格戦略:利益確保>
・必要な加工賃は確保
・必要な加工賃を確保できないものは外注
・外注しても採算が合わないものは謝絶
<コストダウン>
・自社の技術や設備を活用し、加工法の変更などでコストダウンを目指す
<下請けからの脱却>
・新規取引先の開拓
・自社商品の開発を目指す
<資金調達>
・銀行から資金調達をする
ここまでご説明したところで、
「私が経営者としての仕事を全くしていなかったことわかりました。」
「大手企業との取引でしたので、他社に発注されることを恐れて言いなりになっていました。」とのコメントが経営者の方からありました。
私からは、「ご理解いただけたのでしたら、これからが正念場になることもお分かりですね。(利益確保という)価格戦略を貫き通すことで、(何でも『FREE(無料)』という無理難題を押し付けてきている)いくつかの大手企業との取引はなくなる可能性が高いですし、その穴埋めをどうしていくかが経営者としての仕事です。」と申し上げました。
モノが作り出されることの対価を払う製造業ではあまりありませんが、当社のような加工業などモノではなく作業・加工が対価となる場合や、サービス自体が対価となるサービス業では日常茶飯事でこのような『FREE(無料)』が押し付けられています。
私のこれまでの経験では、『FREE(無料)』を押し付けてくる取引先との取引を失ったとしても、きちんと利益確保した価格戦略を貫き通すことで、業績が安定している企業が多いです。先ほどの○○工業のような企業に一時的に取引を奪われたとしても、新規取引獲得のための『FREE(無料)』であり、○○工業が通常取引に変えた段階(通常価格での受注)で、また戻ってくることが大半です。その結果、従来よりも売上・利益ともに増加するのです。
これまで、受注サイドでの『FREE(無料)』を見てきましたが、発注サイドも見てみましょう。
発注サイドでの『FREE(無料)』としては、「無料サンプル」、「無料モニター」、「○○日間返金保証つき」などがあります。
どれも、商品・サービスに自信をもっているが、発注者の「(思った通りのモノやサービスではなかったらどうしよう・・・)失敗したくない」に対応したものです。
「無料サンプル」、「無料モニター」、「○○日間返金保証つき」ということで、購入のハードルを下げ、実際に商品・サービスを使用し、効果を実感してもらうことが可能になります。
また、受注者としても「万が一、クレームになった場合でも、『FREE(無料)』であることで大きな問題にならないで済む」、「商品・サービスをきちんと理解してくれる発注者だけに使っていただける」といったメリットがあるのです。
『FREE(無料)』の意図や背景をきちんと見極め、逃げずにきちんと対応・ガッツリと活用することで業績を飛躍させませんか?このことは、従業員には絶対にできません。経営者が覚悟を持って対応するからこそできる対応なのです。
あなたの会社の取引先で『FREE(無料)』を無理に押し込んでくる先はありませんか?
その取引先との取引は本当に利益が確保できていますか?
あなたの会社の今後の発展のために、その取引先は本当に必要でしょうか?
『FREE(無料)』で活用できそうなものはありませんか?
あなたの会社にとってメリットがありそうなことで、『FREE(無料)』のものがあれば試してみましょう。
経営者だからこそ『FREE(無料)』の意図や背景をきちんと見極め、業績を飛躍させましょう!